《アリスとアーチュス》
- Aris - t - Archus -
太陽系辺境……一口でそう言っても、それはあくまで地球から見た時の話。
星系全体からすれば、海王星や冥王星の軌道内なんて、ほんの一部でしかない。
我らが存在するこの太陽系は、まだまだ底知れぬ深淵を秘めている……
その後あっという間に、同じような星々が続々と発見された。
そこは冥王星の孤独な王国ではなく、多くの星々がひしめく領域だったのだ。
亜莉珠はそう言って上を見上げた。
そこには私が作ったこの太陽系の図……真鍮の球と弧から成るオブジェが浮いている。
いくつかの星はすでに取り外されているが、一番外側に軌道を持つ星は残っていた。
その通り。私が作ったこの星系儀は、当時不採用となった12惑星モデルだ。
結局、惑星は既知の8天体のみと定められた。冥王星は惑星ではなくなったのだ。
冥王星は惑星か否か。
世界中がこの再定義を巡ってあれこれと騒がしくなったのを覚えている。
全ての引き金となった、冥王星を脅かした存在。
その名はエリス。不和を司る女神。
第12惑星 「エリス」
『不和の女神』
昔々、あるところに大層美しい娘がおりました。
その姿、その仕草、その声は誰であろうとも虜にしてしまいます……娘の意思とは関係なしに。
娘の気持ちをよそに、王様たちは彼女を求めました。
いえ、彼らだけではありません。東の王も、西の王も、この世の権力者たち全員が娘を欲したのです。
1人の娘のために、世界中を巻き込む争いが起きました。
戦火から逃れた人々は、この戦争の元凶である娘を恨み、彼女を「不和の女神」と呼びました。
民の怒りは娘だけではなく、愚かな争いを繰り広げる王たちにも向けられました。
そこで世界中の王たちは相談し、かの娘が誰の手にも入らないよう殺してしまうことにしました。
自分のものにならない以上、せめて誰にも渡したくないというのが彼らの総意だったのです。
……しかし、密かに娘を手に入れようとした者もおりました。
彼だけではありません。他にも何人かの王が同じようなことを囁きます。
彼女は自分が生きているかぎり争いが尽きることはないと悟ると、さっさと首を括ってしまいました……
さて、娘が自ら命を絶ったことを知った王たちはどうしたでしょうか?
そう。もちろんその通り。
誰が娘を死に追いやったのかとお互いを責め続け、戦争は果て無く終わりそうにありません……
私は首を括ったエリスを真鍮の弧から外し、おろしてあげた。
はたして彼女は、如何に自らの幕引きをするべきだったのだろうか。
エリスは失われた。このことを記録しておくこと。
A)誰の手にも亡骸が渡らないよう、潮に流されるべきだったのなら ⇒ 海王星へ
B)その美しい顔が失われるよう、火で焼いてしまうのがよかったのなら ⇒ 火星へ
C)彼女に非は無い。
父なる星に訴え、愚かな王たちを裁くべきだったと思うのであれば ⇒ 太陽へ
ただし……次の星を選ぶ際、失われた星を選ぶことはできない。