守護神造成

 とある三角形の大陸に、やはり三角形の国土を持つ国々があった。
 端っこの国と、隅っこの国と、角っこの国。それから真ん中の国。

 真ん中の国はいつもいつも三方から攻められていたので、気の休まる時がなかった。
 そこで王様は、国第一の魔法使いに銘じて守護神を作らせることにした。

 端っこの国が攻めてこないように、守護神はいつもにらみを利かせなければならない。
 隅っこの国が攻めてこないように、守護神はいつも見張っていなければならない。
 角っこの国が攻めてこないように、守護神はいつも目を光らせていなければならない。

 つまり、守護神には三つの顔が必要だと魔法使いは考えた。

 端っこの国が攻めてきたときのために、守護神は剣と盾とを構えていなければならない。
 隅っこの国が攻めてきたときのために、守護神は旗印を備えた長い槍を向けていなければならない。
 角っこの国が攻めてきたときのために、守護神はよく響き渡る角笛を携えていなければならない。

 つまり守護神には六本の腕が必要だと、魔法使いは結論した。

 こうして守護神は出来上がった……三つの顔をそれぞれの敵に向け、六本の腕にそれぞれ獲物を携えた、決して油断することのない衛士が。
 しかも一つの身体に三人分の力が宿っていたので、これはもう天下無敵に違いなかった。
 これでは他の国はお手上げだ。
 もうこれまでのように真ん中の国を脅かすことはできなくなったのだ。

 ところで、三つの国にもそれぞれ魔法使いがいた。どの国もお抱えの魔法使いの一人や二人持っているのものだ。

 端っこの国の魔法使いはじっくりと思案した。
 あの厄介な守護神の気を逸らせる方法はないものかと。

 隅っこの国の魔法使いはあれこれと模索した。 
 あの邪魔な守護神の目をくらませる手段はないものかと。

 角っこの国の魔法使いは検討に検討を重ねた。
 あの目障りな守護神をたぶらかす方策はないものかと。

 そして三つの国は、同時に真ん中の国へ美女を送り込んだ。
 彼女たちは三人とも、それぞれの国一番の美しさを誇っていた。誰であろうとも、一目見ただけで恋に落ちるような女たちだった。
 滑らかな肌、艶やかな髪、整った目鼻に唇、赤みを帯びた頬まで、どこをとっても素晴らしかった。

 はたして端っこの国ににらみを利かせていた守護神はすぐさま恋に落ちた。
 もちろん隅っこの国を見張っていた守護神もあっという間に夢中になった。
 そして角っこの国に目を光らせていた守護神も例外ではなかった。

 守護神はそれぞれの恋のお相手を抱きしめようとして、手にした獲物を放り出した。
 けれど、そこから一歩も動くことはできなかった……たった一つの身体では、同時に三つの方向へは踏み出せなかったのだ。

 三つの顔は、自分こそが目当ての美女を迎えに行くのだと言って引かなかった。
 お互い引っ張り合った結果、身体にはヒビが入り、最後は六本の腕で殴り合って自身をバラバラに砕いてしまった。

 こうして真ん中の国は大いなる守護者を失った。再び隣国からの攻撃に怯えなければならないのだ。王様は魔法使いの失策をなじり、魔法使いから国第一の称号を取り上げてしまった。
 魔法使いには、大事なことがわかっていなかったのだった。たしかに彼は頭がよかった……普通の人よりも八倍、しかも同時並行に熟考することができた。予備の脳を八つも持っていたのだ。だが、その優秀な脳は全て彼を崇拝してきた忠実なる弟子たちのものだった。彼が生来持っていたものと合わせて九つの脳は、完璧に調和していた。普通、魔法使いと呼ばれる者が持っている脳はせいぜい三つか四つだ……なればこそ、この国随一の魔法使いと言われるようにまでなれたわけだ。
 だが、それがゆえに彼には一生わからないだろう……たとえ天下無敵の力を持っていようとも、心がぶれるようでは本当の強さ足りえないということが。  


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