『Summer Vacation 昼の部』


    白く照りつける太陽

    雲が寄り添う青い空

    熱く焼けた砂浜

    大きく打っては返す波

    青い髪と遊ぶ風

    水着を濡らし乾く汗

    足をくすぐる濡れた砂

    岩場に飛び交う鳴き声と

    たまに聞こえる悲鳴と歓声

    遠くに見えるは、森のテント

    もっと遠くに、水平線

    アドベンチャーよりロマンティック

    ロマンティックよりアヴァンチュール

    夏、夏、夏、夏休み

    それは、幽霊ですら健康的になる季節


    「……で、どうして誰も声をかけてくれないのかしら?」


    サマーバケーションはーじまーるよー!!!




    ★


    【昼飯前の部】『スイカを! 割る! サイコ様!』


    説明!

    今この時、やや人気の多い森のテント付近の砂浜で、
    十数人の人によって目隠しをされている女性は我らが神サイコ様!

    よってたかっているのは、下品なナンパ師ではなく。
    信仰の心と、あと楽しければいいやーという純粋な心を持つ、
    【サイコとチョコバウム教団】(教団名は当時のものです)の面々!
    ともすれば、その面々はもちろん目隠しをするだけに留まらず、
    目隠しが思ったよりきつくておたおたしてる神様に対して
    あんなことや、こんなことや、かみ付いたりをしているのだった!

    「ちょ、目隠しきつすぎないかっ、ウーシェ!」

    「ダメですよ、ちゃんとズルしないようにしないと。ほらもっともっとー」

    良い笑顔で白い目隠しを何重にも束ねていくウーシェさん、容赦が無い。
    すでに白い布は神様の眼だけじゃなく、額から鼻までをおおっている。
    なんというか、即席のミイラ男……女みたいな感じだ。

    「うう……って、どこ触ってる!今胸に触ったのは誰だあっ!」

    涙目で(包帯の下で見えないけれど……包帯?)叫ぶサイコ様。
    一応言っておくと、ボクじゃ無い。
    というか男衆は流石にそこまでをする人は居ない、多分、自信ない。
    いや、ここはサイコ様の名誉のために言っておこう、居るかも!

    「くろかっ!? それとも実は変わり身でウーシェか!?」

    「ぶぅ、くろは何もしてないんだよ〜」

    「ひっどいなーかみさまー、いっかいは身長とか色々はかった仲じゃないー」

    ルナールさん……信頼と実績の裏切りのルナールこと、ルナールさんだ!
    神様の水着を直すフリをしつつ、しっかりと有無を確認して……うむ。
    なんというか目のやり場に困るとはまさにこのこと、でも見るけどね。

    ちなみに神様の水着は露出の多いビキニでもなく、
    多く予想されたスクール水着でも、子供用水着でもなく。
    フリルスカートが着いた白地に花柄のワンピース水着だった。
    しょーじきな話、神様の着る服としては意外だったけれど、
    しっかりと似合って、逆に少し大人びるぐらいの感じで素敵。

    まあ、神様はもともと水着を着るのを拒否していた。
    そこで、せっかくの海なのにそれはもったいない!と立ち上がった、
    「神様に水着を着せ隊」「神様の胸の真偽を確かめ隊」「神様を脱がせ隊」
    (それぞれのメンバー構成は想像におまかせします、ボクは1番目です)
    の面々の徹底抗戦により、何人かの犠牲者(仲間割れによる)を出しつつも、
    やっとこさ、神様を外に引っ張り出し、水着を選んで海に連れ出したのだ!

    「ふむぅー、やっぱりもっとはではでなほうが、よかったよねー?」

    って、こっちに笑いかけられても返事できないよっ!
    そりゃあ派手なのを着た神様も見てみたいけど。

    「でも、彩子さんって落ち着いた服も似合うんですね、ちょっと意外です」

    といって微笑む、そんな中で誰よりもジェントルメンな言動のビスさん。
    むぅ、いい男ってこういうときに笑って返すもんなんだね。

    「ふっふ……逆に派手だと、神様の胸が目立たなるものねっ!」

    と言ってニヤリとする、誰よりも勇者な言動のたぬきさん。
    むぅ、度胸のある男ってこういうところで正直に返すもんなんだね。

    「うう、ありがとうビス……、たぬ吉は、むぅ……もういいっ!」

    と言って、口意外完全に包帯が巻かれた顔でそっぽを向いた。
    まだ止めないのかウーシェさん。

    サイコ様が水着を着たくない原因というのは、主にカナヅチだからだったりする。
    ボクもそうだから分かるけれど、海というのはなんというか即死ポイントだ。
    それを真前にして、水着になることの恐怖といったら……。

    だけど本当のところ、やはり神様はずっと胸元を気にしてモジモジしている。
    目隠ししてることもあって、必要以上に視線を感じているのかもしれない。

    「うぅ〜、かみさまうりうりするのもいいけど、くろはやくスイカ食べたいんだよ〜」

    「だっ、いだっ!わかったから素足をかじるなっ!」

    時刻はもうそろそろお昼どき、空腹にガマンができなくなるくろさん。
    ん、そういえばスイカって果物?野菜……?
    まあとりあえず甘いから、野菜嫌いなくろさんでも大丈夫なハズ?

    「じゃあ、無事終わったらバーベキューしようか、皆に冷たい飲み物もあるよ?」

    「おおぅ、お肉焼くの〜」

    「あ、それじゃあ、私も材料運ぶの手伝いますよ」

    「うーん、ボクもお腹がすいてきたよ?焼肉、焼そば、焼キノコ〜」

    てふてふさんの声に、一気に賑やかになる。
    だけど、料理人の立場を取られたようなフクザツな心境……。
    まあ今年も、夜にカレーでも作れればいいかっ!

    「よし……それじゃあそろそろ、行くぞっ!」

    サイコ様がその活気を受けるように声をあげる。
    その声に、ウーシェさんが巻いていた包帯を目の部分意外取り外した。
    何故巻いてたんだろう。

    サイコ様の裸足が、砂浜の上で1歩踏み出された。
    きりりと真一文字にひきしまる口元。その一瞬で空気が変わった。
    神が、スイカを、割るのだ。

    「ルナール、棒をっ!」

    「はーい」

    サイコ様の手のひらに、震える棒が渡された……震える、棒?

    「ぐむ、ぐむう……」

    何で棒が用意できなかったのかはまったく謎だけれど、
    棒の代わりとして白羽の矢が立ったのは大神官マシュルーブさんだった。
    白い包帯で体中をぐるっぐる巻きにされて一本の棒状になっている。
    ……一体誰の仕業だろう!

    「よし……」

    ともあれ、一切の疑問を取り払ってマシュ……白い棒を両手で持つサイコ様。
    海岸に平行線になる形で、20m程度先のスイカに対峙する。

    「頑張れーっ!神様ーっ!」

    「しっぱいしたら、おしおきだよー」

    もちろん、周りは全力でサイコ様をサポートして惑わして楽しむのだ。

    「彩子さーんっ、もう少し左ですよーっ!」

    「あ、足下に蟹が……」

    周りからの声にしどろもどろになりながらも、徐々にスイカに近づくサイコ様。
    後ろからの歓声に、周りの波の音に、スイカの方から聞こえる声に、導かれていく。

    「女神殿ー、もう少し、もう少し右だー、でないとこっちに……」

    スイカ側の誘導人員として当てられたのは、マギさん。
    神様が最後の最後に、スイカへの一撃を当てられるかどうかを左右する重要な役目。
    ……だけどどうして、スイカのすぐ真横で、首まで砂浜に埋まっているんだろうか。

    まあ言ってしまえばジャンケンという陰謀劇による被害者ではあるんだけれど。
    ボクやビスさんがああなった可能性があるか想像はできないごめん。
    白い棒を構えたサイコ様が、スイカの前に退治する。

    「め、女神殿……ここからが重要だ。いや、私も女神殿と青い空のコントラストを、
    目に焼き付けつつ信仰に浸りたいところではあるが、それを押してナビゲートする次第で」

    「むぐぅー、むぐぅ……」

    「マギか……どっちだ?」

    「女神殿簡単なことだよ、声がしていない方を叩けばいいつまりは右だ、右」

    「分かった、右だな……」

    そう言って、スイカに垂直に棒を振り上げるサイコ様。
    あとは振り下ろせばミッションコンプリートっ。

    「むぐーっ!ぐーっ!」

    振り上げられたことで危険を察知したのか、身体をよじらせ暴れだす神官様。
    神様は棒を振り上げた体制のまま、必死でそれを押さえ込んでいる。

    「こらっ、なんだっ!暴れるな、くうっ、このっ!」

    角度のズレにしては約5〜6度、されど。

    「ああっ、女神殿……非常に説明は難しいけれど、そのまま棒を振り下ろすと西瓜には
    命中しないという残念な結果になるというか、違うものが割れるというか……」

    あ、振り下ろした。

    「行ってこおおーいっ!!」

    「むぐーっ!?」

    「女神殿ぉーっ!?」



    ☆



    その後は、スイカを包丁で切り分けてみんなで食べた後、
    てふてふさんによるバーベキューで、スイカ割り大会はつつがなく閉められた。
    しかし、その裏に多大な犠牲があったことをボク達は忘れては……

    「あ、あれは……」

    「ん、どうした、るー?」

    導かれるままに、るーさんの視線の先を見るサイコ様、そこはあるのは切り立った岩場、
    だけれど、別段変わった様子はない……。

    「いや、今あの岩場に良く見知った人が居たような……んん、きっと気のせいですっ」

    「む、そうか……わかった」

    その一瞬で、何かを把握したように少し寂しそうな目をする。
    きっと、そこに居たのが誰だかわかったんだろう。
    しかしすぐに、その表情は消えて、いつもの引き締まった顔になる。

    その顔は、きっと神様のような顔だった。



    ☆



    「ふ……強い神になれ、彩子……」

    そういって夕陽を……いや、西陽を背に去っていったのは誰だったのだろうか。
    今となっては、それを知るのは神とその当人のみである――



    ★



    その頃、パラソルの下に座り込むラピス。

    その隣には、しましまの水着上下を着た女性の姿。

    昔は小さかったその女性と、無意識に胸元を比べ見る。

    「……負け、た」

    「?」

    夏の海は戦場らしい。


    【夜の部に続く】