ショック
 
全身性循環障害のため、主要臓器に機能障害を引き起こす重篤な病態で、血圧低下(80mmHg以下)に伴い、意識障害(脳血流減少)、頻脈、皮膚の蒼白・冷感・冷汗(交感神経緊張)、尿量減少(腎機能障害)等多彩の症状が見られる。
 ショックを引きこす原因はたくさんありますが、すべてに共通しているのは、血圧低下です。
事例を通して、相違を感じてください。すべて重篤ですので、直ぐに救急車で病院に搬送する必要があります。

 観察は意識状態に問題がないか、呼吸数はどうか、脈拍数は速くないか、橈骨動脈(手首の動脈)の触れは弱いか強いか、活動性の出血はあるか観察してください。
 橈骨動脈が触れれば、80mmHg 前後の血圧はあります。触れなければ、大腿動脈(70mmHg 前後)、頚動脈(60mmHg 前後)触ったりします。
 触って脈の観察が難しいときは、呼びかけ、返事ができるかどうかを継続的に行うのも良い方法です。返事をすれば、とりあえず脳には血が行っている証拠です。
 意識が無くなれば、気道確保して、正常に呼吸しているか見て、なければ、心肺蘇生法を行います。


 事例1 出血性ショック

  両大腿骨折に伴う大量出血により、血圧が低下しています。そのため、脳の血流が減少し、意識が朦朧としています。血圧が下がると、交感神経が緊張して、脈は速くなります。皮膚への血流を減らして、重要臓器に血液を送ろうとするため、皮膚の血管は収縮し、皮膚は冷たく、湿ってきます。このような原因には、出血の他に、下痢、嘔吐、熱傷、脱水等が考えられます。

 事例2 緊張性気胸

  胸部をぶっつけた時に、何かの拍子で肺に穴が開き、肺の外側に空気が漏れ、胸腔内に空気がたまり、漏れた空気で胸の血管が閉塞し、心臓に血液が戻ってこないために、心臓からの血液の拍出ができなくなり、血圧は低下します。その胸腔に溜まった空気は皮下にもれ出て、皮膚を押すとプチプチした感触が生じます。これ(皮下気腫)が見られるようであれば、緊張性気胸を疑います。肺に穴が開いていますので、治療は胸に穴をあけ、漏れている空気を体外に出さなければいけませんので、救急車での搬送は必要です。
 これと似た病態には、他に肺動脈の閉塞(エコノミー症候群もこの病態です)、心タンポナーデ等があります。

緊張性気胸 
潰れた肺の中に血管は含まれていますので、血管は閉塞し、心臓は圧迫されます。










 事例3 脊髄性ショック

  脊髄損傷の所でも記述してありますが、完全頚髄損傷の可能性が高いです。事例1,2との大きな相違は皮膚が冷たくない点と頻脈ではない点です。理由は、脊髄損傷で、交感神経の機能が傷害されているためです。
 周りの安全が確保されているなら、むやみに動かさないで、頭部・首の固定したまま、救急車が来るまで観察を継続します。頚椎損傷では、横隔膜神経も傷害される可能性がありますので、呼吸状態もしっかり観察してください。

 事例4 アナフィラキシーショック

  ハチ毒によるアナフィラキシーショックである。これはハチ毒に対する生体の抗原抗体反応によって引き起こされます。その病態は末梢血管の拡張です。つまり、血管が拡張するために、相対的に血液量が不足してしまい、血圧が低下します。末梢血管の拡張のために、皮膚は冷たくなりにくいです。また、皮膚には発赤等のアレルギー反応が見られることがあります。
 事例とは違って、抗原抗体反応の結果、気道系の収縮させ、息ができない状態になる場合もありますし、両者を伴うこともあります。

 事例5 心原性ショック

 心臓自体の病気のために、十分な血液を心臓から送り出せないために、血圧が低下する病態です。
 心臓の病気には、心筋梗塞等の冠動脈疾患、弁膜症、心筋症、不整脈等多くあります。先生方に知っていてもらいたいのは、普段元気な(自覚症状がない)子供が運動している時に、心臓に負担がかかって、突然死やショック状態になることがあります。心臓を小型エンジンにたとえて、考えてみます。今までは小型車でゆっくり走っていたので、小型エンジンの異常に気づかなかったが、このエンジンでフォーミュラー1に参戦したら、エンジンがオーバーヒートしてしまった。まさに、このような状況が高学年になればなるほど(男>女)、起こりやすいということです。。

ショックの解りやすい解説


 タンクは体全体の血液で、ポンプは心臓、その先にホースがあり、ホース先端のノズルで水をどこまで飛ばすか調整します。
これを使って、ショックの病態をを考えて見ましょう。

 事例1は出血、脱水等で、血液が少なくなったために、血圧が低下した状態です。図で示すと、タンクの水が少ないために、ポンプ内に十分な水が来ません。そのため、ホース先端からの水の出が悪くなります。何とか遠くまで水を飛ばそう(血圧を上げる)として、ノズルを細くします(血管は収縮した状態)ので、皮膚は冷たくなります。

 事例2は肺から、胸の中(胸腔)に空気が漏れていき、胸腔内の圧が高くなった状態です。この状態になると、胸の中にある血管や心臓が圧迫され、その結果血圧が下がります。図で説明すると、タンクとポンプの間にある血管が細くなったり、一部閉塞したり、周りからの圧迫でポンプが十分に動けない状態です。つまり、ポンプ前の血管が圧迫されているために、タンク内には水がたくさんあっても、ポンプ内に十分入って来ません。また、ポンプも外から圧迫を受け、十分には動けませんので、水が十分にノズル先端から出て行きません。そのため、ノズルを細くして、水を遠くに飛ばそうとします。その結果、皮膚は冷たくなります。

 事例3は脊髄の損傷によって、交感神経が障害を受け、その結果、血圧低下等の症状が出ています。交感神経は心拍数を増やしたり、末梢の血管を収縮させたりする作用を持っています。その作用が障害を受けていますので、血管は拡張したままです。図で示すと、丁度ノズル先端の調整が効かず、ノズルは拡張したままになっています。そのため、血圧は低くなります。血管が拡張していますので、皮膚は冷たくはないです。

 事例4はアナフィラキシーショックで、免疫反応で出てくるいろんな生理活性物質によって、血管が拡張したり、気道が収縮したりします。事例3と同じように、ノズル先端の調整障害ですので、血圧は低下します。又、皮膚も冷たくはないです。

 事例5は心臓に原因のある心原性ショックです。図で示すポンプ自体が傷害されていますので、ポンプ内に入ってきた水を十分に押し出す力がない状態です。そのため、ノズル先端を細くしても水は勢いよく外には出て行きにくい状態です。 そのため、低血圧が起こったり、皮膚は冷たくなります。


 読まれて何となく、同じ血圧低下でもいくつかの原因があり、それによって症状が異なることが理解されたのではないでしょうか?
 血圧が下がった場合、皮膚を触った感じで(冷感・冷汗)、大きく二つのグループ(事例1,2,5と事例3,4)に分けられる事が理解されたと思います。皮膚を触る事も大切な判断材料になります。

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