「After Care」
今、星馬烈は悩んでいた。
「ふーっ。やっぱ湯船に入らないとお風呂入ったって気がしないよなー。
あー、きもちいー」
幾日かぶりにつかったお湯の心地よさに思わず頭から吹っ飛ぶ程度の悩みだったけど
ホントのホントに悩んでいた(笑)。
「・・・・・豪、まだ怒ってるかなぁ」
烈が(やっと)思い出した悩みのタネはこれだった。
ブクブクブク・・・と、顔を半分湯船に沈めながら数日前のことを思い出す。
もはやデートとは言えないデートの日。
豪の困ったような怒ったような顔を思い出すと、さすがに悪いことをしたかな?
という気になる。
あの時は自分で感情がコントロールできるような状態じゃなかったし
しかたないよなー。と、自分を正当化してみるが、ちょっと後味が悪い。
あれから、豪、あまりうるさく纏わりついてこないし・・・。
豪にしてみれば、なるべく烈に負担をかけないように気を遣っていたつもりだったが
烈は怒ってしまったから素っ気なくされてるのだと思ってしまったのだ。
いつもの烈ならば、不器用でもちゃんと気遣ってくれている豪の優しさに
気づいただろうが、自分のことで精一杯だった為にそこまで読み取れなかった。
「豪がまだ怒ってたら、ちょっと言い出しにくいよなー。うー・・・・」
ブクブクブクブク・・・・・。
いろいろと考えてみるけど、いい案は浮かばない。
・・・なんか、ちょっとのぼせちゃったかも。とりあえず、出よーっと・・・あ・・れ・・・・?
「・・・・・ん・・」
ここ、ドコ?ボク、どーしたんだっけ・・・・・。
「兄貴っ、気がついたか?!」
「・・・・・・ごぉ・・?」
「どっか、痛いトコとかねぇか?頭とか、打ってないよな??」
「・・ん、どこも痛くない」
烈はいまいち状況がつかめなかったが、とりあえず豪の問いに答えた。
「よかったー。風呂場で倒れてるの見たとき、心臓止まるかと思ったぜ」
そっか、ボクお風呂出ようとして・・・。
やっと頭が働いてきた烈は自分がお風呂から出ようとしたときに倒れたことを
ぼんやりと思い出した。
只でさえ血が薄くなってる所で長風呂をしてしまった所為で貧血を起こしたんだろう。
今、パジャマを着てベットで横になってるってことは豪と母さんとで
ここまで運んでくれたに違いない。
そこで烈はひとつ疑問が浮かんだ。
あれ?・・・・豪、もう怒ってないのかな?
冷やしたタオルを持ってきたり、水を飲ませてくれたりと
かいがいしく世話を焼いてくれている豪はとても優しい。
もっとも、貧血の時に冷やすのは正しい対処ではなかったが。
豪はそんな烈の気持ちには全く気づかないで
風呂上がりだというのに、真っ白な顔をした烈を看病することで頭がいっぱいだった。
兄貴、男の時には貧血で倒れた事なんてなかったのにな、と思うと
なんだか少し胸が痛い。
「ねぇ、豪・・・あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
自分の腕の中で喉をコクンと鳴らしながら水を飲む烈を見て
やっぱり、オレが守ってやらなくちゃ!という変な使命感に燃えている豪に
烈が声をかける。
腕の中から聞こえた小さな声に豪はなるべく優しく、と心がけながら答えた。
「なんだ?オレに出来ることなら何でもしてやるぜ?」
「あの・・・その、さ」
「ん?」
「あーー、んー、だからぁ・・・」
「?」
烈がなかなか言い出さないので顔をのぞき込んでみると
さっきまで真っ白だった顔が赤くなっている。
烈兄貴、何をそんなに恥ずかしがって・・・・・・あ!!!
豪の単純バカな頭は自分に都合のいい方程式をはじき出した。
この前のデートでオレに酷いことをした
↓
そのことを謝ってくれようとしてるのかもしれない
↓
さっき貧血起こして看病してあげたから
そのお礼もあるかもしれない
↓
今日は久しぶりに機嫌が良さそうだったから
特別いーものかもしれない
↓
しかも今兄貴はベッドに寝ている
↓
つまり!!!!(伏せる・笑)
「兄貴、気づいてあげなくてごめん。もう、言わなくてもいいよ・・・」
と言って首筋にキスを落とす。
「ぅわっ!なにするんだよ!このドアホゥ!!!」
ボカッ
烈のスペシャルパンチが豪の頬にクリーンヒット。
「貧血起こした人間に襲いかかるなんて信じられない!」
どちらかというと、貧血起こした人間がこんなパンチを繰り出す方が
信じられないが、豪はこれ以上傷を増やしたくないのでそのことはツッこまなかった。
「違うのか?」
「違う!!!!」
「じゃぁ、なんなんだよ?」
「・・・・ボクの机の上から2番目の引き出し、あけてみろ」
そんな頼みでなんで顔赤くしてたんだよ!
豪はかなり納得いかなかったが、とりあえず烈の机へ向かう。
「えっと、2番目の引き出し・・・・・。って、あれ?これ・・・」
豪がベッドの方を振り返ると烈はまた少し頬を染めながら答えた。
「その映画、ボク結局見れなかったし。
今度の日曜、つきあってよ」
引き出しの中には、烈と2人で見るはずだった映画のチケットが2枚入っていた。
「でも、コレってこの前が最終日で・・・」
「そーなんだよな。この辺じゃぁほとんどが上映終わってて
まだやってるトコ探すの、結構苦労したんだ。
・・・だからちょっと遠くなっちゃうし、嫌だったら無理には・・・」
「い、嫌じゃない!」
「そか。よかった」
そう言って、はにかむ烈はすごく可愛くて、豪はたまらなく幸せになってしまう。
いつも、一緒に出かけるときは豪の方から誘っていた。
一緒に出かけるのが嫌な訳じゃないんだろうけど、きっと自分から誘ったりとかは
恥ずかしくて出来ないんだと思う。
だから、すごく嬉しかった。
まだ上映中の映画館とか、一生懸命さがしてくれたんだと思うと顔が笑ってしまう。
「いつまでもニヤケてるなよ。・・・顔、怖いぞ・・・。
もー、ボク寝るから。んじゃ、お休み」
「え、あ、兄貴っ」
豪は慌ててベッドに駆け寄るが烈は布団を頭からかぶってしまった。
「ちぇ。ま、いーか。デートに誘ってもらっただけで満足だし・・・・」
烈の枕元に頬杖を付きながらつぶやくとガバッと布団をはいで烈が顔をだす。
「なんだよ、兄貴っっ」
突然起きあがった烈に慌てる豪の腕を引っぱると烈は素早く豪に口付けた。
そっと唇を離してから上目遣いで
「続きは一緒に映画、見てからな」
と残して、今度こそ本格的に寝る体制に入る。
豪は急な展開に心臓をドキドキさせていたが、
自分に背を向けるようにして寝ている烈の耳が真っ赤になっているのが目に入って、
なんだか嬉しくてたまらない気持ちになってきた。
そっと立ち上がって、烈の髪にキスをすると
「めちゃくちゃ楽しみにしてる。・・・おやすみっ!」
と言って烈の部屋を出た。
次の日曜日。
豪が烈をモノに出来たかは・・・・・・また別の話。
おわり。
とりあえず、ライジさんに続いてみた(^^;)。
banchouしゃん、ライジしゃん・・・・期待に添えず、Hなしでごめんね(笑)。
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