埃の王

 世界のどこかに、埃だらけの都があるという。

 どれだけ掃除しても、あっという間に埃だらけになってしまうという。
 それでも昔は清掃人がいたらしいけど、今はもういない。

 年老いた清掃人が死んでしまった後、だれもその仕事を引き継がなかったのだという。

 その老人の骸は、今でも都で埃まみれだという。
 彼だけではない。都で死んだ者は、皆そうやって埃に埋もれている。

 都を治める王様も同じくだ。
 埃が積もった玉座に収まり、やっぱり埃を被っているという。

 王様は悪魔と契約したそうだ。
 それも二度。

 ”この世の富、その全てが私の元に集まるようにしてくれ”
 これが、最初の願いだったという。

 そして王様は世界一の金持ちになった。
 世界中の富が一か所に集まったので、王様以外はみんな貧乏になったという。

 でも、王様の元に集まったのは富だけではなかった。
 全ての泥棒や強盗もまた、都にあつまった。

 世界中が貧乏になってしまったので、
 都でしか仕事ができなくなったからだという。

 こうして王様は何もかもを失ってしまった。
 無一文になった彼は、再び悪魔を呼び出した。

 ”一度我が手に入ったモノ、何一つ出ていくことなかれ!”
 悪魔は笑い、願いは叶った。

 王様の元に再びモノが集まって来た。
 何しろ一度手に入れたモノが失われることはなくなったのだから、都はどんどんモノで溢れる一方だった。

 あらゆるモノが王様の財となった。
 金貨、宝石、価値ある書物、芸術、工芸品、人、動物、植物、食べ物、飲み物、廃棄物、塵芥、骸……それから、山ほどの埃。

 そして、王様の命も失われなかった。
 埃が積もった玉座に収まり、やっぱり埃を被っていながら死ねないのだ。

 朽ちた身体の痛みもまた、失われなかった。

 もしも何かを探しているのなら……それがなんであれ、
 きっとそこで見つかるだろう。

 だけど、二度と戻れぬ覚悟がないんだったら
 行くのはやめておくがいい。

 世界のどこかに、埃だらけの都がある。
 そこには世界のあらゆるモノが吹き溜まっているという。  


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