エサをやれば「愛鳥」? ホントにそれだけでいいの?
まずはじめにお断りしておきます。
これはものすごく解決の難しい問題です。
バードウォッチャー、自然保護に関わる人、学者、ごく普通に自分の家の庭先に来る鳥(それがどんな名前か知らなくても)をほほえましく見ている人、美しい写真を撮りたい人、はたまた野鳥を観光に利用して収入を得ている人、野鳥によってフンや匂い、作物を荒らされるなどの被害を受けている人まで…
いろんな立場の、沢山の人が、いろんな場面で、何年も話し合っているのですが、いまだに結論が出ない問いかけなのです。
それでももし、ごく普通の小学校で、“しぜんをたいせつにしよう”という題で、先生が子ども達に、
「野鳥をたいせつにするには、なにをしたらいいですか?」
と呼びかけたら、
真っ先にそして最も数多く返ってくるのは、この返事なのでしょう。
「エサをあげること〜〜!」
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この問題は、あまりに長く話し合われているので、関わる人の中には感情的になっている人もいます。つまり話し合いの中身が、より良い結論を導くためでなく、反論のための反論であったり、揚げ足取りと言いがかりと怒りに終始してしまっていることもあるのです。
はっきり言って、管理人のような修練の足らない人間が口を出すのは、場を混乱させ人の心を逆撫でし、うんざりさせる効果はあっても、解決に近づく効果はないでしょう。
それでも意見を述べるわけは、その話し合っている沢山の人たちがかすんでしまうほど、無数の人たちが、何の疑問も持たず心の底から善意で、
子ども達に
「かわいがろう=エサをやろう」
と教えているからです。
もしあなたが、今まで何の疑いもなく、子ども達にそう教え、自分も行っていらっしゃったら…
少し立ち止まって、「ホントにそれでいいの?」と、考えてもらえたら光栄です。
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例えば、ちょっとこんな場面を想像してください。
あなたの子ども達が「おなかがすいた」と騒ぎ出します。確かに食事時。子ども達は育ち盛りの食べ盛り、とても静かにはさせておけそうもありません。
とはいえあなたは月末で懐が寂しい。
(どうしよう… あの食堂に連れて行こうか。
ちょっと遠い。選べるメニューは少ない。でも安くておなか一杯食べられる。)
そう考えたのですが、妻が(夫が)反対します。
「あそこはやめておこうよ。何かイヤだよ。油っぽくて栄養偏ってる。妙に塩辛いし。それにコップの水も何か臭わない? トイレもちゃんと掃除してるように思えない。あとさあ、店員もそうだけど、ガラが悪い場所っていうか… この間あの近くでほら、あんな事件があったでしょ。子どもを連れて行っていい場所とは思えないんだけど」
さあ、あなたは家族をその食堂に連れて行きますか?
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確かに野鳥にとって、「確実にエサがたくさん手に入る」ということは重要です。時に毎日、ねぐらから100km近くを“通勤”してまで、エサを求めて集まってくるほどに。
(そのためカラスやカワウをいくら駆除しても、ごみや養殖魚など簡単に手に入るエサがある限り、離れた土地から次から次へと別の鳥がやってくることになります。)
しかし、食べられさえすれば、彼らは幸せに暮らせるのでしょうか?
■まずエサの内容が問題です。
鳥類の体は、人間のような哺乳類とは根本が違っています。だから必要とする栄養素も、食べたら害になる成分も、かなり違います。
例えば哺乳類同士でさえ、人間はタマネギを美味しく食べられても、犬猫では血液の赤血球が破壊されて貧血状態になる“タマネギ中毒”が知られています。人間の食べ物は、鳥にとっては不要な味がついていたり、重要な栄養素が欠けていたり多すぎたり、まして香料や着色料など薬品が入っていたりして、害や偏食になることが多いのです。
たとえ“ウグイスのエサ”“カナリアのエサ”と鳥用に売られているものでも、他の鳥に向くわけではありません。それは「同じ哺乳類だから大丈夫」と、ライオン用のエサをゾウに与えてはいけないことと同じです。
■きれいな水がたっぷり必要です。
人間はエサを用意しても、きれいな飲み水を出さないことが、よくあります。まして、エサを求めて大群が集まっているところでは、大量のフンが飲み水に混ざっていることもあります。人間にとっても不快ですし、むろん鳥にとっても、伝染病が広まる原因になりかねません。
ついでに盲点として、水浴び場所はもっと少ないことも付け加えておきます。鳥にとって羽根の汚れは、空を飛びにくく敵に襲われやすくなり、暑さ寒さから身を守れなくなる、大問題を招きます。
■安全と調和も重要です。
たくさんの鳥が集まれば、彼らを狙って敵やライバルも集まります。
エサ台や水飲み皿は、犬猫やイタチ、ネズミ、蛇などが近寄れないところにありますか?
また、エサの中身によっては、偏ったグループが場所を占領することがあります。
スズメだけとか、ヒヨドリばかりとか、鴨や白鳥しか集まらないとか…。
でも、元々そこでは、数は少なくても、色々な他の鳥が静かに生活していなかったでしょうか? たとえばツバメが玄関に巣をかけていたのに、スズメに乗っ取られてしまったとか、カイツブリが小魚をとっていたのに、近頃見かけないとか…。
たとえエサのおかげで鳥の数は増えたとしても(それがどんなに美しい鳥でも、どんなに世界的に希少な種でも)、他の鳥をおびやかしているのでは、「愛鳥」の意義がないのではないでしょうか。
ついでに盲点として、与えたエサそのものが、環境を崩すことがあることも付け加えておきます。エサの与えすぎが水質悪化などの環境汚染をもたらす例があるほか、ヒマワリの種などエサの種子が、鳥に運ばれていった先で芽を出し、元々の植物を追い払っていく可能性も指摘されています。
■周囲の理解はありますか?
「世界的にもとっても貴重な鳥なんです」「見てください、きれいでしょう、かわいいでしょう」といっても、周りの人を「あんな鳥、いなくなれ!」と怒らせてしまうのでは、鳥の未来にとって大損です。
鳥がフン爆撃をもたらしていたり、抜けた羽根をまき散らしていたり、花壇や畑をむしったり、声がうるさかったり、エサのおこぼれにネズミや害虫が集まったり…
さらにさらに、その鳥を見物する観客が次から次へ「トイレ貸してください」と訪問してきたり、カメラのレンズが家の中を覗いているようでイヤな気分になったり、周囲にゴミが捨てられたり、庭や畑が踏み荒らされたり、勝手に車を駐車して住民の出入りを妨げたり…。
鳥はただ自然にしたがって暮らしていたとしても、周囲の人間の生活には、思いもかけない大きな影響を起こすことがあります。
もしあなたが「鳥にいいこと」をしようとするなら、その倍くらい「周囲の人にとってもいいこと」を真剣に考える必要があるでしょう。
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…管理人もここまで書いてうんざりしてしまいましたが、どれも実際によくあることです。
「他の生き物とくらす」ということは、「家族がひとり増える」のと似たようなもの。
その生き物のことを真剣に考えるからこそ、お手軽にはいかなくなります。
さて、あなたは野鳥にエサを与えますか?
やめて知らん顔をしますか?
それとも、野鳥を(そして人間も)もっと幸せになる方法を考えますか?
2006/06/19
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