「新羅くん新羅くん」
「ん?」
「静雄くんのことで相談と、いくつか質問があるのですが」
「あいつの事で?」
「はい」
「うーん。もう手に負えない、とか?」
「そういうのではなくてですね。ええと、その、なんと申し上げますか……」
「うん」
「最近、静雄くんの態度が素っ気無いような気がして……」
「はあ。……いや、……いつも通りに見えるけどなぁ」
「新羅くんは小さい頃から静雄くんと仲が良かった、とお聞きしましたが」
「誰から?」
「静雄くんから。腐れ縁って言ってたけど」
「いや、まあ、うん。そんな感じだね。というか、さん、なんでそんな畏まってるんだい?」
「うーん、雰囲気を出すため?」
「あー、うん。……はい。で? 相談って?」
「まずこれを見てください。昨日の夜に送ったメールなのですが」







「……ひよこて」
「えっ! ひよこだめかな? 黄色くてフワフワしてるし」
「いや、いいんじゃないかな」
「そ、そか!」
「……ひよこて、……プッ」
「あっ、やっぱりなんかだめっぽい!?」
「ッハハ……さんらしくていいと思うよ。で、これがどうしたの?」
「くそう笑われた……あー、で、これについての返信がね」
「ちょっと待った。そんな簡単にメール他人に見せてもいいわけ」
「別にやましいやり取りじゃないし、いいんじゃないかなあ」
「あ、そう」
「まあ見せて怒られるのは私のほうだから、ええーと、はい、返事がこれね」







「……うーん」
「どうよ」
「……割れてるね」
「でしょう?」
「あー、うん。見事に割れてるね」
「……どうよ?」
「いや、意味がわからないな。これがどうかしたのかい?」
「なんか、素っ気無いなあって」
「あー……ちょっと傷ついたわけだ」
「うん、私のハートはガラスだから」
「ハハッ」
「アハハ」
「……はぁ」
「溜息つくようなこと!?」
「いや、うん。正直、頗るどうでもいいかな」
「……ですよねー」
「で、これが相談事?」
「はい。で、お聞きしたいことがね、静雄くんのメール。新羅くんもやり取りするよね?」
「まあ、偶にね。偶ーに」
「静雄くん、必ず3文字以内か定型文使ったクイック返信でしか返してこないんだけど、これって普通なの?」
「……ん? たとえば?」
「はいとか、いいえとか、おうとか、やめろとか、了解とか、ありがとう! ごめんなさい! わかりました! 後ほど連絡します! ……とか」
「ちょっ、ちょっと待って。今確認してみる」
「お願いします」
「ていうかさん、定型文ってよくわかるね」
「これを見たまえ」







「あー、うん。わかった」
「なんていうか静雄くんって、絵文字とかビックリマークとか極稀にしか使わないから、ビックリマークついてたり絵文字ついてたりするとすぐわかるんだよね」
「なるほどなあ」
「そして了解を使う率が異常に高い」







「あー……、そういえば確かに多いかな。了解」
「はい、でいいのにね。なんでだろう?」
「うーん」
「うーん」
「……」
「……」
「……あれだ。多分、予測変換活用しすぎて癖がついたんじゃないか?」
「り、を入力する癖が?」
「そう」
「なるほどなー……的を得ている気がするよ」
「だろう?」
「めんどくさがりなのかな。静雄めんどくさがり」
「まあ、否定はできないかな……インドア派だしなあいつは」
「しずおめんどくさがり」
「……」
「しずくさがり」
「……」
「しずがり。……あっ! しずおがり! ……っていうとなんかおじさん狩りみたいな感じの……」
「……」
「怪奇! 静雄狩り! ……んー、なんかホラーって言うより必殺技みたいだなー……」
「……ああ、うん。大体5文字以内だな、僕の場合」
「えっ!」
「明日行くとか、今から行くとか」
「えー!? うーん……負けた……」
「勝ち負けの問題なのかいこれ!?」
「だって、2文字も多いし……」
「いやー、数の問題じゃないと思うんだけどね」
「腐れ縁は強かったか……」
「なんか嫌だなその言い方……」
「はぁ、私も静雄くんと腐れ縁になりたいなあ」
「……やめといたほうがいいんじゃないかな」
「なんで?」
「なんとなく、かな。腐れ縁って、よくない意味だしね」
「そっかー。じゃあ、腐らない縁になる!」
「それがいい」
「……とりあえず、静雄くんのメールは、これが普通なわけだ」
「うん」
「よかったあ……」
「……というか多分、あれだよ」
「どれだよ?」
「あいつの事だから、メールより電話のほうがいいんじゃないか? 僕も電話のほうが多いし……」
「うん、そう思って電話しまくったら、しつこいと怒られてしまって」
「あ、そう。……で、今はメールに落ち着いていると?」
「うん。ごくたまに電話もするよ」
「……」
「……あっ、なんかすごいくだらねえ! って顔してる」
「はは……で、さんの相談と聞きたい事って、これだけかい?」
「うん」
「そっか」
「うん!」
「……遅いな静雄」
「お説教ってこんなに時間かかるの?」
「いつもはもっと早いんだけどね、反省文でも書かされてるんじゃないかな?」
「なるほど」

2012/02/22