家庭における先天性股関節脱臼の発見法

ご両親が赤ちゃんの姿勢に少しばかり注意を向けるだけで、先天性股関節脱臼の早期発見は可能かもしれない。

先天性股関節脱臼の乳児健診における見逃し例をどうしたらなくすことができるか早急に検討しなくてはなりません。現在の股関節検診は全乳児を対象に保健所でおこなわれていますが、これだけ整ったシステムは他国に例は無く(スウェーデンのように新生児検診はあるが、重要なのは乳児健診である)我が国が世界に誇るべきすばらしい制度です。実際このおかげでどれだけの赤ちゃんが救われてきたかということを考えると、検診に携わった保健婦さんや検診医の方々には改めて感謝しなくてはなりません。しかしどのような検診でも絶対完璧というのはありえません。特に乳児股関節脱臼では痛みもなく、脱臼の判定を検診医の主観的判断に基づいて行われているので、たえず検診の質を向上させる努力をしても、それでも見逃される例はでてきてしまいます。ではどうしたらこうした見逃し例をすこしでも減らすことができるでしょうか?

意外と思われるかもしれませんが、実は見逃し例をよく調べてみると、母親は赤ちゃんの下肢の異常にすでに気付いている場合が多いのです。しかし、乳児健診で母親が気付いた異常所見を訴えても、検診医師が「異常無し」と告げることによって見逃される症例が増えているのです。検診医師が見逃すだけでなく、念の為に精密検査を引き受けた整形外科医(小児整形外科専門医ではない一般整形外科医)までもが診断ミスをすることも稀ではありません。もはや乳児健診だけに頼っている場合ではないことだけは確かです。乳児健診の質を高める努力は引き続きしなくてはなりませんが、一方では各家庭で脱臼の早期発見を目指した取り組みをさっそく始めなくてはなりません。特に母親は毎日赤ちゃんに接していますので、自分の子供の異常には一番気がつきやすい立場にあります。

異常発見のポイントを簡単に述べます。

1.一方の下肢の動きが少なく、動きの悪い側の膝を立てていることが多く、場合によっては膝が反対側に倒れていたりする。
2.下肢を持ち上げて臀部を観察すると左右非対称である。
3.両股を優しく開いてみると片方が開きにくく、開きの左右差がはっきりしている。
4.股が開きにくい為に縦抱きがやりにくかったり、おむつを替えにくいこと多い。
5.兄弟姉妹、親、祖父祖母、いとこなど血縁関係者に脱臼がある。

上の5つの中の1つでも認めたならば小児整形外科専門医を訪ねるべきです。遠慮することはありません。専門医であれば喜んで診察してくれるはずです。

まず脱臼の無い赤ちゃんの姿勢や運動を見てみよう。

   

正常の赤ちゃんでは左のように、両下肢を基本的にはM字型に曲げているが、真中の写真のように下肢を伸ばしたり、また或いは右のように一方の下肢を伸ばしたりするのである。ここで重要なことは赤ちゃんは下肢を曲げているだけでなく、自分で伸ばすこともする、ということである。これには深い理由があるのだが、長くなるのでここでは省略する。

脱臼のある赤ちゃんでは特徴的な姿勢が見られる場合が多い。あくまでも「多い」ということであって、少数の例では、脱臼があっても正常と変わらないように見えることもあるので注意が必要だ。医学では「絶対」ということは無いのである。

 

上の写真は左股の脱臼であるが、左の膝を立てていることが多かったり、場合によっては右の写真のように膝が反対側に倒れていることがある。もちろんあくまでも「このような姿勢をとっていることが多い」ということであって、少数であるが脱臼していても正常と変わらない姿勢をしている赤ちゃんもいる。 

 

下肢を持ち上げて臀部を見てみよう。脱臼がある場合には臀部の形が左右非対称になっている。もちろん正常の場合でも非対称のことは多いが、脱臼がある場合にはかなりの確率で陽性となる。

 

優しく股関節を開いてあげると、写真のように右側の脱臼側は開きにくく、またその為に皮膚の皺の数が多くなることが多い。
また、股が開きにくいために、右の写真のような縦抱っこがしにくいことが多い。この縦抱きは重要である。脱臼の発見に役立つだけでなく、脱臼の予防としても効果があるし、軽度脱臼(タイプAI脱臼)の治癒を促すという点でも大いに推奨されるべきである。

最後に血縁関係に脱臼の人がいる場合には、あれやこれや考えずにすみやかに小児整形外科を訪ねるべきです。そのおかげで脱臼や臼蓋形成不全が発見された、という例がたくさんあります。

とにかく5項目のどれかが当てはまる場合には遠慮なく小児整形外科専門医を訪ねてください。脱臼は一生の問題です。早期発見すればほとんどが完全に治癒します。