オーロラができるまで

1 オーロラの光

真空放電とスペクトル

 地上付近における空気(一気圧)は絶縁体であり、通常電流を通さない。
しかし、気圧が低く真空に近い空間に電位差を加えると電流(電子)が流れ出す。
オーロラが出来る超高層大気では、まさしくそういった現象(真空放電)が起こっている。

 大きな運動エネルギーを持った電子は希薄な大気中を通り抜けようとするが、その間にも空気の分子に衝突する。衝突された分子(原子)においては、その原子核の周りにある電子が一部はじかれ、より大きなエネルギーを持つ電子軌道に移行する。
上位の軌道ほど不安定であるため、すぐに電子はもとの軌道に戻ろうとする。
その際、エネルギーの一部を発光という形で放出する。(スペクトル
即ち、オーロラの正体は、超高層に存在する酸素原子や窒素分子が出すスペクトルであることが分かる。

 大気の上から飛びこんで来た電子は発光を起こさせるだけでなく、空気分子から電子を突き飛ばし、新たに運動エネルギーを持った電子を生み出す。
実際に、酸素原子の緑白色を発光させているのは、それらのニ次電子である。
電子が100kmの高さに到達するまで100回ほどの衝突を繰り返すが、それ以下の高度では急激に大気の密度が増えるため、ほとんどの電子がそのあたりで止められてしまう。
オーロラカーテンの下端がシャープに見えるのはそのためである。

つまり、空気の分子が沢山存在すればするほど電子の運動がそれらによって邪魔され運動エネルギーを失ってしまうが、空気の分子が少ないところでは電子がより遠くまで到達することが出来る。
スペクトルは、それぞれ原子によって固有なもので、その周りにある電子軌道のエネルギー差から決まっている。


では、オーロラの光のもととなる電子のエネルギーはどこから来るのだろうか?

オーロラは、太陽から飛来する電子が直接地球の大気に突入して起こる放電現象ではない。
この程度(100eV)のエネルギーでは超高層の原子や分子と数回衝突するだけでエネルギーを全部失ってしまい、100kmの高さで放電することができないからである。

オーロラが発光するためには数キロeVのエネルギーを供給する発電機が必要である。


2 太陽から地球へ

太陽風と太陽磁場

 太陽は、南北の地磁気極以外に、その光球面に複雑な磁場を持つ。
その磁場が集中している小さな領域が黒点となって現れている。
黒点2つが一対になって現れ、磁石の両極(N極、S極に相当する)をなす。
その他、弱い磁場が広く分布する単極磁場領域というのが存在する。

 このような領域の上にコロナホールが存在し、太陽風ブラズマとともに、地球へ向いた方向あるいは逆方向の磁場を運び出している。

コロナは太陽大気の最上部にある100万度以上の高温の大気で、鉄や水素原子の原子核の周りの電子が一部突き飛ばされた状態で存在する。コロナの一部は、太陽風となり秒速500kmの高速で太陽表面から吹き出している。

太陽風は大部分が同数の陽子と電子からなるガスでできており、一般にプラズマと呼ばれる。


地球磁場への影響

 太陽は25日周期で自転しながら、磁力線を周りの空間に撒き散らしている。
地球はその磁場の中を1年かけて公転する。
地球が太陽の磁力線を横切る時、その磁力線が地球に対してどちらを向いているかでその作用が違ってくる。

 太陽の磁力線が地球磁場に対して、南向きの場合(a)と北向きの場合(b)とに分けて考えると、図1のようになる。
aは太陽の磁力線が地球の磁力線の一部と結合しており、bでは地球磁場が球形の領域に閉じ込められている。

 ここでは、南向きの場合について考える。
太陽風が地球に吹きつける時、地球磁場を避けて吹き流れるため、彗星の尻尾のような長い尾が太陽と反対側にでき、図2(断面図)のような分布になる。

図1 太陽磁場と地球磁場の結合



図2 地球磁気圏の内部構造と太陽風粒子の流れ


 図2で分かるように、陽子と電子からなる太陽風プラズマは、地球の磁気圏の外壁にぶつかった後、磁力線を横切って流れる。


3 オーロラの発電機構

地球磁気圏の発電機

 磁場は、運動する陽子と電子に対して直角に力を及ぼしそれらの運動方向を変えようとするため、磁気圏の外壁に沿って陽子(正の電荷)は朝方側(太陽から見て左側)に、電子(負の電荷)は夕方側(太陽から見て右側)にずれる。
その結果、朝方側が正の電荷、夕方側が負の電荷に帯電し、起電力が発生する。

 電荷を持つ粒子が磁場を横切る際、磁場はその運動方向に直角に力を及ぼす。尚、電荷が正か負かによりその方向は逆になる。


複雑な電気回路

 地球磁気圏に与えられた電位差により、電子は運動する。
電子はプラズマシート内を正の端子(朝方側)に向かって運動し、また、それとは別に一本の磁力線の周りをらせん状に運動する。(図4)

 地球近くでは、電離層の中の幅約200kmの環の部分(即ちオーロラの環)が電気伝導度が高くなっている。
これは、オーロラ放電電子が大気と衝突することにより2次電子を多く作りだし、それらが電荷を運ぶからである。
電離層の内部でも複雑な電流の流れが起こり、これら全てが巨大な電気回路を構成している。


図3 オーロラ電子の流れ

尚、これらの電流は主に電子によって運ばれるが、朝方側の環の内側や夕方側の環の外側では電子が上向きに運動している。
つまり、朝方側の環の外側と夕方側の環の内側でのみ電子が磁気圏から突入し、これが一つのオーロラの環となって現れる。

プラズマシート=磁気圏尾の赤道面に沿った薄いプラズマの層



オーロラ電子の加速機構

電子が数キロeVのエネルギーを得るためには、この発電機構に加え何らかの方法で加速されなければならない。
現在は、電場による加速が最も重要と考えられている。
 実際、オーロラ・カーテンの通り道となる磁力線に沿った薄い層の中心ほど電位差が大きくなっている。 電子は電位差が大きいほど加速されるため、オーロラ・カーテンの中心を通る電子ほど大きなエネルギーを得ることができる。