「……」
如月地早は、765プロダクションのある一室で、適当に置かれていたソファに仰向けに寝転んでいた。
電気はついておらず、薄暗闇の中の天井を千早は眺める。
「……」
その千早の雰囲気は、他の女の子たち―春香や雪歩などの―でも見たことが無いくらい、千早はぼーっと天井を眺めるばかりだった。
千早がいる部屋は、物置にする予定だったのか、いろんな物が散乱していた。
とはいっても、まだ765プロダクションがこの事務所へ移ってからあまり間もない頃だったので、足の踏み場が無いほどのものではなかったが。
この部屋を知った千早は、事務の小鳥さんにこの部屋を使わせてもらえないかと尋ねたところ、彼女はうーん、とちょっと考えた後、机の引出しから鍵を取り出して、
「本当でしたら、いけないんですけど…まあ、あそこ誰も使いませんし、別にいいですよ」
と、笑って鍵を千早に渡した。
――――――それ以来、千早はたまに事務所に早く来た日には、この部屋に入って、ソファに寝転んで仮眠を取っている。

壁に掛けられてあった時計が9時に差し掛かるとき、ソファの近くにあるテーブルに置いた目覚し時計が頼りない電子音を鳴り響かせる。
「ふぅ…」
千早は体を起こすと、その目覚し時計のスイッチを押して、テーブルに置いた。
体を軽く伸ばし、一つ深呼吸をして、その部屋から出る。
(ここ最近は、この部屋を使うことが多くなりましたね…)
鍵をかけながら、千早はそう思った。最近は人気が出たこともあって、若干ハードワーク気味になっていることもわかっていた。
もちろん、それに弱音を吐く千早ではなかったが、やや長い期間この状態が続いていた。
事務室へ向かうと、すでにプロデューサーがいた。は数枚の書類を机に並べてそれを眺めていた。
「おはようございます。プロデューサー」
千早は事務室へ入りながら、挨拶をする。
「おっ、おはよう。千早」
千早に気づいたは机に並べた紙をすっとまとめて、手に持ってたんたん、と揃えたあとバッグに入れ、今度は別の紙を取り出した。
「今回のお仕事はなんですか?」
「ちょっと珍しいのが入ってきたから、これをやろうと思っているんだ」
は、そう言ってその紙を千早に渡した。
「“旅の音”…」
表紙に書かれた文字を読んだとき、千早はあっ、と思わず声を漏らした。
「そう、前は…春香がやっていた仕事だよ」
2週間くらい前に春香と会う事があって、そのときに春香がいろいろと話していたことを思い出す。
「今回は岡山でやるらしい。久しぶりにのんびり出来そうな仕事だけど…どうだ?」
千早は、しばらくその紙を見たあと、プロデューサーのほうを向いて、
「はい。こういった仕事はあまり慣れてませんが…私なりに頑張って見たいと思います」
千早は、軽く笑ってに言った。

数日後…岡山駅で撮影の準備が行われていた。スタッフがいろいろと作業を行っている中、はそこから少し離れたところで空を見つめている千早を見る。千早の顔は仕事ではあまり見たことが無い笑顔を見せていた。
風に髪と首にかけていたスカーフが靡く。それと同時に、スタッフが準備が終わったことをに伝えた。
「千早、そろそろ始まるぞ」
「はい。わかりました。プロデューサー」
千早はに頷くと、スタッフの所へ向かう。数分後、スタッフの一人が時計を見ながら、カウントを始めた。
「3…2…1―――」

「皆さん、おはようございます。如月千早です」


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