2012年8月10日(金) スタディツアーを迎える

 今年で3年目になるが、ドンパレープ子ども図書館に、KVC(香川国際ボランティアセンター)の方々が
、23人いらした。高校生、大学生、大人からなるスタディツアーのみなさんだ。子どもたち、6月のワーク
ショップで練習した人形劇を、また2日かけて練習しなおして、披露した。
 9時に到着予定が、なかなか見えない。「えぇ〜、まだぁ」「遅いねぇ、遅いねぇ」「来ないんじゃないの」
・・・子どもたちがしびれを切らせたころ、30分遅れでバスが到着。
 昨日から準備していたマリーゴールドの首飾りを、一人ずつ、お客さんたちに、子どもたちがかけていく。

 実は前日の木曜は大雨で、子どもたちは集まって準備していたが、
「花の首飾り作るの?いいんじゃないの?」と私が言うと、みんなは「作る」と言う。
もらった方は、マリーゴールドをつなげた首飾りなんて大したことがないかもしれないけれど、実は作るのは
結構な手間がかかる。そんな手間を惜しまずに作るのは、ラオスの人たちのいいところだな・・・と思う。
 作りながら、
「去年、みんなで幼稚園を訪問した時、幼稚園の子どもたちがかけてくれたよね」とスムが言った。
 昨年の夏、ここの子どもたちを連れて、幼稚園にお話をしに行ったのだが、その時に、やはり花の首飾りを
かけてくれて歓迎してくれたのを覚えているのだ。自分ももらって嬉しかったという気持ちを、人にしてあげる
っていうのは、素敵だな・・・と思った。

マリーゴールドで花の首飾りを作るノイとスム

花環をお客さんにかけて歓迎

踊りは大好きだ。


人形劇を演じる。



演じ終えて。



最後に、香川のみなさんと一緒に描いた絵を持って、記念撮影。来年も来てね。

 最後に、「よかったです。本当に最後に一番いいものを見せていただけた。感激しました」
と言っていただけ、本当によかった。
 

 でも、そこまでの道は結構大変だったのだ。


 今週、子どもたちは、水曜日に一組、学習院女子大のスタディツアーのみなさん、そして金曜日に、
この香川国際ボランティアセンターのみなさんを迎えて、2回、人形劇、そして、踊りを演じた。そのために、
月曜と火曜、2日、人形劇を教えてくれた講師のケオ先生に怒られ怒られ・・・・でも、本番は2日とも、ちゃんと
演じることができた。

 演じた子どもたちは、小学校2年生から、中学を中退した子どもまで、14人。6月のワークショップとは、、日本の
NPO(ivory space) から資金を頂き、主人のノイが所属する人形劇グループのメンバーが講師となって、子どもたちに、
身の回りにある材料から人形を作ることからはじめ、言葉を使わずに動きだけで、人形を動かして、うれしい、楽しい、
悲しい,怖い・・・などの感情、そして、ストーリーを表現することを練習した。
 おなじことを、他2カ所でもやったのだが、実はこのドンパレープの子どもたちが一番、大変だった。

 先生の話をきかない。集中しない。おしゃべりする。飽きっぽい、本気にならない・・・・・
 
 ここの子どもたちは、貧困地域の子どもたちである。はっきり言うと環境が悪い・・・親がちゃんと働いている家庭も
もちろんあるが、無職で酒ばかり飲んでいるような家庭に育っている子もいる。
 この子たちは、これまで、本気で何かを達成するために、取り組んだことがないのではないか?
 嫌なら、面倒くさいなら、辞めてしまう・・・・・それを怒られることもなく、あきらめずに真剣にやることを経験していない
のではないか・・・・
 そう思えた。これまで、図書館の活動では、本を読むこと、お話をすることを中心にはしてきたとはいえ、ここの子ども
たちは遊ぶのが大好きで、本はそっちのけで、遊んでばかりいる子も多い。ただ、この環境の中・・(自分の家に居場所
がない子もいる)・・・では、まずは、子どもたちが、自分の場所だと思ってやってこられる、居場所となることが大切な
のではないか・・・
と思い、これまであまり、子どもたちに強制して何かをやらせたり・・・・はしなかった。

 ただ、一つの「舞台」をみんなで作り上げるということは、そんなに生易しいことではないのだ・・・・と今回わかった。
みんなが、真剣に、集中してやらなければ、いい加減に動かしただけでは、何も伝わらない。言葉を使わずに、説明
もせずに、何かに伝えるために、人形を動かすには、動きに集中して、自分が何をやっているのか意識した動きをし、
他の人と一緒に、一つのストーリーを表現するのは、本当に大変なことなのだ。

 それを可能にしたのが、真剣に子どもと向き合ってくれた指導者たちであった。
 相手が子どもであっても妥協しない。一つの舞台を作るために、あきらめずに、真剣に一人ひとりに目をやって、指導
してくれた姿に、私は感動した。
 きっと、この子たちにとっても、ここまで真剣に向き合ってくれた大人は、あまりいないかもしれない。
 もちろん、限られた状況の中だけの話ではあるけれど・・・・それでも、子どもと真剣に向き合うということは、なかなか
できることではない。

 4日間の、最後の最後、本番で、やっと彼らは、本気に演じることができ、「やった。できるじゃない」という演技をした。
「やった!できた」
という達成感・・・高揚感・・・・そんなことを初めて感じた子もいるだろう。
 本気でやれば、できるんだよ! 
 これからの長い人生、きっとこの子どもたちが歩む人生は生易しくない。そんな中で、もし、彼らに可能性を与える
ことがあるとしたら、本気で夢中になって取り組めることに出会い、そして、真剣に一生懸命やることができるか?
が大きいだろう。
 小さい子に、そんなことはわからないだろうけど、そんなことを感じて欲しかった。

 だから、せっかくなので、1回限りで終わらせたくなかったので、今回、日本からのスタディツアーの人々が来て下さった
のは、再び演じるいい機会だったのだ。

 1か月ほどのブランクがあり、再び練習をしたわけだが、最初、講師陣は「何も覚えてないじゃん」とがっかりする。
「大丈夫だよ、初めてとは違って、すぐ思い出すよ」と、私も言ってはみたものの、再び、集中しない、無駄口、よそ見・・・
 しかも2日目の朝は、9時に約束したのに、時間通りに来たのは一部で、他は「家の用事があったんだもの」
「雨が降ってたんだもの」「寝坊」「朝ご飯食べてた」などなど・・・・やってこない。
 ダンナなどは怒って、「キャンセルだよ。辞めちまえ」と言う。ケオ先生の方が、「まぁ、あれこれ用事もあるんだろう。
もう少し待ってみよう」と言ってくれたので、よかったものの、普通ならもう見捨てられただろう。
 さすがに私も怒って、「みんなでやる舞台っていうのは、一人遅れてもできないんだよ。あんたたちは、演じるって
いうからには責任があるのよ。先生たちは約束の時間前には来ていて、ずっと待ってたんだよ。わかる? 一人欠けても
できないんだよ。ちゃんと約束は守ること。真剣にやらなきゃだめ」
と怒った。

 などなど、大変だったのだが・・・・
 実際に、本番、子どもたちはとてもよく演じた。最後の日が一番、自信を持って演じることができたようだ。
 
 何が変わったか・・・というと、例えばボーイ。彼は、小4の男の子。主役のいたずらっこの一人を演じた。ボーイは、
本を読むのがとっても好きだが、おとなしい子で、他の子たちが大騒ぎしていても、一人で淡々を本を読んでいる子。
図書館的にはいい子だが、あまり表情も出さず、主張もしなかった。本好きなので、図書館の常連だったが、今回の
人形劇に参加する時、「でも、ぼくできないよ」と小さな声で言っていた。
 ボーイの表情が、全然変わった。とても嬉しそうな顔をするようになった。始めは声もあまり出なかった(セリフでは
なく、いろいろな擬音)が、最後には大きな声が出せるようになった。人前で演じるなんてこと、夢にも考えられなかった
ような少年が、だんだん自信を持ってきたのがはっきりとわかった。

 ノイ(姉、中学中退)とアン(弟、小5)とフォン(妹、小4)の3人のきょうだいも、人形劇を演じた。彼らのお父さんは、
竹でゴザやカゴなどを編む仕事をしている。夏休みは、子どもたちは手伝わなくてはいけない。特にお姉ちゃんのノイは・・
「抜け出てきたのよ」と言いながら、ほとんどいつもやってくるのだが・・・
「お父さんに見つかると怒られる」と、回り道をして図書館にやってくることもあるようだ。でも、演じる本番の日、お父さん
が、柵の外から見ていた。お父さんは、怒った顔じゃなく、優しそうな顔をして見ていた。
「しかたねぇなぁ」と思いつつ、子どもたちが一生懸命な姿を見てくれただろう。

 もう一人、ミー(小4)。図書館の隣に住んでいる。弟のスックが、小2にして参加して、いたずらっ子を演じていた。弟は、
とても楽しそうに演じているのを見ながら、彼女は6月は、靴屋の番のアルバイトをしていて、参加できなかった。今回、
来られない子がいたので、代わりに声をかけたのだが、図書館の前の川を見ながら、とても寂しそうな顔をしていたの
で、私が「ねぇ、来られない子がいるから、代わりにやらない?」と声をかけたら、にっこりはにかんでうなずいた。
 とても上手に演じられたわけではないが、仲間に入れたのがとても嬉しかったに違いない。

 全部の子それぞれに、少しずつ、何かがあったに違いない。
 
「今度、いつ演じるの?」と子どもたちは楽しみにしている。