頭部・脊髄外傷 解説

事例1 脳震盪

意識を一時的にしろ、失っていますので、たとえ決勝戦であっても、試合には出さず、119番通報して、病院に行きます。自分の車で病院に向かっている途中で、急変した場合対応ができませんので、急変の可能性が少しでもあると考えたら、救急車で行くのが安全です。

Second Impact Syndrome (SIS)
 
脳震盪から完全に回復していない状態(多くは1週間以内)に、再度頭部に外傷が加わると、脳に浮腫が生じ、死に至ることもあります(second impact syndrome, SIS)。このような状況にならないように、復帰に関しては、医師の指示に従い、無理して試合に出さないように指導してください。


スポーツ中の脳震盪

症状 対応 競技復帰
 軽症

 一過性の混乱
 意識消失なし
 回復まで15分以内



 競技中止
 5分毎チェック  (健忘)
 復帰可能
 中等症

 一過性の混乱
 意識消失なし
 回復まで15分以上



 競技中止
 5分毎チェック  (健忘)


 7日間無症状であ  れば、復帰可能
 重症

 一過性の意識消失あり



 救急病院で   チェック

 
医師の指示に従う

上表説明

 スポーツ中、頭部を受傷したら、意識消失の有無を確認します。意識消失があれば、重症ですので、病院へ行きます。復帰に関しては、医師の指示に従ってください。
 意識消失がなければ、中等症か軽症です。この違いは意識状態が完全に回復するまで15分以内かどうかです。15分以内で完全に戻り、呼吸、脈、四肢の麻痺、脱力、痺れ等の症状がなければ、復帰も可能ですが、当日は試合に出ず、経過観察してください。
 時間が経って、頭痛、嘔吐、麻痺、脱力等の症状が出たら、直ぐに救急車で病院に行きます。


事例2 硬膜外血腫
 最初から意識状態が悪ければ、直ぐに救急車を呼びますが、意識がしっかりしていると、安心してしまいます。そこに落とし穴があります。最初意識がしっかりしていても、その後に頭痛、嘔吐、意識障害が出現することがあるからです。そのため、少なくとも24時間は観察を続けることが必要です。そして、頭痛、嘔吐、痙攣、意識状態の変化等が見られたら、深夜であっても直ぐに救急車を呼びます。
 
事例2のような場合、、ボーとしている状態がありましたので、意識障害ありと考え、直ぐに救急車で病院に行くのが良いでしょう。また、頚髄損傷を疑い、頭を保持して、救急車を待ちましょう。

 頭の中で出血しても最初意識状態に問題がなく(意識清明期)、安心していると、突然意識状態が悪くなったり、頭痛、嘔吐等の症状が訴えたりします。このような訴えがあれば、深夜であっても直ぐに救急車で病院に行く必要があります。
 受傷後より、意識・呼吸・脈に異常がなく、下校時まで観察しても何の変化がない場合でも、必ず家族には起こったこと、今後の注意事項を伝え、いつでも直ぐに救急車を呼ぶように伝えてください。起こりうる事を前もって知っていれば、すばやい対応が可能です。

左写真 右硬膜外血腫

 頭蓋骨と硬膜の間に生じた出血によって、血腫ができたものです。
 右上方にある三日月状で白く写っているのが血腫です。血腫が大きくなるに連れ、脳が圧迫されますので、その程度のよって、頭痛、嘔吐、痙攣、さらに意識障害、呼吸停止、心停止等の症状が現れます。この症例では、CT検査中、嘔吐、頭痛が現れました。
 頭部外傷後、頭痛、嘔吐、痙攣等の症状が現れたら、深夜であっても直ぐに救急車を呼び、病院に行きます。忘れないで下さい。
 



事例3 硬膜下出血
 硬膜と軟膜(脳の表面を包んでいる膜)の間に生じた出血によって、血腫ができたものです。脳自体の損傷を伴っていますので、受傷当初から意識障害はあります。予後は硬膜外血腫よりも不良です。

参考 頭蓋底骨折
 頭部外傷で、鼻や耳から出血している場合、頭蓋底骨折の可能性があります。これは、頭の中の髄液が骨折部から漏れ、骨折部の出血と一緒に鼻や耳から流れ出るものです。この場合は、鼻や耳につめ物をして、止血しないで下さい。直ぐに救急車を呼んで下さい。

事例4 脊髄損傷(頚椎損傷)
 肩より上に怪我がある場合、最も注意するのが、頚椎(頚髄)の損傷です。首を動かすことによって、頚髄の損傷の悪化させるかもしれません。よって、頚髄の損傷を疑った(肩より上に怪我している)場合、頭・首を固定する事が大切です。その場所が二次災害の危険性がないのであれば、移動せずに救急車が来るのを待ってください。
 針で刺された痺れが右手にあるのは、右側の神経が何かで圧迫されている可能性があります。右手の麻痺がなかったことは、運動神経が損傷されていないことを意味しています。
 この子は損傷後も部活を継続しているので、最悪の場合は両上肢、両下肢、呼吸もできない状態になっていたかもしれません。 頚椎の損傷(頚部痛、痺れ、脱力、麻痺等の症状から)を疑ったら、救急車で病院に直ぐに行くようにしてください。
 救急車が来るまでは、硬い床の上に寝かせ、頭・首を動かさないようにしっかり保持して下さい。また、救急車が来るまで、呼吸の状態に変化がないか観察を継続し、もし呼吸状態が悪化した場合は、気道確保が必要です。下顎挙上法は医療従事者は行いますが、一般の方は頭部後屈あご先挙上法で良いと新しいガイドライン(2005)ではなっています。

 左写真は4番目と5番目の頚椎の間がづれていますので(亜脱臼)、手術が必要でした。事例では右側の痺れのみですので、頚椎の亜脱臼により、右上肢にいく神経が障害を受けたものと思います。
 もし運悪く、この部位で完全な障害を受けていますと(完全頚椎損傷)、両上肢だけでなく、両下肢の運動麻痺、知覚麻痺、横隔膜神経麻痺によって呼吸ができない状態、さらには交感神経系も傷害され、血圧の低下、脈拍数の低下等が生じ、将来に渡って非常に悲惨な状況になっていたものと思います。






 頚椎に限らず、脊髄の損傷を疑ったら、直ぐに救急車で病院に行きます。脊髄の損傷では、全身を固定(頭部頚部固定、全脊柱固定)して、搬送するのが望ましいですから。
 脊髄の外傷の中では、頚椎損傷が最も多いですので、肩より上の怪我では頚椎損傷を疑い、行動してください。

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