《アリスとアーチュス》
- Aris - t - Archus -
大きな真鍮の珠が外れた瞬間、支えを失った全ての弧が崩れ落ちる。
見上げても最早、そこには何も残っていない。何もかもが壊れて消えた……
私はその様子から目を離すことができずにいた。
これまで幾度となく巡ってきた太陽……私たちの主星。私の家族……太陽系。
もしも、本当に壊すことができたら……自由になれるのに。
「お茶がすっかり冷めてしまったわね」
空になったカップを片付けるアーチュスに別れを告げ、私は再び雑踏を行き過ぎて懐かしき道へと戻る。
次に彼女に会うのは1年後になるだろう――これまで幾度も幾度も繰り返してきた通り。
私たちは誰もが大いなる太陽に囚われている。
空を見上げれば無限の世界が広がっているというのに、羽ばたくことは許されていないのだ。
12の惑星と太陽、合わせて大小13の真鍮の珠と11の多重円。
彼女が作った星系儀は美しかった。それが1つ1つ壊されていく様はもっと美しいものだった。
道が交差するたびに2人でお茶をしながら、たわいもないおしゃべりを交わす至福の時間。
最後に太陽を外したあの瞬間、目の前で起きた崩壊によってもたらされた精神の高揚……
私は未だ響いている余韻に心を委ねた。
こんな思いに浸れるのだから、太陽に囚われているのも悪いことではないかもしれない。
自由を得るということは、彼女との別れをも意味するのだから。
道が交わるたび、そう思ってきた。そしてこれからも……
……わかっている。私たちは見えない鎖でお互いを雁字搦めにして、それぞれの道を歩きづつけているのだ。
約束された再会に心をゆだねながら。
Picture Märchen
古代ギリシャの天文学者。サモス島出身。紀元前310年ごろ~紀元前230年ごろの人。
15世紀のコペルニクスよりも1700年ほど早く「地球は太陽の周りを回っている」と唱えた。
小惑星番号3753。
アデン群に分類される地球近傍小惑星。
地球の準衛星の1つで、ケルトの部族集団クリフニャ族の名を持つ。
小惑星番号10563。
アポロ群に分類される地球近傍小惑星。
古代カルデアの太陽神の名を持つ、地球の準衛星の1つ。
地表からの見かけ上、その惑星を周回しているように見える小天体のこと。疑似衛星とも。
同じ主星の周りを公転しているが、公転周期が一致しているためにそのように見える。