第3回

「フル・モンティ」The Full Monty(1997)

− 久しぶりに腹を抱えて笑える映画を観ました。アカデミー賞にノミネートされているイギリスコメディ映画というくらいしか知らなかったのですが、これほど、面白くて、しかもいい映画だったとは思ってもいませんでした。私が気に入ってしまう要素をたくさん持っている映画だったのは間違いありません。もともと、満たされず、世間になかなか認められない人間が一生懸命何かをやって認められていく手の話はけっこう好きなのですが、大抵それは、スポーツ物であったり、少年達の話であったり、青春映画だったりしたわけです。ところがこの映画ではいい年をしたオヤジ達がそれをやってしまうのです。しかも、その手段がストリップとは。

− 物語はこうです。隆盛を極めた鉄鋼の街も今は寂れてしまい、鉄鋼に携わっていた人々はみな失業し、青息吐息の生活をしています。主人公は妻と離婚し、息子の親権を取られそうになる前科持ちの男。保険の他、万引きや盗みなんかをして生計を立てています。親友は太りすぎの自分にコンプレックスを抱き、妻の前でも服を脱げないような男。しかも彼の妻は街にできた男性ストリップ劇場に通いつめ、さらに彼の悩みを増長させています。仲間になる男たちは、失業したことを妻に打ち明けられずに、失業前のような生活を続けている元上司、失業し、年老いた母親を養う苦しい生活に嫌気がさして、自殺を図ろうとする孤独な男等、誰もがうだつの上がらない男達ばかりです。ある日、主人公は離婚した妻に息子の単独親権を取られそうになり、それを阻止するためには大金が必要だと知ります。そこで思い付いたのが自分でストリップをして金もうけをしようというものだったのです。そのために仲間を募り、ついにはステージ発表のための特訓が始まるのです。

フル・モンティ

− 大体、オヤジ体型の男達がストリップをして金もうけをしようという発想だけで十分笑えますが、数々のエピソードがまた実におかしい。最初はバラバラだった(当たり前だけど)仲間たちが徐々に団結し、成功するという流れはほとんどスポーツ根性物です。通常のスポ根ものなら一生懸命努力していく姿に感動するところですが、題材が題材ですから笑いが止まりません。(ネタもたっぷりありますからね。)ときおり、サッカーシーンや腕立て伏せなど、「ロッキー」等スポーツ物のパロディもしっかり混ぜています。しかし、この映画はそれだけでなく、友情モノ、家族モノとしてもしっかり押さえてあるので、笑えるだけでなく、しっかり感動できるのです。失業問題や家族の問題等、重くなりがちな題材をストリップをネタにした軽い笑いで明るく見せてしまったところが上手かったと思います。アイデアと脚本の勝利といったところでしょうか。ステージで恥を捨て一生懸命踊ろうとするシーンでは、笑いと感動が入り交じって、妙な気分でした。また、ラストシーンは身も心もすべて脱ぎ捨て、新しい人生の始まりを感じさせる、まさに開放的ないいシーンでした。

− 久々に、明るく笑って、さわやかに感動して、いい気分で映画館を出てくることができる映画でした。観て損はしませんよ。

− ちなみに「フル・モンティ」は「スッポンポン」という意味で、「ふるち○」の語源でもあるそうです。(^^;) (1998.1?)

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