公私混同

※モブ職員が登場します
「パソコンの掃除ですか?」
「ああ、談話室のな」
 割り当てられた作業を終えて待機室で片付けをしていたところ、手が空いているのならばとそんな話を持ちかけられた。
 談話室といえば、閉鎖空間におけるカルデアにおいて職員がのびのびと過ごせるよう用意された自由空間である。しかし今はサーヴァントが悠々自適に過ごすための部屋と化してしまった。そんな談話室の内部を思い返すと、確かに自由に使えるパソコンが1台置いてあったはずだ。
「半年くらい前に掃除したっきりでな」
 そう言いながら先輩は半透明の収納ボックスをドンと私の前に置いた。覗き込む。箱の中には、スプレー缶に無水アルコールのボトルにドライバーといろいろ入っていた。眺めていると、ボックスの中に追加で小型のハンディクリーナーが追加される。
「あの、こういう方面は不慣れなのですが」
「じゃあ慣れろ」
 もっともだ、従うほかない。それに作業内容だけでみればパソコンの掃除なんて、いつもの仕事よりずっと楽だ。
 荷物を抱えて談話室へ向かう。幸いなことに、談話室には誰もいなかった。
 部屋の隅に配置されたパソコンデスクへ向かい、荷物を足元に置いた。デスクの上には大きなディスプレイがあり、キーボードとマウスも立派なものが揃えてある。しかし本体はこちらではない。テーブルの足元に置かれた長方形のプラスチック製の箱が本体だ。そちらの具合を確かめるため、床に腰を下ろした。収納ボックスをあさると、お誂え向きにケースのマニュアルが入っていた。英語で組み立て手順が書いてある。静電気防止手袋に手を通しながら、一通り目を通す。今回は分解して掃除をするのだから、この手順を遡ればいいはずだ、多分。
 パソコンの電源ケーブルをコンセントから引っこ抜き、ネジに合うプラスドライバーを取り出す。ケース側面のカバーをネジ穴が潰れないよう丁寧にはずして、そのネジがどこを留めていたものかわかるようにグループ分けしてデスクの上に置いた。
 中身の部品は薄く埃をかぶっていた。空調は動いているし人の動きもあるけれど、密閉空間と言っても過言ではないカルデアでもこうして埃が積もるのが不思議だ。この埃は一体どこからくるんだろう、なんてくだらない事を考えてしまう。
 マスクをしてエアダスターで埃を吹き飛ばす。ついでにキーボードにもかけておく。散らばった埃をハンディクリーナーで吸い取っていると、ちょいちょいと肩を突かれた。
 スイッチを止めて振り返ると、エルキドゥさんがいた。いつの間に入ってきたんだろう、気が付かなかった。
「何をしているんだい?」
「パソコンの掃除です」
 マスクをずらしながら言うと、
「掃除……」
 エルキドゥさんは小声で復唱して、私の隣にどっかと腰を下ろした。堂々たる仕草から、このまま居座ろうとする根性を感じた。
「もしかして、お暇です?」
 訊ねたあとに随分と失礼な事を口にしてしまったと思ったけれど、そんな私の不安を他所に、エルキドゥさんは笑って頷いた。
「うん。暇だよ、毎日」
 自由人みたいな事を言い出すから、ちょっとおかしい。
「しばらく見ていてもいいかい? 邪魔はしないから」
「はい、構いませんよ。私的には、ちょっとお話相手になってくれると嬉しいです」
「……うん。それじゃあ、邪魔にならない程度に」
 エルキドゥさんはそう言って、ケースの中身を興味津々に眺めている。
 一度のレイシフトで連れていけるサーヴァントの数には限りがあるそうなので、あぶれてしまうサーヴァントのほうがもっぱら多いと聞く。今のエルキドゥさんは後者なのだろう。今度藤丸くんに会ったらエルキドゥさんが退屈そうにしていると伝えようかなと思ったけれど、藤丸くんが現状を把握していないわけがないし、きっと余計なお世話になるかもしれない。
 ケースの外側の埃を吸い取って、それから内部のパーツを覗き込む。綿埃が少し残っていたので、木製のピンセットをつかって取り除く。それでも電源部分の埃がうまくとれない。結局ドライバーを使って電源ユニットを取り外した。エアダスターを噴射しようと思ったところで一端手を留め、エルキドゥさんにマスクを渡して装着してもらった。いくらサーヴァントで人じゃないと言っても、埃が巻き上がる場所にマスク無しでいられるのは恐れ多い。
 エアダスターを使い、四方に巻き上がった埃を掃除機で吸う。それでも電源ユニットの表面に細かい埃がついていたので、クリーニングクロスに無水アルコールを浸して拭き取る。
「手慣れたものだね」
 マスクが気になるのか、ゴムのところを引っ張ったり、ヒダの部分を触りながらエルキドゥさんは言う。
「そうでもないです。こういった事はまだまだ初心者ですよ」
「それにしては取り組み方が随分丁寧だ」
「壊したら弁償ものですから、慎重にならざるを得ないんです」
「そうか……この機械が少し羨ましく思えるよ。僕もに掃除して貰いたいな」
 はっと息を呑んで手を止めた。エルキドゥさんの顔を見ればいつもどおりの純粋さを湛えた表情で、変な意味合いはないものと察した。手を動かす。
「いや、あの、エルキドゥさんのどこを掃除するんですか?」
「……どこだろうね?」
「私に訊ねられても困るんですが……」
「ううん、は僕のどこを掃除すればいいと思う?」
 困ると言っても平気で訊ねてくるのがエルキドゥさんだった。
「んんと、サーヴァントの方って霊体化? というのをしたら、汚れとか綺麗になるんですよね?」
「概ねはそうだね。そもそも僕等はエーテル体だからね、空中を漂えるほどの微少な付着物はひとたび霊体化してしまえば払い落とされる。体の中に溜め込んだ食料も魔力に換算されるよ」
 でた、エーテル! なんて心の中で呟いた。
 エルキドゥさんの言うエーテルとは、有機化合物由来のものではなく魔術由来のものを示す。いわば一般人には縁のない謎物質だ。エルキドゥさんが日頃飲んでいる白湯だったり、たまに私のお皿から悪戯につまみ食いした物の行方は謎めいていたけれど、そうやって消化されるんだなと納得した。
「それじゃあ……いらないですよね、お掃除」
「でも、湯浴みをして身体を洗うサーヴァントも中にはいるよ」
 湯浴み、つまりお風呂。
 そしてエルキドゥさんの「掃除してもらいたい」という発言。
 この3つを勝手につなぎ合わせて、言外の意味を勝手に想像して、激しく動揺してしまった。手元が狂って電源ユニットを取り落しそうになり、慌てて膝の上におさめる。無事なことを確認しほっと一息ついて、ユニットの表面を撫でさする。つるつるさらさらの感触に触れていると、幾分か心が落ち着いた。
「……それは、エルキドゥさん一人でできますよね?」
「僕はここに召喚されてから一度も湯浴みをしたことはないからね、出来ないかもしれない」
 もしこれが普通の人の発言であれば即座に汚いと思っただろうけれど、エルキドゥさんはサーヴァントだ。身なりは不思議と清潔感のただよう人なので、そんな感情はまったく湧いてこなかった。
「生前は? まさか洗ってないなんて事は……」
「もちろん水浴びくらいはしたさ」
 しばらくの間をおいて。
「できますよね?」
「ううん……急に出来なくなったかもしれないな」
 腕を組みながら、もっともらしく考え込む素振りを見せるエルキドゥさんから目をそらす。
「急にダメ人間を演じても駄目ですよ?」
 電源ユニットをケース内部へと収める前に、一応ハードディスクも外してクロスで表面を拭き取った。部品をつなぐコードも綺麗にしておく。ひととおりエアダスターをかけて、床に置きっぱなしだったドライバーを手探りで探すと、指にぶつかった感覚に違和感があった。
 ドライバーが、2本ある。
 そして、隣にいたエルキドゥさんはいなくなっていた。
「……エルキドゥさん?」
 結果はわかりきっているのに、声をかけて辺りを見回してしまうのは混乱しているせいだろうか。談話室に人の気配が無いことを確認して、あらためて2本のドライバーを見下ろした。外観だけでは、どちらが本物かわからない。手に取ってみるけれど、同じものにしか見えない。
 何を考えてこんな浅はかな悪戯に身を投じたのか。エルキドゥさんの胸中を知る由はないけれど、暇なんだろうなあと思った。私も自室にいて暇な時は部屋の中を無意味にぐるぐる動いたり、筋トレなんかもしてしまう。根底はそれと同じなんだろう。
「エルキドゥさーん」
 再度声をかけても、当たり前のように返事はない。
 さんざん迷った末、片方を床に置いて作業に戻った。パーツをケースに固定するためのネジを締めてみるけれど、違和感は特にない。
 静かな室内。ネジをひとつずつ締めながら、たまに床に置きっぱなしになっているドライバーをちらっと見て、やっぱりどっちがどっちだかわからないなと確認する。手にしているドライバーがもしエルキドゥさんだったらと思うと、なんだか申し訳ないような気持ちになる。
 電源ユニットを取り付け終わり、ふうと一息つくと、廊下から足音が聞こえた。談話室のドアに顔を向けると、ほぼ同じタイミングで誰かが入ってきた。
 服装はスタッフが身につけているものだ。顔を見れば、技師班の先輩だった。
「どうだ? 順調か?」
 先輩が声をかけながらこちらに近づいてくる。
「はい。あとはケースの蓋をしめればおしまいです」
「そうか。無事に電源が入るといいな」
「こっ、怖いこと言わないでくださいよ……」
 身震いしていると、ふいに握りこぶしを顔面に突き出された。
「さっき食堂で飴を貰ったんだ、いらんからやる」
「あ……どうもありがとうございます……」
 手を差し出すと、手の平の上に飴が二つぽとぽと落ちてくる。透明な個包装ごしに見える黄色と赤色の飴を、ポケットにしまいこんだ。
「その代わりと言っちゃ何だが、この床に落ちてるドライバー借りてもいいか? 入り用になっちまって」
 先輩が床に横たわったままのドライバーを指差すものだから、思わず固まった。
「ああー……ええと、それは駄目です」
「駄目って……お前二本あるだろ?」
 床に落ちているものと私の手にあるものを交互に指差しながら「そもそも何で二本あるんだよ」と言うから、殊更焦った。
「あっ、いや、これはその……」
 未だにどちらのドライバーがエルキドゥさんなのかわからないのだ。焦ってしどろもどろになる私をよそに、先輩は床に落ちたドライバーを拾い上げる。
「サイズ、それでいいんですか? 他のもありますけど」
 慌てて収納ボックスの中にあるドライバーの箱を示すけれど、悲しいことに先輩はゆるく首を振って拒否を示した。
「いや、これでいい。んじゃ借りてくからな」
 のっしのっしと立ち去る先輩の背中をはらはらしながら見送って、私の手元にあるドライバーに目を落とす。
「エルキドゥさん?」
 ドライバーに話しかけてみるけれど、返事はない。とりあえず手元のドライバーがエルキドゥさんであることを願いつつ、ケース側面の蓋の四隅にあるネジを締めようとした所だった。
「ぎゃあああああっ!!」
 遠くから、野太い悲鳴が響いてくる。
 ぎょっとして談話室の扉に目を向けると、数秒の間を置いてエルキドゥさんが小走りで飛び込んできた。私のすぐ側に――まるで私を盾にするかのごとく――腰を下ろすと、首を伸ばして廊下側を伺っている。
「彼を怒らせてしまったかな……」
 心配そうに呟いて、私と目が合うなり困ったような微笑を浮かべた。
「ごめんね、軽薄な事をしてしまった」
「変な悪戯心を発揮するからですよ」
「そうだね。次からは気を付けるよ」
 何を気を付けるんだろうと呆れていると、先輩が談話室に戻ってきた。途端にエルキドゥさんが私の後ろに隠れるように寄り添ってくる。おまけに、遠慮がちに背中に手を添えてくるから、なんともいえない気持ちになった。卑怯だと指摘したいけれどこのままやり過ごしてあげたいという複雑なものを抱えたまま、私はエルキドゥさんを後ろ盾に先輩と対峙した。
「片方がおかしいなら最初に言えっ! 本当にビックリしたんだからな!」
 怒声が飛んでくる。思わず肩が跳ねた。
 よくよく見ると、先輩は半べそをかいていた。持ち歩いていたドライバーがいきなり人間の形になったら、確かに耐性の無い人はこうなってしまうかもしれない。
「す、すみません」
「くそう、生意気に公私混同しやがって! あとでダストンに報告してやる、覚えてろよ!」
「はい、覚えておきます」
 先輩の虚勢を揶揄すればさらに面倒な展開になりそうなのは明白だったので、返す言葉は素直なものにとどめた。
 急いでケースの四隅のネジを締める。その間、エルキドゥさんはずっと私の体の影に隠れていた。
 先輩に向けてドライバーを差し出すと、先輩は素早い動作で近寄ってきて、むしり取るようにドライバーを受け取ったあと、すぐに距離をとった。
「ドライバーのケースはいつものとこに保管しておくので、片付けはお願いします」
「わかってるよ」
 先輩は適当な返事を私によこしながら、おっかなびっくりにドライバーを確かめている。余程ビックリしたらしい。
 と、後ろのエルキドゥさんが身じろぎする気配を感じた。
「驚かせてしまって申し訳ありません」
 エルキドゥさんの声はいつもより小さかったけれど、相手の耳に届くには充分な声量だった。
 先輩は一瞬面食らったような顔をしたのち、
「いえ、こちらこそ大変な粗相を働きました。失礼しました」
 かしこまったように言って、のっしのっしと部屋を出ていく。
 気配が遠ざかる。私がほっと胸を撫で下ろすのと、エルキドゥさんがほっと吐息を零すのはほぼ同じタイミングだった。振り返ってエルキドゥさんと顔を見合わせ、一緒に微笑む。
「許してくれただろうか」
「大丈夫ですよ。こんなので怒るほど、器量は狭くないです」
「その言葉を信じるよ。……が僕を手に取らないから」
 エルキドゥさんは不貞腐れたように言う。
「人のせいにしないでください。というか、あそこまで判別つかないとどっちがどっちかわからないですよ。ほんのちょっと違いを混ぜ込んで、エルキドゥさんだってわかるようにしないと」
「……そうだね。次からはそうするよ」
 そう言って、エルキドゥさんは膝を抱えるように座り直した。いつも胡座をかいたり、片膝を立てたりして座っている事が殆どだから、なんだか落ち込んでいるように見えなくもない。
「生意気に公私混同か……やっぱり、の仕事中に話しかけるのは控えたほうがいいかい?」
 私は間髪いれずに首を振った。
「そんな事ないですよ。話しかけてもらえるのは嬉しいです」
「本当は?」
「……節度は大事にしていきたいですね!」
 エルキドゥさんは何も言わず、眉間に皺を寄せる。抱えた膝に顔半分を埋めた。
 とりあえず、手袋を外して、パソコンの電源コードをコンセントに差し込んだ。スイッチを入れると、きちんと起動してくれた。心なしかファンの音が静かだ。ディスプレイを見ればちゃんと画面が表示されている。掃除は成功だ。起動したばかりのパソコンを終了させて、それからちんまり座っているエルキドゥさんの隣に腰を下ろした。
 エルキドゥさんの服の裾をちょいちょいと引っ張る。視線がこちらを向くと、ポケットからさっき貰ったばかりの飴を取り出した。
「なんだい?」
「エルキドゥさん、赤いのと黄色いの、どっちがいいですか?」
 個包装の色違いの飴ふたつを、エルキドゥさんはしげしげと眺めている。
「どちらかといえば……黄色かな」
「それじゃあ、これをこうして……」
 飴をエルキドゥさんに渡すこと無く、後ろ手に持っていく。背後に回した両手の中で飴を適当にシャッフルさせて、左右それぞれ一個ずつ飴を握った手を突き出した。
「黄色い飴はどっちでしょうか!」
 エルキドゥさんは、逡巡するかのように私の右手と左手を交互に見つめ、
「……こっち」
 そっと、控えめな仕草で右手を指差した。エルキドゥさんが手を開いて受け皿を作るので、握りこぶしを開いて飴を渡す。
「おおー、当たりです!」
「うん」
 正解するのが当たり前とでもいうように、エルキドゥさんは頷いた。
 エルキドゥさんは人の体温を目視で測ることができるほどの能力が備わっているし、もしかすると端から手の中にある飴の色を見破っていたのかもしれない。ともすれば私の行為は相当な茶番に終わるのだけれど、エルキドゥさんは穏やかに微笑むのみだ。多くを語らないその表情をじっと見つめて、気にしないことにした。
「それ、あげます。……えへへ、ちょっと休憩。一緒に食べましょう」
 もう片手に残った赤い飴の包装を破いて、口の中に放り込む。ころころ転がすと、案の定イチゴ味が口の中に広がった。
 エルキドゥさんもやがて包装を破いて、黄色い飴を口の中へ運んだ。そのタイミングを見計らって手を差し出すと、エルキドゥさんはすぐに察して包装を渡してくれた。ゴミをまとめてポケットに突っ込む。
「甘酸っぱくて美味しいですね」
「うん。……見た目の色が違うだけで、味は同じなのかい?」
「酸味の強さと、香料が違うと思います。私のはイチゴ味で、エルキドゥさんのはレモン味」
「そうか……なるほどね」
 膝を抱えるように座っていたエルキドゥさんも、いつしか足を崩してゆったり寛いでいるふうだ。機嫌が元に戻ったらしい。
 特に会話らしい会話もなく、二人して無言で飴を味わう。安息の時間。
 ふと、なんとなくエルキドゥさんの腕にもたれかかってみた。横目でエルキドゥさんを見上げれば、エルキドゥさんの瞳が待ち伏せするかのようにこちらを伺っていた。
「節度はどうしたんだい?」
「休憩中ですから」
「……ずいぶん適当だね」
「そのぐらいが丁度いいんですよ」
 視線を少し下にずらす。エルキドゥさんのさらっとした白い頬が、にわかに膨らんでいた。
 手を伸ばして突っついてみると、柔らかな頬の弾力ごしに硬い感触が指先に伝わってくる。きっと飴玉があるんだろう。悪戯に何度かつついていると、エルキドゥさんが飴玉を引っ込めた。膨らんだ頬がしぼんでしまう。
 流石に鬱陶しかったかもしれないと私も手を引っ込めるけれど、エルキドゥさんの頬がまた膨らんだ。数秒の間を置いて手をのばす。何度かつつくと引っ込んで、様子を伺うとまた膨れて。その繰り返し。
「……っふふ」
 やがて、エルキドゥさんが肩を震わせてくすくすと笑い出した。私の方にもたれかかってくる。少し重いけれど苦にはならない。むしろその重さが心地よく感じる、不思議な感じがした。
 顔を見合わせる。無邪気に笑うエルキドゥさんの顔を見て、自然と頬がほころんだ。
「ふふー、これが公私混同の味ですね」
「そうだね。美味しいな」
 私の頭にするりと頬を擦り寄せて、エルキドゥさんは嬉しげに言う。含み笑いと柔らかさをともなった声が耳朶に滑り込むのを感じながら、私はささやかな幸せを噛み締めた。