奇麗な朝焼け。 燃えさかる炎。 回る警告灯。 誰の目をも引きつけて離さない、君の心。 Red 「・・・・・兄貴。ホントに全部食えんのか?」 「さぁ?」 おいおい、人に金出させといてそりゃねーだろ。 目的のビーチへ着くと、既にかなりの人がいたが オレ達は木陰になってるなかなかのベストポジションに2人分のスペースを確保した。 兄貴が腹減ったというからとりあえず腹ごしらえ。 が。 朝食抜きだったからって、男にしては食の細い烈兄貴が こんなに食えるのか?って量だ。 「だって、お前がおごってくれるなんて一生に何度あるかわかんないじゃん。 食べれるときに食べておこうと思ってさ」 「オレの場合は、兄貴みたいにケチで奢らないんじゃないの! 奢りたくても、先立つものが・・・・・」 「そっちのほーが、悪いだろ・・・」 焼きそばをパクつきながら呆れ顔だった烈の顔が思案顔に変わる。 「そーいえば、お前よく旅行に来る金なんかあったな?」 「ん、まぁなー」 当たり前だ。 その為に部活の休みは全部日雇いのバイトに注ぎ込んだんだから。 この連休だって、監督に頼み込んでやっっと許可がおりたのだ。実は。 「ふぅん?」 納得いってないようだが、特に追求もない。 こういうときは要注意。 兄貴のヤツ、自分で勝手に仮説をたてて落ち込んだりするから。 「ふぅー、もーお腹いっぱーい!」 「ほらみろ、食べきれなかったじゃねーか」 「豪・・・その残りを頬張りながらのセリフはいまいち説得力がないぞ・・。 ほら、豪が食べればちょうどいい量だったじゃん」 計算通り、計算通り、とか言ってるわりにオレと目をあわせようとはしない。 こーゆートコ、調子いいよな、烈兄貴は。 「お腹いっぱいになったら眠くなっちゃったなー。 ボク、ここで少し寝てるからお前泳いでこいよ」 「なんだよ、一緒に泳ごうぜー!2人で来た意味ないじゃねーか」 「後でボクも行くってば」 「〜〜〜じゃぁ、オレも昼寝してからにする・・・・・」 「お前、子供じゃないんだからそれくらいで拗ねるなよ」 呆れた目でオレのこと見ながら、タオルを置いて腰をあげてくれる。 「ちょっと入ったら、ボクは休むからな」 そう言って差し出された手を取って、オレは自分のわがままが通ったことに満足する。 どんなに文句言っても、最後にはオレのわがままきいてくれる。 これは、確認作業。 でも、オレはすぐに、無理に兄貴を海に入れたことを後悔した。 「・・・寒い・・」 タオルにくるまってる烈の唇は真っ青で。 ガタガタと震えてる姿は豪の胸をしめつけた。 朝、体調良くないって言ってた。 それを知ってたはずなのに、無理させた。 いつだって、オレのワガママで我慢するのは兄貴のほう。 オレは気づかないうちに、兄貴を追いつめる。 警告灯が灯る。 赤い光が頭の中でうるさく、まわる。 これ以上近づいたら・・・。 誰も・・・、彼を傷つけちゃいけない。 「なぁ、今日はもう旅館戻って、休んだ方がよくねーか?」 「・・・少し休めば平気だよ」 「でも・・・」 豪がやっぱり今日は戻ろうと言いかけたときに、烈が豪に身体を預けてきた。 「こーやって暖まってれば、すぐ治るから」 兄貴はズルイ。 そうやって、たった一言でオレの決心をうち砕く。 ××× ××× ××× 結局、今日は休み休み海に入って旅館に戻ることにした。 旅館に戻ると家から俺に家に電話を入れろという伝言が残っていた。 『昼間、今度の集合時間変わったって部活の子から電話がきたのよ』 「そんなの、家帰ってから伝えてくれればいーじゃん」 『次の子の連絡先がわからなかったんだよ。お前、わかるようにしておかないから』 「あ、そっか。んじゃ、オレからまわしておくよ。サンキュー」 『それから、烈、元気そうかい?」 「?あぁ」 『2、3日前に熱出したばっかりだったからちょっと心配でね』 「熱ぅ?!って、どんくらいだよっ!」 『たいしたことないって言ってたから、そんなに心配する程じゃないとは思うけどねぇ』 また、やった。 兄貴と出かけられることに有頂天で、気遣ってあげられなかった。 どうして、いつも。 グルグルと回る警告灯。 誰よりも大切にしたいのに。 オレが。 他の誰でもない、オレがアニキを追いつめる。 いっそ近づかなければ、傷つけることもないけれど。 あの、自分を惹きつけてやまない紅が。 それさえも許さない。 アニキは強いから。 誰よりも激しい強さで、オレが守りたいのに、守られてばかりで。 「豪ー、電話終わったのか?」 「あ、あぁ・・・」 先に部屋に通されていたアニキが、帰りの遅いオレを呼びに来たようだった。 オレを見つけて近づいてくる。 「早く荷物片づけて、お風呂いこー」 「・・・風呂なんか入って平気なのかよ?」 「は?」 「熱、あんだろ?」 「・・・とりあえず、部屋戻ろーよ」 「なー、なんで言わなかったんだよ」 「・・・母さん、豪には言わないって約束してたのに」 ふうっとため息をついて、部屋に出された座布団の上にちょこんと座る。 「あ、お茶菓子おいしそー。豪、食べる?」 「烈兄貴!」 いたずらが見つかった子供みたいにオレのことを見上げる。 いつもだったら、そんな仕草も可愛くてしかたがないけど 今は、無性に苛立たせるだけだった。 「別に、たいした熱じゃなかったから。もう下がってるし言う必要もないと思って」 「たいしたことないなら、言っといてくれたっていいだろ?!」 「だって・・・言ったら、お前必要以上に心配するだろ?」 「するに決まってんじゃん。 オレのせいで、アニキに無理させたくないんだよ。 どーしてわかんねーんだよっ!!」 しゃがみ込んで、兄貴の肩に手をかけようとしたところで 反対に、兄貴に襟刳りをつかまれた。 「自惚れんなよ?」 「オレは、別に豪のために無理した訳じゃない。 そりゃー、まだちょっと体はつらかったけど、それでも、オレは豪とココに来たかった。 オレが来たかったんだ。豪にあわせたわけじゃない。 お前こそ、そんなこともわかんないのか?」 一気にまくし立てる烈に一瞬気圧されるが、こっちにも言い分がある。 「だったら、そう言ってくれれば良かったじゃねぇかよ。 そしたら、無理に海に入れたりしなかったし、もっと気ぃつかえたのにっ」 「お前がオレの立場だったらそうするのかよ?」 「それは・・・」 もし、自分が熱を出してたら? やっぱり、自分が無理をしてでも、兄貴に笑っていてもらいたい。 それは、そうだけど。 それでも、やっぱり、悔しい。 何もできない自分が。 「でも、やっぱり、オレは兄貴に全部言って欲しかった」 豪がそう言うと、烈は、豪のシャツからぱっと手を離すと顔を俯けた。 「お前、全然わかってない」 オレの気持ちをわかってくれないのは兄貴の方じゃないか。 オレはなんだか泣きたくなった。 「お前は、ボクがどんなに豪のこと好きか、全然わかってない」 え? 「休み入ってから、全然、顔会わせることもなくて・・・ ボクがどんな気持ちだったかわかってるのか? 豪が、海に誘ってくれたとき、どんなに嬉しかったかわかるか? 自分ばっかりが好きなんだと思ったら、大間違いだっ」 烈は自分の想いを言葉にするうちに感情が昂ぶってきたのか 段々と語尾がきつくなる。 でも、その言葉に反して、目は揺れていて。 この、強い兄にこんな目をさせるのは自分だけ。 そして。 「熱で倒れるより、豪に会えない方が、辛いんだ。 朝、"1分でも、1秒でも、長く一緒にいたい"って言ったのはお前だろ?」 この不安に揺れる目を、癒せるのも自分だけ。 「そのくらい・・・わかれよ」 ならば、自分はもう少し、烈の側にいてもよいのだろうか? 「バカごー・・・」 「烈兄貴っ?!」 ふっと、体から力が抜けた烈を支えるように抱きとめる。 「・・・熱、あがってんじゃねーか」 意識を飛ばしている烈の、苦しげな息づかいに 胸をしめつけられた。 こんなに、無理をしてでも自分といたいと言ってくれた烈を。 自分の無力さを悔やむ気持ちは消えないけれど。 それよりも、切ないほどに嬉しい気持ちが勝っていて。 さっきまで、烈から離れようなんて、 どうしてそんなバカなことを考えたのかと失笑する。 「俺、もっと強くなるからな」 熱で汗ばんだ烈の額に軽く口付けると、 烈を横にさせて、布団を敷く準備を始めた。 ××× ××× ××× 「・・・・ん・・」 烈の身動きする気配に気づき、豪はフロントから持ってきて なんとなく眺めていた雑誌から目を離した。 「兄貴、目ぇさめたのか?」 「・・・ごー・・?」 焦点の定まらないまま、体を起こす。 まだ、だるそうだ。 「起きて大丈夫なのかよ」 豪は慌てて烈に駆け寄るとその上体を支えた。 「ん、大丈夫・・・どんくらい寝てた?」 「2時間くらい」 「豪、飯は?」 「兄貴が起きてから、と思ってまだ。 飯、食えそう?」 「あー・・・うん、食べれる、と思う」 まだ寝ぼけてるっぽいけど、思ったより体調は悪くなってないようだ。 「じゃー、オレ用意してもらうよーに、フロントかけるわ」 「あぁ・・・」 フロントに連絡すると、部屋まで食事を運んでくれるということだった。 食事の時間は過ぎているのだが、兄貴が熱を出していることを 伝えてあったため、片づけないでおいてくれたらしい。 「兄貴、こっちに運んでくれるってゆーから、ちょっと布団片づけるぞ」 「・・・ん」 起きたときのままの状態だった烈はのろのろと布団から出た。 「・・・ホントに大丈夫なのかよ?兄貴・・・」 おおよそ、いつもと雰囲気の違う烈にとまどってしまう。 また熱が上がってきてるのだろうか。 「へーき」 いつもより、言葉数が少ない。 もしかして、まだ、怒ってるのか? 「ごー・・・」 「あー?」 兄貴の寝ていた布団を端っこに寄せながら振り返る。 「あー・・のさ、さっきは・・・・」 俯いたまま、目を合わせようとしない烈が言いにくそうに口を開く。 ついさっきはあんな烈しさを見せたのに。 「なんだよ?」 なるべく、優しく声をかける。 「・・・・ごめん・・な」 かすかに頬を染めて聞き取るのがやっとなほどの声でつぶやく。 その姿は、すごく可愛い・・・・が、自分は謝られるような心当たりがない。 自然、即答してしまう。 「・・・・何が?」 「な、何がって・・・わかんないなら、もー、いーや。 とりあえず、オレは謝ったからな。後でぐだぐだ言うなよ」 「何だよー!わかんねーもんはわかんねーんだからしかたねーだろっ」 「お前に気ぃ使ったオレがバカだったよ」 と、ため息までつく。 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだ・・・。 「豪、頭の悪いお前のために言葉を変えてやるよ」 頭の悪いは余計だろー! 兄貴はだいたい言葉が少なすぎるんだよ。 「心配してくれて・・・ありがと、な」 「へ?」 ほっぽってあった枕を拾いあげながら、 近づいてきた兄貴の唇が頬にあたった。 「えっと、つまり・・・・え?」 まだあまり意味のつかめていないオレを置き去りにして 兄貴はくるっと方向転換すると端に寄せてあったテーブルを出してきて 座布団なんかを用意し始める。 その姿をぼぉっと見ながら、少しずつ、頭の中を整理してみる。 つまり、兄貴が言いたかったことは・・・。 「烈兄貴ーっ!!」 「うわっっ」 お茶の準備をしていた烈に後ろから抱きつく。 「危ないだろーっ!何すんだよっ」 「オレさ、烈兄貴のこと、すっげー好きなんだ。 知ってた?」 「知ってる」 「そっか、よかった」 と言って、兄貴の顔をのぞき込みながらオレは上機嫌で笑う。 オレ、頭悪いからさ。 難しい言葉って知らない。 でも、言葉なんていらないだろ? 「まったく、お前には参るよな」 そう言いながら笑う兄貴の顔は、可愛い。 兄貴の顔はどんなんでも好きだけど、やっぱ笑ってるのが一番イイ。 1日を連れてくる奇麗な朝焼け。 力強く、燃え盛る炎。 安心をくれる、明るい灯。 それが君の心の色。 キミの紅に触れていられる、心地よさ。 たまにはワガママ言ったり、言われたりして。 不安になって、泣いたりして、 それでも最後には自分の力で笑わせてあげるから。 I'm diying for you・・・! -END-
昔出した本の原稿を発掘したので改訂してリサイクル。 しかし、あまりに古いので恥ずかしいです。ぎゃー。 ◇aiko's NOVELのTOP◇NOVELのTOP◇ペケペケHOME◇