活字の子

審判 

カフカ (著)   池内紀(訳) 白水社(白水Uブックス)

2010.4.10


まったく心当たりが無いのにある日突然逮捕される。
って『未来世紀ブラジル』か?
視点を変えて見ると『未来世紀ブラジル』みたいな事情があったのかもと思えなくもない。出来事として。

『城』と同じく未完。
でも『城』の、結末の文章が途中でぶった切れた未完と違って、こちらは最終章がある未完。

それだけに「不足」が強く感じられる「未完」。
K(カー)の、銀行員としての安定した人生の邪魔をする逮捕と訴訟。
不思議なことに逮捕されながらも日常生活は続けられるが、訴訟関係の雑事がちくちくとKの平穏で未来に希望のあった日常を妨害する。

でもこういうことって人生に普通に起こり得るようにも思える。

純粋にこういう風に生きたいという形があるのに、理不尽な義務とそれに伴う雑事でそれが阻害される。

あるあるある。

そしてやがて死に至る。
阻害が無く、まっすぐ生きればどこかに到達できたかもしれないのに、たいていの人は道半ばで倒れていくのだ。

志に達する人は、義務を放棄できる人間だったりするのだ。きっと。

Kはまじめに、純粋な人生を阻害する理不尽な義務を果たそうとする。

これを読んだ多くの「志」を持ちながら、無力さや、理不尽な義務や、自己の怠慢やらでそれを果たせない者たちは思うのだ。
「Kは私だ」

そして、「死刑」という判決以外なにも明らかにならないまま恥辱だけを残し、犬のように死んでゆくのだ。
それでも、理不尽な義務や、純粋なあるべき人生といった呪いから解放された安らかさもそこにはあるかもしれない。

カフカ感想文シリーズ第3段。
ここまでで思ったのは、

カフカ≒安部公房≒テリー・ギリアム。

むりやりか。
でもテリー・ギリアム監督の『変身』とか、ちょっと観てみたい。
ぜんぜん違う話になっちゃいそうだけど。

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