「オレ、兄貴のこと好きなんだ」

もう親戚のおばさんだって、お世辞にも可愛いとは言えなくなった、バカみたいに成長した弟が、突然。
何の脈絡もなく、まるで口笛でも吹くような気軽さで。


兄の僕に告白した。





    ストームライダー





「・・・ってぇ!」

とりあえず。
僕は(あらゆる意味で)劇的な告白をしてくれた弟に拳で応えた。

豪はバカだけど、頭は悪くない(と、僕が思いたいだけかもしれない)ので、告白して想いが実ってハッピーエンド。
としか考えてないわけでもないだろう。
相手が女の子ならともかく、男同士だし、ってゆーか兄弟だし、ハッピーエンドの確率は恐ろしいほどに低い。
いくらなんでも、そんなことくらいはわかってる・・・ハズだと思う。

それでも、このムードも何もない告白が本気なのは、目をみたら嫌でもわかってしまった。
だって、この目をもう十何年も見てきたんだ。
間違えるわけなかった。



ふー。
ゆっくりと息を吐き出す。
落ち着け、少し落ち着け。


「・・・・・なぁ、烈兄貴?」
「ウルサイ」


そんなに強く殴りつけたか?
少し涙目になりながら様子を覗ってくる。
あぁ、その様子にも腹が立つ。
そう、腹が立つ。

なんで、僕が弟に告白なんかされなきゃいけないわけ?
僕はさ、こう言っちゃなんだけど、成績は悪くないし、
運動神経だってそこそこいいし、女の子の友達だって何人かはいるし
そりゃ、今は彼女はいないけど、そのうち可愛い子と付き合って・・・
ってゆー、健全な未来を展開するはずなんだ。
それを、このバカは・・・

「なぁ、烈兄貴ってば・・・・聞いてた?俺の・・・・」
「聞いてたよ、聞いてたから怒ってるんだろ?!」
「お、怒る・・・?なんで怒るんだよ!
 そりゃ、もしかして嫌がるかなとは思ったけど、怒ることないだろ?!
 俺、真剣なのに!」
「ウルサイッ!お前が真剣かふざけてるかなんて
 見ればわかるんだよ、お前の兄貴何年やってると思ってるんだ?
 わかるから腹がたつんだろ?
 いいから少し黙ってろっ!」



ムカツク、ムカツク、ムカツク!
お前はいつだって、そうだよな。
何も考えないで核心をつく。
だって。







  豪に好きだと言われて嫌なわけないんだ。







シュチエーションこそ、ムードもなにもなかったけど。
言葉だって、何の捻りもない陳腐なセリフだったけど。
それでも。




あんな目で「好き」だと言われたら。





周りの目とか、
両親とか、
社会的立場とか
世界とか。
そう、豪以外のものは全部。

もうどうでもいい、とか思っちゃう自分を知ってる。






豪が言わなきゃ自分からなんて絶対言うことなかったのに。
そうすれば、こんな嵐に巻き込まれることもなかったのに。
僕の平穏な日々が遠ざかってゆく。



「豪、もうちょっとコッチ来い」


とりあえず、きっと誰もが羨む輝かしいものになるはずだった未来を奪った豪に
もう1発くらいは制裁を加えてやっても罰はあたらないと思う。


「ってぇな!だからなんで殴るんだよ!」
「ムカツクから」
バッサリ切り捨ててやると、喧嘩腰だった声が急にしぼんだ。
「・・・・・・・・・・俺の告白、そんなにヤだった?」
肩を落として、あまりに頭を落ち込ませるものだから
無駄にでかくなった体がいつもより、ふた回りは小さく見える。
「豪、顔あげろよ」
それでも、顔をあげるのを逡巡してる。
「顔、あげろ」
畳み掛けるように言うと、ほんの少し顔をあげた。
情けない顔して。
でも、そんな顔でさえ嫌いじゃないと思うんだから、
いいかげん僕もどうかと思うよ。
コレはきっちり責任とってもらわないと。
のろのろと顔をあげる豪の目をしっかり見据えて。



  「浮気したら殺してやる」



そう言ってやると、視線を合わせていたその目が大きく見開いた。
それに少し気分をよくした僕は少し背伸びして豪に口付けた。


そう、まるで。
口笛を吹くような気軽さで。






<END>




久々にショートショート。
いつもは烈の拳がオチなので、開き直ってそれをメインに持ってきてみました(爆)。
チャレンジ要素がいろいろ入ってるので
いつもと作風が違うかも。・・・いや、あまり変わってないか?
豪、正月そうそうこんなんですまん。

今年もウチの姫はワガママ(つーか自己中)で暴力的で悪一直線な可愛いヤツ(意味不明)です。





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