1 はじめに

 現在に続く格闘ゲームの基礎を作ったのはカプコンの『ストリートファイター2』であることは誰もが認めるところであろう。それ以前にもいわゆる「2人のキャラクターが1対1で決闘する」ことをモチーフにしたゲームはあったが、系統ともいえるべき流れができたのはこの製品からだ。対戦台という概念が生まれ、ゲーセン事情が大きく変化したことも大きい。後追い製品も増え、格闘ゲームのブームが沸き起こった。
 エポックメイキングとなった『ストリートファイター2』の稼働は1991年3月だが、同じ年の11月に稼働開始したのがSNKの『餓狼伝説』である。開発者(ディレクター)は『ストリートファイター2』の前身となった『ストリートファイター』を手掛けられた方で、そういう意味ではこの2作は兄弟のようなものだ(もちろんゲーム開発は1人で行うものではないことは言うまでもないが)。ただ、双方の方向性は大きく違っていた。『ストリートファイター2』の設計はより対戦向きにシフトしており、『餓狼伝説』のほうは1人用メインのまま、演出や世界設定を追求した形になっていると言えよう。
 とはいえ当時のゲームは容量も少なく、ゲーム内で語られるストーリーにはおのずと限界がある。にもかかわらず『餓狼伝説』には、これでもかと言わんばかりにストーリー性やキャラ同士の因縁関係が詰め込まれていた。未だに盤外の考察(という妄想)も捗るというわけである。

  

 ところで初代『餓狼伝説』と同じKOF大会をリメイクしたという設定のシリーズ作が存在することを忘れてはならない。いわゆるポリ餓狼と呼ばれる『餓狼伝説 WILD AMBITION』だ。世に出たのは1999年、つまり初代から8年後。時期的にはシリーズ第7作『リアルバウト2』がすでに発売されており、同じ年のうちに、登場キャラの世代チェンジが図られた『MARK OF THE WOLVES』が登場するというタイミングであった。当然対戦ツールとして餓狼シリーズは成熟しており、最新作『リアルバウト2』において各キャラクターが使用可能な技の数も初代『餓狼伝説』の比ではない。ユーザーも今更、超必殺技すらないような戦いに満足できるわけもなかった。そのため『餓狼伝説 WILD AMBITION』は初代と同じ時系列という世界設定があるにも関わらず、各々のキャラクターたちが後年習得したであろう技の数々が搭載されている。しかしこれは商売的に考えれば避けようがないわけで、同じ理由からシリーズの人気キャラであるキム、舞、ヤマザキ、そして『リアルバウト2』からシャンフェイがゲスト参戦しているのもしかたあるまい。しかし、試合が行われるステージの多くが初代とは違い、世界各地に散っていて『餓狼伝説2』で描かれるのと同じ規模の大会になっているのは解せない点だ。シリーズを見てみても、『餓狼伝説3』以降は初代のようにサウスタウン内での戦いに立ち戻っている。ステージバリエーションが集客性に大きく影響していたとは考えにくい。
 だが、こういった世界設定上の整合性の不具合はあるにせよ『餓狼伝説 WILD AMBITION』が初代『餓狼伝説』のリメイクであることは公式に明言されている。つまり『餓狼伝説』におけるKOF大会について考えるのであれば、『餓狼伝説 WILD AMBITION』を避けることはできまい。

 KOFは世界中から格闘家たちが集まり、世界一の座を競うという趣旨で行われている武術大会なのだが、大規模な賭博が行われているのが実態だ。賭博の胴元はKOFが開催されるサウスタウンを裏から牛耳っているギースだ。彼はこの大会で八百長を組み、多大な利益を得ていることになっている。ゲーメストの付録として配布された販促用コミックにギースの悪だくみの証拠がばっちり残っており、言い逃れはできない。

  

 そこへ10年前にギースに養父を殺された恨みを持つテリーとアンディのボガード兄弟、そして最強を目指すジョーの3人がKOFに出場するというのが初代『餓狼伝説』のストーリーとなっている。つまり彼ら3人はギースの仕組んだ八百長を実力で潰していくダークホースの役を演じるのである。ビジネスを無茶苦茶にされたギースが優勝者を拉致し、制裁を行おうとするシーンがラストバトルであり、ボガード兄弟であれば復讐の成就、ジョーの場合は世界最強の殺し屋と言われたギースを倒すことで、各々の目的を果たしてエンディングを迎える流れとなっている。ラストバトルのみ敗者はビルから蹴落とされるという特殊演出が用意されており、これがまた非常に印象深い。復讐劇『餓狼伝説』ならではの画面だ。

2 大会考察

 さて、では本題に入ろう。初代『餓狼伝説』のステージ進行(ボーナスステージは除外)は以下の通りだ。

 3人の主人公(テリー、アンディ、ジョー)から、操作するキャラクターを1人選ぶ。

  

 4人の相手から最初に戦う1人を選択する。4面まではこのメンバー(マイヤさん、ダック、マイケル、タン大人)を順番に倒していく。

  

 ホアと戦う
 ライデンと戦う
 ビリーと戦う(決勝戦)

 KOFで優勝した直後に拉致され、ギースと戦う

 最後のギース戦はすでに大会が終わった後の出来事となるので、今回は考察から除外する。
 大きく分けてKOFの進行は2つに分けられていることがわかるだろう。行程2の部分と、それ以降だ。ホア戦から先は相手が確定しているわけで、これはトーナメント形式になっていると思われる。対して前半は戦う順番が固定されておらず、「4人の相手から最初の相手を選んでスタート」「4人全員を倒したら、ホア戦へ」という流れで進行する。この部分はトーナメントになっているとは思えない。準々決勝から始まる8人トーナメントの出場枠を得るための予選と考えるのが自然ではないだろうか。選択した主人公キャラ+4人の相手で予選を行っているのであれば、5×8、全部で40人の参加者がいると考えることができる。

 少し話はずれるが、『餓狼伝説』における2P乱入はちょっと変わった仕様になっていて、まず2人がかりでCPUをぼこり、その後対戦でKOFを続ける勝者を決めるという流れになっている。普通の武術大会として考えた際、どう考えても2体1の乱入戦が許容されていると考えにくい。だが、もしかしたら闇討ち上等、手段を選ばず勝てばいいんだというルール無用な大会ということを意味しているのかもしれない。実際ホアとビリー戦では奴らに有利となる酒や武器が投げこまれてくるわけだし……。
 そしてその2P乱入を行わない限り、最初に選択しなかった残りの2人の主人公キャラは対戦相手としては登場しない。MD移植版ではその限りではないが、ここでは考慮しないことにする。つまり、これは別のブロックの予選に参加していたと考えるべきだろう。残念ながら彼らは予選敗退、あるいは決勝トーナメントの別ブロックで負けてしまったに違いない。

 というわけで……40人の参加者のうち、テリー、アンディ、ジョー、マイヤさん、ダック、マイケル、タン大人、ホア、ライデン、ビリーの10枠はすでに埋まっている。残りは30枠だ。『餓狼伝説 WILD AMBITION』にはシリーズの人気キャラ(キム、舞、ヤマザキ、シャンフェイ)が参戦しているのは先に触れた通りだが、その他に2人の新キャラ、冬次とつぐみが登場している。彼らを加え、さらに6枠が埋まる。

3 妄想&こじつけ

 決勝トーナメントで戦うことになるホア、ライデン、ビリーはいずれもギースの手下であり、ギースが行う八百長試合に欠かせないメンバーだ。八百長を盤石なものにするためには、最低でも準決勝あたりからは完全に試合をコントロールできたほうが都合がいいだろう。つまり、決勝戦で戦うビリーが準決勝で破ってきた相手も、ギースの配下である可能性が高いということだ。本気でやるならトーナメントに勝ち上がる8人全員にギースの息がかかっているのがベストだろうが、残念ながらKOFの八百長ビジネスは毎年開かれているため、さすがに毎度毎度同じ顔触れというわけにもいかないに違いない。主人公が戦ってきた予選のメンバーがいずれもギースの手の者ではないことから、やはり準決勝あたりで環境を盤石に整えるのが定番なのではと思える。実際に『餓狼伝説』でのステージ間デモにおいて、ギースはホアが倒された時点で初めて怒りを露わにしている。ここで彼の計画は狂ってしまったと断ずるには十分だ。本来なら、勝ち残っている選手は全員彼の手下だったのではないか? つまり、もう1人、ギース子飼いの格闘家がいなければならない。

    

 こう考えていくと、確実に儲けを出すには、ビリーら4人が予選で敗退するという事態は絶対に避けたいはず。となると、この4人が参加している予選ブロックで消える選手16名は全員ギースの配下とみなすこともできそうだ。その使命はビリーたちをトーナメントに送り込むことなので、彼らは数合わせの存在と言える。テリーたち使用可能なキャラクターと肩を並べるような連中ではあるまい。明らかに格下であろう。

4 残る参加者を探せ!

 さて、前述の16名に4人目の準決勝メンバーおよび16人衆を加えると、33人となる。残ったのは7枠。次はここにエントリーしているであろう「ビジュアル付き」の連中がいるので紹介していこう。公式外見があるというのは大きなアドバンテージであることは言うまでもない。
 まずは初代『餓狼伝説』インストカードに使われたイラストを見てみよう。イメージアルバムのジャケットでもおなじみだ。テリーたち3人を取り囲むようにCPUキャラたちが描かれているのだが、一人だけ正体不明の輩が混じっている。スキンヘッドに黒いシャツといういで立ちのこの男、自分の中で長らく謎の存在であった……このイラストにはタン大人とギースが描かれていないのだが、そのどちらとも思えない。もしかしたらこやつは没キャラなのかもしれない。初代の没キャラといえば、相撲レスラーがいたらしいが……ひとまず仮にそいつということにしておこう。髷結えないけど。

  

 実のところ件の相撲レスラーはマイケル・マックスに変わったらしいので、このイラストにマイケルが描かれている以上、彼が相撲レスラーである可能性は低いのは秘密だ。

 お次は海外版のパッケージに描かれた男性だ。これまた登場キャラのいずれでもない人物で、白いタンクトップに赤い帯、そしてジーンズをはいているように見える。観覧車の座席か何かで戦っており、相手をパンチでリングアウトさせたところだ。驚くべきはこの宙へ放り出された敗者が、どうみてもテリー・ボガードであるということである。主人公に勝利しているというわけで、明らかに只者ではない。

  

 いや、ちょっと待て。このテリーは本物だろうか? なんといっても彼は主人公だし、シリーズ的にはこのKOFで優勝したのはテリーになっているわけで、どう考えてもこんな名も無き輩に不覚を取っているとは思えない。偽物といえば、対戦メインにシフトした『餓狼伝説2』以降、どうしてもゲーム仕様上避けえない問題として同キャラ対戦が発生するわけだが……ここで敗者側が「そっくりさん」という演出になっていることは考慮に値する。偽物の男は『餓狼伝説2』以降の登場と思われていたが、どうやら初代にもひっそり参加していたようだ。サウスタウン・ヒーローとして知られる前からの追っかけ、こいつは相当な筋金入りと言えるだろう。

  

 まだいるぞ。ゲーメスト付録の販促コミックに2人の男が戦っている1コマがある。黄色いピチピチにやはりジーンズの髭男、そしてスキンヘッド野郎だ。KOFの試合形式が説明されているコマであるため、この2人もまた、KOF参加者だと考えるのが自然であろう。

  

 これで新たに5人の参加者が加わった。残る2人が見つかれば、無理くりながら初代『餓狼伝説』におけるKOFの全容を明かしてやったりと言えるところだが……どこかに目撃情報ないものだろうか……

5 灯台下暗し……そして、結び

 あちこち探してみたところ、PS版の『餓狼伝説 WILD AMBITION』に二代目Mr.KARATEが隠しボスとして登場していたことに気づいた。いや、正確には気づいたというわけではない。隠しキャラ、しかもボスということで、正規の参加者ではあるまいと候補から外してしまっていたのだ。しかし改めて考えてみれば、確かに条件を満たせば1Pモードで使用可能になるキャラでもある。引退した伝説のファイターという立場的に、大会の裏でギースを狙っていたとも考えられるが、普通に大会参加者をなぎ倒しながらゲームは進行するわけで……こいつはどうやら、Mr.KARATEことリョウ・サカザキもKOF参加者として数えてよいように思えてくる。

 ……39人まできちゃったぞ。こうなるともう、何としても40キャラコンプを目指したくなるのが人間の性というもの。

 もう1人……残っている者がいる。そう、大会主催者であるギースもまた、『餓狼伝説 WILD AMBITION』においては使用可能キャラの1人だ。だが……残念ながらこれは大会に参加しているというよりは、危険人物とみなした者を闇討ちしていると考えるべきではないか? 初代『餓狼伝説』で大会後に主人公3人をぶちのめそうとした、あの行動の拡大解釈である。流石にギースがKOFにエントリーしているというのは無理が過ぎる。なりふり構わず40人目に是非と行きたいところだが、やはりここは一線を引くべきだろう……。当然ながら、ギースの側近であるリッパーとホッパーも同じだ。

 あと1人……たった1人なんだがなぁ……!


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