※鏡音姉弟(兄妹?)が普通に人間として暮らしております。オリキャラ注意。


 僕に瓜二つの双子の姉は、お転婆でお調子者で悪戯が好きで、いわゆる変人と言う奴だった。
 突拍子もなく、いきなり何かを仕出かしてはお母さんに怒られて、「14歳になってまだ落ち着きがないのか」とお父さんに呆れられるとへらへら笑って誤魔化して、正直僕は姉が何を考えているのかさっぱり分からないし、理解したくもない。
 双子っていうのは普通の人と違って少しトクベツで、何かしら不思議な共通点があるっていうけれど、僕たち姉弟にはそんなものは何もない。例えば片方が膝をすりむいたら片方の膝が痛くなるとか、片方が風邪を引いて熱を出したら片方も同じように熱を出すとか、そういう類の事は一切なかった。そんな僕たちの唯一の共通点といえば、顔や身体の造りが凄く似ていることと、音楽。ただそれだけだった。

「うわあ、レン、すっごい似合ってる」
 鏡の中に映る僕を見て、姉のリンが吃驚したようにぽつんと呟いた。僕は恥ずかしくて、自分の履いているスカートの裾をぎゅっと掴んだ。
 僕は今、姉のリンの制服を着て、いつもの姉と同じような髪形をしている。対するリンといえば、僕の学校の制服を着て、いつもの僕と同じような髪型をセットして、嬉しそうにはしゃいでいた。
「何よレン私よりかわいいじゃない!」
 リンはきゃっきゃと鈴の音を転がすような声で騒ぎ始め、学ランの袖から僕より一回り小さい手を出して僕の頭を撫で始めた。恥ずかしくてたまらない上に、頭を撫でられるという屈辱的な行為がさらに僕の羞恥を煽って、僕はムカムカしながらリンの手を振り払った。
「なによう、似合ってるのに。拗ねなくてもいいじゃない」
 似合っている似合っていないの問題ではないだろと僕はリンに言いたかったが、言ったら何をされるかわからないので黙っていた。そもそも“学校一日だけ取替えっこしてみようよ”なんて発想、誰がするだろうか? 世界中探してもそんな事を実行に移してしまうのは多分目の前のこのバカな姉だけだろう。それでも救いなのは、明日明後日は仕事も学校も休みという事と、僕の学校もリンの学校も今日は2時間授業で終わりだってことだ。
「2人ともー! はやく朝ごはん食べなさーい!」
 下からお母さんの声が聞こえてくると、リンはにこにこしながら「はーい」と僕の声真似をしながら返事をして部屋から出て行ってしまった。
 鏡の中の僕を見る。まるで男とは思えない格好だ。今の格好がものすごく惨めで情けなくて、僕は溜息を吐いてとぼとぼとした足取りで部屋を出た。
 こうなる状況の前、つまりリンが「取替えっこ」を僕に提案してきたとき僕はめいっぱい首を振って拒否したけれど、僕とリンのヒエラルキーは断然リンが上だし、情けないけど暴力的にもリンのほうが上だ。はなから僕に拒否権なんてものは存在しなかった。つまり僕はリンに一生逆らう事ができずに、使いっ走りやいろいろな悪戯の実験台にされながら過ごさなければないのかもしれない。
 すごく泣きたくなった。


 僕が通っている学校は私立の中学校だけれど、リンが通っているのは私立の中では滅茶苦茶有名なエスカレーター式の女子中学校だ。ここら辺にも姉と僕との、両親の金のかけ方が違うことがひしひしと伝わってくる。
 そんな、リンの通っている私立中学校の、花の校証が刻まれたレンガ造りの門を通り、長い坂道を履き慣れないローファーでただひたすら歩いた。遠くに白い校舎がぽつんと霞んで見える。何故学校までの道をこんなに長くしたのか、僕には理解不能だ。まるでデメリットしかない。
 一人寂しく歩く僕の後ろから黒塗りの高級車が追い越していくけれど、周りには人っ子らしい人なんて一人もいない。多分この学校に通う人の殆どが自家用車で通学しているんだろう。自分の家の車で送り迎え通学なんて、この学校は本当に金持ちだけしかいないのかもしれない。まあ僕の家も高所得者の部類に入るだろうけど。
「リンちゃん!」
 いきなり声をかけられた。吃驚して立ち止まり、息を呑む。歩道にとたとたと足音が響くのが後ろから聞こえて、僕はゆっくり振り返った。
 ストレートの黒髪を両耳のしたで二つにまとめた女の子が、真っ白いマフラーを揺らしてこっちにやってくる。その子は僕の前で立ち止まるとはあはあと息を整えながら、ほんわかした笑顔を浮かべた。僕の学校は共学だからいろんな女子に会うけれど、多分、僕の学校にはこんなに綺麗な子はいない。
「やっぱりリンちゃんだ。おはよう」
 リンの笑顔はギラギラしててプラスイオンがバリバリ出てます、という感じだが彼女の笑顔は紛れもなくぽわぽわマイナスイオンが放出されていますという感じだろう。まあ何が言いたいかというと、ものすごく癒された。
「う、うん、おはよう」
 できるだけ声を高めに意識して出してみると、彼女は僕の声に違和感を感じず、リンの声だと認識したようですぐに僕の隣に並んだ。彼女は寒さのせいか、鼻先とほっぺたが赤くなっていた。彼女は僕の顔をじーっと見てくるので、もしかしてばれたのかとたじろいだが、意外にも彼女はにこっと笑った。
「声かけてリンちゃんじゃなかったらどうしようかと思っちゃったよ。一緒にいこ?」
「う、うん」
 なんかちょっと今のセリフに引っかかるものがあったけれど、とりあえずばれてはいないようだ。ほっと息を吐いて胸をなでおろす。彼女が歩き出すので、僕も歩き出した。けれども僕の歩き方はすごくぎこちなくなっていた。
「寒いねー。もう2月なのに」
 もこもこの手袋をはめた両手で、寒そうにほっぺたを包みながら彼女が話しかけてくる。
「う、うん」
 さっきから僕は「う、うん」ばかり言っている気がする。リンはこんな答え方はしないはずだ。もっと上手い返答をしなければ、不審がられてしまう。
「そういえば昨日のテレビみたよ。やっぱりリンちゃんたちは歌がうまいんだね」
 昨日のテレビ、ってのは多分僕達が出演した音楽番組の事だろう。昨日僕もリンと一緒にご飯を食べながら見た。画面の中の自分たちはネコかぶってるみたいでなんか不思議な感じがするね、とリンが話しかけてきたのをふと思い出す。
「ど、どうも」
 もっといい言い方があるのだろうけれど、それしか思いつかなかった。すると彼女は首を傾げてから、くすくすと笑い始める。
「今日のリンちゃん、なんかおかしい。いっつもは『そうでしょー!』って元気に返してくるのに」
 面白そうに話す彼女を見て、しまったと僕は思った。やっぱり僕にはリンを演じきるのは無理だ。バレたら最後僕らは退学処分を受けるかもしれない。退学処分なんて普通の市立中学校にはないだろうけど、僕たちが通っているのは私立だから有り得ないわけじゃない。バレた後のことを考えて無性に頭が痛くなってきて、僕は自分の額に手を添えた。
「リンちゃん、具合悪い?」
「へっ!? ううん、ぜんぜん! 平気!」
 声のトーンを高くして、リンの地声に近づけるのは僕にはそう難しい事じゃないが、それでも咄嗟の事となれば話は別だ。少し裏声になってしまったけれど、僕が今発した声はリンの声質と似ていると思う。瞬時にこの声を出せた自分をほめたくなった。
「そう? 具合悪くなったら、すぐ言ってね。この前、お仕事大変だって言ってたし…」
「大丈夫だってば! 私はぜんぜん平気!」
 リンのテンションで女言葉ってのは、すごく疲れる。

 それから当たり障りない会話をして校舎に入り教室に着き、1時間目と2時間目をなんとかやり過ごした。1時間目も2時間目も教室での授業でラクだったし、何より隣の席が朝一緒に登校してきた彼女――で、しかも彼女は授業中むやみに話しかけてくるような子ではなかったので、とても助かった。
 HRも終わり、これでやっと家に帰れるだろうと机に伏せた瞬間、僕の机にワッと2人の生徒がやってきた。名前は確か、桃花と彩音だっただろうか。休み時間になると2人ともこっちにきて、僕とに話しかけてきた。多分リン含めたこの4人がこのクラスでひとつのグループになっているんだろう。
「リンちゃん何やってんの! はやく帰る支度して!」
「えっ」
 何がなんだかわからず、二人の格好を見れば、通学鞄を肩に下げていた。隣の席のを見れば、鞄に荷物をつめ終わったのかファスナーをしめて静かに立ち上がり、手に鞄を持つ。それから僕を見て、少しばかり首を傾げて見せた。
「リンちゃん、今日みんなで遊ぶって約束してたじゃない」
 桃花が不満そうに言ってくる。なんだこんなの、リンから聞いてないぞ?
「あ、ごめん忘れてた」
 咄嗟にそう、嘘をついた。言っとくけど、僕は嘘をつくのが凄く嫌いだ。だから言った後には妙なもやもやが心の中に残った。この子達を騙している自分がすごく不快だ。
「…珍しいね、リンちゃんが約束忘れるなんて…。やっぱり具合悪い?」
 言いながらが僕の額にそっと手をのせた。いきなりの事だったから僕は何も反応できず、ただ固まって、じっと成り行きをうかがった。ややあって、のひんやりとしたさらさらの手が僕の額から離れていく。
「リン、具合悪いの?」
 彩音が心配そうに聞いてくるので、僕は慌てて首を振った。
「大丈夫? 遊べそう?」
 が不安そうに見つめてくる。何故かどきどきした。
「大丈夫だって、へーきへーき! 皆心配しすぎだよー」
 そう言って僕はリンの鞄に宿題のプリントを入れた。

 生徒専用のバスに乗り、僕たちは駅に向かって、それから近くに建っているショッピングモールへ足を運んだ。そのショッピングモールは駅の近くにあるという理由で、比較的たくさんの人が利用していると聞く。もちろん僕も学校帰りに友達とアイスを食べにいったりしてるくらいだ。リンたちだってきっとたくさんここで遊んでたりするんだろう。
 皆の会話に適当に相槌を打ちながら早く終われーと心の中でぼやいてついていくと、まず最初に女物の服が置いてある店に入ることになった。こういうお店はまるで入った事がなかったから、かなり斬新だった。
「わー、これ、リンちゃんに似合いそう」
 桃花が今しがた手に取った、ジャガード素材の可愛らしいワンピースを見て彩音が呟くので、僕はリンがそのワンピースを着ているのを想像してしまい、
「いやいやそれはないって」
 地声で言ってしまった。2人が豆鉄砲食らった顔でこっちを見るので、慌てて笑顔を取り繕う。
「むしろ彩音のほうが似合うと思うけどな。ほら、私身長低いし」
 えへへと薄ら笑いを浮かべると、2人もへらっと笑みを浮かべた。「そうかなー」と呟いて彩音が照れている。なんとか乗り切ったようだ。今ので3年くらい寿命が縮んだ気がする。
 ふとがいないのに気がついて店の中を見回すと、小物がおいてある棚のところで、鉄片にポンポンがついた耳あてつきのニット帽をかぶって鏡と睨めっこしていた。近づいて声をかけると、が振り返ってから照れたように微笑んだ。
「これ、もこもこしてて、あったかいよー」
 が帽子の耳あてから垂れ下がった紐の先のぽんぽんを弄りながら話しかけてくるんだけど、その言い方がなんだかつたなくて、妙に可愛く見えた。


 それからいろんなお店を見て回ったのだけれど、正直僕は歩き疲れてしまって、休みたくなった。けれどそんな事、楽しそうな3人を見ていたら言い出せなくて、仕方なくとぼとぼとついていった先の店の中の商品を見て、思わず後ずさりした。
「リンちゃん?」
 店の商品と睨めっこしていたが僕の異変に気づいたのか声をかけてくる。僕は平静を装い「なんでもない」と首を振ると、カナタはまた商品と睨めっこを始めた。
 レース素材から柄物に無地まで、ありとあらゆる女性用の下着が並んでいる、男子禁制の雰囲気が漂うこのお店に入れっていうのは、中学生の僕にはおよそ無理だ。もしかしてリンはこれを狙って“取替えっこ”なんて思いついたのだろうか。だとしたらリンには小さな悪魔が宿っているだろう。恨みの念で人を殺せたらどれだけいいだろうかと、この時ばかりはそう思ってしまった。
「2人とも、何やってんの」
 奥から桃花が出てきて、僕はまた後ずさりして息を呑んだ。その後ろから彩音がついてくる。
「サイズ測ってくれるってー。はやくしようよ」
 …サイズって、なんのサイズだ。およそ予想はつくけれど、僕にとっては異世界の出来事のようで、あまりにも突拍子なものだからまるで思考が追いつかない。
「あ、うん。今行く」
 そんな僕の手を彩音が容赦なく引っ張り、僕は店の中へと引きずり込まれた。ある意味天国、ある意味地獄なこの空間に男の僕がいるのが居た堪れなくなって、まるで挙動不審者みたいにおどおどしていると、
「リンちゃん、やっぱり具合悪いの?」
 がこっそり僕に耳打ちしてきた。肯定も否定もできずにただを見ながら黙っていると、は何かを悟ったようににこっと笑って、今にもはしゃぎだしそうな2人のほうに向き直った。
「リンちゃん、具合悪いんだって」
「えっ! 大丈夫?」
 彩音に聞かれて、僕は渇いた笑みしか浮かべられなかった。
「うわっ、なんか笑顔が気持ち悪!」
 酷いいわれようだ。少し傷ついた。
「それにリンちゃん、朝から具合悪かったみたい」
「それを早く言えよ…」
 呆れたように桃花が言って、これからどうする?と3人で話しはじめる。というか僕の意見は聞かないのだろうか。
「リンちゃん1人で帰らせたら危ないから、わたし付き添いするよ」
 がそう申し出て、トントン拍子でこれからの予定が決まった。僕とは先に帰って、桃花と彩音はまだ帰らないということになった。
「それじゃあ、また来週ね」
 桃花が僕とに手を振るので、も手を振り替えした。僕もそれに習って桃花と彩音に手を振り返す。
「うん、またねー」
 が言う。
「リン、元気だせー」
「みんなごめんね、この埋め合わせはちゃんとするから」
 彩音が言うので、僕は薄ら笑いを浮かべながら無難だと思った言葉をつらつら述べた。
 それから一息ついて、と並んでショッピングモールを出る。
「んーと、レン君はバスで帰る?」
 そう聞かれたので、僕は考えた。
「うーん、家から近いし、歩きかな」
「そっか、じゃあ途中まで一緒だね」
 にこっとが笑って歩き出すので、僕はの隣に並んだ。それからふうと溜息を吐いて、今の会話に妙な違和感を覚えた。確か彼女は今、僕のことを「リンちゃん」ではなく、「レン君」と呼んだような。
 冷や汗が頬を伝った。
「ねえ、あの、ちょっと聞いてもいいかな?」
「へっ、何っ?」
「えーと、その」
 ちょっとだけ、困ったような顔をして。
「どうしてレン君は、リンちゃんの格好してるの?」



 リビングに入るなり、部屋着に着替えてリラックスした体制で手に某ゲーム会社のリモコンを握ってカーペットに寝転がり、暢気にガンシューをやっているリンが目に飛び込んできた。物音に気づいたリンが僕のほうを見て、僕の後ろに立っているを見て、何かを悟ったように拭き出しながら、嬉しそうに呟いた。
「あー、ばれちゃったんだ。そかそかー」
「そかそかー、じゃないだろ、この馬鹿!」
「わー、レン君おちついて!」
 後ろから制服の裾を引っ張られて、僕は渋々引き下がる。
「リンちゃんだめだよー取替えっこなんて。あと、おじゃまします」
「ごめんごめん。ちょっとスリリングな体験したかったんだよね。いらっしゃい」
 そう言ってリンはリモコンをカーペットの上に置いて立ち上がり、に部屋に入るように促した。
「レンは着替えてくる事ー」
 リンに言われて、「わかってるよ」と吐き捨てて二階の自室に上がった。僕の部屋のドアノブには、ご丁寧にハンガーにかけた僕の制服がぶら下がっていた。それを取って部屋に入り、制服をクローゼットにしまう。今着ているリンの制服を脱いでハンガーにかけて部屋着に着替える。部屋から出て向かい側のリンの部屋のドアノブに制服をかけて、階段を降りてリビングに向かった。2人は一緒に床のカーペットに直に座ってガンシューをやっていた。
「…せめてクッションなり座布団なり敷いてやれよ」
「おー、珍しく気が利くなあー」
「リンは気が利かなさすぎ」
 言いながら、リビングのソファから円い平らなクッションを二枚、それぞれリンとに投げてよこす。リンが振り返りざまクッションを受け取りにかっと笑うが、隣のといえばクッションを顔面で受け止めていた。
「うわー、レンひどいー」
「あ、ごめん」
 リンの悪態を無視して謝ると、が顔に引っ付いたままのクッションを両手で握って抱えた。
「ううん、へいきへいき、大丈夫。こっちこそ、ちゃんと受け止めれなくてごめんね」
 にこにこしながら、片手をひらひらさせて“大丈夫”のアピールをする。気分を害しただろうけど、怒ってはいないようだ。少しほっとした。
「よーし、3人もいるんだし、これはスマブラをやるしかない!」
 リンが両手でぐっと拳を作って、ゲーム本体に向かっていく。ちゃくちゃくとディスクを取り替えているその姿を見ながら、
「…僕に拒否権はないの?」
「あるわけないでしょー」
 聞いてみたけれどきっぱりと言われた。まあ最初から僕に拒否権なんてものがないのは分かっていた事だし、それにリンとゲームをするのは嫌いじゃない。
 リンの隣にクッションを敷いて座ろうかと思ったが、リンがカーペットの端っこに座っているので、通路となっているフローリングの床に座るのは気が引ける。を見ればいつの間にかカーペットにクッションを置いてその上に座って、ぼーっとテレビの画面を眺めていた。近寄って、隣にクッションを置くとが跳ねるように振り返った。
「…ごめん、隣座るね」
「う、うん」
 僕がクッションの上に座ると、が少しだけ右側に寄った。ような気がした。
 タイトル画面の音楽が流れ出すと、リンが僕にリモコンを投げてよこした。
「どうする? 2対1にする? あ、1はもちろんレンだよ」
「それただのリンチじゃないか」
「わがままー。じゃあ個別で」
 どこがわがままなんだと思ったけどスルーした。キャラの選択画面に移行すると、リンはマリオを選んだ。対する僕はカービィ。といえばちょっと悩んだ後にネスを選んだ。
「負けないからねー」
 リンが意気込むように呟くと、が神妙な面持ちで頷いていた。


 が帰った後、一気に家の中は静かになった。つけっぱなしのゲーム機のスイッチを切って、ソファに座ってテレビのチャンネルを変えてニュースにした。
 ゲームは意外にも僕とリンはが操作するネスにぼこぼこにされて吹っ飛ばされ、の全勝で幕を閉じた。リンが「次は負けないからねー」とハンカチを噛み締めそうな勢いでに捲くし立てていたが、多分には一生勝てないだろう。あの操作は少し神がかっていた。
「ねーレン」
「なんだよ」
 リンが隣に座ってくる。
「今日どうだった?」
「…疲れた」
 言うと、リンが悪びれた様子なくへへっと笑って見せた。
「だよねえ。私も疲れたよ。昼休みにサッカーしてもうヘトヘト」
 とは言っているが、リンは身体を動かす事が好きだから、多分そんなに疲れてないだろう。
「ねーねー、のことどう思った?」
「っはあ?」
 僕が素っ頓狂な声を上げると、にやにやとリンがいやらしい笑顔を浮かべる。
「どう思ったって、何を」
 ありのままを告げると、リンは目を丸くしてからがっくりと肩を落として、ソファに横になった。何がしたいんだこいつは。
「面白い子だなあとか、変な子だなあとか、あるでしょそういうの」
 暗にリンはの事を“面白い子もしくは変な子”だと思っているらしい事を言っている。そういう認識の仕方はどうなんだろうなあと思いつつも、今日の朝からの出来事を思い返してみる。
「…いい子だなーとは、思うけど」
 少なくとも、彼女に好感をもてたことは事実。リンを見ればにやにやしながら僕を見て、「そっかそっかー」と言いながら身体を起こして僕の太股に頭を乗っけてきた。本当に、何がしたいんだこいつは。
「今度お休みの日にさ、家に連れてくるんだけど、レン暇でしょ? 一緒に遊ぼーよ」
「…まあ、いいけど」
 言うと、リンがにこっと笑って「よかったー」と呟いて、ごろごろと何度も寝返りを打った。また次の休みにスマブラで惨敗するリンがたやすく想像できてしまって、懲りないなあと僕は溜息を吐いた。

2008/12/02