――――――昼下がりの765プロダクション。
プロデューサーが外を見ると、紅葉へ移り変わる木があちこちと見られた。
事務室には、双子の双海亜美と真美が新しく買ったニンテンドーDSでメテオスの対戦に熱中している。
プロデューサーはそのことには口出しをせずに、目の前にあるプリントを整理していた。
今の3人はオフの時間であった。
亜美と真美は765プロダクションの中では異例の双子のアイドルなのだが、本人たちは一人ずつの入れ替わりで活動をするという。
名義上は『双海亜美』一人として亜美と真美二人での入れ替わりでの活動に、プロデューサーは最初は戸惑ったものの、今ではすっかり慣れてしまった。
……二人のハチャメチャな行動にはいまだに慣れてはいないが。
プロデューサーがプリントの整理を終えたとき、亜美が机から身を乗り出してきた。
「兄ちゃん、休みなのに何やってんの?」
ん?とプロデューサーは目線を亜美のほうへ向ける。
「休みたくてもいろいろと仕事の整理とかが結構あるんだよ、これとか」
と、プロデューサーは紙を亜美に渡した。真美もそれを覗く。
「“旅の音”―――これって、はるるんや千早お姉ちゃんやあずさお姉ちゃんがやってたヤツ?」
「そうだ。昨日依頼が来て受けることにしたんだ。ということで来週は福岡へ――――――」
『旅行だね!』
「ちっがーう!ロケだ!!」
二人のハモリにプロデューサーのツッコミが事務室に響いた。

―――――そして、一週間後の出発前。
一旦事務所で支度を整えてから、空港へ向かおうとしたのだが、プロデューサーは亜美と真美の姿を見て、事務の音無小鳥から受け取って飲んでいたコーヒーを思わず吹いてしまった。
『おっはよー兄ちゃん!』
「…おはよう……2人ともその荷物は一体なんだ?」
2人は背中にリュックサックを背負っていた。背負っているなら別にいいのだが、見ただけでもリュックサックがぱんぱんに膨らんでいる。プロデューサーは2人のリュックサックを開けてみた。その中には○リングルス、カー○、チョト○、○ッキー…等の大量のお菓子がつめられていた。
「……」
その量にプロデューサーは唖然としていた。その横で亜美はプロデューサーの顔を覗き、話す。
「ロケの途中とかに食べるなら別にいいよね?」
「あのな…こんなことしたらロケでの食べ物が食えなくなるぞ?」
『えっ?』
プロデューサーのその言葉に2人はハモる。
「…今回のロケはラーメン展も取材に行くからラーメンを食べることもあるって話だぞ」
「ほんとなの!?」
「兄ちゃんそれ言ってなーい!」
二人の言葉にプロデューサーは、そのことについて言うのを忘れていたことを思い出した。
「悪かった。福岡はおいしいものがいろいろとあるから、それでおなかいっぱいにしてみたらどうだ?」
「そう言ってもさ、何があるの?」
その言葉に、プロデューサーはぴん、と来た。
「例えば、ラーメンが有名だな。福岡でラーメンといえば?」
「…………とんこつラーメン!」
半秒の間が空いて、亜美がはっとして叫ぶ。
「あとはラーメンの他に、何がある?」
「後…?えっと…」
「明太子だ!」
今度は真美が答える。
「そうだ!しかも遠慮なく食べられるぞ。費用は番組が出してくれる(はず)」
「亜美、バリバリ張り切っちゃうね!
「うん、真美も張り切っちゃうよ!」
「よし、その心意気だ!行くぞ!二人とも!」
『オス!兄ちゃんについて行きます!!』
(…これで、ロケのほうもやる気になったかな)
その勢いある二人の声を聞きながら、プロデューサーはそう思った。
「頑張ってね。亜美ちゃん、真美ちゃん」


撮影現場。スタッフが撮影の準備に取り掛かっているときだった。
「失礼、765プロダクションの方ですか?」
その準備を遠くから見ていたプロデューサーが、ん?と後ろを振り返ると、灰色の髪の精悍な男性がいた。
見た目からして30代くらいだろうか。
「はい。そうですが…」
「ああ、失礼しました。私はゼネラルリソースの…」
流暢な日本語をしゃべる男性はすっ、とプロデューサーに名刺を差し出す。

ゼネラルリソース 代表取締役 アビサル・ディジョン

(は……!?)

「――――――アビサル・ディジョンと申します」
「こ、これはどうも…」
「765プロダクションさんのアイドルが出る回は結構いい評判だと聞きまして、気になりましてね。見に来たんです」
「そ、そうなんですか…」
驚きを必死に隠そうとするプロデューサーだが、あまり隠しきれていなかった。
「今回はあの子が?」
えっ、とプロデューサーがディジョンの視線のほうを向くと、スタッフから離れて亜美が真美と話していた。
マズイ、とプロデューサーが思ったが真美のほうはこちらから死角のところにいたため、ディジョンの目には、亜美一人という風に写っている(と、プロデューサーは思っている)。
「え、ええ。まあ…」
「期待していますよ。頑張ってくださいね」
「あ、はい有難うございます…」
そういうと、ディジョンは踵を返してスタッフのところへ向かう。
(道理でスタッフの空気がおかしいはずだ…)
スタッフとの打ち合わせで、スポンサーが慌しくしていたのを思い出す。恐らく抜き打ちでディジョンが急に来たのだろう。
(となると、今回のロケはちょっと気が抜けないな…)
いろいろと考えると…プロデューサーは最後の言葉を思わず口にもらした。

「にゃっほ〜!亜美だよ!」
撮影が始まり、亜美にカメラが回る。それを遠くからプロデューサーは見守っていた。
(何事もなく撮影が終わればいいが…)
プロデューサーの思いとは裏腹に、カメラが回っている亜美の元気な表情が強張っていく。
「えっと…ここは…なんていう駅だっけ?」
歯切れの悪いその言葉に嫌な予感がしたプロデューサーは、後ろで同じように亜美を見ていた真美に問いかけた。
「…真美」
「ん?」
「亜美は台本を読んだのか?」
「読んでたよ。2秒で寝たけど」
「――――――それは、読んだとはいわん!」

早速、プロデューサーの嫌な予感が的中してしまったのであった。

THE IDOLM@STER side story
Location Paradice