フィンランド旅行記(2/4)

2.レヴィ/シルカンタハティ到着

バスはホテルというよりも、コテージといった趣の一階建ての建物の前で止まった。
ホテル”シルカンタハティ”では日本人の利用客が多いということは予め知ってはいたが、実際まるで日本人の団体旅行のようだったのには驚いた。もちろん、大半の人が個人旅行のようである。ここはどこ?と目を疑った。

ホテルに着くと、まずレセプション(受付)で手続きを行い、在住の日本人スタッフに簡単な説明を聞いた。

部屋はレセプションと別棟にあった。
暖房はもちろん完備されていて、各部屋にシャワーとサウナが着いている。大きな乾燥機まで置いてあったので、こんなに着替えを持ってくる必要もなかったようだ。(特にやたらと靴下ばかり詰め込んでしまった)

PIC00010/ホテル近辺にて


夕飯を食べていなかったので、レセプションの隣にあるレストランへ行ってみた。
メニューの見方がいまいちよく分からなかったのだが、サラダと一番無難そうなベリーソース掛けサーモンというのを頼んだ。
厚切りのサーモンが2切れ(というかまるごとの鮭をお腹で輪切りにした状態)皿に盛られ、ソースがかかっていた。
見ただけでお腹がいっぱいになってしまう。おまけに”ベリーソース掛け”というだけあって甘い!
見た目のイメージと味が違うのが、なんともおかしな具合であった。だって、日本人にとっては、鮭は塩辛いのが当たり前だもの。


3.レヴィ/犬ぞり体験

翌日、午前中は時差ボケで死んでいたが、午後には生まれて初めて犬ぞり体験をした。
そりには縦に2人座り、その後ろに騎手が立つ。
犬は、縦2列に別れて10頭ほど繋がれている。ハスキー犬だと思っていたのだが、意外と小ぶりである。体の大きい犬(こちらは正真正銘のハスキー犬)もいたが、彼らはそりを引くことはなさそうである。
出発前、犬達は興奮し騒ぎ立てていたが、騎手の合図と共に一目散に駆け出した。感心感心。

私は座席の前に座っていたが、ほとんど仰向けになっていた。予想以上にスピードも出るし、なにしろお尻が痛い。
防寒対策はバッチリだったので寒くはなかったが、座り心地はいまいちだった。
平らなところでは起きあがって座っていたが、安定感が悪い。
以前通った後が雪の溝となって残っていてそこを辿っていくのだが、カーブに差し掛かると左右の壁にぶつかり減速する。
ゆるやかな上り坂になると、「重いよー!」といって犬達がこちらを振り返りながら走る。私のせいじゃないよー!

雪原を3台のそりが並んで走っていたのだが、速すぎると前のそりにぶつかりそうになり、犬が怪我をしてしまいそうである。途中、前のそりが止まっていて、追い越す場面があったのだ、犬の足を踏んではいないか心配になった。
周りは雪原で木々が点々としていたが、写真を撮る余裕はなかった。カメラなんか出したら、手が滑って落としてしまいそうである。

PIC00012/犬ぞり


10kmの道のりを走り終え、元の牧場へ戻る。犬達は体中で荒い息を立てていた。
撫でてみたが、みんな安堵感を味わっているようで大人しい。もちろん吠えたりはしない。とてもいい子たちである。

コタという小屋に入り、コーヒーと菓子、ウインナーを焼く。
その中は、煙突が真ん中にあって、囲炉裏みたいな感じの造りである。

帰り際に、生後5週間の子犬を見せてもらった。
黒くて、左右の目の色が違う。綺麗なブルーとグリーンである。ハスキー犬特有の目と毛の柄がある。まだ小さくてまるでぬいぐるみのようだが、足は太い。抱き抱えるとずっしりと重みが感じられた。
そのうち、この子もそりを引くようになるのだろうか。

PIC00015/コタの中で

PIC00017/ハスキー犬の親子



4.レヴィ/オーロラディナー

その日の夜は、ツアーオプションの”オーロラディナー”に参加した。
ラップランド(フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北方に広がる土地の呼称)の郷土料理ということで、トナカイや雷鳥、杉の木等々珍味を味わった。

でも、とてもじゃないけど・・


素材がどうのというよりも、なにしろ味付けがもの凄い。日本人の味覚にはどう考えても合いそうにない。
ほとんどの人が残していたが、中にはちゃんと食べている人もいて、感心してしまった。

PIC00018/オーロラディナーの一品

PIC00021/うっまずい〜!


ディナーの途中で、サーメ人(ラップランドに住むヨーロッパ最古の民族)の女の人が太鼓のようなものを持って歌を唱った。
フエルトで出来た民族衣装が美しかったが、同じような言葉を繰り返し唱うのである。
「ヘイヨーロレイヨー」多分こんな感じの言葉だったと思う。
そのうち、レストランの客に一人一人挨拶するかのように、唱いながらテーブルを回っていった。

実は、ツアーで来ている日本人客ばかりで、皆言葉の意味など分かるわけがなく、あちこちで囁く声が聞こえた。
「なんて言っているのかしら?」「唱えって言ってるのかしらね?」「意味が分からないもの」「日本人ってノリが悪いと思ってるでしょうねぇ」
私も、面と向かうと困ってしまい、歌を聴きながら愛想笑いをすることしかできなかった。

歌がテーブルを一回りすると、日本人スタッフがその歌について説明した。
「ヘイヨーロレイヨー」その言葉には特に意味はない。言葉にとらわれずに、気持ちを表現する、そんな歌なのだと。皆、なるほどと頷いた。

PIC00022/山の上のレストランにて


5.レヴィ/トナカイぞり

レヴィ滞在3日目の朝、トナカイぞり体験に行った。
そこには何頭かのトナカイがいたが、トナカイというのは茶色の毛であると思っていたので、灰色のや、白いのを見たときは意外であった。
毛がふさふさしていて口がフニュッとまるく、愛嬌のある顔をしている。想像していたよりも可愛らしい動物であった。
中には、他のよりもひとまわり小さめの白いトナカイがいた。子供かな?

PIC00023/トナカイ

PIC00025/トナカイ



さて、トナカイぞりは1頭立てで2人乗り、犬ぞりのように後ろに騎手はいない。
手綱を持たされ、引っ張ると止まるから引っ張らないようにと言われた。また、止まりかけたら手綱で横腹を叩けば走り出す。但し、トナカイがよそ見をしているときに叩くとそちらに走り出してしまうので注意するように言われた。
大丈夫かなと思いつつ、そりは走り出した。

最初は威勢よく走り出たのだが、デジカメのフラッシュをたいたとたんにペースダウン。
あれ?まずかったのかな?
ついにトナカイは歩き出してしまった。
そりは一列に並び、我々は2番目に出たのだが、後ろのそりも並んで歩き出してしまった。でも、よく見ると前のそりもさほどスピードが出ていない。

まもなく、牧場の人がスノーモービルで追いかけてきた。その音に反応してトナカイ達は一斉に駆け出した。が、スノーモービルが行ってしまうとすぐにペースダウン。
単にさぼっていただけらしい。
犬達とは大違いだなぁ。(まあ、あの時は騎手もいたし、10頭立てだったけど)
それからひたすらノタノタ歩き続けた。

何度か横腹を叩こうと試みたが、叩くために手綱を振り上げようとするとトナカイがそちらの方を向いてしまうのである。それを避けようとしてそうっと叩いてもトナカイは相手にもしてくれない。
結局諦め、トナカイの気の向くままにさせることにした。ノタノタそりに揺られながら、のんびり景色を眺めた。
見えるのは雪原とトナカイのお尻。途中、歩きながら糞をした。

PIC00026/雪原とトナカイのお尻


やがて、少し軽やかな足取りで後ろのそりが追いつく。
ところが、追い越されそうになったとたん、私達のトナカイが急に走り出したのである。

ひえ〜!


両脇に2頭の角が迫ってくる光景は圧巻だった。変なところで対抗意識を燃やしている。とりあえずは先頭をキープすると再び歩き出した。

PIC00028/抜かされてたまるか!


しかし、何度かそんな光景が見られ、ついには抜かされてしまった。さらに、先ほどの白い子トナカイにまで抜かされてしまう。その後のにも抜かされる。
どうも、こいつはやる気がないらしい。

長い旅を終え、牧場に戻った。
記念写真を撮るために、餌を食べていたトナカイの角を掴み、牧場の人と一緒に並んだ。
ところが、デジカメのフラッシュがつかず、何度が撮り直してもらったが、どうしてもうまくいかない。
なんのことはない、雪明かりのためフラッシュが作動しなかっただけで、画像はちゃんと撮れていた。でも、その間中トナカイはお預け状態だった。ごめんね。

トナカイはみんな大人しく、黙々と餌を食べていた。
その後、コーヒーとお菓子を頂いて、ホテルに戻った。

PIC00030/子トナカイ?

PIC00032/餌はお預けね



6.レヴィ/スキー

ホテルの近くにスキー場があったので、スキーをすることにした。というより、あまり他にすることがない。
さほど防寒の必要もなかったので、ベンチウォーマーコートとスノボーパンツという軽装であった。実際、雪がサラサラしていて水気が少ないので転んで濡れることもないし、日本よりも快適だった。

3時間のスキーレンタルとリフト券があったのでそれらを購入した。(物価自体は日本とさほど変わらない)
その辺りは山がちな地形で、いきなり道路のわきにゲレンデが直立しているような光景だった。とにかくだだっ広く、また結構な斜面である。

何年かぶりのスキーなので、最初は麓の短いリフトを使用することにした。(後で知ったのだが、ここはリフト券なしで使えるらしい)
日本のリフトと違い、ゴムの先に円盤が着いていてそれを跨いで引っ張られスキーを滑らせていく。
慣れないうちは何度か引きずられ転倒した。他にも日本人客がいたが、みんな同様に転んでいた。
なにしろ、日本ではリフトといえば”座って乗るもの”と決まっている。そのつもりで、どっこいしょとやったとたんにゴロン!といってしまう。

現地の人達を見ていると、座らずに股に挟んで立って待っているだけである。
そのうちコツが分かり、手放しでも乗れるようになった。要は、何もしないで立っていればいいだけのことである。人形を立たせておけば、うまく引っ張られていくのではないだろうか。

また、別の場所には、いかりのような形の棒にお尻を掛けて引っ張られるタイプのリフトもあった。両側に2人が掛けられるようになっていて、こちらも慣れるまで苦労した。
日本人ばかりでなく、フィンランド人も時々転んでいた。でも、どんなに転げていてもリフトが止まることはまずない。

少し足慣らしをしてから、いかり型のリフトの方へ行った。
リフトはゲレンデのずっと上の方まで延びていたが、まずはその途中で降りて(板を滑らせたままリフトに引っ張られていくので、途中で降りられる)、半分のコースにトライした。
いざ立ってみると結構急であったが、ゲレンデの横幅があってわりと大きく滑れるし、パウダースノーなので滑りやすかった。

そのうち、いかり型のリフトの上まで行くことにした。
上の方はさらに急で、絶壁のようにも見えた。(^^;
山の上に立つと、足元には街が広がっていた。 街といっても建物はあまりなく、ゲレンデのオレンジ色の灯と下の道路の白い灯が点々と見える。

「うわー綺麗!」


雪がちらついていたため、少しけぶってはいたが、まさに絶景だった。
晴れていたら、もっと綺麗だろうなぁ。
上空では空気がキラキラ輝いて見えた。これってダイヤモンドダストなんだ。

PIC00037/ゲレンデの上から見た絶景


PIC00040/本当はかなりコワイ(^^;

PIC00042/そろそろ覚悟を決めるか・・



さて、覚悟を決めて滑り降りる。
滑ると言うより、かろうじてブレーキを掛けながら落ちていく、と言った方がよいかもしれない。
かなり怖かったので広いスロープを右から左に大きく横切りながら降りていったら、そちらの方がさらに急になっていて、後悔した。(^^;
でも、なんともいえぬ快感である。

私達が滑っていたコースのさらに隣に狭くて急なコースがあり、さすがに行こうとは思わなかったが、上の方がスノボーのハーフパイプになっていて、主に地元のボーダーが滑降していた。
上の方は、どうみても絶壁。(^^;でも、地元の若者&ちびっこ達は颯爽と降りていく。
下の方はこぶ、というか山がいくつかあって、みんな飛んだり回ったりしている。
その脇にリフトが平行して延びていて、いかり型のリフトよりもさらに上に行かれるようになっている。
ゲレンデマップで見たところ、今まで滑っていたコースのさらに上のところにEASYコースと書かれていた。迂回コースみたいなものがありそうなので、リフトのお兄さんに尋ねてみた。
「ここのゲレンデの上の方はさっき滑ったけどすごく難しかった。(でも、そこは降りられるから)さらにその上に行きたいんだけど・・」
そんなようなことを言ったつもりが、ちゃんと伝わらなかったらしく、
「君はそっちのリフトの半分のところで降りて、そこから滑るといいよ。」
と言われてしまった。
自分の英語力のなさにガックリ。

ちなみに、フィンランドにはちゃんとフィンランド語というものが存在するが(ドイツ語の撥音に近いような気もした。もちろん単語そのものは全然似かよっていないが。)、英語を母国語同様流暢に話せる人が多かった。
カタコトの英語を話すのは日本人くらいである。

7.レヴィ/オーロラ観測にチャレンジ

今回フィンランドに来た一番の目的はオーロラを観ることで、そのためにレヴィに4泊するツアーを選んだ。
しかし、初日から生憎の曇り空で、星が見えないどころか、短い昼の間の太陽さえ見られない日々が続いていた。
オーロラを観るためには、まず、空に星が出ていることが大前提である。でも、飛行機から見た分厚い雲に覆われていて、ほとんど見えそうにもない。
夜中の1、2時間おきに目覚まし時計をセットし、次回に期待をかけ就寝する。雲の合間に星が一つ二つ確認できると、身支度をして外へ繰り出す。

レヴィに滞在していた時は、予想していたほど気温が下がらなかったせいもあるが(たまたまだと思う)、完全防備をしていたため、あまり寒さは感じなかった。
散々、日本で防寒着を探し回った甲斐があったというものだ。
ちなみに、夜中のオーロラ観測の時は、上はフード付きのダウンジャケット、フリース2枚、防寒下着、下はスノボーパンツにダウンパンツ、スパッツ、防寒タイツ、防寒靴下2枚にスノーブーツ。さらに、ゴアテックスの手袋、薄手の軍手とフリースのフェイスマスクという出で立ちであった。(^^;
フェイスマスクはスキーや犬ぞり体験でも使用したし、意外と重宝した。
体はどんなに暖かくても、直接皮膚が外気に触れると、そこだけ感覚が麻痺してくる。そのまま放っておくと凍傷になってしまいそうである。外気と触れる部分は、できるだけ少なくした方がよい。

とにかく、上から下までモコモコだったので、暖かい部屋の中で着替えるのは大変だった。急いで着替えて、汗びっしょりになる前に外へ出ないといけないからである。

ホテルを出て、日本人スタッフの人に教えてもらった”オーロラが見やすい場所”を目指す。
雪で埋まった道路のまわりには建物も少なく、街頭だけが規則的に並んでいる。
真っ暗な空と真っ白な道。張りつめたように冷たい空気も心地よい。
静まり返った夜の中、スノーブーツの音を響かせ、宇宙人のような格好で歩いて行った。

PIC00036/曇り空

PIC00043/曇り空(白いのは雪です)


で、肝心のオーロラはというと、ついに観ることは出来なかった。
曇り空を眺めながらあれかな、これかなと、何度となく目を凝らしてみたものの、月でさえ隠してしまうほどの雲では到底見えるはずはなかった。
実際、後で現地の人に聞いた話だが、オーロラは毎晩のように雲の上に存在していたらしい。