世界は疫病に覆われて。

あれからいい知らせは無い。
世界のあちこちで疫病が円満しているが、特効薬が作られたという話は聞かない。

この街でも日に日に死者は増えていた。

とある医療院
町医者と向き合いながら

 感染者を隔離しておくわけにはいかないのかと聞くと、彼は溜息をついた。

私は手にした白湯のカップを見下ろしながら、そこに映る自分の顔を見ていた。
そこにはまだ、病の兆候は表れていなかった。

私は顔をあげた。何故私が今日呼ばれたのかがわかったような気がしたのだ。
彼は二冊の本をテーブルに置いた。

『グラン・メディカ』上下巻。
かつて世界に蔓延した疫病を克服し、人類を救った伝説的な治療師コパティカ・ペパティカの物語――
確かに彼が言うように、これは歴史ではなく伝承に属するだろう。私も随分前に読んだことがある。

上巻のページをめくり、私は記憶をたどった……。