「Peridot」
Peridot;
ペリドット:
・・・・8月の誕生石。
「豪・・・お前何やってんだ?」
「ん?見てわかんだろ。勉強してんだよ。夏休みの宿題」
ボクはとりあえず、豪の額に手をあててみる。
「何のマネだよ・・・」
「いや・・・熱でもあるのかと思って」
豪が勉強だなんて。
しかも、7月中に夏休みの宿題に手をつけてるなんて!
ノストラダムスさん、ごめんなさい。
あなたの言ってたこと、全然信じてなかったけど、当たるかも。
「だー、もー、うるせぇなっ。
ベンキョーの邪魔すんなよー」
豪は、ボクの手を払うとボクが今まで豪に100万回は浴びせたであろう言葉をはいて
ボクを部屋から追い出した。
・・・ホントにどーしちゃったんだ?
豪の部屋の前で呆然としながら、ボクは何の用事で豪の部屋を
訪ねたのかを思い出してズボンのポケットに手を入れた。
プールの入場券が2枚。
人にもらったから一緒に行かないかって誘うつもりだったんだ。
でも、せっかく勉強する気になってるのを邪魔するわけにはいかない。
なんだよ急に。
いつもボクがいくら言っても宿題だってやろうとしないのに・・・。
・・・って何コレ。
いいじゃん、何が理由でも、豪がやる気になってるんだから。
頭ではそう思うのに、心が沈む。
胸の辺りが気持ち悪い。
あー、もー、ヤダ。
とりあえず、一人で行こう。
冷たい水に浸かれば少しすっきりするかもしれない。
豪の分のチケットは・・・母さんに預けておけばいいよな。
そうと決まれば。
ボクはさっさと水着とタオルをバッグに放り込むと家を出た。
プールは思ったほどは混んでなかった。
少し泳いで、プールサイドで休む。
暑いけど、身体に残ってる水滴が風にさらされると気持ちいい。
よく考えてみたら、何も豪と来るこたないんだよな。
他の友達、誘えばよかった。
と、考えが豪に及んでさっきの気分の悪さを思い出す。
胸がざわつく。
こんなに明るい太陽の下にいるのに、体の中から真っ暗になっていくみたいだ。
ボクは頭をひとつふると、肩からかけていたタオルをはずして
もうひと泳ぎすることにした。
水の中で目を開くと、水面に反射した陽がゆれていて。
こんなにキレイなのに、でもこの光は水の中のボクに直接あたることはなくて。
でも周りにそれを気にする人はいなく、それぞれが、思い思いに遊んでる。
自分だけ取り残されたみたいで、それがなんとなく、淋しくて。
「・・・にきっ!烈兄貴!!」
「・・・・・・ん・・?」
ボクが目を開けると豪の必死な顔が飛び込んできた。
「よかった・・目ぇ覚めた?」
「・・・・ごぉ?」
豪、なんでそんな泣きそうな顔してんだよ。
泣きたいのは、ボクのほうなのに。
・・・泣きたい?
なんで?
「ったく、オレのことおいて行ったりするからバチがあたったんだぜ」
「・・・豪、お前、なんでいるの?」
「なんでって、そんな言い方ねぇだろー!
アニキ探して下に降りたら、一人でプール行ったってゆーから、追っかけてきたの!
そしたらなんか、プールの方騒がしくって、見たら
アニキが担架で運ばれてて・・そんで・・・」
その時の情景を思い出して、威勢の良かった豪の語尾が弱くなる。
「・・・プール・・?」
まだぼんやりとしている烈の方はそんな豪を見てもまだ
自分の状況がわかっていない。
・・・水の中にいたんじゃなかったっけ・・・・?
「ごー・・・」
ほとんど無意識のうちに出た声と、差し出された手。
それを、豪は何のためらいもなく握り返してくれる。
この太陽は、手の届く場所にいてくれる。
でも、いつまでいてくれるのかは、わからない。
その不安が水のようにボクをつつんで 。
それから少し休んで、今日は家に帰ることにした。
豪は2人分のビニールバックを持ちながら、ボクの隣を歩いてる。
時々、「歩くの早くないか?」「少し休まなくて平気か?」と
聞いてくる様子がなんだか可笑しい。
普段はボクのことなんか気にしないで、一人で突っ走るくせに。
「あ、そーだ、アニキー。後で宿題見てくれよ。
わかんないトコあったからアニキに聞こうと思って探してたんだよ」
あ、また嫌な感じ。
「お前、ホントにどーしちゃったんだ?
夏休みの宿題は8月31日にやるのが醍醐味、じゃなかったのか?」
「へへへ。かぁちゃんと約束したんだよ。
夏休みの宿題、7月中に終わらしたら、どっか連れてってくれるって」
・・・なんとなく脱力。
たとえば、ボクって遊園地以下、ってことかな。
・・比べるような問題じゃないのはわかってるけどさ。はぁ。
「アニキ、海行きたがってただろ?」
え?
・・・・確かに言った。
海にでも行ったら少しは涼しい気分になるのかな。って。
でも、そんなすっごい行きたいってわけじゃなかったし、
そんなこと、ボクだってもう忘れてたのに・・・。
「オレ、絶対今月中に宿題終わらすからさ。
期待して待ってろよ」
キミならば。
不安に溺れるボクを救ってくれるのだろうか?
「すごい。ホントに終わらすとは思わなかった」
7月31日PM11:47。
日記とか、自由研究なんてのはまだだけど。
出されたドリルや書き取り、感想文まで、ホントに全部できるなんて。
コイツ、ちゃんとやれば頭は悪くないのかも。
「うー・・・さすがに疲れた。
もー、しばらくはベンキョーしたくねー」
「お前にしてはがんばったよなー」
めずらしく、素直に感心してしまう。
「・・・ねみぃ・・・もう、こんな時間かよー・・・あ!」
「どうかしたか?」
「あと少しでオレの誕生日じゃん!」
PM11:53。
「ほんとだ。今年は宿題もがんばったことだし
少しはいいものプレゼントしてやるよ。何か欲しいのあるか?」
そう聞くと豪は「え、マジ?」と腕を組んでしばらく考え込んだ。
あんまり真剣に悩むので、ボクのおこずかいで足りるものなんだろーなぁ、と
変なことで不安になってくる。
「よし、決まった!」
「あんまり無茶なことは言うなよ?」
「大丈夫、簡単なことだぜ」
「なんだ?」
「オレ、約束が欲しい」
「・・・・・は?」
「約束」
「何の?」
「来年も、その次も、これからずっと、ずーっと、
オレの誕生日祝ってくれる。って約束」
「そんなの・・・・」
ずっと、なんて約束は、意味があるんだろうか?
ボクらの関係は、いつまで続くかわからないというのに。
「ダメか?」
レース以外で、こんな真剣な豪の顔を、初めて見た。
「ダメ・・じゃ、ないけど・・・」
息苦しさは、蒸し暑い空気のせいなのか、それとも。
「オレ、自分はずっと、ずっと、アニキのこと好きだって自信ある。
アニキ以外、絶対好きにならない。
でも・・・アニキの気持ちはわかんないだろ?
・・・・・すごく、不安なんだ」
豪が弱音を吐くなんて。
豪が、自分と同じ不安を持っていたなんて。
「約束なんかしても、意味ないかもしれないけどっ
何年も経って、その時にどうなってるかなんてわかんないけどっ
オレは、"今"・・・そー思ってるからっ」
キミならば。
真っ暗な深海にさえ届くような、陽光をボクにくれる。
「ボクも・・・そう思ってるよ。ずっと、豪といたい」
「・・・アニキ」
「豪と離れるのが恐いくらい・・・」
こんなことで豪に涙をみせるの、めちゃくちゃ恥ずかしいけれど。
それより嬉しい気持ちが大きすぎて。
「それくらい、豪のことが好き」
Peridot;
ペリドット:
・・・・暗闇から守ってくれる太陽の力を備えた宝石。
AM0:00。
Happy Birthday,Go!
−END−
普通の誕生日小説にはしたくないぜ、こんちくしょー。
と、思って挑んだわりにはベタな・・・(笑)。
烈の誕生日には豪が幸せだったので、逆バージョン。
★NOVELのTOPへ戻る★HOMEへ戻る★