日も暮れた夜。プロデューサーは春香が帰った後も、残りの仕事を片付けていた。
ファンからのプレゼントの整理や、次の仕事のスケジュール調整等…は休むことなく仕事を続ける。
そんな時、事務室の電話が鳴り響いた。
「何だ?こんな時間に…」
はそう呟きながら、電話を取る。本来は事務の小鳥さんがやる事であったが、既に彼女は帰っていた。
今事務室にいるのは、一人である。
「はい、765プロダクションです…え?はい、私ですけど」
は相手の言葉に数回頷いた後、
「……はい?」
その最後の言葉に、は自分の耳を疑った。
「えっと、詳しくお話お願いできませんか…?明日の10時頃に、はい。判りました」
電話を切ったプロデューサーは自分がとった簡単なメモを見て首をかしげながら、残りの仕事の片づけを始めた。

その二日後。
天海春香は駆け足で事務所へ向かっていた。
乗っていた電車の路線のある駅で人が線路内に入ったことで、十数分の遅れが出てしまったのだ。
プロデューサーに遅れると携帯で言ったものの、なるべく早く事務所へ行かなければならない。そう思った春香は電車から降りた直後から、駆け足で急いでいた(もちろん、安全確認も怠ることも無く)。
12分くらいだろうか。春香がいつも歩いて25分くらいかかる事務所が見えてきた。
以前は都内のビルの一室を借りた事務所は、今は場所を変え、郊外の静かなところへ移っている。
春香達の活躍があったから、社長が事務所を新しくしたと、春香はから聞いていた。
階段を上って、事務所のドアを開けた先では、既にが待っていた。
「おはようございます、プロデューサー」
その声に、は春香の方を振り返る。
「おっ、おはよう春香」
「遅れてすみませんでした」
「いいよ。ところで、春香。いい仕事が入ってきたぞ」
「えっ?」
春香はきょとんとして、を見る。は鞄からホチキスで留められた紙を春香に差し出した。
「企画書、“旅の音”……?」
春香は表紙に書かれた文字を読む。その表紙の下には『製作協力:オフィス・ファンキューブ』と書かれていて、その下の製作には民放のテレビ会社の名前、スポンサーのゼネラルリソースの名前が記されていた。
「これは何ですか?」
「旅行番組の企画書だよ。春香がリポーターとなって有名観光スポットを巡るらしいって」
「……え?」
その言葉に、春香は表紙とを交互に見る。は時計を見ると、あわただしく荷物の整理を始めた。
半秒の間を置いて、春香はその意味を理解した。
「え、じゃ、もしかしてテレビのお仕事ですか!?」
「ああ」
「うわぁ…場所はどこなんですか?」
「京都って聞いてる。そういえば春香は、修学旅行で行ったことあるのか?」
「はい!中学で一度行きました、金閣寺を見たり…ってそういえば、プロデューサーさん、どうしてそんなに慌てているんですか?」
「そろそろ、時間が間に合わないんだ…」
「時間?」
疑問に思った春香をみたは春香に新幹線のチケットを手渡す。チケットに書かれていた発車時刻と時計を見ると、あと1時間も切っていた。
「ええーっ!?もうそろそろじゃないですかーっ!」
「その製作会社の人に渡されたんだけど、俺も今気づいたんだ!早く行くぞ春香!」
「は、はい!!…あ、あわわ、スリッパのままだ…」

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

…無事、新幹線に間に合った二人は京都へ向かい、現地のホテルでその製作会社の人と打ち合わせをすることになった。
それから、一夜明けた朝、京都駅からの撮影が始まった。

「春香さーん、そろそろスタンバイお願いしまーす!」
「はい!…それでは、プロデューサーさん、今日一日宜しくお願いします!」
「ああ。頑張ろうな、春香」
「はい!」
春香は、にこっと笑って返す。雑踏の中、スタッフが声をかける。

「それでは行きまーす。3、2、1…」

「みなさん、おはようございます!天海春香です」

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