事例1 錐体内出血 解説

 普段、鼻から空気を吸い、口から出す鼻呼吸がしています。水泳中は水の上に顔が出た時に、口から空気を吸い、鼻から出す口呼吸を行います。それがうまく水泳中にできず、鼻から息を吸った拍子に,鼻から水が入った場合、耳管の反応が間に合わず、耳管から中耳に水が入ってしまいます。入った水により、中耳内の圧力が急激に上がって、壁が押しつぶされ、内出血を起こします。この出血によって、平衡を司る三半規管の機能低下を生じ、めまい等を起こし、溺れてしまうことがあります。
参考
 耳管;喉の奥で、中耳と繋がっています。風邪等で耳管が閉塞、狭窄を起こすことがあります。風邪気味で、飛行機等にのった時、耳が詰まったりしますが、あれは高度による大気圧の変化によって圧力差が生じたために起こります。

防止対策
 息継ぎがしっかりできるように(口から吸って鼻から出す)
 鼻から水を吸い込み、気分が悪ければ、一度水から出る。
 風邪気味の時は泳がない(耳管の働きが落ちているので)。

起こったら
 直ぐに救助、必要な応急手当(心肺蘇生法)を行う。


事例2 ノーパニック症候群

 まず理解のために、呼吸の仕組みを考えてみましょう。
 
血液中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、PHを一定に保つように、いくつかの感知器があります。その感知器の状態をチェックしながら。呼吸の中枢が呼吸数を増やせ、減らせといった指令を出して、呼吸を一定に保っています。この感知器の反応が最も良いのは二酸化炭素の異常(高値)、ついで酸素の異常(低値)です。つまり、通常は血液中の二酸化炭素をモニターし、二酸化炭素濃度が高くなると、反応して呼吸数を増やし、二酸化炭素濃度を減らそうとします。逆に,二酸化炭素濃度が低いと、呼吸を増やせという指令は出ません。

 肺の病気で長期間二酸化炭素濃度が高い状態の患者さんでは、二酸化炭素に対する感知器の警報が鳴りぱなし状態ですので、二酸化炭素に対する感度は鈍くなります。それに変わって、酸素濃度が下がると呼吸中枢に刺激するようになります。つまり、呼吸中枢の調節は二酸化炭素ではなく、酸素によって主に行われるようになります。このため、在宅酸素投与をされている患者さんでは、酸素投与量の設定がより厳密に行います。なぜなら、多くの酸素を投与しますと、血液中の酸素濃度が上がり、酸素の感知器が酸素は充分あるので、呼吸中枢は呼吸を減らすように指令を出してしまうからです。

 我々の体で一体どのくらい酸素を使い、二酸化炭素を産生しているでしょうか? 
 我々の体で、安静時、1分間に酸素は250ml消費し、二酸化炭素は200ml産生しています。当然、運動等では、酸素消費量、二酸化炭素産生量は増加します。つまり、潜水時間を長くするには、酸素の消費量を増やさないように、無駄なエネルギーを使わないような潜水法が必要です。

空気中の酸素濃度は? 呼気中の二酸化炭素濃度は?
 空気中には主に酸素20%、窒素80%が含まれています。空気中の二酸化炭素は0.03%ですので、0と考えて下さい。また、呼気中には二酸化炭素が5.6%程度含まれています。そのため、過呼吸に行うと、二酸化炭素が体外に出て行きますので、体内の二酸化炭素濃度は低下します。

呼吸生理の面から、このノーパニック症候群を考えてみましょう

 潜水を行う前に多くの空気を胸に入れようとして、深呼吸を繰り返し行っています。そうすると、繰り返しの深呼吸(過呼吸)によって、血液中の二酸化炭素は低下した状態で、潜水を開始している事になります。

 潜水中も酸素は使われ、二酸化炭素は産生されます。時間が経つにつれ、酸素不足になり、二酸化炭素は増えてきます。通常であれば、二酸化炭素の増加によって、呼吸しろとの指令が出て、呼吸をします。これであれば、たとえ意識を失いかけていてもびっくりして目が覚めるかもしれません。
 この事例の場合は、潜水前に繰り返しの深呼吸をして、二酸化炭素濃度が低下していますので、低酸素であっても、その段階でまだ二酸化炭素濃度があまり高くなければ、呼吸中枢で呼吸しろとの指令を出さない可能性があります。つまり、低酸素で意識を失い、潜水した状態のまま溺れてしまうことがあります。これを、ノーパニック症候群といいます。
 前兆、パニック、吸気へのもがきもなく、意識を消失するので、ノーパニック症候群といいます。ここで解説しているような過換気型の他に間欠呼吸型、冷・水圧刺激によるショック型があります。

防止対策としては、
 1)長時間の潜水はしない。
 2)しっかりした指導者の下(酸素等の必要な器材を準備して)で潜水を行う。
 3)繰り返しの深呼吸は行わない。
 4)潜水中に溺れることがありうるとの認識は忘れない。

参考
 肺をボンベと考えて見ましょう。深呼吸した状態は、肺というボンベに最大量の空気を入れ満タンにした空気入りボンベです。一度満タンにしたボンベに何回空気を入れても最大容量は変化しません。つまり、深呼吸を繰り返し行っても、肺に入る空気最大量は変わらないです。空気に含まれる酸素濃度は一定ですので、肺に入る酸素量もほとんど変わらないです。むしろ、二酸化炭素は低下しますので、ノーパニック症候群を起こしやすくなります。
 肺の中の酸素濃度を増やすのであれば、酸素を吸入することです。つまり、空気ボンベを酸素ボンベに変えることになります。空気中の酸素は約20%ですので、当然100%酸素にすれば、酸素は多くなります。


事例3 気管吸引

 普通は水泳中に水を気管内に吸引することはありませんが、ゴール近くや他選手と競っているような状況では、ひどい呼吸、切迫感等から気管内に水を吸引する可能性はあります。気管に水が入ると、希に反射的に徐脈や心停止を起こし、意識を失い、沈んでしまう。1〜2分後に、喘ぎ様呼吸が起こっても、それによって、さらに水を飲み、溺れてしまいます。
対応
 おかしいと思ったら、直ぐに確認し、必要な手当てを行う


事例4 多くの人の目の前でも溺れます。

 事例で示したように、多くの教師や父兄で見守っていても溺れることはあります。何名監視員がいるから、大丈夫だとは思わないで下さい。確かに、複数の目で監視は一人の目よりは安全ではありますが、100%安全とは言えません。
 より安全にするには、子供たちが相互に監視するようにすることです。つまり、二人一組にして(バディー)、水泳中行動を一緒にしながら、常に相手の状態等を監視させます。こうすれば、溺れても早く気づきますし、体の変化も早く気づくはずです。複数の監視と子供同士の監視体制にしてもらえればと思います。
 このような状況で考えてほしいのは二次災害の防止です。一人が溺れたら、みんなその人の方しか見ません。その時、ほかの子供が溺れても気づかない可能性があります。そうならないように、必ず他の生徒を安全な所に誘導し、人数等の確認を行うことが大切です。
 また、複数の教師・父兄が居ても、組織だった行動ができなければ何の役には立ちません。そのような時こそ、責任者は落ち着いて全体を眺め、全員が組織的に動けるように指示を出す必要があります。常に集団で何かをする時には、こういうことが起こったらどう対応するか普段から考えておきましょう。


事例5 怪我

 汚いプールの水の中で怪我をしました。引き上げて、きれいな水でよく傷口を洗ってください。消毒薬等は必要ありません。きれいな水で洗い流します。怪我をした時のために、きれいな水を持っていくと、飲み水として使えますし、傷口を洗うこともできますので、便利がいいです。

出血;
 出血していれば、出血部を直接圧迫止血します。
変形(骨折);
 足首の所が変形しているような場合は、足首が動かないように固定してください。決して整復はしないで下さい。
打撲・捻挫;
 一般にR (Rest) I (ice) C (Compression) E (Elevation) を行います。R;安静にする。I;氷で患部を冷やす。C;圧迫する。E;受傷部を高くする。
従って、この事例では、足を高くし、氷で冷やし、圧迫して、安静にするになります。
 圧迫に関しては、気をつけてほしいことがあります。あまりきつく圧迫しますと、動脈も閉塞し、圧迫部から末梢の方には血流がいかなくなり、危険です。又、最初はきつくなくても、怪我による腫脹がひどくなり、そのために圧迫がきつくなることもあります。圧迫した時は、圧迫部より末梢の爪の色や痛み、痺れ等の症状の変化について観察を継続する必要があります。

防止策
 プール清掃を行う時、決して裸足でさせないで下さい。プールの水が汚れて、底が見えない状態ですので、排水口でなくても危険なものが底に落ちているかもしれません。
 プール清掃中に何回も排水口の蓋はつけたり外したりするのは面倒くさいし、清掃後終わるまでのちょっとの間だから、大丈夫だとの考えから、事例のように排水口の蓋を外した状態で清掃することはあります。恐らくこれからもあると思います。歴史は繰り返されるでしょうか! ちょっとだからとの気持ちは捨て、常に安全第一を考えて下さい。ちょっとした油断が大きな事故に繋がります。


水の事故をついて

認識を持ちましょう
 泳ぎでの上手な子供でも溺れてしまいます。”又ふざけて!”と思わずに、おかしいと思ったら、すぐに側に行くこようにしてください。
 最初の一歩を早く踏み出してください。それが救急の始まりです。

連絡体制
 直ぐに119番通報ができるように携帯電話を持参しましょう。又、応援が直ぐに呼べる学校内の連絡体制も整備します。

監視体制
 教師複数の目での監視と生徒同士の相互監視(バディー)体制を確立しましょう。

安全対策
 排水口は2重の蓋にして、1つが外れても事故には繋がらないように。
 油断大敵(ちょっとした油断が事故の元)
 管理者、教職員全員が危機意識を持つ
 浮き具等、いざという時に必要な器材を準備する
   (バッグボード、きれいな水、ガーゼ、タオル等)
 シミュレーション訓練(机上訓練)を行う
 どういった事故が起こっているか調べる
 生徒への安全教育(着衣泳、水泳等)
 心肺蘇生法等の必要な手当を習熟する

生徒に守らせるべき事
 食事後直ぐには水に入らない。
 プールの周りを走らない
 悪ふざけはしない。
 溺れたまねはしない。
 プールに飛び込まない。
 手をプール縁について、プールに入り、どのくらいの深さか確認する。
 体調が悪ければ、無理をせず、休息する。
 排水口に近づかない。
 深呼吸を繰りかえし行っての潜水は控える
 危険な場所での水泳はしない
 水に慣れる。
 着衣泳を覚えさせる
  (浮力を利用して、救助が来るまで、浮いている)。
 溺れた友人を見たら
  119番通報をさせる(人を呼ぶ)。
  浮き具(ビニール袋、ペットボトル、かばん等)を投げる。
   (袋を投げる時は少し水を入れて投げる)
  どこに流されていくか観察する。
  二次災害防止のため、助けに行かない(安全確保されていないなら)

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