スウェーデン旅行記/天地の果てまでも編(5/7)

1.キルナ滞在5日目

天候は悪化する一方で、スウェーデンの上に大きな前線がどっかり乗っかっている状況だ。
南の方から厚い雲が流れ続けている。
おそらくその雲は北西のアビスコにまで達しているだろう。

我々は一大決心をした。
旅行前に冗談では言っていたのだが、アビスコのさらに先、国境を超えてノルウェーのナルビクまで行こう、というのが現実になった。
ルート10という国道がキルナからずっと続いているので、まず迷うことはない。
ただ、そこまでの道のりは約170km(アビスコは約90km)で北欧での不慣れな運転や睡魔との闘いを考えるとかなり過酷だ。
だが、オーロラを見るためにはそれが最後の手段と思われた。

スウェーデンとノルウェーの間には大きな山脈が連なっているため、国境に近付くに連れ標高が上がっている。(アビスコもキルナよりは大分高いところにあると思われる)
雲の流れを止められるとしたら、そこしかないだろう。
山脈の向こう側が晴れていることを祈るしかない。

サンドイッチ持参で午後1時半頃、キルナを出発した。

キルナ−ナルビク/ドライビングマップ

時速100km/h近くで飛ばしたので(といっても、向こうでは大した速度ではない)、あれほど遠く感じたアビスコにも一時間ほどで到達する。
まだ厚い雲は広がっていたが、青空がわずかに顔を出し凍った湖面を照らす。
オーロラを見るにはまだ不向きな状況だが、それでも青空が見えたというだけで希望が湧く。


午後3時半頃、渋滞の車列に行く手を阻まれる。
それまで行き交う車もまばらだったのに、なぜこんな辺境で?と不審に思う。
地図で見ると、この辺りに国境があると思われる。
前方にはずらっと車列が並んでいる上、横殴りの雪で視界も悪くそれ以上のことは分からない。
検問に時間が掛かるのだろうか?などと思いながら10分、20分と待つが、一向に進む気配がない。

一応 パスポートは持参したが本当に通り抜けられるのだろうか?

さぼっているのか国境警備員?

時間を持て余し脳内で色々な思考が巡る。
外は水っぽい横殴りの雪で、とてもではないが外に出て真相を確かめに行こうという気にはなれない。
ラジオで何らかの放送がされているのかもしれないが、現地語など理解出来るわけはない。

15分ほど経って、対向車列が通り過ぎる。
そう言えば対向車もずっと見ていない。(正確には一台だけ見たが、引き返した車である可能性が高い。)
国境の向こう側でも止められているのだろうか?
外はほとんど暴風状態。もしかして、悪天候で封鎖されているのではないだろうか?

数十台もの対向車が去った後しばらくして、こちらの列が動き出す。
だが、少しだけ進んですぐにまた停止。
そこから遮断機らしきものが見える。どうやらあれが国境らしい。

国境の道は片側一通なのだろうか?

焦ったところでどうしようもないので、先程と同じように気長に待つ。

やがて対向車が列をなして通り過ぎる。
その車列の先頭にいたのは大きな除雪車で、後ろに続く一般車を先導していた。


結局トータルで1時間ほど足留めされた後、ようやく国境に向けて走り出す。
降りたままの遮断機の左側を車が一台一台通り抜ける。

この遮断機は何のために?

微かな疑問が残ったが、ただひたすら前の車に着いて行くしかなかった。

前述の通り、国境には高い山脈が連なっている。
ある程度風も強うそうだとは予想していたが、想像を絶するブリザードを体験して、それまでの疑問が全て払拭された。

先程の除雪車が先導し、後に続く一般車も皆、ハザードランプを点滅させながら徐行している。
初めは、

「なんでハザードランプつけるの?」

などと余裕の発言をしていた。

雪に埋もれた道はただでさえ見辛く、脇に点在するポールだけが頼りなのだ。
なのにそこは酷いブリザードでそのポールすらほとんど見えない。
前の車のハザードランプだけが道の向きを教えてくれる。

だが、ちょっと油断するとその光さえも視界から消えそうになる。

「待ってくれ〜。置いて行かないで〜。」

これが話に聞く、ホワイトアウトというものだろう。
道路の上にいるという認識がなければ、シベリアの猛吹雪かあるいは雲の上かと見紛うほどの真っ白な光景だ。
環境に不馴れな我々だけでは本当に遭難しそうだ。
ぶつからない程度の至近距離で、前の車に縋るように着いて行く。
道には反対車線もあったが、対向車などとても走れる状況ではないのだ。

山頂を走って行くと、徐々に吹雪が弱まっていった。
その途中に点在するロッジで、道に出ようとする車が車列が通り過ぎるのを待っていた。
皆、心得ているようである。

ノルウェー側の国境近くに作業小屋のようなものがあり、先導していた除雪車は一旦そこで引き上げ、また引き返して行った。
今度は対向車が渡る番なのだ。
だが、ここでまた疑問が発生する。
国境に遮断機らしいものは見当たらなかった。

一体誰が止めているのだろうか?

そして結局、検問所というものも存在しなかった。
やはりEU加盟国内では検問の必要がないということなのだろう。

「スタンプ押してもらえなかったね。」

ほっとしたような、がっかりしたようなそんな気持ちでノルウェー入りをした。

山脈を越えるとすぐにフィヨルドが見えて来る。
というより山の一部がフィヨルドになっていると言った方が正しいだろうか。
最初は湖だと思っていたのだが、それらが入り組む海の一部だということに気付いた。

ノルウェー側の大部分はフィヨルドで、その一角にナルビクが存在する。
辺りの景色も一転し、黒ずんだ残雪が微かに残る温暖の地へと変わる。
海流の影響によりノルウェーは比較的温暖な気候で、ここが北極圏というのが嘘のようである。


湖ではなくてフィヨルドです

ナルビクキャンプ場のコタ

午後5時にナルビクキャンプ場に到着、この時期はまだ十分に空も明るい。
その付近を行った来りしながらでオーロラ観測ポイントを探す。
途中、フィヨルドに沈む夕日などを撮影した。


フィヨルドに沈む夕日(デジカメ)

フィヨルドに沈む夕日(一眼レフ)

こちらの車も高速でビュンビュン飛ばしている。
のんびり走っている我々の車(といっても70km/hくらいは出している)はすぐに後続車に追い付かれてしまう。
スウェーデンと違ってこちらの道にはパーキングエリアの標識がなく(※8)、逃げ倦ねているうちに次々に追い抜かれてしまった。
そしてまた渋滞を引き起こしてしまうのがちょっと悲しかった。


湖のほとり・・ではなく、一応フィヨルドの海岸に車を止める。
車の往来が多いが、少し広い空き地になっていて観測場所としてはまずまずだ。
残雪もなく、乾いた地面から砂埃が上がる。
風が強いのが少々難点だが、とりあえずそこで暗くなるのを待つことにした。

フィヨルドの海岸。ホントです




8時頃、北東に白い筋が立ち上り始めたので、外に出て待機する。
8時といっても夕暮れの名残りでまだ辺りが明るく、北欧というのに意外な感じがした。(※9
空の明るさのせいもあってオーロラは薄いが、大きく天を縦断しドレープを翻した。
早い時間から見られてラッキー。
今夜は期待出来そうだ。

ドレープは北から大きくうねり、東に膨らみ天へと昇っていた。
その下の方、北側のドレープが強まったり弱まったりしながら一時間ほどが過ぎた。

8時オーロラ/クリックすると大きい画像が見られます



一旦弱まっていたオーロラが、10時半頃にまた少し強くなる。
いつ来てもいいような状況だったのだが、一向に大きくならないのでとりあえず車中で待機する。


その後、気付いた時は夜中の12時。ついうっかり眠ってしまっていた。
絶対眠らない自信はあったのだが・・うかつだった。
コテージから持参した枕がいけなかったのだろうか。
相棒が時々外を見ていたらしいのだが、同じような状況が続いていたという。
でも、相棒も30分くらいは寝ていたらしいし、短時間で行き去る可能性もある。
夜半近くのオーロラは一番見頃なのですごく後悔したが、決意を新たにオーロラ観測に望んだ。

10時半オーロラ/クリックすると大きい画像が見られます


1時半頃大きめのオーロラが出る。
白いドレープ。
色も動きもほとんどない静かなオーロラだったが、キルナにいたらまず目にすることは出来なかったであろうオーロラを堪能する。

1時半オーロラ/クリックすると大きい画像が見られます




2時半頃にもしょぼめのオーロラが出ていた。
しばらく眺めていると、海側が少しドレープっぽくなっていたので相棒に撮影を促す。
だが、相棒は熟睡モード。
寝起きは特に機嫌が悪く起こすのに一苦労なのだが、それでもオーロラを見なければ後で後悔すると分かっているので無理矢理起こす。
ぶつぶつ文句を言いながらも車から降りてきて、一緒に空を見上げた。

しばらく外にいると、弱く広がっていたオーロラが徐々に大きくなった。
早い時間とは逆にオーロラは西の海側から昇る。(※10
海全体が燃えるように白い炎が立ち昇り、フィヨルドの半島を飲み込もうとする。

2時半オーロラ/クリックすると大きい画像が見られます



明けのオーロラが去ると、我々もようやくシートに身を投げ出した。