2010年9月6日(月) 後悔先にたたず

 
「あぁ、あの時、こうしていたら・・・・」ということがあるけれど、今度のは本当にそうなのだ。そうしていたら、今ごろ、子猫も生きていたし、私も、狂犬病の注射など打たずに、相変わらず、毎晩楽しくビールを飲めていたのに・・・・ということ

 土曜日の昼前、隣の文庫をあけていた。私は、家の方に、ガスにかけていた犬のご飯の鍋の様子を見に来て、火をとめた後、本の修理に使う糸と針を持って、また隣に行こうとしたら、家の方の表扉の向こうから近所の子どもたちが、覗き込んでいる。
「きよこ、子猫とってよ。庭の中に入っちゃったんだ。猫とってよ」と言う。
「えぇ?猫?どこよ・・・」
 家の庭には、うちの犬、小さいメリーと大きいペプシがうろつきまわっているだけで、猫は見えない。猫がいたら、この2匹はウーワンワン、ギャンギャンギャンンギャンと大騒ぎをするはずであるから、いないんじゃないかなぁ・・・・と思って、あちこちを見ると、ブロック塀の端に小さな子猫がこちらにお尻を向けてうずくまっている。その上は、金網となっていて、そして、やたらに木のつるがからまっているので、そちらから出られないようである。
 実は私は猫は弱い。飼ったこともないし、あまり触ったこともない。

 ここで、放れているうちの犬を、家の中にでも閉じ込めて、子どもたちに庭に入ってきてもらって、自分で抱いていってもらえればよかったのである。
「こんな小さな子猫なら平気かな・・・」と思ったのだ。扉まではほんの3メートルくらい・・・・外に出してやれるだろう・・・・と。
 そこで、私が子猫を手にとったとたん、小さなメリーが気がついた。火のついたような勢いで、ワンワンワンワンと飛びついてくる。大きなペプシもその声を聞いて、ウーワンワンワンと飛びついてくる。子猫は、ギャ〜と声をあげ、爪を立てる。私は必死に、手を伸ばして、子猫を上げた。でも、犬はびっくりするようなジャンプ力で、子猫にかみついてくる。ギャ〜
 私も、必死にうちの犬たちを振り切ろうと、一生懸命だったのだが、犬に勝てなかったのだ。子猫は犬にかまれてしまった。
 私の大声と、子どもたちの声を聞いて、ダンナが駆けて来て、犬を追い払った時には、もう子猫はぐったりしていた。
「死んじゃった。死んじゃった」という子どもたちの声・・・・・私もショックだった。「私が殺しちゃったようなもんだ」
 ふと手を見ると、子猫が私の手に噛みついていたらしい。血が出ていた。脚にも、20センチくらいの引っかき傷が数本あり、血が出ていた。
 
 図書館スタッフのカオちゃんもきて、「洗濯洗剤で洗うのよ」と言う。私はただ呆然として、「猫死んじゃった。死んじゃった」と、子どもみたいにアーンと泣きはじめた。ダンナが、「まったく、おまえはじっとしていられないのかい。猫や犬に手を出しちゃだめだろ」と言いながら、傷口を洗ってくれて、ヨーチンを塗った。

 うちの犬は、小さなメリーは、一見かわいらしいテリアみたいな犬だが、動物を見た時の興奮のしかたは、一番すごい。祖先は猟犬の血筋が入っているらしい。ペプシの方は、メリーよりとろく見えるが、身体が大きいだけにジャンプ力も歯も鋭い。ペットとして飼われているから、普段はまぬけな犬にしか思えないが、いやぁ、ラオスの犬は結構野生の血が残っているんだろう・・・・と改めて恐ろしく思ったことである。そして、私自身が、なんと、動物の扱いにも慣れていないことか・・・・人間の思うようになるペット相手しかろくにしたことがないからなんだろう・・・・

 子猫には、本当にかわいそうなことをした。私が余計なことをしたばかりに、死んでしまった。死んだ子猫は、ダンナが家の片隅に埋めてくれた。本当にごめんね。

 まだ呆然としてる私に、カオちゃんも「病院に行かなくちゃだめだよ」と言い、傷口はたいしたことなかったけれど、猫が予防注射をしているとは思えないので、ダンナに地域の病院に連れていってもらった。事情を話すと、お医者さんは、もう手慣れた様子で、診断書を書いて、はい、注射。
「今日は、破傷風の注射と、狂犬病の注射、2本ね。これからは、狂犬病の注射を、あと3回」
「あのぉ、猫の場合でも打つんですか?」
「そうです。犬、猫、ねずみ、さる、うさぎ、りす・・・これらに噛まれたら、打たなきゃだめですよ。」
「あのぉ、狂犬病になりますかね?」「打たなかったら、発症した場合、終わりですね」

とのこと・・・・で、痛い注射を打ったのはいいけれど、あと3回、約1カ月かかる。看護婦さんがダンナに「お酒はダメですよぉって、ちゃんと伝えてくださいねぇ」と言っているのが聞こえる。
「えっ!ダメ?ダメですか?」「ダメですよぉ」

そうか・・・・それも辛い話だなぁ…と思うけれど、狂犬病になったでは、お話にならないから・・・・それくらいは我慢しなくちゃいけないな・・・・ということで、私も初の禁酒である。

 その後で、ラオスの人に、「狂犬病になった人知ってる?」と聞くと、カオちゃんが「知ってるよ。小学校の時の先生が、犬に咬まれてなったよ。」
「どうなるの?」
「犬みたいになるよ。」「えっ?ウォンウォン吠えるの?」「そうね・・・、そんな感じよ。でも、その当時は、注射とかあまりなかったからねぇ・・・・大丈夫よ」
と言ってくれるものの・・・やはり、笑えない。

 子どもたちにも悪いことをしたなぁ・・・・と思う。可哀そうなことをした。でも、ラオスのこのあたりの子どもたちも、結構、動物の死にも接しているのだろう。わめいて泣いていたのは私だけで、子どもたちも「あぁ、死んじゃった」と、帰って行った。午後、そのうちの男の子が図書館に来たので、
「あんたの猫だったの?」と言うと、うなづく。
「ごめんね。私が至らなくて・・・・死んじゃったね」と言うと、「どこ咬まれたの?ノド?」
「私、わかんない」。
 私は最後の子猫の状態は、よく見ていない。
「どこにあるの?」「庭の隅に埋めたよ」
「掘りかえして見ていい?」
「ダメダメ、それはお願いだからやめてよ」
 子どもたちもたくましいものである。マーク・トゥエインの「トムソーヤの冒険」には、猫の死体を宝物のように持ち歩いたりする少年たちの姿が出ているが、それに近いものがあるかもしれない。私などは本当に何もできずに、「ごめんね」とお線香をあげるのが、精一杯で・・・・・ある。



9月11日(土) あと4週間、禁酒
 今日、3回目の狂犬病の注射に行く。看護婦さんに、
「あのぉ、もう傷口はすっかりいいんだけど、もう抗生薬飲まなくていいですよね」
と聞いたら、「じゃあ、飲まなくていいわよ」と言う。
「あのぉ、少しならビール飲んでもいいんですか?」
「ダメよ」
「あのぉ、注射した日じゃなくても、ダメなんですか?」
「そうよ、ダメよ。でないと、ワンワンワンってことになるわよ。それにね、最後の注射をしてからも1週間はダメよ。そしたら、飲んでいいわよ」
うわ、10月1日が4回目の注射の日なのだが・・・・それからさらに1週間・・・といことは、あと1カ月は禁酒か。

 まったく、注射のおかげで、狂犬病になる危険性がなくなるわけだから、本当に、そう思うと、医学とはありがたい。
 いったい、最初に発見した人はえらいなぁ・・・・出来上がるまでに、どんな苦労があったことだろう・・・・と思うわけで、感謝であります。
 なんてこと言ってるんだから、せめて、がんばって禁酒です。この1週間はクリアしたけど、あと4週間。
 でも、子どもの頃なんて、お酒なんかなくても、十分に楽しく過ごせたんだから、ついつい最近、酒がないとつまんない・・・・ってことになってきた自分を反省するのに、いい機会だと思っている。
でも、きっと、解禁になった時に喜びは、きっとまたひとしおで、それで、あっという間に、元の呑み助になってしまうんだろうなぁ・・・・・などなど・・・しょうもない。