2011年11月28日(月) メリーがまたまた子犬を生みました

 4月に初めて子どもを産んだメリーは、またまたお腹が大きくなっていたのだが、今朝、家の中でなんだかもぞもぞしている。ノイが見ると
「メリー、おまえ、これウンコだろ。なんで、こんなところでウンコもらしたのかい?」
と言った。普通、メリーは家の中で、そんなことはしない。
 メリーは、フン、フンフンと、しきりに訴えるような声を出す。
「わたし、そんなことしてないわよ。フゥウンフゥウン、どうしようもないんだもの」
ってな感じで、いかにも、うーん、どうにかしてよぉ・・・とノイに訴えているようである。
 生まれそうだけど、きばったら、出てきたのは、ウンコだったらしい。
 ノイが、あわてて外に連れて行き、家の裏に布を敷いて、メリーを寝かせ
「そこで、、待っていろよ。朝飯くったら、見てやるからな」と言った。
 メリーは、こっちが朝ご飯を食べている間に、トットットと移動した。扉からちらっとこっちを覗くと、どこかへ行った。朝ご飯が終わって、ノイが、材木を積んだ下の隙間を覗くと、そこで、メリーがもう、1匹目を生んでいた。
「こら、おまえは。子どもが砂だらけじゃないか」
と、ノイは小さな小さな生まれたばかりの子犬を隙間から取りだして、手のひらに載せると、メリーが慌てて飛び出してきた。
 メリーは、昨晩、図書館で行った影絵の会で、大勢人が来るので、柵の向こうに閉じ込めておいたのだが、無理して、隙間をくぐって、柵を出ようとして、お腹を圧迫したらしい。昨日、食べた物を戻していたので、具合が悪くならないといいなぁ・・・と思ったのだが、案の定、少し、出産が早まったのではないか・・・・
 一回目の時は、4匹の子犬が、あっという間に、次々と出て来て、すぐお乳に吸いついたのだが、どうも今回は、前回よりもずっと小さいし、おっぱいに吸いつこうともしない・・・・心配だ。ノイは、子犬についた砂を一生懸命とってやっている。
 メリーは、なかなか産めないのだろう。苦しそうに、向きをかえたりして、ハァハァと息が荒い。小一時間もした頃か、袋がするんと出てきた。メリーは、一生懸命、その袋につながる、体盤やらを食べている。袋をやぶって、早く、子どもを出してあげないといけない。ノイが手伝って、子犬を出す。メリーに、
「早く、へその緒を食べろよ」
と言うが、メリーはずるずると、ぬめぬめした自分の身体から出てきたものを食べていて、なかなかへその緒を噛みちぎろうとしない。とにかく、食べたり、子どもをなめてやったり、まだお腹も苦しそうだし・・・忙しいことだ。

まぁ、また小さいこと。茶色の子犬だ。前回はメスばかりだったのだが、
「あれ、今回は、オスだな」と言う。前は、黒っぽいのが2匹、茶が1匹、白黒ブチが1匹だったが、今回は、黒、そして、茶・・・・・またずいぶんたって、今度は
「パンダが出てきたよ」と。パンダみたいな白黒・・・・そして、黒・・・・1時間に1匹というくらい、時間をかけて出てくる。そして、しばらくしてから見ると、ズルッと袋が出たままになって、メリーは知らん顔をしているじゃないか・・・・・
「ノイ、ノイ、早く」と、ダンナを呼んで、私はおろおろするばかり・・・・ノイが
「メリー、なんでなめてやらないんだ」と、袋をやぶいて出すと、白茶のブチの子が、動かない・・・・
「死んじゃってるの?」と、わたしは恐る恐るである・・・・しばらくすると、口をあけて、動いた。しばらく、一生懸命口を開けては、外の空気を吸い込んで、慣れようとしているようだったが、やっと、キューキューよ声を出して、動きはじめたのでほっとした。でも、また小さい子である。
 5匹生まれてきたものの、メリーのお腹はまだ大きい。ノイが、お腹を触って、「子どもかなぁ。それとも内臓かなぁ」と言っていたが、午後3時過ぎ・・・一番大きな子が出てきた。一番最後に生まれた末っ子が、一番大きなこげ茶色の子であった。朝から、8時間くらいか・・・6匹生まれた。

 産まれてから7カ月たったポチやパンダを見ると、「まぁ、よくここまで大きく育ったねぇ」と言いたくなる。本当に、子犬は小さい。夜になって、やっと、おっぱいを吸えるようになったようみたいだけど、どうも、あまりおっぱいを吸えない子もいるようである。1回目の4匹の力強さとは違って、小さく生まれたこの子たちは、生命の危うさを感じさせる。
 
 頑張れ、子どもたち、頑張れ、メリー。頑張って、生きろ。

2011年11月29日(火) 頑張っている小さな命たち


 昨晩は、ラオス、ヴィエンチャンでも冷えた。夜、こんなに小さな子犬は、体温が奪われたら、すぐ死んでしまうだろう。
 夜、風が吹いてくる方向に、ついたてを立てたり、傘を広げておいたり、囲いを作った。
 子犬たちは、ミーミーキューキューないている。見えない目ではいはいして、お母さんから遠くに行ってしまう子もいて、1匹で寒いのだろう、キューキューないている。死んじゃっているんじゃないか・・・と恐る恐る持って、お母さんのもとに入れてやる。
 夜中に、キューキューミーミーとなき声がやまない。
 子犬たち、お腹がすいてないているんじゃないだろうか?
 まだ、おっぱい飲めないのだろうか? 特に、一番最初に生まれた黒のチビが、気になった。朝になって、死んでいたら、どうしよう?

 朝、起きてみると、子犬たちはすっかりおとなしく、母犬メリーのおっぱいに吸いついている。メリーは、しきりに子犬たちをなめてやっている。たった1晩だけど、子犬たちの毛は色つやがよくなったみたいで、少しだけ大きくなった気がする。
 あぁ、よかった。子犬たちは、まるでホルスタインや、茶色の牛みたいな色をしているので、本当は小さな母犬メリーが巨大で、牛たちにミルクをやっているように見えて、可笑しい。



 夜、一番目の黒い子が死んでしまった。昼過ぎごろから、この子と、2番目の茶色い子が、いつまでも、おっぱいをうまく飲めないのが気になっていた。そして、身体が冷えている。他の4匹は、ごくごくおっぱいを飲み、身体もあったかいのに・・・・
 覗く度に、メリーの身体のそばに置いて、おっぱいを吸わせようとするのだが、うまくいかない。そして、いつも、いつのまにか、お母さんのメリーの身体から離れていっている。
 とうとう、夜9時頃、ふっとのぞくと、小さな黒い身体が、メリーから離れたところで横たわったまま動かない。あぁ、死んでしまった。大急ぎで、ダンナを呼ぶ。ダンナは、小さな身体を手のひらに載せ
「死んじゃったな」という。
 弱く生まれてしまったのだ。自然淘汰。自然の摂理なのだから仕方ないけれど・・・・せっかく生まれてきたのに、かわいそうに・・・・
 メリーは、ダンナの手のひらに載っている、その冷たくなった一番目の子に顔をよせると、ペロペロとなめはじめた。死んだとは思っていないのだろう。ぺろぺろなめ続ける。
「メリー、死んじゃったんだよ。メリーは一生懸命だったのにね…・仕方ないんだよ」と私がボロボロ涙を流しているのを、メリーは不思議そうに見ている。ダンナが死んだ子犬の小さな身体を手のひらに載せて立ちあがると、メリーは、あわてて追いかけた。自分の子どもを連れていかれると思ったのだ。ダンナは「ごめんごめん」と、またメリーの元に戻すと、タオルを上からかけ、メリーがわからないように、死んだ子犬をそっと持ちだすと、庭の片隅の花の木の根元にうめた。
 1日半の命だった。まだ目もあかず、世の中を見ることもなかった。でも、一生懸命、ないていた。お母さんの暖かい身体のそばにいても、暖まることもなく逝ってしまった。
 お線香をあげる。ダンナは、
「今度生まれてくる時は、犬じゃなくて、ライオンとか、強いのに生まれてこいよ」と言う。私は、
「今度生まれてくる時は、丈夫な子に生まれておいで」と言った。

2011年11月30日(水) 2番目の命

 夜、何度か気になりながらも、2番目の茶色い子が、冷たくなっているかも・・・と思うと、怖くて見に行けなかった。朝、見に行くと、茶色い子は、やっぱり母親の下から離れて、1匹だけ、敷いた布からも落ちてコンクリの上にいた。
「もう死んじゃったか」
と、触ると、まだ動く。生きている。急いで、メリーの腹の下に戻した。 
「茶色の子、生きてるよ」と言うと、ノイも起きて来て、茶色の子に、少しでもメリーのおっぱいを飲ませようとするが、乳首まで持って行っても、吸わない。吸う力がないのか・・・・
 他の4匹は、チューチューごくごく飲んでいるというのに・・・・
「ミルクを飲ませてみよう」
と、ノイがその子を持って行こうとすると、やはりメリーが心配して飛びでてきた。見えるところで、持って行くとダメなのだ。またタオルにかくして、家に持ってくると、はじめ温めた牛に乳をストローで口に入れてみたが、飲まない。
「ノム・レクタソーイ(豆乳)を飲ませてみよう」と彼は言う。豆乳なんかでいいのか? 本当は犬用のミルクなんて、日本だったらあるんだろうなぁ・・・と思うが、彼にまかせるしかない。
「お腹の中に水分がないんだから、力がでないよ」
と、彼は豆乳を買いに行った。この茶色の子は、首をのばしたり、口を大きくあけ、手を伸ばし、まるで空を仰ぐかのように、動くのである。一生懸命動く。
 ノイが、ストローで豆乳を少しずつ口にいれると、少しずつ飲んだ。たまに、まるで人間の赤ん坊のように「フニャアー、アーン、エーン、エーン」と声を出すようになった。さっきまで、まるで老いを感じさせるような、疲れたような顔だったのが、だんだん、穏やかなかわいらしい顔になった。今、ノイのお腹の上で、タオルに包まれて寝ている。
 はたして、生きぬけるかどうか・・・・・わからないけれど、少なくとも、さっきよりずっと落ち着いて、幸せそうな顔を見ると、あぁ、それだけでもよかったな・・・と思う。
 しばらくすると、母のメリーが来て、ノイに抱かれている小さな子犬を見ると、あわてたように、とびついてきて、子犬を取り戻そうとする。とうとうくわえて、連れて行った。
 その後、茶色の子犬は、お母さんときょうだいたちに取り囲まれて、午後を過ごした。昨日までは、母ときょうだいたちの間に置いても、いつのまにか離れて端っこに行って1匹になっていたので、「この子は、1匹で死にたいのだろうか?」と思ったほどだったのだが、少し元気になった後、母犬のメリーときょうだいたちの間にはさまれて、安心したようにしている。少し自分で、お乳も吸えるようになったようだし、身体も少しあたたかくなったようで安心した。この調子なら、きっと生き延びられるだろう・・・・

 あぁ、よかった。よく頑張ったね・・・・ 
 そう思った矢先、さっき、夜10時頃だが、のぞいたら、脚をつっぱっている。急いでダンナを呼び、ダンナがまた手のひらにのせて行くと、メリーが心配そうについてくる。ダンナはタオルに包み、身体をさすった。メリーが心配そうに顔をよせ、ペロペロなめる。メリーは、何度もくわえていこうとした。
 小さな茶色い子犬は、しばらく息をしていたが、まもなく死んだ。
「メリー、この子はよく頑張ったんだよ。ここまで頑張ったのにね・・・・でも、頑張ったから、今日は、お母さんときょうだいたちの間で、あったかく過ごせてよかったね・・・・」
 私はそう言うと、また、ボロボロ泣いた。
 昨日、死んでいたら、この子はさびしく死んだだろう。今日は、ミルクも飲めたし、おかあさんときょうだいたちのに挟まれて、あたたかく過ごすことができた。今日、たった1日だけど、この子は、一生懸命、生きた。
 どんな小さな、まだ意識があるのかないのか、わからないくらい小さな子犬でも、嬉しいとか、幸せとか…少し感じたか、まだ目も開いていないけれど、その表情が変わったのに、私はびっくりした。

 ダンナがタオルに包んだ子犬をそのまま持って行こうとすると、メリーが心配そうに、跳びはねるようについて行こうとする。
「いったん、お母さんときょうだいたちのところに戻してやらないとダメだよ」
 家の裏に敷いた布、小さな4匹のきょうだいたちがたわむれている横に、もう死んでしまった子犬を置くと、メリーはいとおしそうにペロペロペロペロなめた。
「もう、いいよ、もう、いいよ、メリー。その子、もう逝っちゃったのよ」
 メリーを私が押さえているうちに、ダンナが、昨日のお墓の隣に、茶色い子を埋めた。