スウェーデン旅行記/天地の果てまでも編(2/7)

1.キルナ滞在2日目

外は曇り空、時折雪がちらついていた。
8時頃、眠い目を擦り朝食を取りにレストランへ向かう。
ここに来てから知ったのだが、朝食時間はなんと平日6:30−8:30、土日が8−10時となっていた。
それってオーロラを見に来た客(もっとも日本人くらいなのだが)には拷問に近い。(TT)
食事のメニューは例のごとくシリアル、パン、ハム、チーズ、野菜(葉物以外)、卵などなど。
ソーセージもないし朝食は他よりシンプルかな。まあ、大差はないが。

リパンホテル/キャンピング(http://www.ripan.se/

空港にあるレンタカー会社にレンタカーを頼んでいたのだが、キルナ駅にも営業所があることが分かり歩いて取りに行く。(空港までのタクシー料金節約のため)
徒歩10分のはずが道を迂回しながら歩いたので30ほどで到着。
単に方向音痴なだけとも言うが。

車を受け取りエンジンをかけてみて・・相棒がひとこと。

「バックギアに入らない」

日本のマニュアル車で1速に当たるところにRの文字があったのだが、どうやってもそこに入らないらしい。
以前こちらで借りた車にはレバーにボタンが付いていて、それを押しながらバックに入れるようになっていた。
なので、今回も何か細工がしてある可能性が大きいが、ボタンらしいものは一向に見当たらない。

「バックなしで運転するのは辛いよ〜。ドライブスルーのあるところしか行かれないよ〜。」

などと洒落にならない冗談を言う。(^^;
営業所の人はとうに引き上げてしまった後で、困り果ててしまい、近くにいたタクシーの運ちゃんに教えてもらう。
レバーをくいっと引き上げたらバックに入った。なーんだ簡単!
バックギアの重要性を痛感した出来事だった。



早速、右側通行及び雪道の練習をする。もちろん運転するのは相棒一人。
あまり遠出は出来ないので、ユッカスヤルビのアイスホテルまで下見を兼ねてドライブした。
場合によっては、ここを観測ポイントとする可能性がある。
晴天であればこの裏にある川の上は観測スポットとしては申し分ない環境なのだ。
但し、吹き晒しなのでとてつもなく寒い。


なぜか極寒の地に野良猫が

アイスホテル。前に見た時よりも城っぽくなっていた


その帰り道、キルナ郊外にあるIRF(宇宙空間物理研究所)に行ってみる。
以前ここを訪れた時は、定休日で中に入れなかった。
この日はおそらく大丈夫なはずだが、予約も何もしていないのでさほど期待はしていなかった。
滞在期間中に見学ツアーに参加出来ればという軽い気持ちで訪れた。

人気のないレセプションでしばらく待ち、ようやく出て来た女性に見学したいという意志をカタコトで伝える。
「勝手に見ていいよ」みたいなことを言われた気もするのだが、それもちょっと・・と躊躇していると、そこで研究している日本人の方を呼び出してくれた。
きさくな女性で、親切にも館内を案内して下さるという。
研究の邪魔をしてしまったようでちょっと申し訳なかったが、ついお言葉に甘えてしまった。
(ちなみに、その方は来年にはもうそこにはおられないそうだ。こういうことは例外なのでなるべく予約を取りましょう(^^;)


研究者のフロアは外国映画のオフィスっぽく、一人一部屋ずつ割り当てられていた。日本とは大違いだ。
技術者のフロアは、大学の実験室のように雑然としていたが、やはりアカデミックな雰囲気があった。

最上階には小さなスペースチャンバー(真空装置)もあって、衛星の制作も手掛けているそうだ。


この中で衛星組み立ててます。奥にスペースチャンバーも

よく分からない蛇の形のオブジェ

屋上の実験設備も無理を言って見せて頂いた。
不思議な箱や小さなドームやらがいっぱい並んでいた。
大きな望遠鏡みたいなものを想像していたのだが、こじんまりとした装置類に学生実験のような印象を受けた。

レーザー(その中の装置の一つ)や気球を使った大気組成の分析などのお話も聞かせて頂いた。
気球は主に学生実験で使われるもので、レーダーで追跡後、落下地点に拾いに行くのだそうだ。
一定の高度を飛ぶようになっているのだが、たまにロシアまで流されてしまって回収出来なくなるなど苦労話も聞かせて頂いた。

屋上の実験設備

最後に、興味深い雲の話を聞いた。

真珠雲──
この辺りの高緯度でよく見られる現象で、太陽光に照らされて雲が真珠色に光るそうだ。(詳しい原理は聞きそびれました(^^;)
幻想的な写真が飾られていた。

夜光雲──
少し低緯度のストックホルムあたりでよく見られる現象で、真夜中にもかかわらず地平線のずっと下にある太陽に照らされて雲が光るという。

どっちも見てみたいな。
ついでに、”キルナ雲”についても聞いてみた。

”キルナ雲”──
というのは我々が勝手にそう呼んでいるだけで学術的な名称は不明。
この辺りでよく起こる現象で、長く棚引く雲が太陽に照らされ、ピンク、紫、青の鮮やかなグラデーションを成す。それらが幾重にも重なって空じゅうに嘘臭い縞模様が出来る。
それもやはり気象条件によるもので、空気中の氷の結晶で光が屈折して青と赤に分かれるために起こるそうだ。ということはやはり日本では見られそうにない。ちょっと残念だ。



夕方一時間ほど仮眠した後、外は絶望的な雪。
早々に決意を固め、8時過ぎに車でアビスコ方面(北西)へ向かう。
昼間の日本人研究者の方も言っていたのだが、やはりアビスコの方が晴天率が良いようだ。
以前訪れた時(2001年ユッカスヤルビ滞在時)は凄まじい悪天候に遭遇し、懲り懲りしていた。
だが、キルナが悪天候の時はアビスコは晴れていることが多いと言われ少し納得。
とにかく、それを信じるしかない。

まだ相棒が右側&雪道運転に不馴れなため、60km/hくらいの低速(※5)で一時間ほど走る。
ヘラジカに注意するよう言われたが、結局今回のツアーでは一度も遭遇することはなかった。
遭わずに済めばそれに越したことはないのだが、少々残念な気もする。(笑)
前回、ドゥンドレッドへ滞在した時は何度か遭遇したのだが、今思えばかなり危ない時もあった。
なにしろトナカイよりも数段体の大きいヘラジカ、車ではねてしまうと自分達も命取りになることが多いそうだ。


国道の途中で頭上に星を確認、さらにはオーロラがドレープの筋を所々伸ばしているのを確認する。(9時半頃)
さすがにアビスコ(キルナから約90km)までは行かれないので、近くのパーキングに停車しオーロラが強くなるのを待つ。

しばらく粘ったが状況が変わらず、引き返す。
だが、キルナに近付くに連れて徐々に雲が増えていく。

途中のパーキングでまたしばらく待機し、1時頃にオーロラが大きくなるのを確認する。
眠りこけている相棒を叩き起こし、雲の切れ間に覗くオーロラを観賞する。

強い光のドレープが一気に降り、白く濃く巻き込む。
大きなホワイトチョコロールのようにゆるゆると溶ける。
静かで盛大なショーはあっという間に幕を閉じた。

大きなオーロラを見られたという達成感と、この雲さえなければという無念さが半々心に残る。
カメラは既に撤収してしまった後なので、写真も撮れなかったが睡魔には勝てないので諦める。
この夜のオーロラはおそらくこれがピーク、眠気もピークに達しつつあったので我々も引き上げた。