活字の子

 城 

カフカ (著)   池内紀(訳) 白水社(白水Uブックス)

2009.12.30


訳者の解説によると、「『城』について世界中で書かれたものを集めると、それだけで一つの図書館ができあがる」そうだ。
それだけそれぞれの解釈が可能で、解釈を書いてみたくなる小説ということか。
というわけでその図書館一つ分の中に私の感想もそっと置いてみることにしましょう。

大雑把には、個人と社会の折り合いのつかなさと折り合いのつけ方の物語なんじゃないかという印象を持った。

「測量士」という肩書きと技術を持って請われて「城」に向かう主人公K。
要請されて苦労してやって来たのにも関わらず誰も測量士を必要としていない様子、不思議なことにどんなに歩いても城にはたどり着けない。
居酒屋で出会った女、フリーダとあっという間にいい仲になり、一緒に生活するために学校の小使いという、不本意な仕事に就く。
村にも城にも秘密やら微妙な人間関係があり、振り回されっぱなし。

そんなKの姿は、志や目的を持った者が、学歴や技術を武器に(場合によっては請われて)社会に出てゆくが、合理不合理不条理運不運混じり合ってドロドロしながらも堅牢
な社会の前で少なからず軌道修正を迫られる現実を連想させた。
ホント、身も蓋も無いって言うか、人間が生まれて生きてる意味とか使命とかと無縁の現実的展開。

K個人の行動や物語の中の具体的な出来事に、世の中の何かを連想し、重ね合わせながら読んでいくのは、人間や社会に関する総論と各論が一緒になってどどっと進んでいく
ような印象。


どどっと読んだ挙句、未完。
カフカは、この先なんらかの結末を想定していたのだろうか。

これが、ひとりの人間の人生と社会との関わりを身も蓋も無く描こうとした物語なのであれば、Kはこのまま、振り回されながらも大きな展開も決着もなく生き、取り立てて
生きた証しも残さずに死んでいくという結末しか無いんじゃないかと思う。

というのは一読した私の感想で、図書館一つ分の解釈の中には別の展開、結末を思い起こさせる物もあるんだろうなぁ。

『変身』を読んだような読まないような記憶しか無かったカフカだが、面白いということがわかったので何冊か買ってみた。
『失踪者』『審判』そして『変身』。
がんばって次から次に読むぞ~。


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