破滅の子ら

 ちょぃとおかしなこと言う子供はいないかね? そういう子供たちを集めてるところがあるんだ。
 どこかはわからないが、今までに何人もそこへ行ってしまったというよ。ほら、先日だって一山向こうの村で一人消えたってさ。なんでも太陽や星を見上げては地面に何かしら書き付けて、ずっと考え込んでたらしい。頭の中はどうなってたんだろうねぇ。御両親は極めて普通で善良で働き者で全く非の打ちどころのない立派な人たちなんだが……その彼らが言うには、なんでも「地球が小さすぎる」とか「星々までそんなに遠くない」とか、はたまた「地球が動いている」とまで口走っていたんだと。危ない危ない。そんなことを周りの人たちが信じたらどうするんだい。興味を持つだけでも問題だというのに。
 そんなわけで、その子は行ってしまったとさ。こっちの村にはそんな子はいないだろうね? 少しでも枠から外れてると危険だから、連れて行ってしまおうね……ほう、そんなおかしな子はいないと。それは素晴らしい!

 親から受けづいた仕事を黙々とこなすことこそ美徳。そしてそれを子に引き継ぐ……何も足さず、何一つ引かず。それがこの世界じゃ最も大切なことなのさ。

 15km四方の切り取られた自然。ある程度の高低差と、深い森によって分断された集落が3つ。これがこの世界の全てだった。天蓋から地中に埋められた下部外殻までの距離も丁度15km。この立方体の中には、消えた子供たちが行くという場所は存在していない。
 人々が暮らす立方体の外側では詰め詰めになった機械類がうなりをあげているが、ここにも人の姿はない。機械の連なりの端の端では巨大なエンジン群が火を噴いていた。暗い虚空の深淵を立方体を積んだ船が進んでいるのだ……どこかの子がいつだか言っていたように。では、集められた子供たちはどこへ消えたのだろう? 

  ――感染源が出現したようだ。直ちに回収に向かわせよう。
  ――直近100年の間に14とは。イレギュラーの出現率が不自然な上昇を見せている。
  ――積み荷の人数が少なすぎた。血の入れ替えがない限り、これからも増え続けるだろう。

 機械のうねりにわずかな沈黙があり、機械のいずれかが、やはりうねりで答えた。

  ――計画改善については、既に打診済だ。
  ――しかし、返答はない。我々はこのまま続けなければならない。

  ――開封まで521年。引き続き監視を続ければ、維持できるだろう。

 そう、“積み荷”の状態は維持される必要がある。この船の場合、それはかつて東ヨーロッパと呼ばれた地域における、11世紀相当の文明度を意味していた。

 技術進化の危険性に遅まきながら気づいた人類は、逃れえぬ破滅を回避するため、“やり直し”が可能な時点を探ることにしたのだった。そのために、多くの“世界”と“荷”が用意され、運ばれているのだ。この船もその一隻。521年後には新天地でやり直しの試験が開始されることになっている。計画を狂わせうる要因、すなわち設定された時代に見合わぬ人間は常に排除し続ける必要がある……感染性の思想、発想を産む天才たち。破滅の子らの居場所はここにはないのだ。  


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