「スキ」の裏側で・・・






                                           〜豪〜

それは些細な事だった。


思い出そうとしてもなにが原因だったのか?


1度だけ・・・・たった1度だけ大喧嘩の末に・・・・


・・・兄貴・・・・を殴っちゃった事があった・・・・


    「・・・っく!・・なんで!なんでそんな・・・兄貴の・・・兄貴の馬鹿っ!!」
     
                           バチッ!

なんだか小気味のいい音がして兄貴が・・・尻餅をついた。

                           ドサッ!

キョトンとする兄貴・・・・
俺の方は俺の方で殴っちゃった瞬間、頭の中が真っ白になって、さっきまで罵り合ってた事も忘れて・・


     「あ・・・・っあ・・・あにっ・・き・・・!?」


何をどうしていいのか分からなくって・・・・
ただ震える両手を兄貴の方へ向けながら、頬を赤くしたその表情を揺れる視界に留める事しか出来なかった。

兄貴は尻餅をついた途端はキョトンと俺を見上げていたけど、うつむいたまま黙ってしまった。

俺の中で一番大切にしていたものを・・・・俺自身が汚した・・・けなして傷つけてしまった・・・・

     「あ・・・・あ・・・あぁ・・・・」 

                            ストンッ

両膝から力が抜けて、何も考えられずにアニキの前に座り込んでしまった。
それからの事は覚えちゃいない。

ただ一つの事を除いては・・・・





                                            〜烈〜

あれはいつの事だっただろう?

初めて豪が僕のことを叩いてくれたのは・・・

2人の喧嘩になるといつもそうだった・・・どっちに否があっても・・どうしても僕の優勢になってしまう。
口数・・・兄としてのプライド・・・そんな物が先に立って結局・・・

       "許してやる"       "許される"

そんな形になって・・・僕は別の意味で豪との喧嘩だけはキライだった。

人前で小競り合いをするのは本心からでは無かったから・・

僕は甘えていたんだ・・・・豪の"強さ"に・・あの・・いつのまにか僕を追い越して広くなった背中に・・・・





でも・・・・・そぉ・・・あれは寒さも和らいできた3月・・冬の終わり・・・・

原因はあまりにも些細な事だったけど僕は豪と大喧嘩をした。
言い合っているうちにだんだん険悪になっていって・・・

     「だから豪のそういう所がキライなんだよっ!最初っからそんなこと僕に言うなよっ!」

無下にそう言い放った瞬間・・・

     「・・・っく!・・なんで!なんでそんな・・・兄貴の・・・兄貴の馬鹿っ!!」

左頬に走る熱さ・・・思っても見なかった衝撃で僕は尻餅をついてしまう。
それから呆気に取られたような、自分でも笑ってしまう格好で豪を見上げて、そして・・うつむいてしまった。

でも、それからだ・・・・豪が震えだして、みるみる顔から生気が無くなっていって・・・・

                            ストンッ

糸が切れたマリオネットみたいに虚空を見つめたまま座り込んでしまった。

     「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

相変わらず状況が飲み込めない頭の中をひとまず整理して豪に話しかける・・・

     「・・・・・・・・・・ごぅ?・・・・・・・・」

反応がない・・・・

     「豪!聞いてるのか?・・・豪!」
     「ごぉ・・・・?」

まったくの無反応だ。

     「どうしたんだよ?・・・・豪?」
     「なんとか言えよっ」
     「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
     「豪・・・豪っ!」

僕は豪の異常な事態をやっと飲み込めて肩をゆすって豪に叫びかける。

     「豪っ!僕は大丈夫だから・・・・だから、豪!」
     「豪っ・・・・なんか言ってよっ!答えてよっ!豪!」
     「ごぉ・・・・・・・ごぉ・・・・ウック・・・ねぇ・・」
     「ごぉ・・・・」

何を言っても、揺らしてもマネキンのように豪はただ光を無くした瞳で虚空を見つめたまま、なすがままになっていた

     「ごぉ・・・ヒック・・・・・・なんとか言ってよぉ・・・・ヒック・・・」
     「ごぉ・・っふ・ぇぇ・・・ごぉ・・」

真正面から豪に抱き着き名前を呼びながらただ泣く事しか出来なかった・・・




                                            〜「そして・・・」〜


日が暮れかけるというのに2人のシルエットは動きらしい動きを見せてはいなかった・・・・

     「ごぉっ・・・ごぉ・・・ウック・・・ごぉ・・・・」
     「・・・・・・・・・・・・・」
     「・・・・・・・・・・・・・」
     「・・・・・・・・・れっ・・・・・・・・ごめ・・・・・・・ごめん・・・・・・・・れつあにき・・・・・・・・・・」
     「ごぉっ!・・・・・・・ごぉ!」

豪の瞳にゆっくりと光が宿り出す。
ハッ!と気付いた豪は両手で自分の顔をおさえながら狼狽しきった顔で

     「俺・・・・烈兄貴・・・・殴っちゃって・・・・こんなはずじゃなくって・・・・俺が悪くって・・・もう・・烈兄貴・・・こんな・・・」

瞳から涙が溢れ出し、豪は訳も分からず後ずさった。

     「もう俺は・・・・・」

一瞬の沈黙・・・

     「もう、俺は烈兄貴を好きでいちゃいけないんだ・・・・」

豪がそんな事を言うなんて・・・・
烈は信じられないような表情で叫んだ。

     「違うんだ!違うんだよ豪!そんなんじゃないんだ!」

烈は思いっきり首を振り豪の肩を掴みながらに否定した。

     「でも、俺は大切なのに、大事なのに、こんなこと・・・しちゃって・・・」

豪は震える両手を見つめながらつぶやく・・・
その瞬間そんな豪の両手が前から覆い被さった影で暗くなる。

     「れっ!・・・れっ烈兄貴?」

気付いた時と同じ格好で烈が豪をきつく抱きしめていた。

     「・・・僕は豪がいなくちゃダメで・・・正直、豪に叩かれて嬉しかったんだよ・・・」
     「だから・・・だから豪だけが傷ついちゃいけないんだよ・・」
     「あれ?・・・僕・・なに言ってんだろう・・・でも・・・」
     「でも、豪・・・・・もう僕を一人にしないで・・・・」

涙をポロポロ流しながら烈はしゃくり始めた。

     「烈兄貴・・・・・」
     「許してくれるのか?烈兄貴?」

おびえた声で豪がおずおずとつぶやく・・

     「許すも許さないもないだろぉ・・・・ヒック・・・もぉ・・・・」
     「でも、これからは烈兄貴にこんな事したり・・・泣かせたりしないよ・・・約束するから・・・今日は・・・ごめんな・・」
     「僕も・・ごめんね・・・豪・・・」


徐々に日が落ちてゆく夕暮れの中、2人して顔がくしゃくしゃになるまで泣きはらしながらお互いの「思い」を
実感した・・・






3月の暖かくなり始める季節にあったお話。



                                          FIN

From ムリ×2



もーっ!豪ってば烈のこと好きすぎぃっ!! 2人の「スキ」が深くってなんだか切ないです。ほぅっ。←ため息 「習作」とは本人の弁ですが、そんなこと全然ないですぅ(>_<)! ラブラブスイートな星馬兄弟をありがとう、ムリムリさん!! <by あいこ>    ★NOVELのTOPへ戻るHOMEへ戻る