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クッキングパパ

 私は、息子が一歳になった日にご馳走を作った。

 妻から妊娠したと聞かされたとき、本当に嬉しかった。妻はしきりに、男の子が欲しいと言っていたので、お腹の中の子供がわかったとき、とても喜んでいた。そのとき、私たちには子供がなかったので、息子が生まれてくるのが楽しみでしかたがなかった。そして実際に、息子が生まれた日に見た妻の嬉しそうな顔は、今でも忘れることができない。

 私は、息子と風呂に入り、息子の体を隅々まで洗ってやり、首を絞めて殺した。次に、首を思いきり踏みつけて、首の骨を折ってから、鉈で頭と胴体を切り離した。風呂場が赤くなった。胴体は血抜きのために、足をタオルハンガーに縛り付け、逆さ吊りにしておく。その下にバケツを置き、流れる血を受ける。
 胴体の血抜きをしている間に頭を解体した。小さかった息子は、頭だけになるとさらに小さかった。最初に鼻と耳を切り落とす。これらはからあげにした。コリコリとした食感は鶏の軟骨のようだった。つづいて、頬肉を切り出し、口の中に手を入れて顎を外した。下顎からはいいダシがとれた。そして舌を引っぱり出した。舌と頬肉はシチューにした。最後に頭がい骨に鉈を入れて、脳をとり出した。この作業は慎重に行わなければ、脳が崩れてしまうので、とても神経を使った。脳は先ほどの下顎のダシを使ってスープにした。
 つづいて血抜きが終った胴体を降ろし、解体した。脚を力任せに背中側に折り曲げて、腿の付け根の関節を外し、鉈で切り落とした。これはそのままオーブンで焼いて、食べた。次に睾丸を切りとった。これを甘辛く煮たものは、妻の好物だ。私はあまり好きになれないので、妻に二つともあげてしまった。睾丸を食べるときの妻の嬉しそうな顔は、今でも忘れることができない。
 残るは腕と胴体だけになった息子は、新聞紙とラップで包み冷蔵庫にしまった。バケツに溜まった血もビンに詰め替えて、調味料の棚に入れておいた。

 ご馳走を食べ終わったあと、妻と残りをどう調理するかを相談した。妻は、全部ミンチにして、ハンバーグにしたいと言った。しかし、私は妻の妊娠を知ったときから、すき焼きがずっと食べたいとずっと思っていた。水分をとばしてトロリとさせた血にからめて食べるすき焼きほど美味しいものはなかった。けれど私は黙っていた。妻がお腹を痛めて産んだ子供であったし、妻は新しい子供を妊娠していたので、また一年もすれば、新しい材料が手に入ると考えたからだ。

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