名作パロ劇場第5弾。
今回のコンセプトは原作(Disney)に忠実に!
あいことランマちゃんの合作です☆



「美女と野獣」




昔々、あるところに超わがままな王子さまがいました。
王子さまは夜な夜な貴族の娘と遊び、
国の仕事もまったくせず、
城のお金を使って好き勝手に過ごしていました。
 
そんな王子さまのところに道に迷った老婆が現れました。
 

「すみません、道に迷ってしまいました。一晩だけ泊めて頂けないでしょうか」
「おまえのような醜いばばぁをなんで俺が。
 そこらへんの草原で寝な」
 

なんということでしょう。
わがまま王子はその可愛そうな老婆を泊めてあげようとしませんでした。
王子が城の扉を閉めようとしたとき、
老婆の体が光に包まれ、それは美しい魔女に変身しました。
 

「なんだよお前っ!めっちゃキレイじゃねぇか!!
 ほら、城に泊めてやるよ」
「ばかやろうっ。お前のようなわがままな奴はこうだ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
 

魔女ジュリアナが持っていた杖を一振りすると、王子の体は醜い野獣へと変わっていきました。
 

「お前に少しでも優しさが残っていれば見逃してやろうと思ったが仕方がない」
ジュリアナが手をかざすとそこに赤いバラが現れました。
「・・う・・・ぐぅ・・・」
豪がジュリアナへ手を伸ばすとスッと彼女の姿は消え、
辺りに、その声だけが響きました。
「このバラの花びらが全て朽ちるまでにお前が本当の優しさを取り戻し
 誰かに愛されることができれば元の姿に戻してやろう」
「ぐあぁぁぁ」
 
 
 
それから長い月日が流れ―――――
 
 
 
「やぁ、烈。今日こそは俺のプロポーズ受けてくれるんだろう?」
「黒沢君・・・。何度も言うようだけど、ボク結婚なんてまだ考えられないよ」
「また本を読んでいたのか?」
 
黒沢はそう口にすると烈が持っていた本を取り上げ後ろに投げ捨てました。
 
「あっ」
「烈。本なんかより俺に興味を持てよ」
「・・・・」
「俺に惚れない女なんていないぜ?」
「残念だけど、ボクは君を好きにはならない。
 悪いけど、父の仕事の手伝いをしなきゃいけないんだ」
 
それじゃ、と軽く会釈をして烈は父の待つ家へと走り出しました。
 
 
 
「父さん、ただいまっ」
「おぉ、烈」
「新しい機械は完成した?」
「あぁ、ちょうど今完成したところだよ。
 お前にも苦労をかけたが、これが街で売れれば・・・」
「ボクは苦労なんてしてないよ。
 やっと今までの研究の成果が出たんだもんね。
 ・・・で、街へはいつ頃行くつもりなの?」
烈がやっと完成したという機械を興味深そうに
眺めながらそう聞くと改造は少し困ったような顔をしました。
「実はすぐにでも行ってきたいと思っているんだが・・・
 烈は、どうする?一緒に行くかい?」
「ボクのことは気にしないでよ」
「しかし、黒沢が・・・」
「大丈夫だってば。
 父さんだって早く街へ行きたいでしょ?
 ボクのことは心配ないから、行ってきてよ」
 
改造は烈に半ば強引に荷造りをされ
愛馬ソニックに荷を引かせ家を出ました。
 
「父さんの機械、売れるといいなぁ」
 
 
 

「困ったなぁ・・・ここはいったいどこだ?」
 
町に機械を売りに行った改造は、街の一歩手前の森で迷ってしまいました。
その森は暗く、深く、とてもいやな感じがしました。
改造が寒さに耐えながらも進もうとすると空から雨が降ってきました。
 
「これはいかん。ソニック、急いで雨宿りできるところを探すんだ」
 
ソニックが走り出したのと同時に、どこから獣のうめき声が聞こえました。
 
「なんだ・・・?」
 
改造がその声にソニックを止めたのと同時に周りの草薮の中から狼が出てきました。
慌てて改造はソニックを走り出させました。
しかし、逃げても逃げても狼はついてきます。
しばらく走ると前に大きな屋敷が見えてきました。
ソニックはその屋敷へ向かって走りこむと
改造を屋敷の敷地内へ放り出し、森の中へと走って行きました。
狼はソニックを追っていきます。
「ソ、ソニック・・・!」
ソニックを追いかけようにも柵の外にはまだ数匹の狼が
残っています。
改造はとりあえずその屋敷の人に助けを求めることにしました。
 
ドンドンドン!
屋敷の重厚な扉を叩きながら、改造は中の人を呼びましたが
応えは帰ってきません。
改造がそろりと扉に手をかけるとギギギ・・・と低い音をたてながら
扉が開きました。
雨に打たれ、身体の冷え切っていた改造は悪いと思いながら
その中へ足を踏み入れしまいました。
屋敷の中は不気味なほど静まり返っており、人の気配がありません。
「誰もいないのだろうか・・・・」
少し奥まで行くと灯りのついた部屋が1つだけ見えます。
その部屋をのぞくと暖炉に暖かな火が灯り、その近くには
ロッキングチェアがあります。
改造は上着を脱ぎ、少し暖をとらせてもらいました。
ロッキングチェアに揺られながらうとうとしていた改造は
人の気配を感じ、目を覚ましました。
なんだかヒソヒソ話が聞こえてきますが、近くに人がいる様子はありません。
「・・・どなたかいらっしゃるんですか・・・?」
改造が思いきって声をかけてみるとヒソヒソ話はピタッと止まりました。
不信に思い、もう一度声をかけてみようとすると
バタンと大きな音をたてて部屋のドアが開きました。
そちらに目をやると醜い姿をした恐ろしい野獣が立っていました。
 
「何をしているっ」
 
野獣は改造に詰め寄りました。
 
「勝手に入ってしまって申し訳ありませんっ」
 
改造は恐怖に震えながらも、今まで起こったことを野獣に伝えました。
しかし、野獣の怒りはおさまりません。
 
「お前を幽閉するっ」
「それだけは・・・!私には私の帰りを待っている娘がいるんですっ!!」
 
必死に許しをこう改造を無視して野獣は改造を城の最上階に幽閉しました。
 
「旦那さまっ。いくらなんでもあれはないと思います」
 
野獣の前に現れたのは火の灯った蝋燭でした。
 
「キサマ、この私に意見するのか」
 
そのあまりの凄みに蝋燭は何も言えなくなりました。
絶対に改造を外に出すな、と命令した野獣は闇へと消えていきました。
 
「エッジ君は馬鹿でげすな。旦那さまに逆らうなんて」
 
野獣と入れ替わってやってきたのは古びた時計でした。
 
「だって、あいつには娘がいるんだぞ?
 このままコイツを幽閉しててもしょうがないじゃないか。
 旦那さまにはもう時間がないんだ。そんなことも分からねぇのか、ばか藤吉っ!」
「エッジ君に言われたくないでげすっ。それくらいのことわてにだって分かってるでげす!」
「だったら・・・!」
 
「どっちにしても・・・」
 
二人のけんかを止めるようにポットが現れました。
 
「タイムリミットを過ぎれば旦那さまもあたし達もこのままよ・・・」
 
 
 
 
 
「父さん、今ごろ街に着いたかなぁ」
 
留守を預かる烈は、庭で読書をしながら街に出かけた父の姿を思い浮かべていました。
そんな烈に見覚えのある馬が目に入りました。
 
「ソニック!?」
 
それは森の中で改造とはぐれた愛馬のソニックでした。
ソニックはとても興奮していましたが、
烈が落ち着かせるように撫でるとゆっくりといつもの調子を取り戻し始めました。
父は?と尋ねる烈に、ソニックは烈のスカートを引っ張って反応しました。
 
「もしかして、父さんに何かあったの!?」
 
その言葉にソニックは大きく頷くと、烈はソニックに飛び乗りました。
 
「父さんを助けなきゃっ。ソニック、案内して!!」
 
烈の声に反応したソニックは来た道を全速力で戻り始めました。
ソニックの上で烈は必死に父の安全を祈るのでした。
 
 
 

「ここに、父さんがいるの?」
 
ソニックに連れられ、烈は父がはいったと思われる屋敷にたどり着きました。
その屋敷はとても人が住んでいる様には思えず、烈は入る気にはなれませんでした。
 
「あれは!?」
 
屋敷の扉には改造のマフラーが引っ掛かっていました。
烈はそのマフラーを取ると、この屋敷に父がいることを確認し扉を開け屋敷に入っていきました。
 
ギギギギギ・・・
 
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんか?」
 
重い扉を開け、人の応答を伺うけれど烈に答えを返してくれる人はいません。
けれども烈は部屋の奥に進んでいきました。
 
「ごめんくだ・・・」
 
烈の目の前に飛びこんできたのは醜い姿をした野獣でした。
そのあまりの醜さに烈は息を飲みました。
震える烈に野獣はゆっくり近づくと、低い声で烈に尋ねました。
 
「・・・何しに来た」
「ち、父を探しに・・・。表の扉で父のマフラーを見つけたんです。
 父はこの屋敷の中にいるのですねっ!?」
「お前はあいつの娘か・・・?」
「はい、烈と言います。父に・・・父に会わせてくださいっ」
 
烈は父に会いたいと必死にお願いしました。
しかし野獣はそれに応えては暮れませんでした。
 
「それは出来ない。あいつは私の屋敷に勝手に入ってきた」
「でも・・・」
「おまえが・・・」
「え?」
「お前が代わりにここに幽閉されるのであれば・・・お前の父親を逃がしてやってもいい」
「そ、そんなっ」
 
その条件を飲めないのであれば改造を屋敷から出すことは出来ないと野獣は言いました。
烈はしばらく考えて、野獣に答えを言いました。
 
「分かりました・・・。ボクが、残ります」
 
その言葉を聞いた野獣は側に控えていた蝋燭に命令しました。
 
「塔に閉じ込めている人間を開放しろ」
 
蝋燭は急いで改造を閉じ込めている扉を開けに行きました。
 

蝋燭から烈が来たことを聞いた改造は、烈を残して自分だけ帰ることは
できない、烈に会わせてほしいと食い下がりましたが
もちろん野獣がそんなことを許すわけがありません。
 

追い出されされるように屋敷を出た改造を烈は自分のために
あてがわれた部屋の窓から見ていました。
「父さん・・・・」
 

幽閉されると聞き、牢のようなところへ入れられると思っていた烈が
通されたのはとても綺麗な客間でした。
部屋の中にはドレスがぎっしりつまたドレッサーや
烈が寝るには広すぎるベッドがあり、天井には豪華なシャンデリアがさがっています。
しかし、とぼとぼと屋敷を出て行く父の姿を見送ったあとの烈は
そんなものに目をくれることもなく、ベッドに顔を伏せただただ泣きくれていました。
 
 
 

コン、コン・・・。
 
改造が屋敷を出てから数時間たった頃、泣き疲れて眠ってしまった烈は
控えめなドアノックで目を覚ましました。
そっと体をおこし、様子をうかがっていると扉の向こうには
野獣が立っているようです。
 

「夕飯を一緒に食べないか?」
 
野獣は蝋燭に言われた通りなるべく優しく、烈に話しかけました。
烈は先ほどとはまったく違う野獣の話し方にビックリしましたが、
だからといって父と一目なりとも会うことが叶わなかった烈は
その誘いにのることはありませんでした。
 
「結構です」
 
この言葉に今にも扉を壊しそうになった野獣はその気持ちをぐっと我慢して、
またなるべく優しく烈に話しかけました。
 
「・・・・ならば・・・食事はまた今度にしよう。
 この城の中ならどこにいてもかまわない。好きなように過ごすといい。
 だが、西の塔にだけは絶対に近づくな・・・!」
 
そう言い残すと野獣は烈の部屋の前から姿を消しました。
烈は先ほどからの野獣の態度もそうですが、
幽閉の身である自分がなぜ自由に行動できるのか疑問でした。
 

「こんなことになってしまってごめんなさいね」
自分以外誰もいないはずの部屋で不意に声をかけられ驚いて振りかえりましたが
そこには上品な細工が施されたポットが置いてあるだけです。
「・・・誰なの?」
「私よ、私が話しているの」
烈に話しかけているのは、そのポットだったのです。
 
「旦那さまは本当は優しい人なの」
「まさか、あんな野獣が?」
 
ポットのジュンの言葉に烈は真顔で聞き返してしまいました。
 
「そうよ。あたし達にだってすごく親切にしてくれるわ。
 ただ、ちょっと不器用なだけ」
「・・・」
 
「さぁ、旦那さまの許しが出たんだ。この城を案内しよう」
いつのまにかサイドボードにあったはずの蝋燭や古時計たちが
烈の近くに降りてきています。
烈は小さく息を飲むと、もう驚くことはやめにして
せかす蝋燭たちの案内で、屋敷をまわることにしました。
 

屋敷はとても広く、烈はかなりの数の部屋を案内されました。
大きい食堂、綺麗な舞踏場・・・。
次に案内される図書室。
なぜ、このような屋敷に野獣が住みついているのでしょうか。
烈は必死に考えましたが、答えを見つけることは出来ませんでした。
 

『西の塔には近づくな』
 

そんな烈の頭にふと、野獣の声が響きました。
 
あの野獣が近づくなと言った西の塔には一体何があるのでしょう。
烈は気になって気になってしょうがありません。
案内してくれる蝋燭たちの目を盗んで
烈はその好奇心に誘われるまま西の塔へと足を走らせました。
 
 
 
「他の部屋とは全然違う・・・」
 
西の塔はとても暗く、先ほど案内された部屋とはまったく違いました。
いろんな家具が散乱し、所々に見える獣の引っかき傷。
少ない足場を探して進んでいくと、
ガラスケースの中にあるピンクに輝く綺麗なバラを見つけました。
烈はケースを取り外し、そのバラをじっくり見ました。
 
「きれい・・・」
 
そうつぶやくのと同時にすさまじい風が烈の前を吹きぬけました。
 
「あ・・・」
 
烈の前に現れたのは野獣でした。
野獣は烈からガラスケースを奪い取りそのバラを隠すように被せ、烈に尋ねました。
 
「ここには近づくなと言ったはずだ」
「あ、ごめんなさい・・・どうしても気になって・・・」
「出て行け・・・」
「え?」
「出て行けーっ!!」
 
そのあまりの迫力に、烈はその場から逃げ出しました。
烈がいないことに気が付き追いかけてきた蝋燭たちの言葉も聞かずに屋敷を飛び出しました。
庭にとめてあったソニックの綱をはずし、飛び乗りました。
 
「ソニック、走って!!」
 
屋敷からソニックに乗って出て行く烈を野獣はじっと見つめていました。
 

「あぁ、最後のチャンスだったのに・・・」
 
烈をとめることの出来なかった蝋燭たちはため息混じりにつぶやきました。
 
 
 
 
 
「うぅ・・・」
 
ソニックに必死につかまりながら烈はなぜか涙を流していました。
 
どれくらい走ったでしょう。
どこを走っているのかわからなくなった烈はソニックを止めました。
 
「ここどこだろ・・・・!」
 
あたりを確認しようと後ろを見た時にこちらに向かってくる狼に気がつきました。
狼は烈に向かって走ってきます。
 
「ソニック!」
 
烈は必死にソニックを走らせました。
しかし、途中で氷の泉に足が埋まり身動きが取れなくなってしまいました。
烈はソニックから降りると近くにあった木の枝を取り 
ソニックに飛びつこうとする狼を叩き落しました。
けれど、その棒すら狼に取られてしまった烈は噛みついてくる狼から身を守ろうと必死でした。
もう殺られる、そう思った時です。
烈を守るようにあの野獣が現れたのです。
狼たちは目標を烈から野獣へと変更し、次々と襲いかかってきました。
傷つきながらも烈をかばいながら、野獣は狼を倒していきました。
野獣に恐れをなした狼たちは一匹また一匹と森へ逃げ帰って行きました。
 
「・・・・」
 
野獣は傷つき倒れてしまいました。
烈はその場から去ろうとしましたが、傷ついた野獣をほうっておくことは出来ませんでした。
ソニックを近づけ、気を失った野獣を乗せ、
野獣の屋敷へと帰っていきました。
 
 
 

屋敷に戻ってきた烈は氷の泉に落ちた身体を暖炉で暖めながら
傷ついた野獣の手当てをしました。
 
「つっ・・・!」
 
傷に消毒液をかけるとその痛さに野獣は手を引き、低い唸り声を上げました。
 
「暴れるからしみるのよ」
 
烈は野獣の唸り声に怯えることなく手を取り、手当てを続けました。
 
「・・・ありがと・・・」
「え?」
「助けてくれて、ありがと」
 
烈は野獣に素直にお礼を言いました。
すると野獣も照れながらこう返したのです。
 
「・・・いや、こっちこそ。怒鳴ったりして悪かった・・・」
「ううん」
 
そんな二人の様子を蝋燭たちは嬉しそうに見ていました。
 
 
 

あの一件以来、野獣と烈は少しずつ心を打ち解けるようになりました。
食事を共にし、一緒に庭に出て小鳥にエサをあげたり。
それはとても幸せで、烈も野獣と1日を過ごすのを幸せと感じるようになりました。
 
そんなある日――――――
 

「烈、今日は君にプレゼントがあるんだ」
「なに?」
 
目をつぶってついてきて、という野獣の言葉に従い烈は手を引かれながら部屋に案内されました。
 
「もう、いいよ」
 
その言葉に、烈はゆっくりと目を開けて答えました。
烈の目に入ってきたのはすごい量の本でした。
 
「烈は本が好きだろう?これを烈にプレゼントするよ」
「うわぁぁ・・・。ありがとう!!」
 
これでここにいても退屈することはないだろう?
そう尋ねる野獣に、烈は苦笑いを返しました。
 
「どうした?」
「実は、お願いがあるんです」
「お願い?」
「父に・・・会いたいの・・・」
 
その烈の言葉に、野獣はやっぱり・・・とため息をつきました。
今はこうやってお互い楽しく過ごしているとしても
幽閉されていることに違いない。
自分が烈からもらった気持ちを思えば・・・と、野獣はあるものを烈に渡しました。
 
「これは?」
「君のお父さんのことを思い浮かべるんだ。
 そうすれば、君のお父さんの今の姿がこの鏡に映るはずさ」
 
烈は野獣に言われるまま、鏡に向かって目を閉じ祈り始めました。
するとその鏡から淡い緑の光が出たと思ったら、烈の父、改造の姿が鏡に映りました。
 
「父さん!」
 
鏡に映っている改造の体調はあまりよくないようです。
 
「あぁ、このままでは死んでしまう」
 
鏡に向かって涙をこぼしながら涙を流す烈を見て野獣は決心しました。
 
「いいよ、烈」
「え?」
「お父さんのところに帰るんだ」
「・・・」
「わたしは烈からたくさんの気持ちと幸せをもらった。もう十分だ。
 君の幽閉を今とく。お父さんのところに帰るんだ」
 
驚く烈に微笑みながら野獣は言いました。
烈は野獣に抱きつきながらありがとうと何回も言いました。
 

「ありがとう。でも、ボクは絶対に帰ってくるから・・・」
「この鏡は持って行くといい・・・」
「・・・ありがとう」
「・・・」
「あなたの名前は?」
「え?」
「あなたの名前・・・教えて」
「・・・豪」
「豪、ボクは絶対に帰ってくるからね」
 
野獣にそう言い残すと烈は急いで家へと向かいました。
 
「旦那さま・・・いいのですか?」
「せっかくいい感じだったのに・・・残念でげす・・・」
「・・・」
「いいんだ。烈のためだから・・・」
 
 
 

「父さんっ!」
「烈!?」
 
烈が家に着くと、改造はベッドに寝ていました。
急いで駆け寄ると、烈は改造の手を取り話しかけました。
 
「父さん、体の調子はどう?つらい?」
「そんなことより、烈。あの屋敷からどうやって・・・」
「彼・・・豪が出してくれたの」
「あの野獣が?」
「豪は・・・とても優しい人だよ・・・」
「烈・・・」
 
屋敷で一体なにが・・・と改造は言葉を続けることが出来ませんでした。
黒沢が勢いよく部屋に上がりこんできたからです。
烈は改造をかばうように前に出ると、
 
「改造!今日はお前を入院させる日だ!」
「入院!?なんで父さんが・・・」
「お、烈。今までどこに行ってたんだよ」
 
烈の頬に伸びてくる黒沢の手を払いながら烈は言葉は続けました。
 
「父さんが入院ってどういうことなの!?」
「あぁ、だって改造のヤロー、森の向こうの屋敷に野獣がいるって言うんだぜ?
 野獣なんているわけねぇんだ。改造は頭がいかれちまったのさ」
「嘘じゃない。本当に見たんだ!」
「頭がいかれた奴は入院させた方がいいんだ!
 お前たち、改造を早く馬車に乗せな!」
 
黒沢がそう叫ぶと、家の外で待っていた黒沢の取り巻きたちが改造を外に連れ出し始めました。
 
「やめて!父さんの言ってることは間違ってない!!」
 
烈は止めさせようと黒沢の胸をこぶしで殴りました。
その烈の手を取って引き寄せ、烈の耳に唇を寄せて黒沢は囁きました。
 
「なぁ、烈。親父をぶち込んだら、結婚しよう。
 改造はいかれちまったんだ。
 邪魔者は排除する。そんで2人で幸せになるんだ」
「いやっ!」
 
烈は黒沢から身を離し、外に連れて行かれた改造の後を追いました。
そして、改造を連れ出そうとしている村人達に向かって叫びました。
 
「父さんの言っていることは嘘じゃない!これを見てっ!」
 
烈は豪から受け取った鏡をみんなに見せました。
目を閉じて豪のことを考えると鏡から淡い緑色の光が出て
その鏡に野獣の姿を映し出したのです。
村人たちはその醜くおぞましい野獣の姿に悲鳴を上げました。
「待って、みんな聞いて!
 彼はこんな姿をしているけれど、心は優しい人なの!」
しかし、恐怖にとらわれた村人達には烈の声は届きません。
皆、次々と武器を手に取り「野獣を倒せ」と叫び始めました。
 
「・・・烈、お前今までずっとこの野獣と一緒にいたのか?」
いきり立つ村人達を横目に黒沢は烈に尋ねました。
「そうなの。黒沢くんからもみんなに言ってあげて!
 彼は村を襲ったりしないんだって!!」
「・・・・・」
黒沢は無言のまま烈から鏡を奪い取ると、その鏡を空へと掲げました。
「みんな見たか!この醜い野獣を!
 この野獣は夜になると子どもを食いに来るぞ!
 村を滅ぼしに来るぞ!」
「黒沢くん!!」
「攻めてくる前に、こっちから潰してやれ!
 戦える奴は武器を持て!醜い野獣を倒すんだ!」
「違う!彼は・・豪はそんなことしない!!」
「烈・・・目を覚ましな。
 オレが、殺してやるよ・・・野獣なんて」
 
必死に止めようとする烈と改造を小屋に閉じ込めて、
黒沢を先頭にした村の男達は
武器を手に森の奥の野獣の住む屋敷へと向かって行きました。
 

「止めなくちゃ・・・。ボクのせいだ・・・」
 
 
 

村人たちはあっという間に屋敷に攻め入りました。
蝋燭たちも応戦しましたが、多勢に無勢で押されがちです。
屋敷に侵入した村人たちは屋敷の物を好き勝手に持ち出し始めました。
 
「旦那さまっ、これでは屋敷がつぶれてしまいますっ!」
「そうでげす!何とか手をうたないと・・・!!」
「ご指示を!!」
 
蝋燭たちは豪に必死に呼びかけますが、豪はなにも答えません。
バラの入ったガラスケースを守る様に抱えながら、豪はため息をつきました。
 
「どうだっていいんだ・・・もう」
 
 
 
黒沢は一人、"野獣"のいる部屋へと向かいました。
・・・自分には何の興味も示さない烈があんなにも必死になってかばう、獣。
 

「野獣よ!この俺が倒してやる!」
 
"野獣"の居場所をつきとめた黒沢がナイフを向けても豪は少しも戦う気が起きません。
ため息をつきながらバラを見つめています。
烈と出会った時には、まだ綺麗に咲き誇っていたバラも
もう数枚の花びらがかろうじて残るのみとなっていました。
 
黒沢はなんにも反応を見せない豪に苛立ちながら、その胸を容赦なく殴り倒しました。
何度も、何度も、何度も。
そうしているうちに、ついに豪はバルコニーまで追い詰められてしまいました。
しかし、それでも豪はやり返そうとしませんでした。
何の抵抗もしない豪の態度は余計に黒沢に憎悪を抱かせます。
「これで最期だ・・・!!」
黒沢が最後のとどめをさそうとした、その時――――・・・
 

「豪!」
「・・・烈?」
 
屋敷の入り口の辺りにソニックに乗った烈が見えました。
早く豪の元へ行きたいという烈の心がわかったのか
ソニックが小屋の戸を蹴破り、烈をここまで連れてきたのです。
 
 
 
「豪!」
ソニックを飛び降り、烈は豪のいるバルコニーを目指し、駆け出しました。
最後に交わした約束通り、烈は豪の元に帰ってきたのです。
"野獣"の烈を見る目が愛おしい者をみるそれと見て取った黒沢は目を見開きました。
「なんだ野獣。烈に恋をしたのか!
 お前なんかに渡してたまるかっ。烈は、烈は俺のものだ!」
黒沢がそう叫んだ時です。
先ほどとは打って変わった様に、豪は黒沢に向かって飛びつきました。
 

「烈はお前のものじゃない」
 
豪はそう言いながら黒沢を持ち上げ、谷底に投げようとしました。
 

「た、助けてくれっ。死にたくない!」
 
死の危険を感じた黒沢は豪に必死に頼みました。
険しかった豪の顔はだんだんと落ち着きを取り戻しました。
 

・・・人を殺すような"獣"を、烈はどう思うだろうか・・・・?
 

豪はゆっくりと黒沢を屋根へと下ろしました。
そして咳き込む黒沢をそのままに、豪は烈の待つバルコニーへと登っていきました。
 

「・・烈」
「豪」
 
烈が豪に向かって手をさし伸ばしました。
豪もその手に向かって手を伸ばしました。
あと少しで2人の手が触れ合うというその時。
烈が耳を塞ぎたくなるような豪の悲鳴が響きました。
 

「へへ・・・見たか、野獣め」
 
後ろから登ってきた黒沢が豪の背中にナイフを突き刺したのです。
豪はその痛みに必死に耐え、腕を大きく振り後ろの黒沢を振り落としました。
黒沢は空中に投げ出され、そのまま谷底へと落ちていきました。
 

「豪っ!」
 
烈は今にもバルコニーから落ちそうな豪を必死に支え、その体を引き上げました。
 
「・・・烈、来てくれたんだな・・・。すごく、嬉しい。」
「あぁ・・・傷が深くて血が止まらない・・・」
「いいんだ、もう。最後に・・・烈に会えて、嬉しかった・・・」
「最後だなんて・・・」
「・・・あ、りがと・・う」
「ま、待って!いかないで!
 ボクを一人にしないで・・・っ・・・豪っ・・・」
豪の目が閉じられ、その体から力が抜けてゆくのを感じ
烈は夢中で叫びました。
「豪が、どんな恐ろしい姿をしてても、ホントはすごくやさしいこと、ボク知ってるよ。
 お願いだから、目を開けてよ。愛してるんだ・・・ごぉっ・・・!」
 

その言葉に蝋燭たちは笑顔を浮かべてガラスケースのバラを見ました。
しかし、無情にもバラの花びらは全て散った後でした・・・。
 
「・・・遅すぎたでげす・・・」
「そんな・・・」
 
遅かった・・・誰もがそう思った時、奇跡は起きたのです。
豪の体が中に浮き、白い光が包み始めました。
すると豪の体がだんだんと人間の姿に変わり始めまたのです。
烈たちはそれを呆然と見ていました。
暖かい風と共に光が消えていった後、その場にいたのは人間の姿になった豪でした。
 
「・・・烈」
 
その呼びかけに烈はそっと手を伸ばし、豪の髪に触れました。
 
「・・・豪・・・あなたなの?」
「あぁ」
「本当に・・・?」
「あぁ」
「・・・豪っ」
 
そのまま烈は豪に抱きつきました。
そして、導かれるように口付けを交わしました。
すると空から流れ星が降り注ぎ、
暗闇に埋もれていた屋敷が見る見るうちに綺麗な城へと変わっていきました。
蝋燭も、時計も、ポットもすべてもとの人間の姿に戻りました。
 
「やったぜ!人間の姿に戻れたっ」
「エッジくん!やったでげす!人間の姿は何年ぶりでげすかね」
「いいじゃない、そんなこと。こうやってもとの姿に戻れたんだから」
「それもそうでげすね」
 
豪が真実の愛を知ったことで魔女ジュリアナの呪いは解けたのです。
人間の姿に戻った豪たちと村人は和解し、豪は改造と烈を城へ迎えることにしました。
2人は永遠の愛を誓う結婚をし、末永く、幸せに暮らしました。


〜ハッピーエンド〜
めずらしく、原作通りのお話でしたねー(笑)。 コレは何が楽しいってキャスティング考えるのが楽しかったー。 美女(ベル):烈  野獣:豪 ってのは、まー、まんまとして(笑)。 ロウソクのエッジと、古時計の藤吉と、ポット婦人のジュンちゃん。 そして豪のライバルには黒沢くんを大抜擢!(笑) しかし、ペケペケ初登場にして即死亡。なーむー。(爆) ★NOVELのTOPへ戻るHOMEへ戻る