2018年に創作したキャラクターの一群がある。デッキノイドと称する、ようするにデッキの擬人化だ。そして一体何のゲームのデッキかといえば、対戦型トレーディングカードゲームの元祖にあたる名作『マジック:ザ・ギャザリング』のものとなる。
 しかしながら、どうやらデッキの擬人化という考え自体は珍しいものらしい。例えばPIXIVで「デッキ擬人化」のタグを見てみると、自分のほかにも投稿している人はいるが非常にマイナーなのがわかる。どうも普通の人はこういうことはやらんものらしい。版権キャラクターが印刷されているスリーブ(カード1枚1枚を保護するカバーファイル。これを付けた状態で遊ぶこともできる)は普通に流通していることからも、決してデッキにキャラクター性を付与することは珍しくないとも思えるのだが……不思議だ。そんなわけで、自分の場合どうやってそこにたどり着いたのだったか、ちょっと思い返してみたいと思い立ったわけです。

 さて私のデッキノイドたちであるが、果たしてどんな連中なのかといえば……2024年の5月に描いたイラストがあるので、まずはそちらを見ていただこう。

 
 

 総勢7人。つまり、自分は7つのデッキを使っているということです。なぜに女の子ばかりなのかといえば、こればかりは趣味としか言いようがない。要するに癖である。だってせっかく擬人化するんだから、見てて楽しい姿にしてやりたいじゃないですか。しかし残念なことに、彼女らには性格や名前がはっきり設定されていない。なんとなくの雰囲気を纏っているだけだ。擬人化キャラクターなのだから、普通なら性格はデッキの性質や勝ち筋など想定されたプレイスタイルを反映するべきだろう。名前もまたしかりで、デッキ名やそれをもじった名を付けるのが正道とは思うのだが、困ったことに自分の楽しみ方の関係上、デッキそのものを組み替えることも遊びの一環になっている。したがって、彼女らのアイデンティティは揺れ動いて安定しない。そのため、性格も名前も定まらないということになってしまっているのだ。
 デッキ構造を変えるたびに別のキャラクターを作ればこの問題は解決するのだが、それだとキャラクターが使い捨てになってしまう。それはちょっと忍びない……ということで、結局「デッキ枠」をキャラクターが担当する形に落ち着いた。同じキャラクターを継承しつつ、時折新デッキにリニューアルされていくというわけだ。デッキが持つ特徴は、キャラクターの衣装や小道具などに集約される形で表現することになった。

 記憶を遡れば、自分がデッキにキャラクター性らしきものを見出したのは、『マジック:ザ・ギャザリング』と出会った大学時代当初であったと言えるだろう。友人や後輩が『マジック:ザ・ギャザリング』で盛り上がる中、卒業制作があるからと自分は最初距離をとっていたのだが……いたはずなのだが……気が付けば輪に加わってしまっていた。「たぶん先輩はこれとか好きだと思うんですよねー」と何枚かのカードを渡されたのがきっかけで、要するにまんまとはめられてしまったのである。自分の心が弱かったことも認めよう。卒製のほうはどうにかギリギリのラインで進み、お情けで卒業させてもらったような結果になったが、ここでは深くは触れるまい。
 そんな悪いカード仲間は10人ほどいたので、対戦相手には事欠かなかった。親元を離れて一人暮らしの者も多かったため、誰に遠慮することなく遊び続けていたものだ。
 さて、そんな中で私はテーマデッキを組むのが好きだった。これは今も変わっていないのだが、自分は1つのテーマデッキを使い込むというよりはいくつかのバリエーションを揃えたくなってくる性分なので、3つか4つぐらいは作った覚えがある。そして複数のデッキが手元にあれば、満遍なく使ってやりたくなるのは自然な流れというもの。そこで、「負けたら、次のデッキを繰り出す」というプレイスタイルになっていったわけだ。
 先鋒・中堅・大将と勝ち抜き団体戦の体になったらもう、デッキの擬人化まではあと一歩だと誰もが納得してもらえるものと思う。しかし当時、結局その一歩を踏み出すことはなかった。デッキそのものの擬人化の代わりに、「デッキマスター」という概念を発明したのである。これはデッキを構築するカードの中から、「このデッキを率いている代表者」というキャラ付けを行う考えだった。要は既存のカードの中から一枚代表格を選ぶのである。あくまでフレーバーのみではあるが、今でいう統率者ルールみたいな発想であったといえるかもしれない。「魔術師の女王/Sorceress Queen」や「タニーワ/Taniwha」なんかがデッキマスターを務めていた記憶がある。ちなみにノークリーチャーデッキの場合でも、人物や魔物がイラストに描かれているカードをマスターとして選んでいたので、その時はそれ以上にイメージが膨らむことはなかった。

 
 このころです……リバイズドは頑張って1箱だけ買ったイタリア語版。
 あとは主としてクロニクル。そんな時代のことです。

『マジック:ザ・ギャザリング』はその後も売れ続け、2024年現在でも新エキスパンションが続く息の長いシリーズとなっている。一方自分はといえば、卒業して地元に戻った後はさほどプレイすることもなくなっていた。新しく出るカードを毎度毎度買うようなお金もなく、また就職したことでプレイに使える時間も減り、なにより一緒に遊ぶ仲間が周りにいなくなってしまったのが大きかった。時折学生時代の仲間の家に遊びに行くときにデッキを持参して遊ぶことはあっても、新しく整備されたルール改定の内容は全く把握しておらず、新たに登場したゲームシステムもよく知らないまま、昔の感覚でプレイしていたのだった。集団浦島状態である。
 しかし、わずかでも対戦の機会があるとなれば、やはり手持ちのデッキをいじったり、新しいテーマのデッキを考えることになる。このころにはもうインターネットが整備されていたから、新しいカードのことも調べることができた。聞いたこともないエキスパンションのカードリストを眺めながら、使えそうな一枚を見つけるのが楽しみになった。社会人となってからは自由になるお金も増えていたとはいえ、高値のシングルカードをそうそう買えるわけもないので、ほどほどのレアリティのカードを探す日々が続いた。このころにはデッキマスターの概念も消えて久しかった。デッキはあくまでデッキでしかなく、キャラクターとして捉うこともなかった。

 一旦は消滅してしまったデッキのキャラクター性。その復活の転機となったのは、子供が産まれたことだったのだと思う。長ずるにつれて、バックギャモンやらゲームブックやら親のホビーに手を出すようになったわけだが……親が楽しそうにしているものに子が興味を持つのは自然なことであろうが、実のところ積極的に布教した側面もあったのは否めない。だって、文化の伝道は大事じゃないですか。次世代に伝えたい、この心。ともあれ、いつしか我が子を相手に『マジック:ザ・ギャザリング』で対戦するようになったわけだが……お気に入りの絵のカードを見つけ出し、とりあえずデッキに組み込むところから初めて、徐々に戦略的にも考えていくようになっていくのを傍から見守るのは、まるでかつての自分を見ているようで、懐かしい気持ちがしたものだ。こちらとしても楽しくてしょうがない時期であった。
 さて、ここで問題が発生した。デッキの数が一気に増え、ケースが足りなくなったのだ。プレーヤーが増えたのだから、当然のことであった。自分は昔からスターターの箱やスリーブの箱をデッキケースとして使っていたのだが、余分な箱はそんなに残していなかった……ただでさえストックカードはかさばるので、その他の箱に関しても言わずもがなであったわけだ。当然のことながらデッキケースをねだられ、今まで自分が使用していたデッキケースはすべて子供に譲ることにした。代わりに自分のデッキをそれぞれ紙で包むということを思い付いたのである。  

 自分のデッキを紙で包むとするならば、当然これらは見分けがつかないといけない。つまり、紙の「模様」について思案する必要が出てきたわけだ。
 プレイ中は包み紙をほどいてわきに置いておくことになる。一方、遊んでいないときにはデッキは箱か何かにまとめて並べてしまっておくことになるだろう。すると、折りたたまれた紙の一部だけが側面として見えることになる。デッキ使用中は全身が現れ、そうでない時には一部しか見えない。これは格闘ゲームなどのビデオゲームにおけるキャラセレ画面で並んでいるキャラクターアイコン群みたいにできそうだなと思った。
 そう、デッキのキャラクター性が具体的なイメージを伴って息を吹き返したのだった。ここまでくれば、もう後はデッキに含まれているカードやその組み合わせ、使いかたなどを要素に起こし、キャラクターとして擬人化していくだけだ……こうして、彼女たちは形作られるに至った。

   

 最後に彼女らを軽く紹介しておしまいとしよう。『マジック:ザ・ギャザリング』を知らない人にはよくわからないと思いますが、そこは申し訳ない。
 デッキ構成についてはそのうち組み替えてしまう可能性が高いのだけれども、2024/9現在ではこんな感じということです。

 

現在のデッキ名「99/99」

 1ショットキル枠。
 パンデモノートを軸に、投げ飛ばし/Flingなどで補強。1ターン中に20点のダメージを叩き込むことしか考えていない、あたまわるい構成。
 デッキノイド構想が出た2018年よりも前から大きくは変わっていない長寿デッキ。赤黒。

 よく使われる通称は九十九(つくも)さん。

 

現在のデッキ名「グレイヴミスト」

 リアニメイト枠。
 濃霧の精霊/Fog Elementalと死体のダンス/Corpse Danceのコンボに墓穴までの契約/Grave Pactを加えた青黒。
 こいつも2018年以前からの古株。

 めったにないが、時々霧崎さんとか呼ばれる。

 

現在のデッキ名「バザースタッフ」

 ドネイト枠。
 2024年になってから追加した7つめのデッキだが、実は大学時代に作った「デメリット持ちクリーチャーを対戦相手に押し付ける」デッキの復刻版。
 当時はまだ寄付/Donateがなかったので、対置/Juxtaposeを使っていました。今はどちらも搭載してるし、クリーチャー以外も押し付けれる黒青。便利な世の中になったものよ。

 昔のデッキ名から迷惑さんと呼ぶことはある。ヒドイ通り名だ……

 

現在のデッキ名「ブラッドライン」

 枠としては「味方クリーチャーを生贄にささげまくるデッキ」。
 最初期のゴブリンシュートから変遷を経て、現在は死亡誘発能力を持つ黒ウィニーを命綱/Lifelineで使いまわす形。
 これぞ「死は労働をやめる理由にはならん」というファイレクシアン労働スタイル。黒単。

 得に通称はないかな。今後はファイレクシアをもじる可能性はあるかも。灰礼区・シアとか。

 

現在のデッキ名「ランブルフィッシュ」

 クリーチャーでぶん殴るノーマル枠。
 相手の土地を島/Islandに変えつつ、海を渡るお魚の群れで殴り続ける青単ウィニー。
 ウィニーとは言え頭でっかちダンダーン/Dandanだったりするので、それなりに打撃力は高い。

 こいつも特に通称はなし。水原さんとか今思いついた。

 

現在のデッキ名「ズアーリケーン」

 土地をキーにしようというチャレンジ枠。
 自然の反乱/Nature's Revolt、突撃の地鳴り/Seismic Assaultでの土地投げ、アンクタイドなどを経て
 現在は土地の高速展開からハリケーン/Hurricaneによる全体ダメージぶっぱへ繋ぎ、自分はズアーの宝珠/Zuran Orbで生き延びるという一発芸緑単。

 以前はデッキ構成から、羊さんと呼んでいた時期があります。

 

現在のデッキ名「サイクリングベルチャー」

 自由創作枠。その時々に思いついたネタを具現化してきた。
 ミシュラの工廠/Mishra's Factoryをリバイアサン/Leviathanに変身/Polymorphさせるデッキから始まり、
 以後スタックス、壁が殴るデッキ、ライブラリー破壊など無軌道な変遷を経る。
 現在は①マナサイクリングカードを詰め込んだベルチャーデッキ。極限まで削った土地を土地税/Land Taxで強引に回す構成。

 こいつも通称はなかったように思います。今ならベルちゃんですかね……

 最後の最後に……文中ではわかりやすさを優先してデッキノイドとしてきたが、実のところ自分はデックノイドと呼んでいることを白状させていただこう。綴りは Decknoid で、デッキとデックはカタカナ発音時に発生する差分でしかない。デッキはデッキと呼びなれているが、デッキノイドよりはデックノイドのほうが言いやすいんですよね。

(9/15/24)


戻る