コンサートレポート
管理人の視点から書き残したコンサートの記録です。
2007.12.15 博物館明治村 聖ザビエル天主堂にて
![]() |
|
先月11月10日に無事終えたトリエンナーレ出演後、帰り際に明治村スタッフからアンコールコンサートに呼んでくださるとの話は聞いていたが、まさかこんなに早くその機会が来ようとは! 12月15日から来年1月12日までの間に4日ほど候補日程があった中で決めたのがこの日の明治村でのコンサート。前回トリエンナーレ出演も秋期は応募総数の1/3の中に選ばれたと聞いていたが、今回は春から秋にかけての全期間で出演した118団体の中から6団体の中に選ばれたとの事で、明治村の聖ザビエル天主堂という素晴らしい場所で演奏させてもらえる喜びと共に多数の出演者の中から選ばれての出演という栄誉にメンバー一同喜び勇んで取り組んだコンサートだった。
この依頼を受けたのが先月16日で、12月15日に出ると決めたのがその翌日。メンバーの都合で本番前に練習に集まれる日は12月2日の1日しか確保できない状態だった。だから当初は前回と全く同じプログラムで行く予定だったが、来てくださる知人から「クリスマスの曲を」とのリクエストがあり、無謀にもそのたった1回の練習で4曲ものクリスマス曲を準備する事になった。無謀な事はやめて堅実に取り組んでいこうと、ここ2回の本番は無難にこなしてきたが、せっかく明治村からアンコールの依頼を受けて再び天主堂で演奏させてもらえる貴重な機会で、しかもちょうど12月15日から明治村はクリスマスの装いになるとの事。どうせやるなら可能な事は徹底的にやりたいと、あえて無謀な挑戦に挑む事になった。ついつい無謀な挑戦に手を出したくなるのは、私とピアノの智子さんの病気である(苦笑)。練習できるのはたった1日、しかも4時間程度。その限られた時間内で効率よく練習しなければと、いつもなら練習しながらのんびりと進行を決めていくところを、事前にメール・電話等で曲の進行を打ち合わせ、楽譜を作成・配布し、各自が十分練習しておいて・・・と、綿密な準備の上で練習に臨んだつもりだったが、やはり合わせてみないとわからない点が多々あって楽譜の変更が発生し、さらにこの日メンバーの身内に不幸があった為予定の半分で練習を打ち切らねばならず、この日に発生した変更点や問題点、確認できなかった点などが全て当日のリハーサルまで持ち越しになってしまった。幸い楽器の前日搬入の許可が下りた為前回より早くリハーサルを開始でき、また12時までリハーサル時間を確保してもらっていたので、当日は2時間近くリハーサルできる事が救いだった。
私個人に対し今回のコンサートでは試練が課せられた。「羽を忘れた天使」を1部・2部共に演奏したいとの声がメンバーから強く出て、私は苦手なピアノを2度も弾かなければならなくなった。SAXに比べたら初心者に近いピアノ。タッチが荒いとの批判を受け、8月のアンジェロでは緊張の余り大失敗し、智子さんのピアニカをアピールしたくて挑戦してみたものの、すっかり人前で演奏する事が怖くなっていた。だから怖いピアノ演奏は1部だけで終わらせ、2部は楽に演奏させてもらいたかったのだが、多勢に無勢では皆の希望に従うしかなかった。ただ、松田昌氏の掲示板に11月10日の演奏を聴いてくださった方から、この曲の演奏に対する賞賛の言葉が書き込まれ、また明治村スタッフもこの演奏を気に入ってくださった様子で、前日搬入の際にこの曲を2回演奏すると言ったら小躍りして喜ばれたとか。私もいつまでも怖がってはいられないとは思うのだけど・・・。ピアノだけでなく、今回プログラムを変更した事で、私にとって全て息を抜く暇のないプログラムになってしまった。1曲でもピアノソロ曲があると助かるのだが、30分以上もの間途中苦手なピアノが入り、以外はSAXを吹きっぱなし、ソリストとして前に立ちっぱなしというのは体力的にも精神的にも非常にキツい。
![]() |
そして、当日になってさらなる試練が我々全員に課せられた。それは寒さとの戦い。「夏暑く冬寒い」と聞いていた聖ザビエル天主堂だが、冬の天主堂内は底冷えする寒さだった。事前にわかっていたのでメンバー各自が防寒対策をし、さらに明治村側の配慮でステージにはハロゲンヒーターが設置され、ひざ掛け・使い捨てカイロなど色々とお気遣い頂いたが、ピアノ演奏時の指先の冷え、そして管楽器の冷えによるピッチの不安定さはどうしようもなかった。ドラムもかじかむ手では細かいコントロールに苦労していた様子だった。こんな寒い場所での演奏は初めて。屋内とはいえ空調設備がなく、終日開け放された天主堂は雨・風をしのげるという程度で寒さは外とあまり変わらない。それでも私は衣装の中の万全な防寒対策で体の寒さは問題なかったが、楽器の温度調節は対処のしようがなく、コルクが見えなくなるまでマウスピースを差し込んでもなかなかピッチが上がらず、思い切って深く入れてしまえば演奏で楽器が温まると今度は高くなり過ぎてしまい、ソプラノに持ち替えたり、ピアノを演奏する間楽器を放置しておけば、また冷えてピッチが下がってしまう。楽器を持ち替えた後で吹く最初の音がどんなピッチで出てくるのかが曲毎に不安で、私にとっては終始ピッチの不安定さとの戦いだった。智子さんのピアノも辛かったと思う。1部、2部で1曲ずつしかピアノを弾かなかった私でも、弾いているうちに冷たい鍵盤でどんどん指先が冷え、思うように指が動いてくれなかった。速いパッセージがない曲だったので私はなんとか失敗なく演奏できたが、難しいフレーズの多かった智子さんは相当大変だった事だろう。
苦難はさらに続いた。2時間もあると思っていたリハーサルだったが、やはり準備不足が祟って思わぬ曲で時間を取り、リハーサル時間が足りなくなってしまわないかとハラハラさせられた。楽譜がない状態で我々の旋律に合わせてくれているドラムの智ちゃんが苦労していた。参考音源や練習録音を聴いてのイメージトレーニングが個人練習の大半を占める智ちゃん。12月2日の練習時に半分しか録音できなかった為、録音のない部分で心配していたこの事態が起きてしまった。また、楽譜の変更が発生した後初めて合わせたこのリハーサルで新たな問題が発生し、その為に各自が準備してきたものを変更する・しないで揉めた事でも時間を取った。やはり準備不足の状態で本番に臨むものではない事を実感。新たに曲を追加するなら、せめて2回は練習に集まっておかなければ。それでもなんとか聴かせられるだけの状態にでき、ギリギリ2時間をしっかり使い、なんとかリハーサルを終了した。
寒さが辛かったのは我々演奏者だけでなく、お客様も同じ。明治村側の配慮で客席側にもひざ掛けが用意されていたが、それがなければ耐えられない状態だったそう。11月に比べて寒かったこの日は外を歩く人の数が少なかったそうで「こんな状態でコンサートに人が集まるのか?」と私の家族は心配したそうだが、それでもこの日コンサートに集まってくださったお客様は前回より多かった。寒い中大勢のお客様に聴いていただけた事に、まずは感謝したい。
本番は前回同様、私自身はさほど緊張する事なく、あがって大きく調子を崩すような事はなかったが、やはり寒さによるピッチの不安定さに終始気を取られ、また指先の冷えによって指がもつれる箇所もあり、小さなミスが何箇所かであった。1箇所今まで外した事のないフラジオを外した事だけは個人的にかなり悔しいが、それ以外のミスはこの悪条件の中ではやむを得ない・・・と自分に言い聞かせている。また、リハーサルで2時間も吹きっぱなしだった為、私は疲労で最後まで集中力を保持する事も辛かった。本番前に長時間のリハーサルなどするものではない(苦笑)。不破氏が終了後「懺悔したい」と言っていたが、今日はメンバー皆それぞれミスが多かった様子で、その動揺のせいかテンポが速くなったり、拍子や調性がわからなくなったり等、普段とは違う状態の中、おそらく皆自分を見失わず冷静さを保つ事に必死だったと思う。心底楽しんだ前回に比べて今回は随分疲れる本番だった。でも後で録音を聴くとそのような状態の中でも決して音楽を損なわず、初めて聴く人にはおそらくミスなど気にも止まらなかっただろうという程度で、コンサートとしては十分楽しんで聴いてもらえる出来だったと思う。今回ほど多くの悪条件が重なったコンサートはなかったが、そんな中皆よく頑張って、あれだけの演奏ができた。ベストは尽くせた。私も苦手なピアノを2度も弾くという試練を失敗なく無事乗り越える事ができた。今回はその点に満足しようと思う。楽しい事ばかりでは前に進めない。そういう意味では今回はいい経験をさせてもらえて、非常にいい勉強になったコンサートだった。
コンサート終了後、不破氏の宣伝で聴きに来てくれた丹羽高校の学生さんたちから握手を求められた。楽しく聴いてもらえた証拠だと思う。顧問の先生も一緒に来てくださり、プログラム構成などにもお誉めの言葉をいただいた。また明治村スタッフからも「また呼んだら来てもらえるか?」と再び言っていただいたとか。嬉しい事である。悪条件の中皆さんに喜んでもらえるコンサートができて本当によかった。そう思える時が「音楽をやっていてよかった」と思える瞬間であり、辛かった練習の日々や本番の疲れを消し去り、また頑張ろう! という気分にさせてくれる。この瞬間の為に音楽をやっているようなもの。2度に渡る聖ザビエル天主堂での演奏機会を与えてくださった明治村には心から感謝したい。3年後のトリエンナーレにはもちろんまた応募したいと思っているが、もしまたその前に再び演奏させてもらえるなら、その機会を心待ちにしたい。