やさしい罠
「俺はお前のことがキライだ」
「俺だって、烈兄貴のことなんか好きじゃない」
これが、僕の精一杯。
お話をしようじゃないか お前が望まなくても
いつもの様にぶちまけろ 白と言えば黒だろ?
幼い頃から隣で見てきた、その強さ。
周囲を惹きつけて離さない、その強さに感じる・・・憧れと軽い苛立ち。
いつか、オマエにむかう感情は形を変え・・・それはまるで焦がれるような。
初めて、豪が僕のことを好きだと言った時。
今までずっと側で見てきたのに、初めて見る表情で。
でも、それが嫌じゃなくて。
言葉を返す代わりに抱きついた。
数え切れないほどキスをした。
優しく笑かけられると幸せで。
ただ、ただ、嬉しくて。
今では2人の間に笑顔なんて存在しないのに。
それでも、豪は僕にキスをする。
唇が離れて。
瞼をあげて。
最初に目にはいるのは、冷めた眼差し。
そんな目で。
僕を見降ろすのなら、
こんなキスをして欲しくない。
そんな目で。
「キライ」だと言い放つのなら、
豪なんて、いっそ、この世から消えて無くなればいい。
豪さえいなければ、僕だってこの世に未練がなくなるし?
それは、哀願に近かった。
「頼むから、目の前から消えてくれ」
相変わらずの冷めた眼と。
ほんの少し、口の端をつり上げて。
「兄貴の方こそ、俺の前に現れんな」
胸の奥に起こる小さな痛みより、
同じ強さで突き放されることで得る安堵を欲してる。
本当に、豪がいなくなったら自分はどうなるのか。
そんなこと、わかりたくもない。
今、この一瞬の居心地の悪さから助けて欲しいだけ。
豪の強さとは違う、豪にはない、自分の確固たる強さを信じてた。
なのに、お前の前ではそれがひどく脆く見える。
噛みつくようなキス。
自分が自分でなくなってしまいそうで。
なのに切ないほどに優しい。
たまらなく恐いんだ。
だって豪といると、僕は。
それなのに。
ふと、そんな優しい目で僕を見るから。
だから、お前から離れられない。
「俺はお前のことがキライだ」
「俺だって、烈兄貴のことなんか好きじゃない」
これがキスの後の会話かよ?
お話をしようじゃないか お前が望まなくても
いつもの様にぶちまけろ 白と言えば黒だろ?
ひとつも似たところなんかなくて。
ぶつかれば、互いを傷つけあう。
それがわかっているのに、それでも気が付けば君を求めてる。
求めて、反発して、以前よりもまた少し距離があいて。
少しずつ、すれ違ってく。
それは、何かに仕組まれた・・・・・・重くて暗い罠。
俺は、兄貴にキスをする。
だって、俺は兄貴を好きだから。
兄貴は俺に笑わない。
俺も兄貴に笑わない。
キスの後、視線を外しながら、恥ずかしそうに頬を染めて。
あれは、いつのことだった?
兄貴の、綺麗な笑顔。
今は。
まっすぐに、俺を見つめて言い放つ。
「俺はお前が嫌い」だと。
兄貴が何と言おうと俺は兄貴が好き。
好きだけど。
好きだから。
俺のことを必要としない兄貴なんて、消えてしまえばいい。
最初からいなければ、今よりはラクになるだろ?
優しい、眼差し。
穏やかな空気。
髪を梳く細い指。
いつからだろう?
俺達は、何かを忘れてる。
タブーを犯してもかまわないと、そう思えた、あの時の甘い・・・。
触れあう素肌。
明るい笑い声。
俺は、兄貴にキスをする。
だって、俺は兄貴を愛してるから。
冷たいキスの後に烈兄貴の顔を覗き込む。
視線を合わせると、顔を伏せ目線を逸らした。
その一瞬にキッと唇を噛みしめてから
再度顔をあげたその目は半ばこちらを睨み付けるようで。
「お前なんか、大嫌いだ。
お前といると・・・僕は・・・
豪のせいで・・・僕はおかしくなる・・・ッ」
強かった視線はおそらく本人の意志を裏切って、
今にも泣きだしそうになっていて。
それは衝撃だった。
まるで、真夏の雷に全身を撃たれたような。
好きで好きで苦しくて不安で。
互いがいないと生きていけないことが恐くて・・・暗闇へと逃れた。
好きで、好きで、好きで・・・・こんなにも胸がイタイ。
そう思ってるのは自分だけじゃないんだと。
わかった瞬間に、その身体を抱きしめていた。
誰かを信じ抜くことは ヘビーなことなんだね
いつもの様にぶちまけて 白と言えば黒でしょ?
君が君だから、こんなにも愛しい。
そんな簡単な事を忘れてしまった俺への、これは警告。
どれだけすれ違っても、一つのことだけわかっていればいい。
何度も何度も、心が触れあう度に仕組まれる。
それは、君が仕掛けた・・・・・・やさしい罠。
END.
***********************
大昔にランマちゃんに送りつけたブツを
ちょこちょこと手直しして再アップ。(セコイ)
今読み返すと、よくもまぁこんな暗い話をお祝いの品に送ったもんだ。
と、我ながら恐ろしいです。
ごめんね、ランマちゃん。(今更謝っても・・・)
あいこには珍しい(?)倦怠期話。
でも、最後はやっぱラブラブ。(そ、そうかなぁーー;)
タイトルはもとより、話全体が某曲のまんまです。
元は最後の最後まで歌通りだったんだけど
豪らしくなかったので変えましたー。
◇aiko's NOVELのTOP◇NOVELのTOP◇ペケペケHOME◇
|