冥王星。死者たちが赴く領域の支配者の名を冠した惑星。
 他の惑星と比ると公転軌道も歪で、質量も小さい。太陽から遠く離れた、最果ての孤独な星。

 ……少なくとも、1930年の発見からしばらくはそう思われていた。
 今はさらに外側にも惑星が見つかっているから、太陽系最辺境というわけではない。

それに衛星と思われてたカロンが結構大きかったうえに、両者の共通重心が冥王星の外にあったのよね。

つまり……孤独どころか、二重惑星だったってわけ

発見された当時はともかく、今じゃ似たような星がどんどん見つかってるし……
立派な名前の通り、それらの星々の王様って感じじゃない?

 亜莉珠の言葉に私は頷いた。

やっぱり最初に発見されたってのが大きいわね。
"認識"の一形態ね、これも

 もしかしたら、別の似たような星が先に見つかっていたかもしれない。
 そうだったら冥王の名はきっとその星のものだったろう。

 ……そして、死後の世界も全然違う形だったのだろうか?


第10&第11惑星 「冥王星」と「カロン」
(※二重星)

『2つの理想郷』


 冥王星とカロンは兄弟星。
 お互いがお互いの周りをまわりながら、太陽をめぐっています。

 兄弟は本当に仲が良く、いつも見つめあっていましたが……それぞれの星に住む者たちはそうはいきません。

 多くの動物たちは大地や海から離れることができず、いつでも空に浮かんでいる星の姿を見上げていることしかできませんでした。
 ただ1匹、2つの星の間を泳ぐことができる渡り魚だけが双方の地について知っていたのでした。

 どちらの星の動物も、みんなして魚に聞きました。

洞穴熊
あそこはどんな場所なの?
ここと同じ様な感じかい? それとも全く違うのかい?

 冥王星の動物たちに話を聞かせているときは、カロンのことを知っているのは自分だけ。
 カロンの動物たちの質問に答えているときは、冥王星のことを知っているのは自分だけ。

 まるで自分の物を自慢するかのように、魚は語り続けました。
 時には聞き手の質問に込められた期待に応えるように、お話を盛ったりもしました。

渡り魚
それはそれは素晴らしいところさ。  
もちろんここにだって、ここなりの良さがあるけどねぇ

灰色鷺
いいなぁ、君はどっちも知っているし
望んだ時に、好きな方へ行けるんだもの

 どうせ彼らにはそれを確かめることはできないのです。
 渡り魚の話はどんどん大きく膨らんでいきました。それはあっという間に、渡り魚の頭の中だけにある”素晴らしい世界”となっていったのです。

泥ガマ
どうせ適当言ってるだけだろ。
あっちがそんな素晴らしいところなら、こっちにわざわざ来るもんかよ

 もちろん、渡り魚の言うことを信じない者もいました。
 でも、多くの動物たちは空に浮かぶもう1つの星に憧れを抱いたのです。

 やがて、その噂はそれぞれの星の王様動物の耳にも届きました。
 彼らは素晴らしき楽園に心奪われました。

 そして彼らは、楽園を手にしようとしたのです。

 欲望に突き動かされ、2つの星の文明は宇宙を越えられるまでに発展していきます。
 後はもう止まることもできずに、渇望に吞まれるままにお互いの星を求めて争いました。

 仲の良かった兄弟星はこのありさまに悲しみ、別れを決意したのです。
 誰だって大切な者を傷つけたくはありませんからね。


片方が消えたら、もう片方も消えるしかないわ。
お互いの重力でバランスを保っていたんだもの……また、こうなるなのね

 話の落ち着きどころを確かめた私は、10番目の弧に乗っていた2つの真鍮球を取り除いた。
 これで死んだ者が行きつく先が無くなったってことね。

でもこれはこれで悪くないかもね。
だって地獄とか天国とかってさ、ある意味監獄みたいなものじゃない?

……?

輪廻とか、そういう考え方もあるわ。
一時的な滞在地ではあったけど、監獄ってほどじゃないんじゃ……

人間たちはさ、自分たちだけの場所として認識してたでしょ。
動植物の立ち入りを許している例もあるかもだけど、それでも結局は地球限定だったし

 亜莉珠が何を言いたがっているのか分かった気がした。

本来なら生命のサイクルは宇宙全体に広がってるはず。
だって世の中は、それだけの大きさに作られているんだから。

人類は地球に固執しすぎたように思うな。
魂を大地に縛り付けてたってことね

誰もが星を超えて飛べるわけがないって、そう思い込んでたのね……
壊れてしまった認識の監獄、か。

……そういえば、渡り魚はどこへ消えたのかしら?
星がなくなっても泳いで行けたはずよね

 愚かな渡り魚はどこへ向かったのだろうか……?

GET READY FOR NEXT PAGE!

冥王星とカロン。2つの星が消え失せたことを記録してから、先へ進め。
ただし、すでに失われた星を選ぶことはできない。

    A)争いなど許さない圧倒的な存在を求めたのであれば ⇒ 木星

    B)魚が戻る先は、深く広い海だと考えるのなら ⇒ 海王星

    C)不和の女神のもとへ抗議に向かったのなら ⇒ エリス

この段階で、既に提示された星が1つも残っていないようなら、こちらへ進め。