そして迎えた、4月10日。 俺がウキウキで家に帰ると。 あれ? 俺様計画では玄関で待ちかまえてる予定の烈兄貴はいなかった。 ま、食事の後、部屋で。っていうパターンもありだよな。 キッチンで夕飯の支度をしている母ちゃんに帰宅を告げる。 やはり今日は張り切って料理してるらしく美味しそうな香りに ますます上機嫌になりながら俺は自室へ引き上げた。 隣の部屋に居るはずの烈兄貴のことを想うと気持ちがソワソワして落ち着かねぇ。 烈兄貴を一層ヤキモキさせる為に最近は故意にあまり話をしないようにしていた。 今日は久々に話ができると思うとそれだけで浮かれてしまう。 ・・・・・・自分でしむけたコトに自分がハマってどーする、俺。 で。 誕生パーティーという年でもないけどそれなりに豪華な夕飯も食った。 あつーい風呂で疲れもとった。 そして、俺は今、リビングでクソ面白くもないTVを一人で見てる。 ・・・・・・烈兄貴は何も言ってこない。 食事の前に顔を合わせたとき、兄貴が言った言葉は 「なんだ、今日は珍しく早かったんだな」だった。 もしかして、全然気にされてない? このままだと、上手いタイミングもつかめずにプレゼントも渡せないままに今日が終わってしまう。 ほんまつてんとう。 うまいこと漢字変換できないけどそんな言葉が頭に浮かんだ。 このままプレゼントが渡せなかったら、烈兄貴とロクに顔もあわせず、遊びにも行かず バイトしてきた俺の春休みの意味って・・・・・・。 珍しく暗い考えになり、激しく頭を振る。 こうなったらシナリオ変更だ。 とりあえずはコレだけでも渡さなきゃな。 コンコン。 「烈兄貴?」 結局後ろ手にプレゼントを持ちながら烈兄貴の部屋を訪ねた。 少し前に風呂から出てたみたいだら、今は部屋にいるはずだ。 中からの返事を待って、ドアをあける。 「どーしたんだ、豪。 お前がノックなんかして部屋入ってくると気味が悪いぞ」 うっわー、久々の2人きりで最初に見せる顔がそんな嫌そうな顔ってどーよ。 「いつも『ノックしろ』ってうるさいのは誰だよ」 「うるさく言われてるのに一向にそういう習慣が身につかないのは誰だよ?」 むっきぃー!って、今日はこんな言い争いをしに来たんじゃねぇ。 コホン。 咳払いひとつ。 俺の神妙な態度に不審そうな目を向ける烈兄貴。 「あ、あのさっ、今日って・・・」 「・・・あぁ、誕生日プレゼントでもくれるのか?」 烈兄貴、ビンゴッ!さっすが、頭イイー!でもよ。 ここは「なんだよ、今日って何かあったっけ?」とか言って首を傾げるのがお約束だろ?! そりゃぁ、オレだって、夕飯ん時にあんだけ派手にかあちゃんに祝われたら そんな台詞出てくるわけないのはわかってる。 わかっちゃいるけど・・・・・・あぁ、次々と俺の考えたシナリオが潰されていく。 「・・・・・・なんだ、その情けない顔・・・」 「兄貴にはきっと一生わかんねぇ男の哀しみってヤツだよ・・・」 「はぁ?」 「いや、あんま嬉しそうじゃねーからさ。烈兄貴」 「この年になったら誕生日なんてそうたいしたイベントでもないだろ? 小学生じゃあるまいし」 「そーじゃねーだろっ」 「何なんだよ」 心底わかんないって顔。 ・・・・・・烈兄貴がこの顔と優しい物腰の割に女の子と縁薄なのはこういう性格のせいだと俺は思う。 それはそれで俺にとっては都合いいけど、自分が被害者となると話は別だ。 この年になったから嬉しいんじゃねーか。 恋人に祝って貰うのって特別だろ。 「兄貴は・・・俺に祝ってもらうの嬉しくないのかよ」 「そんなこと言ってないだろ」 「・・・・・・ガキの頃の誕生日にあげたミニ四駆のパーツと 今年のプレゼントじゃ意味が違うだろ?!」 「何が違うんだよ?」 「・・・・・・」 「だからその顔ヤメロって・・・」 情けない顔にもなるっつーの。 こんな色気のない「恋人の誕生日」って一体? それでも、ここまで言われても。 せっかく烈兄貴に似合うと思って買ってきたプレゼントを そのまま持って帰るのももったいなくて。 「コレ、プレゼント」 多少、恨みを込めた目を向けながら、キレイにラッピングされた包みを ため息と共に烈兄貴に手渡す。 それを受け取った兄貴が可愛い笑顔で発した言葉は。 「毎日あんな遅くまでバイトしてたんだから、そーとーいいもんなんだろうな?」 あ、今日初めての兄貴の笑顔ーって、そーじゃねぇって。 バイトのことバレてんじゃん。 あーもー、いいとこ無いじゃねーか。カッコ悪ぅ。 しかも、ありがとうもなし?! 俺の気持ちを知ってか知らずか(いや、あれはきっと分かっててやってやがる)、 開けていいかー?なんて聞いてくる兄貴の小憎たらしいこと。 散々悩んだあげく、俺が兄貴に選んだのはシルバーのプレートがついたネックレス。 シンプルなデザインが絶対烈兄貴に似合うはず。 中身を手に取った烈兄貴はそれを眺め、箱だけを机に置くと そのネックレスを俺の手に戻し、くるっと背を向けた。 ・・・・・・気に入らなかった・・・ってこと? もう兄貴の言葉はおいといて、ただ喜んでくれさえすればいいや。とゆー 星馬豪とは思えないような殊勝な考えもうち消された。 自分の行動が全て空回りしてる、この切なさ。 あー、泣きてー。 「つけて」 だいたい、兄貴は俺に対してちょっと冷たすぎなんだよ。 いくら俺だって、そんな態度ばっかされてたら・・・ってあれ? 今、兄貴何て? 「オレ、そーゆーの止めるの苦手だから、豪つけて。って言ってんの」 背を向けたまま顔だけを振り返らせ、それだけ言うと、また顔を戻す。 俺は手にあるネックレスと風呂上がりでうっすら色づいた兄貴のうなじを見比べながら、 兄貴の言葉を反芻した。 「豪?」 もしかして、プレゼントが気に入らなかったというわけでは・・・なく。 し、しかもこれは・・・プレゼントをコレに決めたときから絶対やってみたかった (でも今までのやりとりで半分以上諦めていた)シチュエーション! それだけのことで、単純な俺はHP回復。 ゆっくりと烈兄貴の胸元にプレートが来るようにチェーンをまわして、 うなじの所で留め具をかける。 「できたぜ」 自分の首にかかったプレートを指で持ち上げて。 「結構シュミいいじゃん。 ・・・サンキュ」 相変わらず、背を向けたままだけど。 後ろからでも耳が赤くなってるのは丸わかりですよ?お兄さま。 っかー。 なんてーか、もう、さすが烈兄貴。 俺の頭の中の烈兄貴なんてメじゃねー可愛いさ。 思わず、後ろから抱きしめちゃうくらい。 「気に入ってくれた?」 「まぁな」 後ろから抱きしめる形で兄貴の肩に顔を乗せると、兄貴がこちらに顔を向けた。 なんだよ、そんな至近距離に顔もってくっと調子乗るぞ。 隙をついて烈兄貴の唇を啄もうとした時。 顎を乗せていた肩がスッと抜けた。 当然バランスを崩した俺は前のめりに倒れそうになる。 なんとかバランスを保とうと後ろに重心をかけ、反対に尻餅をついてしまった。 烈兄貴はそんな俺を見てバカ笑い。 くっそー。 やっと笑いの収まった兄貴は目線をあわせるように俺の前でしゃがみ込む。 胸元に光るプレート。 うん、やっぱ似合う。万歳、俺のセンス。 「ありがとう。すごく嬉しい」 たまにしか見せない本物の笑顔。 俺、結構兄貴の言葉に怒ってたはずなのに・・・ ヤベー、めちゃめちゃ嬉しい。 「でも・・・・・・」 「・・・・・・?」 ・・・せっかく今日までの苦労が報われたのに「でも」なんて言葉聞きたくねーなぁ。 「昔もらったミニ四駆のパーツだって同じくらい嬉しかったぞ?」 可愛いらしく俺の顔のぞき込んで、上目なんて使っちゃって。 かなわねーよ。降参だ。 そーだよ。あれだって、あの時の俺なりに精一杯兄貴が喜びそうなモノって考えに考えて。 その想いは今兄貴の胸にかかってるペンダントに込められてるものと変わらない。 年を重ねるごとにその想いは深まっていったけれど根本は変わらない。 「そーゆーことは、わかりやすく言ってくれよ。意地悪兄貴」 「言われなくてもわかれよ、バカ弟」 そーかよ、俺が悪いのかよ。 まぁ、せっかくの誕生日だし・・・今日はおとなしく引き下がるか。 「誕生日、オメデトー。烈兄貴」END コンセプトは悪女とそれに振り回されるバカ男(死)。 きっと豪がバイトとかしてるの、烈にバレバレだと思うのですよ。 (豪の考えるベタで甘々なのも捨てがたいけどねぇ・笑) でもー、バレバレでもなんでも関係ないの! 豪が自分の為にしてくれることはなんでも嬉しいの!(夢) でも、それを表に出さず(出てるけどな)、手のひらで転がすのが悪女の醍醐・・・ごふ。 最初は烈、もっと冷たかったんですが、あまりにレツ×ゴーっぽくなってしまい、 豪に祟られそうなので少し甘めにしてみました☆(どこが?) しかし、かえって豪がへなちょこになりすぎた気が・・・豪ファンの方、堪忍してくだされ。 そんなわけで烈ちゃん、ハッピーバースデー! ★NOVELのTOPへ戻る★HOMEへ戻る★