コンサートレポート

管理人の視点から書き残したコンサートの記録です。

 2010.6.26 博物館明治村 聖ザビエル天主堂にて

 
 

 1年も前から選曲の準備を始め、ポスター用の写真を事前に撮っておき・・・と、長い時間をかけて取り組んできた今回の明治村トリエンナーレ出演。しかし、あいにくの雨! 雨だけは降ってほしくなかった。湿度は木管楽器の大敵。「梅雨時期は吹きづらい」とプロでもボヤくこの時期だけど、通常の練習や本番は空調の利いた屋内なのでさほど梅雨による悪影響を感じる事はなかった私。でも今日は辛かった。湿度がこれほど辛いものだとは・・・。

 前回同様、開村前に車で荷物を搬入。明治村内は制限速度が時速10kmなので、キョロキョロよそ見をしながら運転しても危なくない。天気が良ければ窓を開けて明治村の風を感じながら天主堂に向かい、その気持ちよさに何をしに来たか忘れそうなほどリラックスするのだけど、今日はうっとうしい雨がジャマをする。そして空調設備がなく常時開け放されている天主堂は、外からの湿気が充満する上にステージ付近は風が通らない為空気がよどんでいた。加えて照明が以前より増やされていて、その熱でステージはかなり暑い。夏暑く冬寒いと聞いていた明治村。冬の寒さは経験済みだけど、まだ真夏じゃない、梅雨時期の天主堂は暑い。

 ただ、とても嬉しかったのは、これまで行ってきたコンサートでずっとサポートしてくれていた担当者が、今回担当を外れたと聞いていたのだけど「ピンチヒッターだ」と、これまで同様に私たちの担当をしてくれた事。私の演奏を気に入ってくれて、すっかり親しくなったこの担当者。彼女との慣れたやりとりのおかげで、今日一日はとてもスムーズに過ごす事ができたし、馴染みの彼女と再び一緒に仕事ができた事がとても嬉しかった。

 思ったより早く楽器搬入を終えて北駐車場に移動。開村まで待っていたら同じく開村を待っていたお客さまに「今日の出演者ですよね?」と声をかけられた。あのチラシを見てくれてる人だった。「雨の明治村は初めてで楽しみ」とその人は言っていた。確かに歩いて回る分にはこの時期晴れるより雨の方が涼しいだろうけど・・・しかし、GWでもない、天気も悪いこんな日でも、開村前から待つお客様って意外にいるもの。

 開村少し前にピアニストが到着。一緒に天主堂へ向かった。先週風邪で辛そうだったピアニスト。今日は大丈夫な様子で一安心。10時にピアノを移動してくれる担当者達が到着。前回La Vie en Roseで演奏した時と同じ位置に動かしてみると、ピアニストが「もっと中央の方がいい」と。自分で客席から見ると確かにそう。そういえば前回はこんな事確認したっけ?・・・と、つい前回と比べてしまう。しかしすごい湿気。楽譜が湿気を帯びてふにゃふにゃしてきた。一体湿度は何%あったのか・・・心配だった高い湿度の中での演奏。2週間前から念入りにリードを選び、音自体は悪くなかったものの、高い湿気の中で吹く楽器というのは、こうまでも息が入らないものなのか? エアコンを利かせた自宅練習室では軽く吹けば楽に鳴らせた楽器が、力強く吹かないと鳴らない。リードが厚いのとは違った初めて経験する重さ。さらに、普段蒸し暑い中にいる時には気にならないのに、楽器を吹くという状態で湿度の高い場所にいるのは、すごく息苦しい。いくら深呼吸しても酸素が足りない感じ。吹いて苦しく、吸って苦しく、湿気でタンポがペタペタと張り付いてキーの動きも悪い・・・いつもなら本番さながらの雰囲気で行うリハーサルで会場の雰囲気に慣れ、本番をいいテンションで迎えられていたのに、今日は吹けば吹くほど調子が出なくてテンションが下がる。さらにピアニストのテンポが安定せず、先週確認した時より速かったり遅かったり、何度もやり直す事で気が滅入る・・・彼女は相当緊張していた様子。「緊張を吹き飛ばす為に自分を疲れさせる」と、リハーサル終了時間ギリギリまで弾きまくっていた。そんな様子も不安で、私まで緊張してくる始末・・・。

 雨の中、次々と知り合いが来てくれた。音楽仲間が聴きに来てくれるというのはプレッシャーも感じるけどやはり嬉しい。仲間として応援してくれる・・・その気持ちがすごく嬉しい。お嬢さんと探検隊をやってる最中だと言っていたソロイスツのメンバーの一人。見たら探検隊は4月に姪っ子と一緒にやったものと同じだった。明治村の探検隊は年々難しくなっているそうで、ヒントを読んでもさっぱりわけがわからず、建物という建物をしらみつぶしに回って探したら、4つのヒントより答えを先に見つけてしまい、それでクリアはできたのだけど4つのヒントのうち2つはみつけられず、消化不良状態で終わったのだった。この親子は4つのヒントは見つけ、答えが見つけられていなかった(笑)。

 


 そして本番・・・蒸し暑いステージ、調子が出せず上げられないテンション、動きが悪くてミスタッチが不安なキー、息が入らず余計な力が入ってヴィブラートが上手くかけられない・・・こんな状態で本番はアガり気味だった私。自分の指が思うように動かせない、イヤな感覚・・・それでも1曲目の大きな古時計、2曲目のポロネーズはどうにか無難にこなせたものの、一番心配だったバディネリでステージの魔物に襲われた! フルートの楽譜をサックスに書き換えた事で#が増え、運指がかなり難しくなってしまったこの曲、普段の練習からどんなに練習しても指が上手くまわらない事が多かった箇所が一つあって、警戒しながらその箇所に差し掛かると、伴奏が裏拍か表拍かがわからなくなって一瞬焦り、焦った瞬間指がくしゃくしゃに・・・やっぱり弱い箇所はトラブルに対応できない。それでも私はどうにか持ち直したが、伴奏が裏と表がひっくりかえったまま、しばらく修復できない事態に! 「途中で止めてやり直そうか」と何度思った事か・・・でも2分程度であっという間に終わってしまう曲。迷っているうちにラスト1/4ぐらいの箇所でどうにかピアノが持ち直し、最後は合わせる事ができた。過去にあまり例のない大きな失敗・・・でもここで凹んで後の曲までダメにするわけにはいかない。残りの曲は気力でなんとか持ちこたえたという感じ。バディネリ以外は失敗はなかったものの、本来の演奏ができない、心残りのある1部だった。



 ただ、ここでサプライズ! 1部最後のアヴェ・マリアを終えたところで、緑山軽音楽部の男性2人が花束を持って前に出てきた。私だけでなくピアニストにも花束を持ってきてくれた! 驚くと同時に感激した。いつも一緒に音楽をやっている仲間が、雨の中遠くからわざわざ聴きに来てくれただけでなく、花束まで用意してきてくれた、この心遣いが本当に嬉しかった。仲間として心底私を応援してくれている。こんな嬉しい事ってあるだろうか! いい仲間に恵まれた喜びで胸が熱くなり、バディネリの失敗や終始本調子で吹けなかった1部の心残りが吹っ飛んで、アンコールはいい気分で演奏できた。ここからやっと私本来の力が戻ってきたという感じ。手の感覚も完全に戻った。緑山のメンバーや、1部を終えて顔を見せてくれたソロイスツの人達からパワーをもらえたおかげで2部は本来の調子で納得の演奏ができた。仲間って本当にありがたいと心底思った。苦手な音域が多くて普段の練習からイマイチだったクレメンタインも上手くいったし、1部で大失敗したバディネリは大成功! 1回目しか聴いてもらえなかった方には残念だけど、2回目だけでも成功した演奏を聴かせる事ができてよかった。スターダストでは調子に乗って普段やらないベンドを入れまくり、アヴェ・マリアの冒頭クラシックバージョンは最高に気分よく演奏できた。なぜこの演奏が1部からできない?・・・まあ、それが魔物が棲むステージでの本番というものだ。

 
 


 ピアニストも2部は「憑き物が落ちたみたいだった」と、緊張がとれて本来の演奏ができたとか。ピアニストにとっても辛いコンディションの中、本当によく頑張ってくれた。でも1部での失敗を気の毒なほど気にしていた。思えばMC時に原稿を読みながら手がブルブル震えていた。相当緊張していた様子。彼女がピアノを教える生徒さんが大勢来ると聞いていて、先生としていいところを見せてあげたいという思いから、彼女の為に振ったMCで、嫌なら断ってくれてもいいと再三言ったのだけど、多分頼まれると断れない性格なのだろう。それで余計に緊張させたか? そうと気付かずかわいそうな事をしたと反省。

 本番で失敗するのはしかたのない事。どんなに十分練習してあっても、どんなにレベルの高い人でも、失敗するときはする、事故のようなもの。ただ、失敗した後のリカバリが重要だと思う。いかに素早く立ち直って大けがをかすり傷で済ませるか、いかに後へ引きずらずに次の曲へ上手く気分転換するか・・・こういう部分はフィギュアスケートに似ている。そして、できれば失敗しない為に何に気を付けて演奏すればいいか・・・これらの点を常に意識して、起こり得るあらゆる失敗を想定してその対処を意識しつつ、本番で演奏しているようなつもりで日頃から練習する事が大事。本番は持っている力の8割しか出せないものなのだから、100%の力を出すには120%の練習をしておかなければならないと思っている。楽譜が通り一遍演奏できるだけで出来たつもりになっていては絶対ダメ。これは私自身がバカみたいな失敗を繰り返してきて得た教訓。そういう意味では今日の1部、練習の成果は十分出せていた。ピアニストにはいつまでも落ち込まず、今回の失敗を今後に向けての糧にしてもらえたらいいと思う。

 ただ、まるでいいところがなかったと自分では思っていた1部だったけど・・・家族に聞くと意外に悪くない評価。特に1曲目の「大きな古時計」がすごくインパクトがあって良かった! とか。あの曲は小串先生がコンサートで演奏する時必ず1曲目に持ってきて、先生はいつもあの曲を演奏しながら登場する。さすがに歩きながら演奏できるほど器用じゃないのでそこまでマネはしなかったけど、1曲目にこの曲を持ってくる事だけは、マネさせてもらおうと思っていた。いつも辛口でお世辞は絶対言わない妹からも「気持ち良さそうに吹いていた」と言われ、聴いている方には思っていたより良く伝わっていたのだなぁ・・・と、ちょっと安心した。あのバディネリも、変だな? と思いつつも、私が平然と演奏していたから失敗なのかどうかわからないほどだったとか?(笑) そう、本番で失敗をごまかす事も重要な演奏技術の一つ(これホント)。2部のスターダストも、調子に乗ってベンドを入れ過ぎたから「下品だった?」と聞いたら、「そのいやらしさが良かった」とか・・・(笑)。お客様が楽しんでくれたなら、まずはそれでいい。本調子じゃなくても、それなりに聴衆を楽しませる力はついてきている・・・のかな? と思いたい。

 本番を終えて楽器を片づけ、楽器の搬出で閉村までいなきゃならなかったので、まずは明治村に来たら必ず食べる事にしているたませんの店へ直行! 今日は苦手な紅ショウガを抜いてもらうのを忘れたのが失敗だった(苦笑)。そして4月に来た際、探検隊が早く終わったら見に行こうと思っていて行けなかった、宮廷家具の展示を見て、前回探検隊でどうしても見つけられなかったヒントのうち、帝国ホテルの近くにあるものだけでも確認しようと帝国ホテルに向かう途中カレーパンを買い、最後コロッケを買いに行こうとしていた途中でお嬢さんとまだ探検隊をやっていたソロイスツメンバーとバッタリ。帝国ホテル近くのヒントの場所を教えてもらったのに自力では見つけられず、そんな様子の私を帰り際に見かけたソロイスツメンバーが来てくれて、お嬢さんに場所を教えてもらってスッキリ(笑)。

 演奏終了直後に、見知らぬ人からブログのアドレスの書かれた名刺を渡された。「写真をブログに載せてもいいか?」と聞かれて許可したけど、見に行ったらすごく大きな写真で、ちょっと恥ずかしいかも(苦笑)。でも、今日はこのコンサートがあるからと、雨の中わざわざ聴きに来てくれたそう。楽しんでもらえたみたいで「雨だったけど出かけて正解、満足の一日」とブログにあり、とても嬉しかった。今後緑山で予定している本番は屋外が多く、湿度の高い中での本番もあるだろうから、今日の本番をいい経験とし、コンディションが悪くてもお客様に楽しんでもらえる演奏を目指して頑張りたい。