もうすぐ2年前のことになりますが、フランスのブランジュリー・パティスリーでの

研修は私にとってとても忘れがたく、大切な出来事です。

たった3ヵ月ですので「修行」ではなく、あくまでも「研修」ですが

学んだことははかり知れません。

夢中だった頃よりも、時間が経った今のほうが経験したことの意味を

自分の中で咀嚼し定着させることができているような気がします。

いちばん大きいのはパンを食べる、ということの意味の違い、食文化の違い、ということを

肌で感じられたことでした。

私はパン屋さんの家庭に住み込みで日常生活を共にさせてもらえたので幸運でした。

私はそれまでもずっとパンが好き。

特にバゲットやカンパーニュ、ルヴァンというようないわゆるハード系のパンがとても好きで、

普段の食事にもよくご飯のかわりにパンを食べていました。

でも、フランスに行ってフランス人が主食にパンを食べる、というのは

日本人が主食に米を食べているのをパンに置き換えるのとは全く違う、ということがわかりました。

たとえば、フランスでは食事の最初からデザートの前まで、ずっとパンがテーブルの上にあり、

少しずつ食べながら話をしながら食事をしています(1時間以上)。

しかし、日本で食事の最初からデザートの前まで、ちびちびとご飯を食べながら話をしているなど

という食べ方はありえません。

そんなことをしていたらご飯が冷めてしまうし乾いて茶碗にはりついてしまう、

家だったらお母さんに「早くご飯食べちゃいなさい」といわれるでしょう・・・。

コース仕立てで出てくる場合ご飯は「シメ」という感じだと思います。

また、フランスではちょっとランチ、とお店に入ればとりあえずパンが出てくる。

サラダしかオーダーしなくてもパンが出てくるので、

私はそれだけで食事にじゅうぶんだったこともありました。

日本で、とりあえずご飯だけ出てくる定食屋、なんてあったらすごいな(うれしいけど?)。

どうやら「主食」の食べられ方、意味自体違うらしいぞ・・・

フランスと日本では根本的に食事にかけるパワーが違うようにも感じますが、

パンを主食にしている国にはそうなるだけの必然性があり(気候、文化、農作物など)

米を主食にしている国にはまたそういうものがある。

私たちが「パンを主食に」といってもそれは日本人の食べ方ということで、

パンが主食の国に倣うことはできないし必要もないでしょう。

また、「パンを主食」といっても、日本のおかずの中でフランスみたいなパンを出されたら

そうとうパン好きでなければ素直においしいとはいえないと思います。

よく、「フランスで3ヵ月間パンだけでよく平気だったね」といわれることがありますが、

あの空気、あの家族、あの食事の中にパンがあるのがあまりにも当たり前で「お米が食べたい」と

思う余地もありませんでした。あの食卓で茶碗にご飯が盛られていたら奇妙です。

最近の私は、朝食の食パンが大好きになりました。なんとなく、それが自然だから。

子どもの頃よく食べていたからかな。

ブリオッシュも大好きです。フランスの朝食を思い出すし、素直においしいから。

そしてバゲットの皮をぱりぱりいわせながら食べたり、天然酵母をかみしめたり。

きっと、パン屋さんが力まなくても、みんな自然に「おいしい」と感じるものを楽しんでいるんだろうな、

と思います。

そんな楽しみを少しだけ増やすお手伝いができたり、

毎日の楽しみのひとつに加わる仕事ができたら・・・

それが、私が作りたいパンであり、パン屋なのだと思っています。

                                                 2006.4

こんなパン屋に・・・