窒息 解説

 気道閉塞には、異物によって、気道(空気の通り道)が完全に閉塞された完全気道閉塞と部分的に閉塞した不完全閉塞があります。
 完全閉塞か不完全閉塞か判断することが大切です。その判断のために、声が出るか確認してください。声が出る場合は、部分閉塞です。完全閉塞では、完全に気道が塞がっているので、意識があっても声は出ませんただ、注意しないといけないのは、正常とは異なった呼吸運動が見られるということです。この呼吸(シーソ呼吸)を見て、呼吸しているから安心とは決して考えないで下さい。横隔膜運動があるので、呼吸しているように見えますが、実際はまったく空気が入っていません。

 見て、正常な呼吸かそうでないかの判断が必要です。そのためには、普段から自分はどのような呼吸をしているのか(胸とお腹の動き)をよく見てください。息を吸っている時、胸とお腹が一緒に上がります。息を吐く時は一緒に下がります。これが正常の呼吸の動きです。呼吸運動の中では、横隔膜の動きが非常に重要です。つまり、横隔膜が下がることによって、肺の容積を増やし、空気を肺に入り、胸は上がります。呼気の時は、横隔膜を上げて、肺の容積を少なくすることによって、肺から呼気を出しています。つまり、正常の呼吸では、胸とお腹の動きがほとんど同じです(胸腹呼吸)。


正常呼吸(吸気時) 
横隔膜(赤)が下がることによって、お腹が膨らみ、胸に空気が入ることによって胸が上がります。
呼気では、横隔膜が上がり、腹を下がり、肺はしぼみ、胸は下がります。

 完全気道閉塞の状態では、息を吸っても、肺に空気は入っていきませんので、胸は上がりません。むしろ逆に陥没します。お腹は横隔膜の動きによって、上がったり下がったりしますので、息を吸う時はお腹が上がり、呼気には下がります。つまり、正常の呼吸とは違って、胸とお腹の動きが逆になります。丁度横隔膜を中心としたシーソ運動のように見えま巣ので、これをシーソ呼吸といいます。これが見られたら、完全気道閉塞と思ってください。この状態は時間的余裕はないです。また、チアノーゼも現れています。これは体の中の酸素が不足していことを意味しています。

異常呼吸(シーソ呼吸、吸気時) 図
気道が閉塞しているので、横隔膜が下がっても胸に空気が入らないので、胸は上がりません。逆に大気圧により,陥没します。お腹は横隔膜が下がるので、上がります。呼気では横隔膜は上がりますので、お腹は下がり、胸は上がります。


 不完全閉塞の場合は、気道が狭窄している状態です。丁度いびきのかいた状態に近いです。胸の真ん中の骨の上の所が息を吸う時に陥没していると、上気道の狭窄の症状です(左写真)。これは肺に空気を入れようとして胸は拡がりますが、狭窄のため、十分に空気が入って来ないために大気圧の影響を受け、骨のない場所が陥没します。
 従って、陥没呼吸が見られるのは、異物、アデノイド、扁桃腺等による気道狭窄や肺炎、喘息等の病気がある場合です。

 補足
  呼吸が何か変と思ったら、写真で示した所も観察してみてください。陥没が見られたら、まず声をかけます。起きたら、陥没が見られなくなった場合はいびきだと思います。呼びかけに反応せず、陥没も続いている場合は、あごを上げ、頭部を後屈する気道確保(あご先挙上頭部後屈法)を行い、改善するかどうか見てください。改善する場合は、そのまま気道確保をして救急車を待ちます。意識があるのに息を吸う時に陥没する場合は誤嚥、扁桃腺肥大等の上気道の狭窄があります。この場合も気道確保法を試みてください。

 
参考 いびきについて
 いびきをかいている人が居たら、呼吸を観察して見て下さい。いびきをかくのは、気道が舌によって狭窄しているからです。中には、いびきが一旦聞こえなくなり、その内また大きないびきをかく人がいます。そのような人は、睡眠時無呼吸症候群という病気です。いびきが聞こえないのは舌によって気道が完全に閉塞(窒息)した状態になったため、いびきがかけなくなっています。そのような状態が続きますと、体の反応(覚醒反応)が生じ、睡眠を浅くします。この浅い睡眠によって、舌の落ち込みが解消され(気道閉塞の部解消)、空気が流れるようになり、いびきが再び聞こえてきます。この状態が睡眠中繰り返し起こると、睡眠不足になりやすく、日中居眠りを起こし、事故を起こしやすいといわれています。いびきがひどく、時々いびきが止まる(呼吸停止)人は一度病院で診察してください。

 不謹慎ですが、いびきをかいている時、そっと首のところが陥没するか見てください。その後、声をかけて起こしますと、いびき・喉の陥没も見られなくなるはずです。また、いびきが聞こえない時の胸とお腹の動き(呼吸)を見てください。呼吸しているように見えますが、胸の上がりは悪いはずです。まさに、完全気道閉塞の時の動きに近いです。

 いびきをかくのは意識がない時、寝ている時だけです。この場合は、あご先をあげ、頭部を後屈する所謂”あご先挙上頭部後屈法)という気道確保をして呼吸が正常化どうか確認してください。意識があるのに、いびき様呼吸をするのは異常な呼吸ですので、病院で見てもらいましょう。


事例1 対応
 
話ができるか確認します。話ができるのであれば、不完全閉塞です。事例は息が苦しいと訴えていますので、取りあえず息はできています。周りは慌てず、救急車を呼び、救急車が来るまで、異物除去を試みます。まず咳をさせたり、背中を叩いたりして、異物の除去を試みます。他の方法として、ハイムリック法があります。異物が移動することによって、不完全閉塞から完全閉塞になるかもしれませんので、観察の継続は必要です。
 注意;
喉に何か引っかかっている感じがしたり、飲み込みにくい時、私たちはよく水を飲んで押し流そうとしますが、決してそのような事はしないで下さい。窒息しかかっている時、強引に水を飲ませたり、ご飯を飲み込ませようとしますと、逆に窒息を助長したり、誤嚥させたりします。これだけは忘れないで下さい。意識があれば、背部叩打法や腹部突き上げ法(下記参照)を行い、意識がなければ、心肺蘇生法を行なうことを!

事例2 対応

 
声が出せませんので、完全閉塞です。完全閉塞で呼吸ができない状態は、まさに水の中に呼吸を止めて、もぐっているのと同じ状況です。体の中の酸素がなくなるまで、意識はありますが、話すことはできません。
 慌てず、直ぐに救急車を呼びます。冷静にもぐっていられれば、酸素消費量も少なくすみますが、溺れた状況では慌て,もがいたりしますので、酸素消費量は増え、その分もぐれる時間は普段よりは短くなります。このような状況下では呼吸を止めていられる時間は短いと考え、早く異物除去法(背中を叩く、腹部突き上げ法)を試みるようにして下さい。

 異物除去法は意識がある時だけ行い、もし、意識が無くなったら、異物除去法を止め、直ぐに心肺蘇生法を実施してください。心肺蘇生法の心マッサージは異物除去の効果もあります。

事例3 起こったときの流れで考えて見てください。

 1)佐藤先生は慌てて駆け出していきます? でもその前に、一言同僚に伝えましょう。何か持っていくものはないでしょうか?

   生徒が慌てて飛び込んできた事、呼吸がおかしいと話している事から,重篤な状態を想像してください。そして、その対応をとって向かいましょう。同僚の先生に1)AEDを持ってきてもらう。2)一緒に来てもらう事はその時点で伝えるべきです。そして、佐藤先生は、直ぐに119番通報できるように、携帯電話を持っていきます。携帯が繋がらない場所であれば、同僚に一緒に来てもらい、119番通報が必要な場合かけてもらいます。このような対応が、救命には必要です。見に行ってからでは遅い場合があります。

 2)佐藤先生は、伊藤君のところにやってきました。伊藤!どうした!伊藤君は話そうとしますが、かすかにしか声は出ません。顔色は悪く、冷や汗をかいています。どうしますか?

 かすかに声を発すること話そうとすることから、意識があることと少しは呼吸ができていると判断します。声が出たり、咳が出来る状態は一部気道が閉塞している状態です。つまり、異物にって、細くなっています。ゼイゼイといった呼吸音も細い気道を空気が流れた時に発生したものです。ここで佐藤先生は不完全な気道閉塞(ホタテ?)で、呼吸がうまくできないと判断します。
 一緒に来た先生のこの携帯電話で119番通報して、救急車を呼んでください。恐らく、伊藤はホタテを喉に詰まらせていますので(同僚の先生が来なければ、生徒に電話させても良いですし、生徒の携帯で電話させても良いです)。伝えた後で、異物除去を行います。

 佐藤先生は、伊藤君に伊藤、咳は出来るか?出来るなら、思い切り咳をさせます。出来なければ、上で説明した異物除去法(背部叩打法又は腹部突き上げ法)を行います。
 一つ注意です。食事中、喉に物が引っかかった時、我々はお茶を飲んで落とそうとしたり、ご飯を飲み込んで落とそうとすることがあります。それを伊藤君には決してやらないで下さい。もしお茶を飲ませたりしますと、完全閉塞の状態になるかもしれません。決して、このような状況では水や物を口に入れないで下さい。

 異物除去を行いながら、生徒もしくは同僚に救急車の誘導に行ってもらいます。その頃にはAEDが到着しているでしょう(学校にあるなら)。

 3)異物除去法を行っている内に、反応がなくなり、手がダラーとしてきました。佐藤先生はどうしますか?

  異物除去を止め、心肺蘇生法を行います。もし学校にあるAEDが側に来ていたら、先生、AEDの電源を入れ、電極パッドを貼って貰います。心肺蘇生中に異物が見えたら、取り除きます。決して、盲目的に取り出そうとはしないで下さい。救急隊が来るまで、伊藤君が動き出すまで、心肺蘇生法を継続します。

 伊藤君の周りには、先生一人しかいない場合はどうしますか?

 一人しかいない場合は、気道閉塞を疑ったら、直ぐに異物除去法を行います。
 そして、反応が無くなったら、心肺蘇生の手順を開始します。まず119番通報と、近くにAEDがあれば、持ってきます。近くに人がいるなら、大声で人を呼び、119番通報とAEDを依頼します。
AEDの電源を入れ、電極パッドを貼るまでは、心肺蘇生法を行います。その後は、指示に従って下さい。
 反応がない場合に119番通報とAEDの手配の手順を統一することで、手順をより単純化させる目的がガイドラインにはありますので、窒息の場合でも119番とAEDになっています。ただ、窒息による心停止ですので、AEDが適応となる場合は少ないです。

注意 
 異物除去によって、異物が出てきたから、もう病院に行かなくても良いとは考えないでください。異物の一部は取れたが、まだ破片が気道に残っている可能性もあります。
 一度病院で見てもらった方が良いと思います。


異物除去法
 一般の方は意識がある時には異物除去法を実施し、意識が無くなったら、心肺蘇生法を行います。 
 咳が出来るのであれば、咳をさせます。

 異物除去の方法には、以下の方法があり、状況に応じてやりやすい方法で行ってください。可能であれば、腹部突き上げ法を優先してください。

  背部叩打法

背中を強く叩きます。姿勢は立ったままでも座ったままでも横にして行っても構いません。






  腹部突き上げ法(ハイムリック法)


 わきの下から手を回し、握りこぶしを作る。 臍と剣状突起(左右の肋骨の交わる胸の真ん中の骨の下端から出ている)の先端の間で(臍よりわずかに上)に、作った握りこぶしの親指が当て、もう一方の手で握りこぶしをつかみ、上方へ押し上げる。

 

手を当てる位置は下写真の水色円辺りです。みぞおちに近いと、剣状突起という骨で、肝臓や脾臓といった臓器を傷つけたりする可能性が高くなります。1歳未満の乳児には推奨されていません。

 異物除去法を行っている内に、意識がなくなったら、心肺蘇生法を行います。
  一人の場合は119番通報とAED(あれば)を持ってきてから、心肺蘇生を行います。心肺蘇生の途中で異物が見えたら、取り除きます。



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