「ヘボタン」とは、私の記憶が正しければ小学校三年から小学校六年の一学期までの三年半にわたって、ノート五冊に鉛筆で描き続けられた長編漫画である。確か最初の二冊はジャポニカ学習帳で、残る三冊は大学ノートだったはずだ。
「ヘボタン」は、主人公ヘボタンの延々続く戦いを描いたバトル漫画で、彼は棒人間であった。漫画である以上、何度も何度もコマごとに描く必要があるので、必然的に描きやすいデザインに落ち着いたものと思われる。バトル漫画である以上、敵のバリエーションが無いとあっという間にネタ切れを起こしてしまう。「ヘボタン」に登場する敵キャラクターの数は今現在思い出せる限りでは三十人弱といったところであろうか。小学生の頭から湧いてきたにしては中々の数だと思う。他にも賑やかしを担当する中立的な立場のキャラクターが三人はいたはずだ。それらのキャラクターも皆、棒人間あるいはそれに準ずる描きやすさのデザインをしていた。もちろん描き分けは完璧である。当時は意識してなかったけれども、今思うにすごいことではなかろうか。
先に「ヘボタン」を描き始めたのは小学三年生と書いたが、実はそれに先立つ二年生の時に学級壁新聞向けに「ヘボタン」のプロトタイプに当たる漫画を描いたことがある。結局他の女子が描いたよく分からない恋愛漫画が壁新聞には掲載されたのだが、新聞部を男女で真っ二つに分ける争いを産んだ。女子たちからすれば棒人間のバトル漫画こそよく分からなかったということだろう。さもありなん。
その後、自分でノートに改めて「ヘボタン」描きはじめ、一切の制約なく延々と続き物として製作され続けたわけだ。五年生の時に同じように棒人間バトル漫画を描いていたクラスメイトの男子と友人になり、それからというものお互いの作品を読み合ったり時には合作などをしていたが、やがて親の仕事の関係で自分が転校することが決まってしまった。それが「ヘボタン」の製作が止まった六年生の二学期頭であり、私は友にそれまで書き溜めた「ヘボタン」五冊を託し新天地へと旅立ったのだった。
「ヘボタン」は記憶に残る初めての大規模な創作であり、現物は手元に残っていないにも拘わらず、その大部分をおぼろげながら覚えている精神的大作である。ちなみに主人公ヘボタンの名前は、弟が粘土細工のロボットにつけていた名前を拝借した。我が弟ながら良いセンスだ。今でもそう思う。
棒人間によるバトルアクションといえば名作FLASH「小小作品」(シャオシャオサクヒン)を思い浮かべる人も多いと思う。あれは素晴らしい。我が「ヘボタン」も棒人間アクションではあるが、何しろ小学生が描くものである初期の絵はひどいものだったと記憶している。なにしろ自分が「ヘボタン」を描いていたころはまだインターネットなぞ影も形もない時代。ビデオでさえまだなかった頃だ。参考にできるものは漫画ぐらいで、バトル漫画のキャラクターたちがとっているポーズを棒人間に置き換えて描くぐらいしかなかった。ところが当時の自分には自由になるお金もそんなにあるわけもなし。漫画を手に入れるような機会も少なく、基本的にはひたすら試行錯誤するしかなかった。何度でも描き直せる鉛筆で描いていたのは幸いだった。消しゴムのかけすぎでノートがやぶれたことも多々あったが、そんな時はページごと切り離してしまい、(場合によっては"裏"のページも)描き直した。
そんなことを三年もやっていれば必然的に躍動感あるポーズやら数コマに渡って一連の動きを表現するポーズやらを棒人間にとらせることができるようになってくる。いくら少ない小遣いとはいえ、流石に小学校中学年から高学年に上る頃には参考となる漫画本の四冊や五冊は手に入れることができる。当時入手した漫画は「キン肉マン」(@ゆでたまご/集英社)であった。もちろんバトルアクション漫画である。「キン肉マン」はパンチありキックあり、投げ技から関節技までござれのプロレス漫画であり、さらには人間離れした肉体構造を持つキャラクターたちが持つ個性的な技も多数あったので、絵を描く上での大先生となった。「ヘボタン」の最初のころと最後の方では、アクション描写には雲泥の差があったと思う。
ところで「キン肉マン」に関して言えば、残念な点が一つある。自分は「キン肉マン」という漫画が好きであった。大好きすぎて「ヘボタン」の最後のほうになるとキャラクターまで影響を受けてしまい、どうしようもないレベルにまでなってしまった。今でいえば、パクリまではいかないがオマージュが過ぎるといったところだろうか。中学に上がる頃には、そのオマージュっぷりに後ろめたいものを感じていたせいもあって、そのあたりの内容はとんと覚えていない。先に書いた自分の「ヘボタン」愛は、「キン肉マン」の影響がほとんどない中盤過ぎぐらいまでにとどまっている。
ヘボタンは棒人間である。頭は◯で、そこから胴体、手足の計五本の線が生えている。手首と足首の先は無い。表情や視線を表す目鼻もない。これ以上ないぐらいのシンプル構成となっている。これで漫画を描こうとしたのだからチャレンジ精神にあふれている。しかもそれをノート五冊まで続けたのだからすごい。自画自賛になってしまって申し訳ないが、自分としては正直なところだ。
「ヘボタン」という作品はバトル漫画であるが、本当にバトルしかない。普通であればバトルに至るまでの状況や、なぜ登場人物たちが戦うのか、そして戦いの中で何に目覚めるのかといったドラマ性があって然るべきと思う。しかし「ヘボタン」にはそういった描写は全くない。主人公であるヘボタンからして戦う理由は殆ど無い。基本的には敵に一方的に戦いを挑まれ、バトルが始まる。バトルが終わるとその話は終わってしまう。次の話が始まると、冒頭でまた新たな敵が現れる構造になっている。一話一話の題名は敵の名前だ。本編中では一度も名乗らず、ヘボタンは倒した敵の名を知ることはついにないというケースも多かった。 それはともかく、途中から話に連続性が出てくるが、新たな敵が唐突に現れるのは変わらない。敵が戦いを挑んでくる理由は不明。要するに、バトルアクションだけが描きたかったのであった。他は全部省略。すっとばし。すがすがしいぐらいの徹底っぷりである。
それでも初期には、わずかながらヘボタンにも戦いの理由があったように思う。彼は近所のパトロールに出動し、そこで最初の敵と遭遇するのだ。出動方法はトイレに水を流した渦に飛び込むというもので、このへんはいかにも小学三年生らしい感性だ。大目に見てほしい。彼が戦いで繰り出す技も、パンチ、キック、そしてヘボタンビームである。ビームは最初の数戦でしか使用せず、その後は基本肉弾戦となる。当時の自分を振り返るに、きっと「ウルトラマン」(@円谷プロダクション)など特撮作品の印象が反映されていたのだろう。パトロール行動はヒーロー的であるし、ビームが必殺技というのはいかにも主人公らしいではないか。実は「キン肉マン」も初期には怪獣退治をしてビームを放つのであるが、当時既に「キン肉マン」は超人プロレスに移行していたし、最初の方は読んでいなかったので、ビームに関しては「キン肉マン」の影響ではないことは確実である。
なお、実は後々までヘボタンというキャラクターはちょこちょこ折を見つけては描いていた。中学時代にヘボタンを主人公にしたビジュアルストーリーゲーム……とでもいうのだろうか、一コマごとに選択肢があるゲームブックのようなものを作ったりしていた。ちなみに間違った選択肢を選ぶと即死という、なんともヒドイ構成をしている。タイトルも「ぬすっとヘボタン」になっていて、随分と落ちぶれたものだ。戦い方も体術ではなく銃と剣になっており、バイオレンス化している。その他で思い出せるところでは高校に上がったころにはいっちょまえにオリジナルキャラの集合イラストなぞを描いており、イラストらしくなったキャラに混じって棒人間ヘボタンもちゃんと入っていた。リバイバルということで、にやりと笑った口が追加されていたと記憶している。
冒頭にあげた絵はこの間、何十年ぶりかにヘボタン(として棒人間)を描いてみたものだが、口は描かなかった。やはりシンプルなほうがヘボタンらしいと考えたからだ。
パトロールに出かけたヘボタンの前に颯爽と現れ、喧嘩を売ってくるのが記念すべき最初の敵、黒人間(くろにんげん)である。彼は先に紹介させていただいた壁新聞用のプロトタイプ版でも敵役を務めていた。
黒人間はその名のとおり、頭の◯が黒く塗りつぶされている。二人目の登場人物でもある彼は、ヘボタンの色違いデザインだったわけだ。
彼はヒーローであるヘボタンのことを知っていて、勝負を仕掛けてきていると思われる。特に理由はない。つまり黒人間は悪役ということなのだ。良いヤツ=白。悪いヤツ=黒。なんと単純な図式であろうか。
バトルに関しては特に思い出せるようなところもないのだが、多分パンチやキックの応酬があって、最後はヘボタンビームで黒人間が敗北するような流れだったではなかろうか。バトル漫画にチャレンジした一話目ということで、最初はパンチキックを描いたはずなのだ。だが、トドメの一撃となる必殺技ヘボタンビームは別である。実はこのビーム、おしっこ攻撃なのである。汚いのを敵が嫌がって精神的ダメージを受けるというものではなく、実際に破壊力を伴ったおしっこである。当たると爆発する。出動方法のトイレといいヒドイものだとは思うが、そこは小学三年生渾身のネタなので許してほしい。自分も学年が上がって幼稚だと思ったのか、見せた友達の反応が悪かったのかは覚えていないが、ビーム攻撃はこの後二回ぐらいしか使っていない。自然と消えてしまった。私の成長を感じさせる部分である。なお、ちんちんのための棒は書いてなかったことは明言しておきたい。
のちに黒人間は、中立的なキャラクターとして賑やかしに登場したりもしていた。やはり簡単に描けるというのは強みだ。デザインがヘボタンの対極版であるということもあり、印象深いキャラクターとなった。先ほど書いた通り、バトルに関しては何も特徴は無かったにも拘わらずである。
さて次なる敵には、なんと銀行強盗が採用された。「ウルトラマン」などのヒーロー物に影響されていたと思いきや、一気に社会派である。おそらくは刑事ドラマでも見たタイミングだったのだろう。
さてこの強盗、名前もずばり銀行ギャングである。やはり先の二人と同じく棒人間だが、頭は△。この形状は、強盗のイメージとして顔を覆うストッキングなどを想定していたのかもしれない。そして、こいつは武器として銃を持っていた。二人目にして武器持ち、しかも棒や剣ではなくいきなり銃である。対するヘボタンはヘボタンビーム以外は格闘攻撃しか持っていない。頼みのビームも当たれば爆発するが、所詮おしっこである。射程も勢いも銃にはとてもかなわない。連射も無理だ。当然苦戦を強いられるヘボタン。銀行ギャングの持つ銃の描写は超適当なので、弾切れなんて起きない。さて、この状況をどう打破したものか?
ここでヘボタン、一度戦線を離脱し、なんと作者の元へ乗り込んでクレームをつけるのである。銃なんてズルい、あの銃をなかったことにしろと。早くもメタ展開である。漫画を描いている作者(つまり私)をキャラクター化して登場させたのだ。しかも、「ヘボタン」を描いている上位存在としての扱いだ。惜しみなくアイデアをつぎ込む姿勢、嫌いじゃないぞ。
そして銃の存在をなかったことにしたヘボタンは戦いの場に舞い戻り、銀行ギャングを瞬殺したのであった。ギャングは逮捕されて退場、ヘボタンは二勝目を手にしたのである。
ところで作者のキャラクターであるが、なんと髪の毛と目がある棒人間である。当時の自分なりに、自分自身をモデルにしたようだ。二話目にして「ヘボタン」における最も写実的なキャラクターの登場であった。
《著者近影》
黒人間、銀行ギャングを立てつづけに倒し、少しいい気になっていたヘボタンであるが、彼にも頭が上がらない人物がいた。オヤジである。実際のお父さんなのか、それとも近所の親父さんなのかは当時「ヘボタン」の読者であった友達との間で意見が分かれた。ちなみに自分としては後者のつもりであったが、どっちでも構わなかったので結局はっきりとは決めなかった。
ちなみにオヤジのデザインは二重丸を頭に持つ棒人間である。そこに豚の尻尾のような髪が一本。はげちょろびんである。
パトロール中にオヤジに見つかってしまったヘボタンは、用事があるとムリヤリ連れ帰られてしまう。こんな時に敵が来たらヤバイというヘボタン。敵なんかそうそう来ないとオヤジ。しかし敵は来るのである。しかも足元の地面から現れたのだ。
すぐに攻撃してきたため作中で名乗りはしなかったが、四角頭の棒人間であるこいつは地底人である。ついに何の意味もなくヘボタンを狙う敵が現れた。以後は基本的にノリだけでバトルが開始するようになる。「出会い・即・バトル」の図式の初出であった。
さて、地底人の攻撃に対して文字通り手も脚も出ないヘボタン。オヤジに引っ張られているため、思うように動けないのだ。迫る地底人の攻撃に対し、間一髪で逆襲のヘボタンビーム! 見事に地底人を撃退することに成功した。まったく見せ場のなかった地底人だが、実は驚くべきタフネスである。奴はヘボタンビームを喰らって、これはたまらんと地底へと逃げていくのだ。ヘボタンビームを喰らった敵は爆発するはずなのに!
ところで、これまで大活躍のヘボタンビームであったが、そろそろ描くのが恥ずかしくなってきたのか、面白くなくなってきたのか。いずれにせよこの戦いを最後に使われなくなるのであった……。小学校中学年、色々と意識が変わるお年頃なのだ。さらばヘボタンビーム!
このころの「ヘボタン」には、敵ではないキャラクターがちょこちょこ登場する。先のオヤジもそうだが、もう一人マギレと呼ばれるキャラクターがいた。オヤジは一応ストーリーに絡んでくるが、マギレはその名の通り「紛れこんだ」存在である。丸に四角を描きこんだ頭部を持つ棒人間だが、常に「マギレ」と書かれた看板を持っているのが特徴。コマの隅っこに時々顔をだす。ただそれだけのキャラクターである。ヘボタンも、敵もマギレのことを認識していない。マギレのほうでも他者に干渉しない。マギレがその存在をアピールするのは読者に向けてのみなのだ。ある意味第四の壁を意識させるキャラクターと言えるだろう。コマとコマの間の隙間にいたりもした。書いててなんかものすごい存在のような気がしてきたが、当時はまったく何も難しいことは考えずに描いていたものだ。
オヤジはともかく、マギレは当時友だちの間で何故か人気があったと記憶している。まったく意味のないキャラなのに好まれる。中々に稀有な存在であった。
次の敵は丸人(まるじん)である。丸人とは何者か。実はよく分からない。これまでの敵は黒人間、銀行ギャング、地底人と何となく種族的、あるいは社会的立場のイメージがあった。だが、この丸人にはそれがないのだ。
見た目は顔が描かれた丸の周囲に、脚が生えているデザインである。コマによって脚の本数は違うが、だいたい十本ぐらい。「ヘボタン」初の非人間型キャラクターだ。脚は短く、関節は無い。簡単に描いた太陽のような絵である。このよく分からない敵は、何処からともなく街に現れて大暴れ。ヘボタンが出動してバトルとなる。先の地底人で出現した「出会い・即・バトル」メゾットではあるが、まだ徹底はされていない。一応街で暴れる悪役を退治するという体裁をとっている。
さあこの丸人の攻撃方法であるが、回転アタックによる体当たりである。しかも十連キックも一緒についてくる。これまでの敵と比べると、デザインと攻撃方法がマッチしている。スゴイ。ヘボタンもボコボコにされ、ずいぶんバトル漫画っぽくなってきた。
苦戦を強いられたヘボタンであるが、どうやって勝ったかというと……これが思い出すにどうにも締まらない決着で、なんと前回地底人が現れた穴ぼこに、丸人がはまってしまうのだ。そこをボコしての勝利なのであった。前回の状況が継続されているという点では、初めての試みであった。あったが……それでいいのか?と我ながら言わざるを得ない。
今思い返すに、丸人のデザインは「ひらけ!ポンキッキ」(@フジテレビ)の「まるさんかくしかく」で歌われる「まんまるじん」まんまである。意識していたかどうかは憶えていないが、間違いなく潜在的なモデルであろう。
棒人間から始まった漫画とはいえ、新要素は留まるところ知らない。今回は二つの試みがなされた。一つはキャラクターの名前に駄洒落が採用されたこと。そしてもう一つは頭部に文字を書きこむというデザインだ。
今ではめっきり減ってしまったかもしれないが、当時は地域で夜に見回りを行っていたものだ。「火の用心、火のよーーーじん」カチカチ。拍子木を打ちながら夜火を警戒するよう呼びかける声を今でも覚えている。
こいつは、その要素を取り入れたキャラクターであった。火の用「人」という名前、顔には「火」の文字、そして拍子木を武器として戦うのだ。二本の棒で叩くとか打ちのめすとかではなく、拍子木らしく相手を挟むのである。
とにもかくにも、やはりこの火の用人も夜行性である。例の掛け声と拍子木がうるさいとヘボタンは飛び出していくのだ。ヒーローのくせにとんでもない話であるが、幸い相手は火の用心ではなく火の用人だったというわけだ。怪人退治ならヒーローのお仕事である。
バトルについてだが、正直よく覚えていない。とにかく勝った。
ところで「キン肉マン」に”刺の着いた板という両手”で同じように相手を圧殺する戦い方をするジャンクマンというキャラクターがいるが、もっと後の話である。ジャンクマンはたしか私が五年生か四年生の時に登場したのだが、火の用人は三年の時に生み出された。もちろんジャンクマンほど強烈ではないし、ギミックを生かし切れてもいないが、そこはまあ小学生の鉛筆漫画だしね。
さて、ここから「へボタン」は大きな転換期を迎える。これまでは一話一話個別だったのだが、この話から「前回のラスト」が話の起点となるのである。バトルしかしないとはいえ、連続物になったわけだ。
火の用人を倒したへボタンが家に戻ってくると、もう既に朝になっていた。しかし、そんな彼を屋根の上から見下ろす影があった。そう、それこそが次の敵。その名も見須田ーである!
見須田ー。漢字なのに「ー」がついている。我ながらわけがわからない。読みは「ミスター」で、ようするに「Mr.」だ。名前が当て字というパターンの敵はこの後もちょこちょこ登場することになる。
ミスター(見須田ーだと読みにくいのでこう表記させていただく)にはもう一つ新たな特徴がある。こいつのデザインは顔に?が書かれた棒人間なのだが、杖とシルクハットを装備している。そう、ついに服飾つきのキャラクターの登場である。以前登場した作者も頭部は写実的要素をもっていたが、服は着ていなかった。物凄い進化だ。ちなみにこれは手品師をモチーフとしたコーディネートなのです。
そして頭上からの不意打ちでバトルは始まった。当時の自分が手品師に持っていたイメージなのかどうかわからないが、ミスターは火の玉を飛ばして攻撃してきたのだ。あわやのところで火の玉を避け、屋根の上のミスターに気付く。売られた喧嘩は買うのがへボタンである。火の玉をかいくぐりながら屋根の上に登ったヘボタンは、ミスターを捕まえたまま落下、相手を地面に叩きつけて勝ったとさ。
前回より「へボタン」は続き物となっているので、ミスターを倒したところからお話は再開されます。
ミスターを倒したヘボタン、何をするのかと言えば何と倒した敵を葬ろうとするではないですか。街から墓地へとミスターの死体を運び、埋葬。そしてその帰路で、次の敵に襲われるのでありました。
暗くなった道を急ぐヘボタンの背後から呼び止める声。振り向いたヘボタンが見たのは、バラン(草型)に手足が生えたような謎の生物。バランというのはアレです。お寿司についているあの緑の仕切りみたいなやつです。でもって、ヤツの名は草間。見た目が草なので、草はわかる。間は何だろう?
記憶を絞ってみたところ、どうもクラスメートの佐久間さんのアナグラムだったような気がして来た。何故佐久間さんだったのかは思い出せない。
さて、喧嘩を売られたヘボタンだが今回は珍しく断ろうとします。そりゃまあ火の用人から連戦、昨夜遅くから戦い続けていたのでさもありなんと言ったところ。
しかし相手にしては弱ったヘボタンを狙うのは当然ですね。草という名前からもどうやらこいつは忍者系の印象があります。正々堂々とか関係ない。確実に勝利できる時を狙う。そんな敵だったのかもしれません。
背後の敵から逃げようとするヘボタンに対し、草間は草のナイフを身体から発射してきます。シュリケン! ススキの葉の如くその切れ味は鋭く、ヘボタンはガードせざるを得ません。すると、ナイフの群れが飛び去った後方――すなわちヘボタンが向かう方向――で、草間が再構成されているではないですか。奴は自分の身体をナイフにして、ヘボタンの足止めをしつつ行く手を遮ったわけです。
しかし草間の猛攻もここまで。密かに隠し持っていたミスターの杖を取り出したヘボタンは火の玉を発射。草間は草らしくあっというまに燃えつきてしまったのあった。
やっと家に帰りついたヘボタン。しかしここでも敵は容赦なく攻めてくる。家の中で待ち伏せしていたのは「ヘボタン」でも類を見ないデザインをした敵、その名も火横林坊であった。いかにも当て字なネーミングだが、まさしくその通りだ。詳しくは後程。
こいつは見た目も個性的だが、その戦い方も独自性が高かった。三枚のお札を使ってくるのである。そう、あの「三枚のお札」だ。童話では主人公である小僧さんが使ったお札を、敵が使ってくるのである。ネタ切れだったのか、当時「三枚のお札」が好きだったのか……。ちょっと採用理由は思い出せない。
さて先ずは一枚目のお札だ。童話では小僧さんの身代わりとして返事の声を出すお札だが、「ヘボタン」ではどうだったか……確か火横林坊ではなくヘボタンの複製を作った気がする。この複製は必殺兵器ミスターの杖を持っていなかったので、あっという間に燃やされてしまった。
次なる二枚目は童話と同じく大河である。さすがに火の玉は効かず、流れにのまれたヘボタンは何とか泳ぎ切るものの、杖を失ってしまう。
そして満身創痍のところへトドメと繰り出される三枚目。これも童話にならって火の海であった。しかし童話と違うのはここから。ずぶぬれになったヘボタンは、気合で火の海を突破して敵に必殺の一撃を見舞うのである。
火横林坊のデザインには元ネタがある。確か乗鞍岳だったと思うが、当時買った民芸品のデザインをそのままいただき、手足をはやしたのだ。名前も「ひょこりんぼ」あるいは「ひよこりんぼ」。筆書きだったためどっちだったかは定かではない。
今になってググってみてもそれらしいのは全くヒットしないのだが、たしかに存在したのだ。どなたかご存知ではありませんか?
火横林坊を倒したヘボタンはどうやら家で一休みできた様子。ここで場面は変わり……ミスターの墓に雷が落ちる。破壊された墓標の下、つまり墓の中から二つの影が現れた。こいつらが次なる敵、何者門者と歯手名である。何故そんなところからと思わないではないが、渾身の登場シーンである。
何者門者は普通の棒人間だが、火の用人に続いて漢字が採用され、その頭には「何」の文字。手にはお祓い棒。
歯手名はその名の通り?マークの巨体(名前は当て字だ)で、なんと簡易ながら顔付きのデザインである。手の先には小さな丸、脚の先には三角形がついていて、中々にディテールの細かい敵であった。
しかも彼らはタッグなのだ。「ヘボタン」史上初めての集団戦が展開されるものと期待はうなぎのぼりかも知れないが、記憶が確かならこの二人、普通に連戦形式で戦ったのである。最初に何者門者がヘボタンと戦い、その間歯手名は見ていただけだった。せっかくの二人組なのにと今さらながらにもどかしい。
何者門者は雰囲気通り妖術を駆使する相手で、「はぁ~ なんじゃもんじゃなんじゃもんじゃ」の呪文と共にお祓い棒を振ることで色々と不思議な現象を起こせる。彼ら二人はこの呪文でヘボタンの家までワープして来たというわけだ。一方の歯手名はその巨体に相応しく肉弾野郎。火の用人戦からしばらくいなかった、ガチの殴り合いをしてくる敵だ。存分に拳を叩きつけ合い、最後はヘボタンが勝利を収めた。何者門者との決着の方はちょっと覚えていない。ミスターの杖ももうないし、格闘勝ちしたのは間違いないと思うが……。
火の用人戦以来長々と続いていたこのシリーズも、ひとまずはここで終了となる。
お疲れ、ヘボタン。キミはよく戦い抜いたよ。
さて新シリーズの冒頭である。ヘボタンはオヤジから宝の地図を奪い、それを探しにいくことになった。これまでと打って変わってストーリー性が出てきたではないか。すごい。
地図によれば宝はどこぞの鍾乳洞の中にあるようだ。ヘボタンはまだ見ぬ宝にウキウキしながら進んで行く。思わず口にしてしまうぐらいだ。ところがそれを聞いていた者がいた。その名はミスター・トン。彼は「ヘボタン」でも珍しい、敵対しないキャラクターである。先にミスターというキャラがいて、Mr.かぶりなのだがそこは気にしてはいけない。
デザインはほぼミスターであるが、顔の模様が違う。こちらはブタ鼻なのだ。ミスター・豚というわけである。彼はヘボタンが口にした宝に興味を持ち、こっそりと後を着いてくるのだ。
追跡者に気づかないままヘボタンは目指す鍾乳洞に辿り着く。夏休みの自由研究かなにかで鍾乳洞について調べていたタイミングだったのだろう、やけに鍾乳洞の描写はリアルだった。鍾乳石、石筍はもちろん千枚皿なども出てくる。もちろん出てくるのはそれだけではない。ここで隠し扉から登場するのが今回の敵、目玉である。鍾乳洞の中に隠し扉。同時の自分の頭の中はどうなっているのか覗いて見たい。
目玉はその名の通り目玉を頭部に持つ棒人間である。そんなシンプルかつ特徴的なデザインの彼が武器とするのは、手押し式の巨大ローラーだ。目とは何も関係が見いだせない。まったくもって描いたやつの頭の中がどうなって(略
ヘボタンとミスター・トンが通りすぎた後、現れた目玉はそのローラーを押しながら追跡を開始した。鍾乳洞の中を爆走するローラー。まず異変に気づいたのはより近くにいたミスター・トンだ。彼は悲鳴をあげながら身を投げ出し、かろうじてローラーを避ける。目玉は彼には気も留めず、ヘボタンを追跡していく。要するにミスター・トンは敵の攻撃を引き立てるヤラレ役なのだ。基本的に主人公と敵しかいなかった「ヘボタン」において、これはすごい進歩ではなかったか?
(オヤジやマギレはいたが、彼らは戦闘には直接関与していない)
ミスター・トンのリアクションを以ってその脅威を読者に示した目玉は、そのままヘボタンに襲い掛かる!
バトルの流れは残念ながら忘れてしまったが、とにかくヘボタンは勝利をおさめ、見事宝をゲットするのである。
ところでもちろん、目玉が何故襲ってきたのかは明らかにならない。宝が隠された鍾乳洞の隠し扉から出てきたのだから、もしかしたら宝の番人だったのかもしれない。などと今になって考えたりはする。
前回宝を手に入れたヘボタンだが、家路につきながら彼は宝を誰かに奪われないように守らなければならないと考える。ついに戦いの理由が出てきたかと思うかもしれないが、実はこれヘボタンの思い込みに過ぎない。相変わらず敵は問答無用で襲ってくるが、何故なのかは不明のままなのである。
そんな時に現れた敵が、半魚人である。目玉に続いて写実的な頭部をもつ棒人間で、彼の場合は魚だ。どこが半魚人なのだろうか。魚人ならまだわかるが。
宝を守るため、陸呼吸可能らしき半魚人と対峙するヘボタン。半魚人はその口から水のビームを吐き出す。このあたり、「キン肉マン」に登場する悪魔超人アトランティスの影響が感じられる。ウォーターボール、アトランティスドライバー、セントへレンズ大噴火などは出てこない(いずれも「キン肉マン」でアトランティスが繰り出す技)ので、まあセーフとしようじゃないか。
バトル内容はあいも変わらず記憶が定かではない。だがまあともかく勝った。
ヘボタンは宝を持ったまま家へと急ぐ……。
シリーズ物なので、まだまだ家にはたどり着けない。当然、次なる刺客が待ち受けている。
ここで登場するのが、前半人である。何が前半人なのかというと、多分こういうことだったと思う。ヤツのデザインは異形の頭部の棒人間なのだが、その頭、よく見ると半魚人の頭部を二つ鏡合わせにしたような形をしている。1/2魚人×2で1/1、つまり「全(部そろった)半(魚)人」。そして本来「全半人」のところをつい「前半人」と書いてしまったのではないかと。鉛筆漫画なので描き直せたはずなのだが、まあいいやと横着した。以上が現在の私が推理するところである。そんなわけだから、後半人はいない。
さてバトルのほうだが、こいつは伸縮自在の槍を持っていた。拍子木に杖、そしてローラーといわゆる武器らしい武器は出てこなかった「ヘボタン」だが、ついに殺意バリバリの武器である(銃? そんなものはなかったことにされている)。槍の方が手足より長いので苦戦するヘボタンだが、そこへダメ押しとばかりに、実は生きていた半魚人が背後から襲い掛かってくる。二対一の挟み撃ちで大ピンチと思ったその時、前半人の槍は半魚人を刺してしまったのだ。穂先が半魚人の頭に埋まっているなら怖いことはない。ヘボタンは速攻を繰り出し、前半人は倒れたのだった。
半魚人のこともあるし、前半人が死んでいることを確かめるヘボタン。だんだん凄惨な内容になってきた気がする。まあ小学校高学年。そういうことを考えたりもするんです。
まだヘボタンは家に辿り着いていない。シリーズは続く。
書いてて気づいたが……コレ、一応集団戦描いたってことではないか?
はい。ウソです。ホントは「富士」でした。怖れ多くも富士山がモチーフの敵である。しかしこやつは「ヘボタン」史上最も残忍な奴なのだ。富士ではちょっとイヤなので、あえて「不二」にさせていただきます。ご了承ください。
前半人を倒したヘボタンは先を急いでおりますが、ここで再び登場するのがミスター・トン。かれは「こっそりつけてきたが凄いヤツ」とヘボタンの戦いぶりに感嘆しているのですが……その背後には怪しい影が。次の瞬間、ミスター・トンの首は落ちてしまいました。ヤラレ役ここに極まれり。合掌。
次に不二が狙うのは、当然ヘボタンである。茂みからの不意打ちをかろうじて躱したヘボタン。彼が見たのは頭が富士山の棒人間でありました。その両手はこれまた富士山。両手の万年雪が刃になっており、不二はこのギロチンのような手で相手の首を斬るのを得意としているのだ。
よく避けやがったな的なことを言いつつ、不二はミスター・トンの首を取り出して一口むしゃり。お前もこうしてやんぜ的なセリフと共にバトル開始。ぐんぐん凄惨度が増していきます。
最後は相手の肘を攻撃して敵の刃の向きを変え、不二自身の頭を落として勝利。これぞ因果応報。南無南無南無。
そしてついにヘボタンは帰宅。これにてシリーズ終了となったのであります。
三重人とはいうが、三重県民ではない。これは「さんじゅうじん」と読むのだ。当時実際に読者であったクラスメートに三重県民だと勘違いされたということをハッキリと覚えている。紛らわしいので、ここでは「3重人」と書くことにしよう。
もちろんこれが敵の名前だ。三重◯の頭部に針金の身体。あいも変わらずの棒人間デザインであるが、こいつは手足の先にも三重◯がついている。いずれも頭部と同じサイズなので実に妙ちきりんなバランスと言わざるを得ない。
前回で一旦シリーズが終わっているわけだが、こいつとの戦いは次のシリーズの冒頭部というわけではなかった。幕間回とでもいうのか、要は単話だ。久々に何の理由もなくただバトルを行う。贅肉の無いシンプルなお話である。何も考えずに描きたかったのか、単にネタ切れか。あるいは考えるのが面倒になったのか。まあそんなとこだろう。
しかしまあどうやらネタ切れではないかと思わせるのは、3重人の攻撃方法だ。こいつの手足の三重◯は素晴らしく鋭いカッターになっているのだ。倒したばかりの不二と同じではないか! 一応、足でも斬れるようになっただけではなく、この三重◯を分解して飛ばすことができるので、不二とは別次元のバトルを展開できたのは救いだった。
というわけで、3重人は手足四つの三重◯、つまり12もの円月輪を自在に操る強敵なのであった。(頭も分解できたらなお良かったのにと残念に思わないでもない。マトリョーシカよろしく三人に分裂するのも面白いかも。)さらには地球が丸いことを利用して、飛ばした円月輪でヘボタンの前後から挟み撃ちなんてテクニックも使ってくる。世界一周してくる飛び道具にはヘボタンも大苦戦。しかしながらそこは敵役の悲しいところ。善戦虚しく3重人も結局は円月輪をキャッチしたヘボタンに負けてしまうのだ。自分の武器でやられるという決着まで不二と似ているのはいかがなものか。当時の自分をとっちめてやりたい。
三重人戦を挟み、三度シリーズ開始である!
数多くの敵を退け、宝まで手に入れたヘボタンを倒して名を上げようという挑戦者が現れたのだ。しかも一度に四人。歯手名と何者門者のタッグ以来の複数敵登場だが、やはりというかなんというか順番に戦うことになるのだった。きっと集団戦が描けなかったんだろう。今なら描けるね。今なら。
それはともかく、この四人実は漫画よりも登場が早かった。当時、シリーズ開始前に「へボタン」のポスターというかペーパーみたいなものを描いたのだが、そこには黒人間から三重人までの今まで戦ってきた敵たちと並んで見知らぬキャラの姿があった。それが今回登場した四人というわけである。総勢二十の敵が並ぶそのペーパーの出来栄えに当時の自分は満足したものであるが……だが、やはり一気に四人もでっちあげれば無理も出てくるというもの。この四人、デザインや名前を無理矢理絞り出した感あふれる顔ぶれなのである。まあ順番に見ていこう。
一番手は花火門人。門人ってなんだ? 前半人の時は一応成り立ちが推測できたが、こいつは完全に勢いだけのネーミングだと思われる。
ダイナマイトの頭に、やはりダイナマイトらしい筒が集まってできた身体。初めて全身が立体的な敵が出てきた! 歯手名や火横林坊も厚みはあったが、やつらは手足が針金だった。完全な全身分厚いデザインはこいつが初めてとなる。
花火という名前なのに、実態はダイナマイト。それだけでも十分物騒極まりないのだが、なんとこやつ、火のついた松明を武器としているのである。へボタンもいつ頭の導火線に火が付くかとハラハラしながら戦うことになる。いい勝負を繰り広げたにもかかわらず、最終的には導火線に火がついてしまい、自爆。へボタンはとっさに地面に伏せて事なきを得るという、なんともしまらない決着。多分ギャグテイストで自爆エンドを採用したのだろうが……なんというか、もうちょっと考えようよ。な? って感じ。
四番勝負の次なる二番手は水人。顔に「水」とかかれた棒人間である。こいつが今までの漢字シリーズ(火の用人、何者門者ら)と違うのは、漢字の一部がはみ出していることだった。はみ出した部分で髭を表現しているのだ。今見てもいいアイデアだと思うが、いかがだろうか?
それはともかく、奴は水人という名の通り、全身が水で出来ているのだ。へボタンの攻撃は一切通らず、苦戦を強いられることに。しがみついてきた水人はへボタンの頭を自分の頭に沈めることで窒息死を狙ってくる。花火門人と比べてなんと練られたキャラとバトルだろうか! 息が切れそうになったヘボタンは、水人ごと花火門人が爆発した残り火に飛び込む。苦し紛れの行動ではない。水人を沸騰させて蒸発させようというのだ。そんなことをしたら火傷でひどい目に合いそうだと今なら思うが、当時はノリで話を進めていたようだ。見事水人は蒸発し、開放されたヘボタンは窒息から逃れることができたが……なんと次の話は、「水人②」なのである!
残り二人にかかってこいと啖呵を切るヘボタンだが、連中はニヤニヤするばかり。そう、水人はまだ死んでいなかったのだ。液体から気体と化した水人は、見えない敵となって再び襲い来る!
ふいに攻撃されたヘボタンは何発か喰らってからはじめて敵がまだ死んでいないことを確信した。敵が水蒸気の塊であることに気付いたヘボタンはここで第四の壁を破る。久々に登場したマギレから看板を奪い、あたりを扇ぎまくるのだ。起きた風によって、水人は散り散りに飛ばされてしまい、二度と攻撃してくることはなかった。
残っていた二人の敵は水人が敗れたことを告げ、四角頭にマントを羽織った三番手が一歩前へ出てくる。先のペーパーで名前は「四角」と判明しているこの敵は、読者だったクラスメートから「地底人じゃん」と言われていた。正直言われてもしかたないデザインだと思うが、当時の私はそれを全力否定していた。一応手足の先に〇と△がついているのがその根拠だったが、これはどう考えてもクラスメートが正しい。一気に四人も考えた弊害がここで出てきたわけだ。バトルが始まる時に四角はマントを脱ぎ棄てるのだが、下から現れたのは棒人間の身体なので、もう言い逃れはできない。
バトルもかなり平凡だった。それなりに強いのだが、いかんせんただのどつき合いの域を出ない。水人戦のアイデアがよかっただけにこれは痛い。徐々にへボタンに圧され、最後は味方である四番手によってとどめを刺されてしまう。「あいつはもうダメだな。俺の出番か」というやつである。両側からのパンチで圧迫され、頭部を凹まされてバタリと倒れる四角。これにて退場である。
今思うと色々と残念なキャラである。せめてマントのまま戦うとかすればよかったのに。マントというのは「へボタン」を通じてもこいつしか装備してないアイテムなのだ。中からいろんなものが飛び出てくるとか、マントで相手をくるむとか、こいつならではのバトルができたはず。まったくもってもったいない……。デザインにしても黒人間のように頭を黒塗りにするとか、一工夫足すだけで「地底人と同じ」とは言われなかっただろう。あるいは、地底人は死んでいないことを利用して「リベンジにきた地底人」という手も悪くはない。地底人はへボタンビームを喰らっても爆死しないタフネスを誇っているのだ。リバイバル強敵としては悪くない人選ではないか?
最近描いた絵で名前が「死角」になっているのはせめてもの親心である。口がついているのもそうだ。
最後と言いつつ、実は最後ではないのだが……最初に書いた通り、今となっては自分の中の「へボタン」はここまでかなという思いがあるので、ここはあえて最後の敵とさせてもらおう。
不甲斐ない仲間に自らとどめを刺し、へボタンの前に立ちはだかるのは見である。見。名前がこれだ。読み方は「けん」でない。「み」である。姿も漢字の「見」に手と目を付けただけ。明らかな即興デザインだが、ラスト四人に関してはペーパーでの先行登場という都合があったのだ。どうか許してくれたまえい。とはいいつつも、漢字そのものをモチーフにするというのは中々に斬新ではなかろうか。だが「見」はない。なぜ数ある漢字の中から「見」を選んだのだろう……。今となっては謎である。特に視力に関する能力を持っているわけではない。四角にとどめを刺した攻撃を見てもわかる通り、完全なパワーファイターなのだ。その両腕の先についている〇――すなわち拳――の大きさはこれまでの敵と比べても格段にでかい。へボタンの頭より大きく描かれたコマもあったぐらいだ。そのパワーは四角の頭を変形させるほどなのである。
三連戦の疲れもあり、苦戦するヘボタン。無理もない。これまではいかにシリーズ物で戦いに次ぐ戦いだったとはいえ、各エピソードが繋がっているというだけでインターバルは十分にあった。しかし今シリーズでは文字通り連戦なのだ。戦いの中、次の敵はもうスタンバっている。へボタンは花火門人戦で爆風に晒され、水人戦で窒息死ぎりぎりまで追い詰められ、そして四角も十分にヘボタンの体力を奪う程度には戦った。そこへ最強パワーの見である。へボタン最大のピンチ。しかも見にはまだ奥の手が残っていた!
頭部が変形するほどのハサミパンチを喰らい、ヨロヨロになったへボタンをつかみ上げた見は、自分の左足――鋭く跳ね上がった個所――にへボタンの頭を叩きつけたのである。ほとんど突き刺さったと言っても過言ではない。己のフォルムを活かしきったこの攻撃にへボタンも絶体絶命となるのだが……
……はい、ごめんなさい! どうやって逆転したのか全く覚えてません!
この先も「へボタン」は続いているので、確かに見を倒したはずなのだが……。消しゴムで消したとかそういう決着ではなかったはず。へボタンはこの強敵に確かに正攻法で勝利したはずなのだ。しかし、まったく記憶にございません。最後の最後でこれかよ……
これで私が語りたかった「へボタン」は終わりである。だが、ここに一つ最大の謎が残されている。謎と言っても要するに、ただ思い出せないってだけなのだが……。
この回想録の冒頭に挙げた「へボタン VS 20」。この20というのは敵の数だ。例のペーパーに描かれた敵の数は20だった。ナンバーを振ってあったので印象に残っているのだ。しかし数えていただければわかる通り、黒人間から見までの敵は19人しかいない。一人足りないのだ。
この間へボタンの絵を描いたとき、20人目として白黒半分というキャラクターを入れてあった。「3 主人公・ヘボタン」に提示した絵を再び見ていただこう、右下に真っ二つになっている奴がいるはずだ。彼がその白黒半分である。こいつは友人と共作したときに登場させたキャラクターなのだが、敵ではなくヘボタンの味方だった。何故いきなり味方なのか……もしかしたら「へボタン」で一度戦っていたのではないか。そう考えて描いてしまったのだが、よくよく振り返ってみれば「へボタン」では脈絡のない展開などざらである。やはり白黒半分はいきなり味方として登場したのではないかと思えるのだ。
誰か一人忘れている。戦うタイミングとしては、シリーズの狭間となる三重人の前後が怪しいだろう。
「へボタン」に登場した連中を踏まえ、もしかしたらこんなヤツだったかな……? と何キャラか描いてみた。
どうもしっくりこない。あの当時の感性は、やはり小学校中学年から高学年という、あの頃特有のものだったのかもしれない。
もう残っていないあのノート。しかし、いつも記憶の片隅にあったあのノート。
こうして文章にしてみた今、叶うならば再び手に取ってページをめくってみたいと思うのである。
Q. 今、一番読みかえしたい漫画はなんですか?
A. ――「へボタン」です。
もしも本当に再び「ヘボタン」を読むことができたなら、是非とも答え合わせをしたいものだ。
記憶をもとになるべく忠実に書いたつもりではあるが、多分に美化、思い込みによる補完、無意識下の捏造が含まれているはずである……。
(9/26/20)
なんか見との決着を思い出してしまったので、追記の形で御紹介させていただく。正直迷ったが、思い出してしまった以上しかたあるまい。
へボタンは何の伏線もなく突然、必殺のへボタンバスターを披露。見の象徴でもある腕をぶっちぎって勝利したのだ。
この技は言わずもがな「キン肉マン」のキン肉バスターのパク……ンマージュである。本家と違うのは、ロックするのが敵の両腕というところだ。足を振って暴れれば簡単に体勢を崩せそうな気もするが、そこは漫画。この時はたった一コマの猶予しかなかった。ここまで圧倒的優位に立っていた見はあっという間に逆転されてしまったのであった……
……思い出したくなかったw!