4月9日(金)

 1か月、日本に帰っていた。桜の季節だったけれど、寒かった東京から、ヴィエンチャンに到着してみたら、なんと、暑い。家の中に置いた温度計は、38度を指している。いやはや、外は40度以上だろう。そんな、体温より高い気温の中にいるのだろうか?と思うけれど、確かに暑い。しかし、そんな中でも、ラオスの人たちは、結構平然としているから、不思議である。
 1か月空けていただけど、なんと、庭が鬱蒼としたこと。早く、鬱蒼とすればいいのに…と思っていたけれど、いやぁ、暑い国での植物の育ち方は、パワフルである。これは放っておけば、なんともすぐに草ぼうぼうになるのだろう・・・・結構、あ然としてしまった。






 そして、もうすぐ、ラオスのお正月。人々は、もうお祭り気分で、連日、あちこちで音楽がかかり、宴会ムードである。 
 そして、うちも、お正月(4月14〜16日)の後の日曜日に、図書館のオープニングと、家の宴会?をすることに決まった。
 いやはや、ラオスの人たちの、「宴会」にかけるエネルギーたるや、すごいものがある。宴会のために招待状を作って、それを、いちいち自分たちで配って歩くのだから、ただごとではない。行きつく先で、これまた、いちいち飲まされたりして、いったいいつ配り終わるのだろう?・・・・メールで連絡事を済ませてしまい、極めて人と、直接連絡を取り合わなくなっている日本とは、まだまだ違う動き方をしている。よい面も悪い面もあるけれど。
 昨年は、家にお坊さんたちをお呼びして托鉢を行い、100人以上が来て、大変だったので、今年は小規模にやろうと言いつつも、図書館のオープンも兼ねているから、きっと、また大騒ぎになるだろう。
 でも、子どもたちに、「18日にオープニングをやるから、来てね。友だちもつれて来てね」と言えるのは、私も少しウキウキして嬉しい気分。
 明日は、いよいよ図書館の看板をかかねば!



これが、そのあと描きはじめ、完成した看板。
「ドンパレープ子ども図書館」
と書いてあります。


4月17日(土) いよいよ、図書館、明日オープン

 早朝、ノイと一緒に近所を巡り、「明日、図書館のオープニングするから来てね」と言って回る。
近所とはいえ、私はほとんど足を踏み入れたことがない。これまで、ほとんどご近所づきあいをしてこなかったから。昨日は、お正月の最終日だったせいか、遅くまで飲んでいたのだろう、まだ起きていない家もある。いつも親切にしてくれる丸顔のおばちゃんに、「近所の人たちに、伝えておいてくれる?」と頼んで、言ってもらうことにする。
 高床式の家を通ると、すでに常連の一人である、おしゃまな女の子ピーが眠そうな顔をして、降りてきた。
「ここに住んでるの?知らなかった」
「そうよ、私、ここに住んでいるのよ」
「ちょうどよかった。あとで、みんなで、飾り付けを手伝いに来てね」

 遅い朝ごはんを食べ始めようとした頃、子どもたちが、大勢押し掛けてくる。
「何すればいいの?何するの?」
 まずは、折り紙を切って、輪っかをつなげる輪っか飾り?を作ってもらう。一人、若いお母さんも来て、手伝ってくれる。最初は、みんなワイワイやっていたが、じきに、「お絵かき、お絵かき」と、お絵かきをする子がほとんど、最後まで一生懸命やったのは、後ろの家の、ユイとテンの姉妹であった。
 男の子たちも来て、風船をふくらませるのを手伝ってくれる。パーン!とあちこちで、割れたりして、大笑い。風船も飾り付けると、いかにも「お祝い!」らしくなった。
 夕方遅くまで、鶴を折ってつるしたり、絵を描いたり、飾りつけてくれ、子どもたちは意気揚々と帰って行った。







4月18日(日) 図書館オープンしました

 朝、図書館を見に行ってみると、なんと、せっかくの色紙のくさりが、あちこちで寸断されて、落ちてしまっている。昨日、使ったノリが、安い水みたいなノリを使ったせいである。せっかく一生懸命やってくれていたのに、子どもたちが見たら、がっかりするだろう…と思い、私は、切れたところを、今度は木工ボンドでくっつけて、直す。こっちを直すと、あっちが切れて落ちる・・・・まったく・・・・

 朝から、近所のお母さんたちが来て、料理の手伝いをしたり、お坊さんを呼んでの家の方の儀式の方の飾り付けを手伝ったりしてくれる。これまで、顔は見たことあるけど、誰が誰やらよくわからなかったおばあさんが、
「うちの孫が、しょっちゅう、遊びに来ているのよ」と言う。「孫って、だあれ?」と聞くと、「プンとレェだよ」と。なるほど、しょっちゅう遊びに来ている女の子たちだ。
「あぁ、あなたのお孫さんなんだぁ。しょっちゅう来ているよ」。
 図書館をオープンすることで、一気に、人々と近くなることができる気がする。

 台所方は、ノイの友だちの料理人でもあるトゥーが受け持ってくれ、お客さんに出す、約100人分の料理を作る。ラープ(ひき肉のハーブ和え)、コープン(ラオスの汁かけそうめん)、ヤムヨー(豚ハム入りサラダ)などである。その他、お坊さんに出す料理の方は、ノイのお母さんやら、お姉さんやらが受け持ってくれている。もう、このような量の宴会料理となったら、私はお手上げで、何をどうしたらいいか?などわからない。お坊さんに出す料理は、品数やら種類やらいろいろと決まりがあるようであるし・・・・・・・今回は、私は図書館の方のオープンの準備で、公式に?料理の準備の手伝いからはずれていたので、気楽であったが・・・・
 しかし、朝は、「いったい間に合うのだろうか?どうなることか?」と思っていたが、近所の人たちの手伝いもあって、もっぱら洗う人、刻む人、切る人などなどの分業で、時間には、ちゃんと出来上がっていたので、すごいものだと思う。ラオス料理は、とにかく、個人芸ではなく、団体芸である。大勢の協力があってできる共同作業の料理なのである。

 お坊さんのお経が終わり、バーシーという、健康やら幸せやらを祈って、手首に糸を巻く儀式を終え、いよいよ図書館オープン、元国立図書館長のコンドゥアン先生に、ご挨拶とテープカットを願いしたので、この図書館も、ただの小屋じゃないぞ!という格好がついてよかった。テープカットの後は、子どもたちが大勢、図書館に入る。私が「おおきなかぶ」の話をすると、「えー、それ聞いたから他にしてよぉ」と言っていた子まで、熱心に聞き入っていたのは、なんだか可笑しかった。





 そのあとは、食事となり、後は大人が中心に、「飲めや、食えや、踊れや・・・」となって、大人たちがばか騒ぎをする中、子どもたちは、図書館で熱心に絵を描いたり、本を見たりしているのは、なんだか対照的であった。




 さぁ、実際に開くのは、今度の土曜日からです。
 さぁ、これからだ!


2010年4月24日(土) 図書館初日
 朝9時、なんとなくそわそわしながら、図書館の扉を開け、待っている。まだ誰も来ないなぁ・・・と思っていると、9時15分頃に、あまりまだ馴染みでない女の子2人が、小さな弟を2人連れてやってきた。
「あぁ、うれしい。あんたたちが、最初よ!」と私。あぁ、オープンしたはいいけれど、実際に子どもがこなかったらどうしよう・・・・と思っていたので、やっぱり、子どもたちが来てくれて嬉しい。
 そのあとは、これまでの常連たちを中心に、結局16人がやってきて、だいたい1日中いた。
「グレレレーン(ラオス語の鐘の音の表現)って、鐘をつけて、始まるよぉ〜終わりだよぉ〜って鳴らせばいいのに」というので、
「ここは、学校じゃないから、来たい時に来て、帰りたい時に帰ったらいいんだよ」というのだが、子どもたちは、
「先生に挨拶しよう!」と、みんな、1回図書館から降りて、まだ列を作ってぞろぞろ階段を上ってくると
「サバイディー、ナイクー(先生)」と、そろって合掌をする。もちろん、これはおふざけで、後は、好き放題である。

 私がまず、いくつかの絵本をお話する。「ガンピーさんのふなあそび」「てぶくろ」「ぐりとぐら」「3びきのやぎのがらがらどん」「かいじゅうたちのいるところ」「ぼくはあるいたまっすぐまっすぐ」などである。
 ここが、より都会のせいか?(といっても、もちろん、中心地ではないが)それとも、ラオ族のせいか?よくわからないけれど、他にかかわっているモン族の2つの図書館に比べて、お話への集中力というか、絵本への執着というかが、少ない気がするが、それは、やはり、他のテレビなどのメディアの影響がない環境にいる子の方が、とにかく、絵本にひきつけられる力は強い。テレビやらヴィデオやらゲームやらが入っている環境にいる子どもたちは、本に対する集中力が、すぐには出てこないように思う。お話をしていても、ふっと、聞き手の集中力が散漫になる。しかしである。私のラオス語のお話も、まだまだこれから鍛練をしていかなくちゃいけないので、子どもたちや環境のせいだけというわけではない。まぁ、いずれにしても、本やお話をより魅力的に伝えるために、より努力していかなくちゃいけないってことだ。

 私が2話話すと、4年生の女の子ピーが、「私もお話しする」と、絵本を持って前に出る。この積極的な、物おじのなさは、モンの村ではあまり見られない。モンの子どもたちは、恥ずかしがり屋で、なかなか人前で、話しをしたり、しようとしない。
 ピーは、自分で絵本を読んでは、1見開き読み終わると、絵本を返して、聞き手の子どもたちに絵を見せる。つまり、朗読?を聞いているようなものなのだが、なかなか聞き手の子どもたちが、辛抱強く聞いている。この積極的な元気さだから、きっと、遠からず、子どもたちの語り手、演じ手が現れてくるだろう。


 
 ここの子どもたちは、とにかく、絵が描きたい。しばらくすると、「お絵かき」「お絵かき」と熱心に絵を描きはじめる。この熱心さを見ていると、きっと、やっぱり、子どもたちは、自分たちが表現すること・・・にも飢えているのだろう。自分自身も小さい頃、たくさんお絵かきをしたことを思い出しつつ、子どもの頃に、やらなくちゃいけないことなのではないだろうか?という気がしてくる。



 昼は12時から1時を昼休みとしているのだが、子どもたちは、「えー、帰んなくちゃいけないの?」
「ダメ、帰んなくちゃいけないよ。腹ペコのままでいてもらっちゃ困る」というと、「そしたら、明日からご飯もって来よう」などと言いながら、帰って行ったが、何のことはない…私が、残り物で昼ごはんを食べはじめた頃、たったの15分後には、「もう、ご飯食べて来たよ」とやってきた。
 夕方も4時には一応、終わりなのだが、まだ「帰らない」と言い張り、「清子は帰っていいから(帰るといっても、どうせ、隣に行くだけだが)、ぼくたちだけで遊ぶから」と言っていたが、最後には、靴隠しで、ゴム草履の片方が見つからないわ、どこかをぶつけて泣き出す子がいるわ・・・で、結局、私に叱られて、みな、すごすごと帰って行った。
 
 

2010年4月25日(日) 子どもの満足

 今日、オープン2日目。今日は、ずっと登録などを手伝ってくれていた女性、カオちゃんが手伝いに来てくれる。
 さっそく、子どもたちがぞろぞろ来るわ来るわ・・・初めての顔の子も含めて、小学生以下、30人ほど。中学生2人、高校生3人、大人1人がやってきた。太った男の子が来て、「家の床が抜けると困るなぁ・・・」と、高床式の図書館に上るのをためらっていたが、確かに、4メートル四方の図書館は、またたくまにいっぱいになった。
 ここらへんの子どもたちの中のガキ大将である、4年生の男の子レェは、来たとたん、ごろんと寝ころぶ。
「何よ、寝に来たの?」「そう、ぼく眠いんだ」「起きたばっかりなの?」「ううん、8時に起きたばっかりだ」
 しばらく、机の下に入って寝転がっていたが、いつのまにか、元気に飛び回っている。
 カオちゃんは他の図書館で働いていた経験があり、自分でも、家にあった紙芝居を持ってきてお話してくれた。彼女も子ども相手に楽しそうである。



 今日は、これまでに来たことのない新しいメンバーが来ていることもあって、子どもたちの方から、「おおきなかぶを話して」とか、リクエストが出る。新しい子に、私が話すのを、聞かせてあげたいらしい。昨日よりも、お話を聞く姿勢がなぜか、熱心になっているのが不思議。ガキ大将のレェが、お話をしてのどが渇くと思ったのだろう・・・水を汲んで来てくれ、お菓子までくれる。子どもから「ご褒美」をもらうのは、ちょっと気が引けるが、嬉しいものである。



 午後は、この日差しが暑い中、ゲームをやるという。
「暑すぎるよ。倒れちゃうよ」と言っても、大丈夫大丈夫・・・・と、カオちゃんの指導のもとに、ゲーム(といっても、単純なもので、歌を歌って最後に、「黄色の服の人!」とか「赤色の服の人!」とか言われて、その色の服を着た子どもたちが出てきて、みんなの前で、罰ゲームをするというもの・・・をやっていたが、さすがに暑いのだろう・・・早々に、屋根の中に退避してきた。その後も、さんざんゲームをやり、大騒ぎしたあと、目隠しをしてあてっこするゲームで、「見た」「見ない」で一部が言い争いになったら、子どもたちが「もうやめ、やめ」とおしまいになった。そのあとは、「お絵かき、お絵かき」と、みんながこぞって絵を描きだして、一気に物音ひとつしなくなり、みんなが熱心に紙に向かいだしたのは、面白かった。
 今日は、4時になったら、みんな、満足したように家に帰って行った。
 心行くまで遊んだぞ!と、そんな感じであった。




4月28日(水) ある夜の怪物

 今日は、タイからタイ人の友だちが来て、午後、図書館で、二人でパソコンを打ちながら話をしていて、その後、日が暮れてからは、ろうそくの灯りをともして、ちょっとロマンティック?な光の中、数人でビールを飲んでいた。すると、近所の子が、柵の向こうから
「お誕生日会なの?」
と叫んでくる。彼らはハッピーバースディが大好きなのである。
「違うよ、電気がもったいないから、ろうそく灯してるだけだよ。誰の誕生日でもないよ」
「お誕生日、お誕生日なんでしょ?」
「ちがうよぉ」
 じきに4つの頭が、見え隠れしはじめた。こっそり、扉をあけて入ってくると、車の向こうから頭を出したりひっこめたりしている。
「誰よ!見えてるよ。ほら、4匹の犬があばれてるよ」などというと、向こうでワンワン吠えたりしている。
 そのうち、こっそりと出て行ったと思ったら、今度は、家の前の道を、毛布をかぶった子どもたちが、まるで、獅子舞のように、とびはねながら行ったり来たりをはじめた。今度は6本足の怪物である。一番後ろの女の子のポニーテールが、まるで馬の尻尾みたいに見える。クスクスクスクス笑いながら、赤い毛布をかぶった獅子舞ごときは、何度も、うちの前の道を往復する。犬が、その怪しい怪物に、ワンワンワンワン大騒ぎである。
「なんなの?それ?赤い馬?それとも、牛?」とか言うと、
「きゃ〜、ワッハッハ」と、走って逃げては、また戻ってくる。
 まったく、この子たちは・・・・楽しくてたまらないんだろう。そのヘンテコな6本足の獅子舞もどきは、しばらく道を行ったり来たりして、家に戻って行った。

 主犯格の男の子レェは、まったく楽しい子だが、この地域に長年住んでいる旦那のノイが
「あの子はさ、数年前にお母さんが癌でなくなって、いないのさ」という。
「そうなの?じゃあ、誰といるの?」
「お父さんとお姉さんだろうなぁ・・・」
 小さな家にお父さんと、お姉さんと住んでいる。お姉さんは夜、レストランで働いているから、今はいないはずである。おおふざけしているレェであるが、そうかぁ、家にいると結構さびしいんだろうなぁ・・・・ガキ大将のこの子が、ふっと見せる寂しげな顔が思い浮かんだ。