スウェーデン旅行記/新天地編(5/)

3.ユッカスヤルビ5日目

 午前中、犬ぞり体験をした。
アイスホテルの裏、湖の上から4人掛け+騎手で出発した。
防寒着は自前だったが、服のレンタル料込みだったのでこの時だけ借りることにした。
だってダウンパンツとか靴とか痛みそうだし。(←過去の経験から)
 今回はあまり大きな期待はしていなかった。
犬ぞりはやっぱサーリセルカが一番面白いと思う。自分で操縦出来るからだ。(その代わりすごいしんどいけど(--;)

 コースも湖の上なので、ほとんど平坦だった。途中、岸に上がるところで、ちょっとお尻が痛かったくらいだ。
コタでコーヒーとクッキーを頂き、来た道を戻った。
そりは4人で一列に跨るようになっていたので、往路と復路で前後入れ替わった。みんなで寄り掛かって座れば楽なのだが、同上の外人女性二人に気を使っていたので腹筋が辛かった。(^^;
あと、犬の糞が臭いのは、フィンランドもスウェーデンも同じだった。

出発

牧場へ帰る犬達



 キルナのマーケットで買い物をして、昼食にテイクアウトでハンバーガーを買った。大きなスチロールの箱にハンバーガーと一緒にポテトもたっぷり入っていた。
そのまま、無謀にもアビスコへ行こう!ということになった。

 旅行に出る前に、インターネット上でアビスコの情報を得ていた。かなり晴天率が良く、他の場所が曇っていてもアビスコへ行けばオーロラが見えるという話だ。でも、交通手段などの問題もあって、結局ユッカスヤルビにしたのだ。
ユッカスヤルビからアビスコまでは100km近くの距離がある。絶対そんなところへ行けるわけがないと思っていたのだが、ホテルで唯一日本語が話せるスタッフにアビスコには”ラップランドの代表的な山”があると聞いてしまったもんだから、つい気紛れを起こしてしまった。
二つの山の間から日が昇る、そんなイメージがパンフレットなどでもマークとして使われている。この時期、既に日は昇らないが、折角だから見に行こう!ということになった。(^^;
運転にもだいぶ慣れたしとたかをくくり、昨日も雨が降ったということは聞き流していた。(^^;

 キルナを出ると、道はほとんど一本しかなく、信号もなければ標識もない。街灯もガードレールもなかった。(^^;
標識がないので、どの辺りを走っているのか、アビスコまで後どのくらいかというのが全く分からなかった。(そう思っていた頃は全然、まだまだだった。)

 トラックなどが時々猛スピードで走っていたので、道を譲りながら走った。それでも平均70km/hは出していた。
国道の制限速度は市街地では90km/h、それ以外では110km/hだっけ?(空港までのタクシーのメーターは120km/hだった(--;)こんな雪道で、よくスピード出せるよなぁ。

 一向に標識が見えないのに、空がどんどん暗くなっていた。日も暮れているのだが、それよりも雲が・・
行く先にどんどん暗雲が広がっているのだ。段々不安になってきた。

 ノルウェーとの国境近くに山脈があり、海から入る風がそこで遮られて、温暖な気候になっているらしい。路面の雪がどんどん少なくなっていた。でも、まだところどころに残っているのでかえって恐い。
山脈があるということはそこで天候が変わりやすくなっている。それで雨が降るわけだ。
雨は降っていなかったが、段々風が強くなっていた。

 ようやく標識が現れ、その文字が地図のものと一致した時、まだこんなにあるー!といかに無謀な行為であるかを悟った。
小さな湖をアビスコの湖と勘違いしていた頃、既に横風もかなり強くなっていた。

途中の湖


 あの雲は見たことがある。犬ぞりの受け付けの壁に掛かっていた一枚の絵だ。
特徴ある2つの山、そして、トグロを巻く暗雲・・(^^; なんかスゴイ絵だなと思っていたのだが、まさにそのままの世界だった。

 悪天候なんてもんじゃない。いまだかつて見たこともない光景だった。
湖の脇のガードレールのない道を、横風に吹き飛ばされそうになりながら走り続けた。
その上、空を覆い尽くそうとするどす黒い雲。その雲の下層を激しく流れるドロドロした雲の塊。目的地に近付けば近付くほど、雲がどんどん低くなって、頭上近くに迫ってくる。
極夜シーズンとはいえ、まだ明るい時間なのに、もう真っ暗だ。そのせいか、きりのせいか分からないが、湖の向こう側はくすぶっていてほとんど見えない。
相棒は運転は上手い方だと思うが、本当に生きて帰れるんだろうかという不安にかられた。

 絵の中にある山に近い地形があちこちに重なりだした頃、道路の右側に大きな水面が広がっているのに気付いた。海?いや、湖だ。向こう岸はほとんど見えない。
目を凝らすと、不気味な藍色の水が並々と横たわっているのが分かった。まるで海の荒波さながらに、水飛沫が飛んできた。

アビスコ付近。
真っ暗でまるで海のような湖が不気味に広がっている


 以下は、カボス圧2002年2月号に掲載したイラストに添えた文章である。

そこは、目を疑いたくなるほど暖かい場所だった。
雪も消え失せ、冬の北極圏というのが嘘のようであった。
だが、激しく吹き荒ぶ風が体温を奪って行った。

山脈の向こうから吹いてくる暖かい風はまた、激しい雲を伴っていた。
雲はさらに低く迫り、ただでさえ薄暗い昼間の空が真っ暗に変わっていた。
世界の終わり、そんな場所が存在するとしたら、きっとこんな感じだろうと思った。

何層にも及ぶ暗雲がとぐろを巻くように流れ、暗闇の中に藍色が広がっているのが見えた。
荒海のように波立っていたが、大きな湖だった。
真っ暗な水平線に目を凝らすと、ぼうっと岸が浮かび上がった。

このあたりはトナカイの放牧地でもあるらしい。
こんなに恐ろしい場所でさえ、彼らにとっては楽園なのかもしれない。

アビスコの雲(一眼レフ画像)

アビスコのイメージそのままである。

 やっとのことでアビスコに到着して、目的の二つの山を見ることが出来たが、厚い雲が次々に流れてくるので、写真撮影が思うように出来なかった。不思議と雨も降らず温暖だったが、風が強くて体感温度は低かった。
真っ暗なのと恐ろしい雲が絶え間なく流れてくるので、相棒が長居を嫌がった。私も、命のあるうちに帰ることに賛成した。

 帰りもなかなか雲から抜けられなかったのだが、路面が凍り出してから少しほっとした。路面が凍るというのは、キルナに近付いている証拠だからだ。

 危機を乗り越えた後(?)の、キルナの夜景が綺麗だった。
背の高い建物が立ち並ぶ都市部の夜景とは違う不思議な世界だった。点々と並ぶ街頭が飛行場の照明のようにも見える。船のイルミネーションのような丘?の形も不思議だった。写真が撮れなかったのがちょっと残念。

 夕方6時頃薄いオーロラが出たが、この日大きなオーロラは出現しなかった。

オーロラ出ないかなぁ(一眼レフ画像)

北欧のオリオン座(一眼レフ画像)