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テキストファイルにつらつら書きためてたサイズの小さいものの集合体。
古いのもあれは新しいのもあります。



かゆい しりとり うま

 暇だから骸としりとりしはじめて、早10分。
 わたしも骸も負けず嫌いなようで、なかなか終わらない。しかも致命的なことにネタが尽きてきたせいで、わたしは“だ”でひっかかってしまいましたとさ。
 パスは3回分もう全部つかっちゃったから逃げようがないので、今必死に考え中。ちなみにこのしりとり、負けたほうは罰ゲームだから、負けるわけにはいかない。
「だんぼう」
「さっき言いました」
「だんろ」
「僕が言いましたよ」
 ネタがつきてきたぞ! と、ちらちら部屋の中を見回して、ハリーポッターの背表紙を見て、ぱっと思いついた。
「だっ、ダレン! …シャン! ……あっ、ダメだ…」
 何も考えずに言ったわたしがバカでした。
「…バカですかあなた」
 間をおいて言われた。ちくしょう。
「だー…だるまさん……これもダメだ」
 うーんうーんと悩んでるわたしに骸がギブアップですか?とにやにやしながら聞いてくる。負けたら何されるかわかったもんじゃない! 負けられるか! 
 …そういやしりとりってあいうえお順にやってけばなんか思いつくような。
「だ…だあ、だい、だう…、あ! だいこん!」
「…自信満々なとこ失礼ですけど、それもダメじゃないですか」
「だー、だいー……だいすき! あっ!?」
 言って後悔。骸を見ればちょっとだけ顔を赤くしてるから、さらに後悔。
「いっ今のなしー! だー…、だいすけ! だいすけくん!」
「…誰ですかそれ。つーか“ん”がついてますよ…。“き”でいいですか?」
「だいすけじゃないほうをとるんだ!?」
「き、きー、……そうですねー、嫌いじゃないです」
「え?」
「だから、嫌いじゃないです」
 の事、と付け足されて思わず固まってしまった。
 フツー、しりとりで律儀に返答する人っているの!? と思いながらも、結局はてれたように笑う骸に何もいえませんでした。
 ちなみに当然のごとくわたしが負けたましたとさ。罰ゲームについては何も言うまい。

略してかゆうま。ギャグになるかなあと思ったらならなくて、自分で気持ち悪くなってきた。



二次元幼馴染系によくありがちなヤツ

 こつん、と窓ガラスに何かが当たった。わたしはその音にびっくりして、窓のほうを振り返った。珍しく張り切って勉強なんかするから、こういう妨害がくるんだ。わたしはため息一つ吐いたあと、机の上にシャーペンを置いて窓の傍に寄った。カーテンを開ける。窓の向こうには、今にもこっちに向かって石ころを投げてきそうな骸の姿があった。彼は紺色にオレンジのラインが入った見慣れないジャージを着ている。どうやら新しく買ったらしい。
「せ、せめて投げるの消しゴムとかにしてよ…!」
 呟きながら窓を開ける。骸がにっこり笑った。
「ものすごい暇なので相手してくださーい」
「えー! わたし今忙しいんだけど!」
 3、4歩分くらいの距離の先に、骸のおうちの壁、窓、そして骸。わたしと骸が窓から手を伸ばしてもその手に届きそうで届かない。距離が結構曖昧だなーってよく思う。窓枠に肘をついて手のひらに顔をのせてる骸は、さも不満そうにブーイングを発した。
「忙しいって、は何してたんですか?」
「べんきょー。だってもうすぐで期末試験だもん。だから骸に構ってる暇なんかありませーん」
 言うと、骸はふむ、と呟いた。
「寂しいんだったら犬ちゃんとかつなよしに電話すればー?」
「何が悲しくて夜中に男と電話しなきゃならないんですか」
「そりゃそうだね」
 ケラケラ笑うと骸が不満そうに眉を寄せた。
「つーか、寝ればいいじゃん」
「あいにく眠くないんです」
 むすっと言う骸に対して、だったら散歩とかすりゃいいんじゃないのかなあと思うのだけれども。
「じゃあ、そうだなー。暇なら勉強教えてよ」
「え、この状態でですか?」
「違うってばそれじゃあやりづらいでしょ! 変なところでバカだなー骸は」
 ジャガーさんみたくプープスプスって笑ったら骸が盛大にため息を吐いた。これ以上やると本気で怒り出しそうなのでやめておいた。
「うーん、そうだなー、骸の部屋行くのめんどくさいからこっち来てよ」
「え」
 骸が目を見開く。なんだその反応。
「えー、じゃあわたしがそっちに行く?」
「いやいいです僕がそっち行きます」
 なんだそりゃ。ていうかやけに骸必死だ。骸必死だな!プギャー! とか言ったら殴られそうだから心の中にそっととどめておいた。骸は小走り、ってほどではないけど結構急ぎ足で部屋のドアに向かう。その時骸の背中にプーマのマークがちらっと見えた。
 …ち、ちくしょーう! あれ欲しかったやつだ! 先を越されてなんだか涙が出てきた、と思ったらピンポンピンポンピンポンピンポーンとインターホン連打の嵐。ちょ、おま、夜中なんだから控えろよ!

幼馴染&お隣さんで同級生ポジションな骸。



手と手のしわをあわせてしわあせ。アレ?

 今は真冬です。雪がわんさか降っています。だというのに隣の男は手袋はおろかマフラーすらしていません。見た目さむすぎです。こっちまで寒くなってきます。
「だからー、手袋貸してあげるよー」
「いりません」
 こっちに顔を向けずにそういうこの男。愛想のひとつやふたつ向けてくれてもいいだろうに、なんでこうわたし相手だとつっけんどんになるのかなあとため息を吐いたら幸せが逃げますよっていわれた。それはおまえのせいだ六道骸。
「さむくないの?」
「全然。許容範囲です」
「嘘だあ」
 いいながらわたしは右手の手袋をとって骸の手を握ってみた。…ちょ、つめたっ! 予想以上の冷たさに、手から寒気が上ってきて思わず離してしまう。その離し方はまるで汚いものから慌てて手を離すような動作に似ていて、ちょっとやばいかなと思って骸を見たら、予想通り眉をひそめていた。怖いよ!
「だから、手袋したほういいってば。あかぎれになるよ」
「気にしません」
「しもやけで手ぼろぼろになるよ」
「なりません」
 くそう、強情なやつだ。骸の左腕を引っ張って立ち止まると、自然と骸も足を止める。右手をつかんで、無理やり手袋をはめると、骸がこれでもかというほど顔をしかめた。
「…気持ち悪い」
「ひどっ! 人が親切でやってるのに!」
「そんな親切、僕は一度たりとも望んでませんけど」
 くそーなんてヤツだ! 冷たすぎる! まるで冬のようだ! この雪男! アルプス! ハイジ!
「はー、骸に手袋を貸したわたしがものすごーぉくバカでした。手袋返してよー」
「は? 手袋を押し付けられたと思ったら今度は返せですか。非常に心外です。あなたの言い方が非常に不愉快だ。僕はあなたから手袋を取り上げた覚えはないのですが?」
 もしや、こいつ怒っていらっしゃるんですか? と、骸にきつく睨まれて、ちょっと蛇に睨まれたカエルな気分を味わった。つーか手袋ごときで怖いよこいつ! 寒いわ怖いわでガクガクブルブルしてると骸が盛大にため息を吐いた。手袋をしていない骸の左手が、同じく手袋をしてないわたしの右手をつかむ。ぎゃっ! つめたっ!
「なんで顔を顰めるんですか。…本当に、あなたといると不愉快でたまらない」
「そっそれはこっちのセリフだちくしょー! 冷たいんだよお前!」
 このいろんな意味でアブソリュートゼロ(絶・対・零・度!)が! と吐き捨てるようにいうと、骸が静かに睨んできた。わたしはまたカエルになる。けろけろり。
「はあ、もうやだやだ!」
「駄々をこねる労力を歩く事に費やしてくれませんか?」
 カエル状態のわたしは当然、かっちこっちと歩き出す。まるでパントマイムだ。
「その歩き方気持ち悪いからやめてください」
 ちくしょうつっこまれた! 仕方なく普通に歩く。
「はあ…」
「…」
「はあ…」
「…」
「はあ…」
「…ハァハァハァハァ煩いです」
「ため息だってば!」
 くそーちくしょーなかなか癪にさわるヤツだ! しかし落ち着け。ここでプッツンしたら相手の思うツボだぞ。
「安っぽい手袋ですねー捨てていいですか?」
「やめろー! あーもう本気で返してくれ!」
「イヤですよ。あなたに手袋を返したら、僕が負けたみたいじゃないですか」
 うわーなんてヤツだ。もう泣きたい。鼻をすすって俯くと泣いてるんですかみっともないっていわれた。ちくしょう泣いてないよ誰が泣くもんか!
「くそーおかあさんのうそつき」
「はあ?」
「手と手のしわを合わせたら誰とでもしあわせになるって絶対嘘だ」  
「なんだか妙にひっかかる物言いですね。僕と手を繋いでいるせいであなたは不幸のどん底にでも陥ってるかのような…」
「まさにそのとおりだよこのバカむくろ」
 呟いたらおでこを殴られた。でも手袋はめてたほうの手だからそんなに痛くはなかった。ていうか手加減してくれたのかも知れない。叩く音もそんなしなかったし、せいぜいぽすんって音がしただけだし。
「くそーくそー、…って、骸、手あったかくなってきたよ」
「ほんとあなたはいきなりですね……そうですか?」
「うん」
 左手にはめた手袋を口に銜えてはずしてポケットに突っ込んで、そのまま両手で骸の左手を包み込むように握る。やっぱりさっきよりいくばくかはあったかくなってるみたいだ。骸の左手をさすってみるとまたおでこを叩かれた。ぽすん。痛くはない。
「気色悪いのでやめてください」
「うー、かわいくないなあ」
 言いながらポケットの手袋をいそいそと骸の左手にはめた。びっくりしたのか骸が立ち止まる。
「…どういうつもりですか」
「いや、なんとなく」
 骸の両手がわたしのもこもこの手袋で覆われる。なんかすごい一仕事した気分になった。
「…寒くないんですか」
「うん。そんなには」
 すると不満そうに骸は眉を寄せて、ちょっとだけそわそわしながら左手から手袋をはずした。
「ちょっ、せっかくやったのに!」
「…黙れ」
「すいませんでした」
 やっぱコワイヨー。ぐすぐす鼻をすすってうつむくと、左手をつかまれる。あっという間もなく、手袋をはめられた。びっくりした。これは何かの夢なんじゃないかと骸を見ると、骸はぷいとそっぽを向いた。
「ほら、行きますよ」
 手袋をはめていない手を握られる。半ば引っ張られるようにして歩きつつ、骸の赤い耳を見ながら、明日は隕石が落ちるんじゃないかとか、そんなことを考えた。

すっげーグダグダ。



ガリガリ君はうまい

 早くも隣でアイスを食べ終わった骸は、口寂しいのか棒を銜えたまま本を読んでいた。骸がアイスの棒を甘噛みしてるせいか、ゆらゆらと上下にゆれる棒をじーっと見つめて、気づいた。
「む、むくろ! そのアイスの棒ちょうだい!」
「ハァ!?」
 骸は棒を口から出して、信じられないものを見るかのようにわたしを見た。
「…な、なんでこんなのがほしいんですか」
「骸は気にしなくていいから! なんならこのアイスと交換する?」
 食べかけのアイスを骸の目の前に出すと、骸はいやいやいや、と口を引きつらせた。
「とうとう頭がおかしくなりましたか?」
「いやなってないってば」
「いや、だって、これ、食べ物じゃないですよ?」
「骸のそれはもはや食べ物と等しいよ」
 えええええ、と骸が嫌そうな顔をする。しかしややあってからしょうがないですねとわたしにアイスの棒をよこした。じーっと見る。間違いない。あたりだこれ。
「じゃーこれ骸のね」
「…は、あ」
 戸惑いがちに言って、わたしからガリガリ君を受け取った。それから怪訝そうにわたしを見てくる。
「ほんと、大丈夫ですか。精神科いきますか?」
「いや、意味がわからん。とりあえず出かけてくるー」
「どこにですか?」
「さっきのコンビニ」
「は? なんでですか。何か買い忘れたんですか」
「だってこれあたりだもん」
「あたり?」
 骸が不思議そうに首をかしげる。なんとなく、今まで会話がかみ合ってないかもとか思ったけど、それを見て気づいた。――そうか、なるほど。骸は知らないのか。
「このアイス、くじつきなの。あたりって棒に書いてあると、ガリガリ君もう一本もらえる」
「えっ、ほんとですか?」
「うん」
「…信じられませんね…」
「なんなら一緒に交換しに行く?」
 すると骸はしばし考え込んでから。
「…はい、興味深いです」
 たかがガリガリくんにここまで興味を持つなんて、なんかバカっぽいなあ。

世間知らずの骸。ガリガリ君ちょううまい