古来より戦火に照らされ、血に濡れるとされた星。太陽系第4惑星。
 戦争の神と関係付けられたのはひとえにその赤い輝き故。

 かつては運河が縦横に走っているとされ、文明があってもおかしくないと噂された。
 それが正しかったのだとしたら……この星に住む人々は血を求め、争いに生きていたのだろうか?

 こうして4番目の弧の上を滑っていく金属球を見上げていると、そんな疑問が浮かんでくる。

……戦いが始まる前って、火星はどんな姿だったのかしら?

 亜莉珠が怪訝な顔をする。
 どうやら声に出てしまっていたみたい。

なるほど……?

でも、それを言うなら私としては
そんな惑星規模の戦争が起きた原因のほうが気になるかな

確かにそうね。
何かを巡って争ったはずだけど……水とか?

 この赤い星は砂塵の世界なのだ。
 液体の水は殆どなく、当然ながら海もない。運河だと思われていたのも、ただの目の錯覚だった。

 だが、かつては豊富な水があった時期もあったという。

 だったら……今日の火星に住む人々は、残ったわずかな水を奪い合っているのではないだろうか?
 そうしなければ生きていけないのだから。


第4惑星 「火星」

『涙を求めて』


 その昔、その星は何よりも白く輝いておりました。
 しかし星はその塵1つない美しさを誇るあまり、共に住む者たちのことは気にかけていなかったのです。

渇いた人々
水……どうか水を与えてください。
このままでは我々は渇いて滅ぶよりありません!

白い星
そんなことしたら、泥にまみれて汚れてしまうじゃない。
とんでもありません。絶対に濡れるなんてイヤよ

 人々は井戸を掘りましたが、いくら掘っても水は出ません。
 このままでは、皆が皆して干からびて死んでしまいます。

若者
僕は星の目を探しに行く。
そこさえ掘り当てれば、涙があふれるはずさ

 若者は溝を大地にひきながら、西へ東へと旅を続けます。
 涙を掘り当てたとき、その水が乾いた大地を潤すようにと。

 若者は出会う者すべてに、星の目がどこにあるか知らないかと尋ねて回りました。

 知ってる知ってる!

 空を渡る風が言いましたが、星は右目を閉じてしまいました。
 しかし若者はあきらめません。

 知ってる知ってる!

 大地を覆う砂が言いましたが、星は左目も閉じてしまいました。
 それでも若者はあきらめませんでした。

若者
こうなりゃ星中探してやるぞ!
どうせ隅々まで水を行きわたらせつもりだったんだ

 彼は星全体に、皆を救うための水路を引いていきました。
 そして、最後に残った一点を掘ってみると……そこは星の心臓だったのです。

 星は気づきませんでした。
 目をつぶってしまっていたからです。

 心臓が破れ、血が溢れました。
 血は水路を伝って星の隅々まで流れていき、白い星は赤く染まっていきました。

 そして、すべての血を残らず流しつくした星は死んでしまいました……


……これじゃどうにもならないわね。
完全に手詰まりじゃない

 手を伸ばし、火星を表す真鍮の球を取り外す――死んだ星だ。

どっか別の場所から
水を持ってくるのが正解だったのかも?

太陽系に水がありそうな場所といえば……
土星の環あたりから手ごろな氷塊を選ぶのがよかったのかもね

あと、水星や海王星は名前からして水があふれてそうだよね。

名前って結構大事じゃない?
ほら、アーチュスの言う「認識」って視点だとさ

 亜莉珠が無茶なことを言っている。
 だけど、確かに彼女の言う通り「呼び名」が持つ力は大きい。

 水星と海王星はその名の如く水の惑星。
 多くの者がそう思ったのなら、本当にそうであってもいいのではないか?

 ……彼らが確かめるすべを持たぬ限り。

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火星が失われた。忘れずに記録しておくこと。

    A)土星から氷を運んでくるべきだったと思うのなら ⇒ 土星

    B)水星に助けを求めたほうがよかったのならば ⇒ 水星
      海王星は塩水だろうから、今回のケースではふさわしくないだろう。

    C)あるいは……天からの恵み、すなわち雨を乞うべきだったのかもしれない ⇒ 天王星

ただし、すでに失われた星を選ぶことはできない。
今の時点で、提示された星が1つも存在しないのならこちらへ進め。