カレイドスコープ

玄関へと向かっているらしい。 あわてて、すぐにそれを開ける。
「詳しい話は、このヴァイに聞いて下さい。」
銀でできた蛇の腹みたいな鱗。 僕は思わず目をこらす。

僕は今日も白い子狼を連れ出しにいった。 彼は彼女をヴァルにしてしまった。 心臓が止まったとき、僕は死んでしまうのだろう。 一回全部交換がすむまで待たなければ雨天用血液を注入することはできないのだ。 僕の背中を冷たい汗が落ちる。 女の子はまばたきはおろか 視線すら動かさずに突っ立っている。
「一命を取り留めたヴァルがヴァイにもどるまで見守るのはヴァルに助けられた僕の役目なんだよ」
水鳥のヴァイは言葉を話すことができた。 ……気だけが重くなっていく。 僕は諦めた。 昏睡状態で朝を迎えた彼女を救ったのは、あの白衣の先生でね。 届いた手紙を見ていると、その中に病院からの封筒が。 僕は何時死んでもおかしくない体なのだ。
僕は昔、ヴァルだったよ。 玄関へと向かっているらしい。 踏み切りの中は荒れ狂う大海原だ。 急いで昼用血液を機械にセットし、注入を始めた。
「ある嵐の晩に卵を産もうとして、一人唸っていた僕を助けてくれたのが、このヴァルなんだ」
だが、いよいよ心臓を取り出して病院に預けなくてはならないほど病状が進行すると、まだまだ未練だらけなことに気がついた。 何匹かいるが、行列を成すほどではない。
真夜中にふと目を覚まし、布団の脇に何か小さな動く影を見た。 僕は思わず目をこらす。 我々はしばらく立ち話をしていたが、話すのは白衣の男だけ。 僕が死んだら、その後あの人はどう生きるのだろう? 心臓が止まってから、僕はどれぐらい生きられるのだろう?
「今日は天気わるいよ」
と、そこで誰かの声が。 しかし途中で止めることはできない。 何匹かいるが、行列を成すほどではない。

僕は恐れている。 やばい。 心臓に欠陥が見つかったときから覚悟はしていたはずなのに。
真夜中にふと目を覚まし、布団の脇に何か小さな動く影を見た。 羽根みたいに見える透明なヒダ。 呼びかけに応じて、一羽の水鳥があがってくる。

真夜中にふと目を覚まし、布団の脇に何か小さな動く影を見た。 そして僕は卵を無事に産み、青くなった。 あれもしてない、これもしてない。
「そうして僕はヴァルからヴァイになったんだ」
超能力を持つ狼の研究が僕の仕事なのだ。 可憐ではあったが、表情は皆無で感情というものを感じさせない。 しまった、今注入してるのは晴天用血液じゃないか。 ……蟻だ。 彼は川に向かって呼びかけた。 その頃はまだヴァイだった彼女は、一枚の青いタオルで僕をくるんでくれた。 白衣の男はそういい残して、一人で去っていった。

「×月×日、午前×時。あなたの心臓が停止しました。」

嵐の中で彼女は……
……もちろん僕が幽霊なのだった。

流れに沿って川下へと歩いていると、向こうから一組の男女が歩いてくる。 男は白衣を、女の子は奇怪な服を着ていた。 急がないと遅刻してしまう。 ……コウロギだ。 真っ青な羽毛に覆われた身体は、我々と同じぐらいの大きさもあった。
「でもそうするしか、彼女を救う手はなかったんだ」

それから数日を僕は不安と恐れの中で暮らした。 夜用血液と循環交換する。 ヴァイの話によると、ヴァルは初めから心を閉ざしていた訳では無いという。 しまいには肩を噛まれてしまった。 玄関へと向かっているらしい。
時間は容赦なく過ぎていく。 でも彼女には良くなかった。 僕は思わず目をこらす。

その日はいつもより少し遅い目覚めだった。 そして、やはり銀色の帽子には触角の様に長いアンテナが二本。 ところが今日に限って親狼が歯向かってくる。 だが、その牙は体をすり抜ける。
「……ヴァルは心を閉ざしているんです。」
何匹かいるが、行列を成すほどではない。
やがて話題はその娘の事になっていった。
ヴァルとヴァイ、そして僕が土手に残される。 そして途中で消えてしまった。 僕は空洞の左胸を見て思った。


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